要介護高齢者・介護者からみた介護保険制度の評価(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200055A
報告書区分
総括
研究課題名
要介護高齢者・介護者からみた介護保険制度の評価(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
杉澤 秀博(桜美林大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 中谷陽明(日本女子大学)
  • 田中千枝子(東海大学)
  • 杉原陽子(東京都老人総合研究所)
  • 深谷太郎(東京都老人総合研究所)
  • 石川久展(ルーテル学院大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、(1)介護保険導入前後における要介護高齢者と介護者の保健福祉ニーズ充足度の違いを導入前後の繰り返しの横断調査によって把握する、(2)制度・政策のプロセス評価の枠組みを活用して、保険料の支払い、ニーズ発生からサービスの評価にいたる各段階で「サービス選択の多様化」「ニーズへの対応」「利用者保護」「経済的平等」がどの程度確保されたかを、要介護高齢者と介護者を対象とした調査で解明する、(3)疑似実験的な方法によって介護保険導入後に提供されるサービスの効果を評価する、の3点である。今年度は次の2つの課題を設定し、実施した。(1)課題1:介護保険導入前後における保健福祉ニーズ充足度の違いを導入前後の繰り返しの調査によって把握する(介護保険導入前後の比較)。(2)課題2:在宅サービスと施設サービスの両者を対象に、「サービス選択の多様化」「ニーズへの対応」「利用者保護」「経済的平等」がどの程度確保されたかについてプロセス評価を実施する(プロセス評価)。
研究方法
(1)課題1(介護保険導入前後の比較):介護保険制度施行後の調査(2002年調査)を次のような方法で実施した。①要介護高齢者把握のためのスクリーニング調査の実施:対象地域は介護保険導入前(1998年)の調査と同じフィールドである。対象者は2002年1月1日時点で65歳以上の住民全数から無作為に等間隔抽出した10,000人であった。調査は郵送にて調査票を配布し、高齢者本人または対象の高齢者の状態を良く知っている家族・親族に回答してもらうという方法を採用した。調査実施時期は2002年1~2月、回収数は9,045(回収率90.5%)であった。スクリーニング調査の結果、要介護高齢者と判定されたのは1,323人(14.6%)であった(入院・入所者を含む)。②在宅要介護高齢者の介護者に対する調査の実施:対象者は、上記スクリーニング調査で把握した要介護高齢者の介護者であった。調査方法は訪問面接調査であり、調査実施時期は2002年4~5月、回収数は595人であった。(2)課題2(プロセス評価):①在宅サービスのプロセス評価については、介護者と高齢者本人による評価に基づいている。i)介護者による評価は、前述の介護保険制度施行後の2002年に実施した調査の一環として実施した。ii)高齢者による評価は、在宅介護者調査を完了した595人に対して、要介護高齢者本人に対する調査を依頼した。調査方法は訪問面接調査で、調査実施時期は2002年4~5月であった。回収数は344であった。②施設サービスのプロセス評価については、病院・老人保健施設に入院・入所している高齢者の家族、および特別養護老人ホームの入居者とその家族による評価に基づいている。i)病院・老人保健施設に入院・入所している高齢者の家族による評価は、スクリーニング調査で把握した要介護高齢者のうち、訪問面接調査時に病院、老人保健施設に入院・入所していた高齢者の介護者を対象とした。調査方法は訪問面接調査であった。調査時期は2002年4~5月、回収数は114であった。ii)特別養護老人ホーム入居者による評価は、要介護高齢者のスクリーニング調査を実施した東京都下の一市が関係する9ヶ所の特別養護老人ホームの入居者350人を対象とした。調査方法は訪問面接調査、調査時期は2002年8月であった。回収数は188であった。iii)特別養護老人ホーム入居者の家族による評価は、上記特別養護老人ホーム入居者の家族350人を対象とした。調査方法は郵送配票・郵送回収で、調査時期は2002年8~9月、回収数は272であった。
結果と考察
1)介護保険制度導入前後の比較の結果、①介護保
険制度施行後、訪問型のサービスの利用が普及したにもかかわらず、家族介護者の施設サービス利用希望は高まっており、訪問型サービスの利用の拡大が、必ずしも家族の在宅介護指向を促進するわけではないこと、②ホームヘルパーなどが介護を主に(または補佐的に)担うケースは微増したものの、介護保険制度施行後も依然として家族介護が主流であり、介護の社会化は進んではいないこと、③主に介護を担っている介護者の身体的負担、精神的負担、社会生活への負担も介護保険制度の施行によって改善されたわけではないこと、がわかった。2)プロセス評価ついては、在宅サービスに対するプロセス評価の結果、①在宅要介護高齢者の2割は要介護認定に申請しておらず、このような人の中にはADLや認知障害が重い人も含まれていること、②ケアマネジャーが、サービス選択の多様化につながる「2つ以上の事業者を教えてくれた」という人やサービスの適切な調整に必要な「サービス利用後、ケアマネジャーから問い合わせがあった」という人は5割程度にとどまっていたこと、③半数の家族は「複数の事業者からサービスを選択することは考えていなかった」と答えており、介護保険の理念でもある「選択の多様化」は利用者に浸透していないこと、④サービス利用料を支払っている家族の4割は、サービス利用料が家計にとって負担であると答えていたこと、が明らかとなった。病院や老人保健施設のプロセス評価の結果、①一般病院に入院中の要介護高齢者の2割が、要介護認定に申請しておらず、未申請の理由の中には、介護保険は在宅介護を希望する人のものと誤解しているケースも見受けられたこと、②入院・入所前の手続きについては、老人保健施設と比べると療養型医療施設の方で「利用料」「世話の内容」「契約の内容」について事前に説明されなかった人の割合が高かったこと、③4割弱の家族は、施設に不満があっても誰にも言っておらず、利用者やその家族の要望が施設サービスの質の改善へと生かされるようなシステムの整備が遅れていること、が明らかとなった。特別養護老人ホームのプロセス評価の結果、①家族への調査では、「希望する時期に入れなかった」という人が3割を超えていたこと、②入居者本人の調査では、「世話の内容」「契約書の内容」「サービス利用料」について、事前に説明を受けていない人がいずれも5割を占め、家族に対しては情報提供がなされているものの、入居者本人に対しては情報提供が行われていないケースが多いこと、②施設に不満や要望があっても7割の高齢者が何も対応をとっておらず、高齢者本人の要望や不満が施設サービスの質の改善へと生かされるようなシステム整備が遅れていること、が明らかとなった。
結論
1)介護保険前後で介護者のニーズ充足度を比較した結果、介護保険制度が当初掲げた「在宅重視」や「介護の社会化」といった理念は、まだ十分には果たされていないこと、2)プロセス評価の結果、在宅サービスについては、選択の多様化、利用料の経済的負担の面で問題があること、施設サービスについては、特別養護老人ホームにおいて、入居している高齢者が施設に不満や要望があっても、それがサービスの改善につながるような体制整備が不十分であること、が示唆された。
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