「世代とジェンダー」の視点からみた少子高齢社会に関する国際比較研究

文献情報

文献番号
200200036A
報告書区分
総括
研究課題名
「世代とジェンダー」の視点からみた少子高齢社会に関する国際比較研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
西岡 八郎(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 白波瀬佐和子(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 福田亘孝(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 津谷典子(慶應義塾大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
15,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における少子高齢化の急激な進行は社会保障制度全般に大きな影響を及ぼしつつあるが、この問題は先進諸国に広く共通した現象としてとらえることができる。少子化の背景、少子高齢化の影響は広義の家族・家族観と密接に関わっており、少子高齢化問題全体の広がり、深さを把握し、適切な政策対応をとるためには、家族・家族観の変化を国際比較を含めた広い視野から検討する必要がある。そのような状況にあるなかで、先進諸国の大部分をカバーするヨーロッパ経済委員会(UNECE)の人口部が、ヨーロッパ諸国の少子高齢化問題と家族・家族観の変化とを、世代とジェンダーという2つの視点から関連づける「世代とジェンダー・プロジェクト(GGP)」を発足させ、ヨーロッパ経済委員会域外の主要な先進国の一つとして日本はUNECEからの呼びかけを受けて参加する事を決定した。GGPは、参加国共通の分析フレームに従って人口・経済・社会・社会保障に関するマクロデータを収集するとともに、共通の調査票を用いた「世代ジェンダー調査(GGS)」を実施する。後者は、パートナー関係、 出生力、家族ネットワーク、ジェンダー、高齢者ケア、家計と社会保障に関する調査項目を含む家族に関する包括的調査であり、この分野ではおそらく日本で初めての大規模な国際比較調査である。本研究は、日本を含めた国際比較の視点から行われるマクロ・ミクロ両データの分析に基づいて、日本における未婚化・少子化の要因分析と政策提言、高齢者の自立と私的・公的扶養のあり方に関する施策立案の資料に資することを目的とする。
研究方法
本研究は、個人を単位とした調査(ミクロデータの収集)の実施・分析と、各国の法制度改革時期や行政統計データを含むマクロデータベースの構築という、大きな2つの柱からなる。前者のミクロデータについてはドイツのマックスプランク人口研究所が中心となって質問項目の検討委員会が構成される。後者は、フランス国立人口研究所が中心となってデータベース委員会が構成され、マクロデータに関する収集およびデータベースの運用に関する基本方針が決定される。これら2つの委員会の方針に従って、各参加国は調査の実施とマクロデータの提供を行う。さらに、ミクロ班で設定された個別のテーマのもとで、ミクロデータ、マクロデータを用いた多層的な国際比較研究を行う。
結果と考察
「世代とジェンダー調査」(以降GGS)に向けての調査票作成にあたり、2002年9月3日~13日にかけて、GGPに中心的に関わる研究機関であるオランダ学際人口研究所、フランス国立人口研究所、ドイツ・マックスプランク研究所を訪問した。ここでは、その時点での調査方法案や国際比較調査票作成の進捗状況を把握するために、中心的な研究者と意見交換を行った。9月~10月にイギリスとロシアでプレ調査が実施され、それと平行してGGP参加予定国に調査票ドラフトが送付されたのをうけて、日本側のコメントを提示した。2003年2月24日~27日に行われたGGP第2回インフォーマル・ワーキング・グループ(以降IWG)会議に出席し、そこで日本のGGP参加の意思表明と、予算の問題や日本の文化的要因を考慮にいれて、面接法ではなく留置自計調査法を採用することを報告した。調査票の確定版は、この2月のIWG会議で各参加国から示された質問、意見等を考慮に入れた修正が行われて作成される。本研究では、この調査票の確定版が送付されるのをうけて、日本の社会的、文化的背景と状況を勘案しながら質問項目の選出、配置、および面接法から留置法という調査法の変更にともなう調査票の構
造に関する修正を行い、日本版質問票を作成してプレ調査を実施する。さらに本研究では、国際比較研究を行うにあたって、(1)家族行動・家族構造に関する研究動向、(2)少子化と就業行動に関する研究動向、(3)社会政策と社会関係資本に関する研究動向、という3つの領域における既存研究の整理と分析枠組みの検討を行った。家族行動、家族構造に関する国際比較研究の動向では、定位家族からの離家、多様化したパートナーシップ、婚外出産と一人親世帯、パートナーシップの解消、夫婦関係、親子関係といったテーマについて、実証研究を中心に整理を行った。それによると、昨今の先進国では人口変動やグローバル化といった社会経済的な環境の変化のなかで、家族構造の変動が進むとともに、そうした家族変動に対する研究関心も高まっていることが示された。また、日本では家族に関する多くの情報を含むミクロデータが少ないうえに、国際比較研究を念頭に置いて設計されていないことが多いことから、諸概念や測定方法に違いのために比較を行う場合には問題が生じやすいことが指摘され、日本がGGSに参加し調査を実施することの意義とそれによって得られる研究結果の重要性が明らかになった。次に、出生力と就業のあり方に関する国際比較研究の検討では、先進国に限って、出生力の差を説明するにあたって、女性就業のあり方がどのように関連しているかについて既存研究を整理、検討した。ここでは、特に経済学の立場から、静学的アプローチと動学的アプローチに分けて理論の整理が行われている。また、女性労働力率、合計特殊出生率(TFR)、調整TFRについてOECDデータを概観し、日米英独の人材育成に関する雇用システムについても言及した。それによると、先進国間における女性の就業のあり方と出生力の関連を検証するうえで、国際比較可能なパネルデータの収集が必要であり、GGSによってもたらされる調査データの重要性が示された。最後に社会政策と社会関係資本についての先行研究の検討では、社会関係資本(social capital)に着目して、社会政策との関連をどのように捉えていくかを検討するために、既存研究を整理した。社会関係資本は、ネットワーク、信頼、規範を3つの主たる構成概念として、発展途上国の開発への応用概念として関心が集まっている。発展途上にある国のみならず、先進国に共通する財政的に困難な社会状況を社会関係資本がどのように補填、補充していくのかという視点は、GGSを用いた政策的なインプリケーションを含む分析結果を提示する上で有益である。
結論
初年度は、「世代とジェンダー調査」(以降GGS)の調査項目の確定を目的として、ドイツのマックスプランク研究所が中心となって作業が進められてきた。具体的には、調査票ドラフトに対するコメントの交換を通じて、最終的な調査票の確定へと作業が進められている。日本でも国連人口部門より提示された調査票ドラフトをもとに、留置自計調査用に組み替え日本版調査として作業を行っている。本研究では、このようなGGSの調査企画・設計作業とともに、ジェンダーと世代に関する既存研究の整理と今後の研究枠組みを検討する作業も行った。既存研究は、家族行動・家族構造に関する研究動向、少子化と就業行動に関する研究、社会政策と社会関係資本に関する研究、の3つの領域について国際比較の枠組みで整理、検討されており、これを通じて、GGS分析にあたって中心となる分析枠組みを構築することができる。さらに、日本の実証データを用いて、世代とジェンダーの観点からの研究を提示することで、国際比較研究を実施するにあたっての基礎とした。
2000年に実施された全国調査データを用いて、現代日本の結婚や家族そしてジェンダー役割をめぐるさまざま意識について、男女別および年齢階層別差異に焦点を当てて分析した。わが国の少子化や未婚化および離婚の増大といった結婚・出産行動の変化の背景には、結婚や家族をめぐる急速な意識・価値観の変化がある。結婚や家族そして男女の家庭役割をめぐる意識の男女差が若い人ほど大きいということは、若い未婚男女の間で結婚や家族形成に対する期待や理想におけるジェンダー・ギャップが大きいことを示唆しており、特に若い女性の間でわが国の結婚と家族が伝統的な特徴を色濃く残していることに対する否定的意識が強い。これが結婚の遅れと未婚者割合の増加という結婚行動につながっているとすれば、それがさらなる出生力低下を引き起こすことになる。 さらに1993年に実施された全国調査をもちいて、親への支援と子どもへの支援という世代間支援をジェンダーの視点を加えて検討した。親への支援は支援を提供するものの属性よりも支援を受けるものの状況によって左右されることが多く、成人した子どもへの支援はジェンダー差を伴って実現されていた。 これまで限定されていた日本を含む国際比較データを用いて、パラサイトシングル仮説、価値観変動(個人主義化)仮説、ジェンダー観変化仮説、労働市場柔軟仮説、子育て費用仮説、家族政策効果仮説などの諸理論を検証することを通して、有効な少子化対策への基礎データをとなりうることが期待される。高齢者扶養問題についても、先進国間における家族・家族観の違いを浮彫りにしたうえで、多様な私的支援ネットワーク(家族、友人、隣人など)と社会保障の給付とニーズとの関係の多様性を明らかにし、そこから、高齢者の生活保障に関わる政策の再構築に向けての指針をひき出すことが期待される。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-