家族構造や就労形態等の変化に対応した社会保障のあり方に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200034A
報告書区分
総括
研究課題名
家族構造や就労形態等の変化に対応した社会保障のあり方に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
寺崎 康博(東京理科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 府川哲夫(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 白波瀬佐和子(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、家族構造や就労形態等の変化が社会保障を通じて所得分配に及ぼしている影響を把握し、社会経済的格差が生じる要因を分析することを通じて、効果的な社会保障のあり方を展望することにある。具体的には、(1)家族構造・就労形態等の変化が所得分配に及ぼす影響、(2)生涯を通じた社会保障の所得分配に及ぼす影響、(3)人々の不平等感と(1)、(2)から把握される不平等度との関係――の3つのテーマについて分析する。
研究方法
いずれの課題についても研究会を組織し、1年目は先行研究のサーベイを行うとともに、分析に用いる統計調査データの整備および目的外使用申請作業を行い、後半から分析作業に着手した。
結果と考察
(1)家族構造・就労形態等の変化が所得分配に及ぼす影響:「増加する未婚成人とその経済状況」(寺崎論文)では、平成14年度は未婚成人に着目して、その経済状況の推移をマイクロ・データの再集計によって明らかにした。その結果、20歳代後半から30再前半にかけて未婚成人が増加したこと、仕事がない者が増加していること、親等との同居は必ずしも親の経済力とは関係していないこと、仕事がない者で年金保険に未加入の者は40%前後に上ること等が確認された。「有配偶女性の労働供給と税制・社会保障制度」(大石論文)では、夫の公的年金上の地位によって有配偶女性の労働時間や稼働所得がどのように異なるか実証的に把握した。その結果、いわゆる103万円の壁や被用者保険に加入する際の労働時間要件、第3号被保険者制度が有配偶女性の労働供給に有意な影響を及ぼしていることを確認した。「ミクロシミュレーションモデルにおける所得情報の取扱い」(稲垣論文)では、世帯のミクロシミュレーションモデルに『国民生活基礎調査』の健康情報・所得情報を組み込み、モンテカルロ法によるシミュレーションを行う手法について検討した。(2)生涯を通じた社会保障の所得分配に及ぼす影響:「公的年金と世代内所得再分配」(小塩論文)では、公的年金(厚生年金)の同一世代内における再分配効果を生涯所得ベースで分析し、望ましい公的年金・税制のあり方を検討した。公的年金の再分配効果は、生涯所得ベースで見ると、年間所得ベースに比べてかなり小さいこと、定額の年金に物価スライドを適用した上で年金財源を消費税で調達することは、効率性・世代内公平性の両面から見て望ましい面があることなどが明らかになった。「世帯構造別にみた所得の状況」(府川論文)では、『国民生活基礎調査』(1998年)の個票を用いて、同居・非同居別にみた高齢者世帯の所得の状況や、世帯主の年齢階級・世帯構造別平均所得を把握した。その結果、高齢者一人当たりの所得水準は同居・非同居の別によって差があり、さらに、非同居世帯の中でも夫婦のみ世帯と単独世帯とで格差があることが明らかになった。「個人所得税負担額の推計方法」(田近・古谷論文)では、来年度以降のマイクロ・シミュレーション・モデルによる分析の準備作業として、著者らによるTJMOD(Tax Japan MODel)の個人所得税負担額を推計するアルゴリズムを、①合計所得金額の推計、②課税所得金額の推計、③個人所得税負担額の推計の3つのプロセスに分けて作成した。(3)所得分配と人々の不平等感との関係に関する社会学的分析:「「機会の平等」に関する考察1-柔らかなpositivismからの接近-」(佐藤論文)では、「機会の平等」原理に対して理論経済学的アプローチと、経験的な実証研究のアプローチの間には大きな乖離があること示し政策的に重要性が高い論点をとりあげて、議論し、解決の方向性を示した。「「見過
ごされた所得格差」の再検討-1989年と1998年の所得再分配調査の比較-」(玄田論文)では、『所得再分配調査』(1989年、1998年)を用いて、年齢間、職種間の所得格差の変動状況を実証分析した。その結果、1990年代を通じて10代や20代の所得は60代に比べた優位性が失われ、自営業は被雇用者よりも所得面であきらかに貧しくなっていることがわかった。さらに税金や社会保障による所得再分配は、それらの格差の動向を抑制するには至っていないことも明らかになった。「限界税率の変更が中・高所得者の課税前所得に与える影響の実証分析-課税前所得の弾力性の推計-」(宮里論文)では、95年の所得税改正が中・高所得者の課税前所得にどのように影響を与えるのかについて検討を行った。課税前所得の限界税率弾力性を推計すると0.1756でアメリカに比べ低い値であることが分かった。また、自営業者では弾力性が0.3141、被雇用者では0.2305となり自営業者の限界税率弾力性が高いことが分かった。「教育における階層差について」(苅谷論文)では、子どもの学力達成度を社会階層論の枠組みで実証データを用いて検討した。中学2年の数学の正答率を従属変数とした重回帰分析を行った結果、通塾の影響や基本的な生活習慣の影響が増大していた。学力テストの平均正答率は、最下位四分位グループで大きな低下が認められた。「教育機会の格差と出身階層」(石田論文)では、戦後日本の高等教育機会の拡大が出身階層との関係でどのような意味をもっているのかを検討した。戦後高等教育機会は拡大したが、その機会の拡大は出身階層の影響を弱体化する方向とはならず、高等教育へのアクセスは出身階層によって異なっており、戦後日本では出身階層間格差に大きな変化は認められなかった。「女性の就業形態選択と所得格差」(松浦論文)では、全国で最も非婚化、晩婚化、少子化が進行し、かつ待機児童問題が深刻な東京30km圏を対象に女性の就業形態を4区分し分析した。推計結果から正規就業継続が第一子出産で激減し、第二子出産で15%前後の確率しかないことが示唆された。「母親就労からみた福祉国家における家族の位置づけ:国際比較の観点から」(白波瀬論文)では、母親就労に焦点をあて福祉国家を個人と労働市場との関係や世帯内の経済的な貢献度を通して、福祉国家と家族の位置づけについて検討した。日本における幼い子どもを持つ母親就労率が他国に比べて低いことが明らかになった一方、日本だけでなくドイツや、アメリカ、スウェーデンでさえも、夫の収入は妻の就労決定に有意にマイナスの効果を与えていた。「高齢者のいる世帯における経済的格差に関する一考察」(白波瀬・竹内論文)では、65歳以上の高齢者がいる世帯に焦点をあて、高齢者世帯内の世帯構造別に経済格差を検討した。全体の格差を世帯構造タイプ内と世帯構造タイプ間に要因分解した結果、世帯構造タイプ内の経済格差が高齢者世帯全体の経済格差の約8割を占めることが明らかになった。
結論
本年度の研究からは、共働き世帯の増加といった就労形態の変化や、三世代世帯の減少、親と同居する未婚成人の増加など家族構造の変化は、所得分配に影響を及ぼしていることが明らかになった。所得再分配を評価する上では、一時点での再分配効果だけでなく、生涯ベースでの再分配効果をみることが重要である。その際には、ライフステージによる家族構造や世帯構造の違いを考慮することが必要である。また、人々の不平等感の背後には、単純に所得だけでなく教育やジェンダーなど、社会経済的な多くの要因があることが確認された。

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