ネットワーク型医療の評価と推進に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101183A
報告書区分
総括
研究課題名
ネットワーク型医療の評価と推進に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
高本 和彦(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 馬場園明(九州大学健康科学センター)
  • 西村秋生(国立医療・病院管理研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国においては、地域ごとに適切な医療を受けることが可能な医療供給体制の確立が急務である。予防、診断・治療、リハビリテーションという医療の全過程が同一施設等で完結することは困難となっており、医療機関の機能分化と円滑な連携の実現に向けた社会環境の整備等が課題となっている。また、地域差の認められる医療機器や医療専門職種等の医療資源の地域社会全体での効率的な活用、医療機関受診における患者負担の軽減とより高質な医療サービスの提供等に寄与できる医療システムをどのように構築していくかが医療政策検討上の焦点となっている。このような観点から、複数の医療機関が、同一の医療情報環境を効果的かつ効率的に共有する基盤を構築しながら、時間や距離の制約を軽減化して、適時適切に患者にサービスの提供を行うネットワーク型医療システムについて、包括的な評価と今後の推進方策等に関する政策研究が必要となっている。そこで、本研究においては、実際の医療提供環境下での効果と効率を明らかにする実証的評価ならびにシステムの信頼性と継続性の確保策、運営組織の構築と経営方法等の医療・病院管理上の検討を行うこととした。
研究方法
研究2年目の今年度は、研究1年目に検討を行ったネットワーク型医療システムの評価枠組みに基づき、診療過程の変化、患者の健康結果(生存率、障害程度)、医療機関在院日数、専門家および患者のシステムへの受容・満足度等に着目して、国内のネットワーク型医療システムの先進的な2つの展開事例を対象に、システム関係者・関係機関との共同研究を実施し、実運用下のシステムの効果と効率に関する具体的な検証を行った。救急・急性期診療型のモデルとしては、脳神経科専門中核病院(広島県福山市)と広島・岡山両県の連携25医療機関から構成された広域的な脳神経科診療ネットワークにおけるオンラインCT画像伝送システムが、医療サービスの過程と結果に及ぼす影響等について、システムを利用しない患者紹介等を比較対照とし、脳血管疾患患者(くも膜下出血患者)に対する診療の各過程と結果に係る具体的な指標を設定して後ろ向きに評価を行った。慢性疾患診療・健康管理型のモデルとしては、地域全体で統一的に構築された情報システムを基盤とした地域保健医療ネットワーク(兵庫県加古川市・加古郡)の評価を行った。集約されシステム化されたパーソナルヘルスデータ、ICカードシステム、医療機関案内システム、即日集計の感染症情報システム等のサブシステムから構成された保健医療情報システムの日常診療における活用状況と、システム利用による施設間ネットワーク化、保健医療活動の質向上の実現頻度、患者の意識・行動・症状の変化等を、システムユーザーとしての医師およびエンドユーザーとしての患者を対象とした自記式無記名の質問紙法により実施した。
結果と考察
救急・急性期診療型のモデルでは、CT画像コンサルテーション対応後に中核病院へ入院となったくも膜下出血患者群は、画像伝送を伴わない形式で入院した患者群に比して、より重症な事例が多かったにも関わらず、発症後から早期に中核病院に入院し、出血源を確実に把握し、早期の手術導入、再発の防止等患者管理の質の向上が図られる割合が高く、入院時重症度別にみた患者の死亡・障害の軽減がなされるとともに自宅への退院割合が高まるという患者便益の増大を示唆する研究結果を得た。慢性疾患診療・健康管理型のモデルにおける患者対象の調査からは、システム端末による医師の説明を受ける等個別患者のシステム利用の度合い、ICカード等地域内ネットワーク利用の程
度の高まりに応じて、自身の病状や注意点を理解する割合、健康管理面での意識・行動の変化、かかりつけ医以外の医師に自身の保健医療情報を知ってもらうことが治療や健康づくりに役立つと思う割合、他地域での同様のサービスを希望する割合等が高まるという結果が得られた。医師対象の調査からは、医師のシステム総体の利用稼動状況は相応に高く、日常診療活動の質向上への有用性、良好な医師-患者関係を構築する上での有用性、情報システムを活用した保健医療のネットワーク化に対する有用性、疾病管理の質向上の実現頻度、登録患者の態度・行動・症状などの登録前に比した変化といった保健医療の各過程における良好な影響も比較的高いことが確認された。また、検査・健診オンラインシステム等の中核サブシステム利用頻度の高い集団は、このような臨床における実運用上の効果を享受する割合の高いことが示唆された。さらに、具体的な臨床事例の提示が得られ、今後の運営方策に関する意見等を把握することができた。ネットワーク型医療は、その動向に大きな関心が寄せられており、当該システムによる患者へのサービス提供の適時性、適切性等の評価の需要がさらに高まることが予想される。しかしながら、新しい医療システムとしてのネットワーク型医療が、実際の臨床場面でどのように診療活動の過程や患者の健康結果に影響を及ぼしているかを明らかにした研究はほとんど見当たらない。本研究では、わが国の代表的な臨床応用事例の評価研究を行い、その特性に応じた具体的な評価枠組みや指標等の設定を試みており、当該システムの体系的な医療技術評価のモデルとして活用することが可能と考えられる。また、実際の医療提供環境下で通常医療と比較を行った実証的評価によりその効果を示唆する結果を得ており、ネットワーク型医療の導入または充実への根拠となる情報として提供され参酌されるべき内容と考えられる。今後、ネットワーク型医療の推進上の隘路を明確化する研究を行うことで、情報化社会における新しい医療の供給システムのあり方の検討に資する他、医療機関の機能分化と円滑な連携を実現する社会環境整備等、地域医療政策の検討のための課題の抽出にも寄与することが期待できる。
結論
今年度は、「ネットワーク型医療システム」に関する包括的な評価の一環で、わが国の臨床応用事例での効果と効率の検証を試み、情報システムを基盤とした保健医療ネットワークシステムは、保健医療提供の各過程や患者の健康行動、健康結果等に良好な影響を及ぼす可能性が示唆された。しかしながら、ネットワーク型医療システムは多様であり、導入への関心の高い電子カルテによるシステム等の類型事例に即したさらなる評価研究が必要であり、システムの実用性や継続性を向上させる対策等の具体的な検討を行う必要がある。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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