歯科保健水準を系統的に評価するためのシステム構築に関する研究

文献情報

文献番号
200101026A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科保健水準を系統的に評価するためのシステム構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
安藤 雄一(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 宮崎秀夫(新潟大学大学院医歯学総合研究科)
  • 長田斉(東京都杉並区保健衛生部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
有効な健康政策を展開していくうえで、対象地域の観察や既存保健医療統計などをもとにした地域診断が重要であることは論を待たない。そして全国各地において有効な地域診断が行われるためには、保健医療統計に関するデータ・資料など、インフラ整備の充実を図る必要がある。
地域の歯科保健水準を的確に把握することは、歯科保健施策で行政が果たすべき機能として非常に重要である。ことに、歯科保健の問題は「健康日本21」のなかで「歯の保健」として各論に位置づけられたことにより、今後「地域診断」の需要が高まることが予想される。その意味でも、全国および地域レベルで歯科保健水準を的確に評価できるシステムを構築していくことは急務であり、まずは都道府県における実態を十分に把握する必要がある。
また、近年、健康状態を評価する際にQOL評価が重視されるようになってきており、歯科の分野でも有用な指標を開発する必要性が高まってきている。
以上のことから、今年度は都道府県の歯科保健担当者に対して、質問紙調査を行い、現在、都道府県において行われている情報収集の実態について調査することにした。
また、今後重要性が高まることが予想される歯科におけるQOL評価について、文献的考察を行った。
研究方法
1.都道府県における歯科保健水準把握の実態に関する調査
現在行われている歯科保健水準を把握する方法には、新たに調査事業を実施して能動的にデータを収集する方法と、市町村の健診事業などを通じて受動的にデータを収集する方法の2種類に大別できると思われる。 能動的なデータ収集として各都道府県で最近行われた歯科疾患や歯科保健行動など歯科保健水準に関する実態調査の実施状況とその内容について調べることにした。
受動的データ収集については、比較的データがそろっていると考えられる小児う蝕とフッ化物利用に関するデータの把握状況を調べることにした。
以上の内容について調査票を作成し、都道府県の歯科保健担当者に郵送した。
調査項目は、都道府県で最近実施した歯科疾患・歯科保健に関する実態調査の内容、各市区町村における3歳児・12歳児う蝕有病状況、フッ化物利用(塗布・洗口)などであり、調査票の記入のほか、関連する報告書や資料の提供を求めた。
回収は郵送で行い、督促は1回だけ行った。回答があった都道府県は44で、回収率は93.6%であった。
2.歯科におけるQOL評価について、文献的考察
諸外国でにおける歯科のQOL指標については、1997年にSlade GDがまとめた冊子“Measuring Oral Health and Quality of Life"のなかでレビューされていた主要10指標について、背景、測定方法の開発、測定方法の評価、測定方法の使用による所見、代替様式について評価した。
一方、国内でのものについては、過去10年間で口腔衛生学会雑誌に掲載された原著論文、論文検索ソフトである医中誌によりQOLのキーワードで検索された原著論文を対象とした。同じく、背景、測定方法の開発、測定方法の評価、測定方法の使用による所見、代替様式について評価した。
結果と考察
1.都道府県における歯科保健水準把握の実態に関する調査
1)都道府県の実態調査
各都道府県で行われた47の実態調査の内容について分析した結果、様々なタイプの調査が実施されていることが示された。
口腔診査を中心とした調査では、全体的にサンプリング方法が示されていないものが多かった。これは厚生省歯科疾患実態調査に由来する大きな問題点と考えられ、早急に改善を図る必要がある。小児については極端に例数が少ない事例もあり、この種の実態調査に小児を対象に含めるべきか否かについては、今後検討すべき課題と考えられた。
一方、一般的な健康調査などの一環として歯科保健について調査されている例も比較的多いことが示された。この種の調査は、全般的にサンプリングが適切である点、回収率が高い点が特徴である。したがって、今後、自覚症状などQOL評価と並んで、う蝕や歯周疾患についても応用できるように方法論の改善を図っていく必要性があると考えられた。
2)市町村データの収集状況
小児う蝕に関する市町村データについては、3歳児う蝕はほとんどの都道府県が市町村データを把握しており、多くの都道府県で3歳児う蝕に関する目標値を設定していた。したがって、今回収集したデータをもとに今後、全国的なデータベースを構築することが可能であることがわかった。
12歳児う蝕について把握している都道府県は、近年増加しているものの最新年度で4分の1にも満たなかった。しかし、12歳児う蝕(DMFT)を目標値として設定している都道府県は過半数にのぼり、市町村のデータを把握していない都道府県でも目標値を設定しているところが多かった。12歳児のう蝕については、文部科学省の学校保健統計により全国的な調査が実施されているが、その結果が都道府県や市町村に十分に還元されていないことが判明し、今後の課題として残った。
フッ化物利用については、フッ化物歯面塗布、フッ化物洗口ともに市町村の状況を把握している都道府県は近年増加する傾向にあったものの半数以下で十分とはいえなかった。また、把握している内容についてもバラつきが認められ、今後、全国レベルの実態調査を行う必要性が高いと判断された。
2.歯科におけるQOL評価について、文献的考察
国内外における歯科のQOL指標について、再現性や妥当性の評価が行われているかどうか、多くの調査報告が出されているかどうかという観点で、各指標を3段階に分類した。
よくまとまっていると評価された指標は、諸外国版では、GOHAI(The General(Geriatric) Oral Health Assessment Index)、DIP(The Dental Impact Profile)、OHIP(The Oral Health Impact Profile)、SOHSI(Subjective Oral Health Status Indicators)、国内版では、FSPD34型、OHIP日本版であった。
諸外国の4指標、国内版での2指標とも口腔内症状との関連において満足のいく結果を示していた。
本調査対象となったQOL評価指標をみると、諸外国では多くの指標が開発され、妥当性についても評価されるものが多くある。一方、わが国においてはQOLについて妥当性を評価したものは少ない。
開発された指標の再現性、妥当性の評価や活用状況をみると、QOLを評価する場合には、諸外国で開発された指標の方が信頼のある結果を得られそうである。とくに、GOHAI、DIP、OHIP、SOHSIの4指標については総合評価は高かった。しかし、諸外国で使用されている指標をわが国で使用する際には、翻訳により本来の意味が変化する可能性が指摘されている。これらを考慮すると、わが国で既に開発、妥当性の判定が行われているものか、諸外国で使用されているもののうち、翻訳版がわが国で使用されているものが今後わが国でQOLを評価する場合には現実的と考える。
わが国での指標をみた場合、多くの調査が行われている指標はFSPD34型である。これは、NPO法人ウェルビーイング(旧福岡予防歯科研究会)を中心としたグループにより開発された指標であり、既にいくつかの自治体や事業所において活用されている。
また、翻訳版では、近年いくつか報告されているOHIPの日本版が汎用性がありそうである。
結論
1.都道府県における歯科保健水準把握の実態に関する調査
都道府県で行われている歯科保健水準の把握に関する実態について調査した結果、
1)各都道府県では様々なタイプの調査が実施されていたが、口腔診査を中心とした調査では、全体的にサンプリング方法が示されていないものが多かった。また、一般的な健康調査などの1つの項目として歯科保健について調査されている例も比較的多いことが示された。
2)小児う蝕に関する市町村データのうち、3歳児う蝕はほとんどの都道府県で把握されていたが、12歳児う蝕については把握している都道府県が少なかった。
3)フッ化物利用に関する市町村データについては、塗布・洗口ともに市町村の状況を把握している都道府県が半数以下であった。
2.歯科におけるQOL評価について、文献的考察
歯科でのQOLの評価に関する統一指標の作成に向け,諸外国および国内におけるQOL評価関連指標を文献的に考察したところ、諸外国では評価対象となった10指標のうち,GOHAI,DIP,OHIP,SOHSIの4指標が信頼性が高いと判断できた。また,国内のもので,FSPD34型およびOHIP日本版の2指標が信頼性が高いと判断した。

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