医療用具の不具合報告の用語の国際的統一に関する研究

文献情報

文献番号
200100982A
報告書区分
総括
研究課題名
医療用具の不具合報告の用語の国際的統一に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
古幡 博(東京慈恵会医科大学総合医科学研究センターME研究室教授)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田正人(日本医療機器関係団体協議会国際部長)
  • 平井俊樹(日本公定書協会参事)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
不具合事象の名称において先行している米国、欧州のそれぞれの用語を収集し、その体系的分析、カテゴリー化を行い、ISO/TC 210 WG3の活動から得られた情報を整理・分析し、医療用具の不具合報告におけるグローバルな整合を備えた名称システムを構築する。また、人体への影響に関する名称については、別途、医薬品業界でMedDRAシステムがあり、これとの整合性も図る。
研究方法
1) 不具合事象の用語に関する基礎調査:海外文献、データ、法規制等から、外国における不具合事象の用語を収集し、翻訳作業を進め、その位置づけ及び活用方法の実態を調査する。また、不具合事象の名称コーデングシステム規格を検討しているISO/TC 210 WG3からも必要な情報を入手し、活用する。さらに、日本における医療用具の不具合用語を添付文書又は医療機関を通じて可能な限り収集し、海外の不具合事象用語の蓄積に加えて、日本の不具合事象用語を補完し、充実させる。2) 不具合事象の体系的分析及びカテゴリー化:医療用具の不具合事象名称システムの使用可能性及び利便性を高めるためには、不具合用語のカテゴリー化(階層化又は類型化)が必要である。その方法論としては、以下のようにいくつかの観点が想定される。・臨床分野別(人体部位への影響)、・機器、用具、材料別、・GMDNに整合させた医療用具群別、・リスク管理、信頼性、人間工学、ユースエラーからの観点、これらの方法について海外文献、研究資料に基づき検討し、不具合事象名称システムの利便性及び国際整合性を考慮した適切なカテゴリー化を構築する。、3) 医薬品の副作用用語との整合性:医薬品業界で用いられている医薬規制用語集(MedDRA)の使用実態及び医療用具の不具合用語との整合性を調査し、MedDRAシステムの医療用具分野への活用方法を検討する。
結果と考察
研究結果=1) 不具合事象の用語に関する基礎調査:まず、各国の不具合報告で使用している用語の収集活動を開始し、海外の文献、データ等をインターネットや政府公刊物を利用して調査した。その調査範囲は、米国、EU、英国、ドイツ、カナダ、豪州及び日本である。これらの情報収集活動と併せ、各国の医療用具の不具合報告に関するレギュレーションも調査した。米国の21CFR Part 803及びEUのビジランス(不具合報告)ガイドラインが代表的なものである。これらの情報の和訳も完了した。調査の結果、世界で最も先行している医療用具の不具合用語コーディングシステムは、米国のMedWatchシステムであることが判明した。このMedWatchシステムは、不具合用語を機器コード、患者コード、調査コードに分け、米国FDAに対する不具合報告の際に、報告者の利便性を考慮したものである。また、MedWatchには、機器コードと患者コードとを合わせ、約1500語の不具合用語が集められており、これらの用語は、今後の研究の基礎用語として活用すべきものと思われる。次に、このMedWatchシステムの位置づけ及び活用方法について、専門機関の米CODA社の資料をもとに研究した結果、不具合用語の類別化、利便性、用語の構成においていくつかの難点があることが明らかになった。特に、MedWatchでは、不具合用語の類別化が行われていないために、適切な不具合用語の選択に時間がとられるという問題点が提起された。また、類似語も散見され、使用者が混乱する懸念があること、ひとつの用語に複数の要素が盛り込まれ、用語の使用が限定されるという問題点も指摘されている。一方、ISO/TC 210 WG3の活動は、2001年9月の米国同時多発テロの影響を受けて一時中断のやむなきに至り、見るべき情報
の入手ができなかった。今後の研究は、ISO/TC 210 WG3の活動に注視することになる。同時に、本調査の目的のひとつである日本の不具合用語の収集活動も行い、MedWatchから得られた不具合用語の補完作業も継続する。 2) 不具合事象の体系的分析及びカテゴリー化:まず、医療用具の不具合事象用語は、医療用具の特殊性から米国のMedWatchシステムと同様に「医療用具の不具合事象」(機器コード-Device Code) と「患者又は使用者への有害事象」(患者コード-Patient Code) に分けて考えると、名称体系が容易になることが示唆された。因みに、MedWatchシステムでは、Device Codeが765、Patient Codeが746である。次に、不具合用語の類別化について、CODA社の資料を参考に、「臨床分野別(人体部位への影響)」を中心に検討した。また、代表的な医療用具を用いて、MedWatchの用語を用いて、シミュレーションを行い、利用可能性及び体系化を試みたが、用語はかなり使えるものの、これらの用語の階層化に困難があった。逆に、ひとつのカテゴリー(階層化)を与えると、MedWatchの用語がかなり整理されることも判明した。一方、リスクマネジメントのハザードの分類体系から用語を整理すると、かなり用語がまとまるものの分類体系の完全性には難点が残った。さらに、すべての医療用具の安全性を規定する基本要件とハザードの分類を比較する作業も試みた。ハザードの分類体系を安全性の基本要件に即して整理すると、医療用具のすべてのハザード一覧表が完成し、不具合用語を系統的に整理する上で有効なツールになることが示唆された。これらの作業結果は、今後の研究活動に資するものと思われ、さらに議論を深め、結論に結びつけてゆきたい。 3) 医薬品の副作用用語との整合性:MedDRAシステムの理解を深めるために全体像を研究した。次に、MedDRAの副作用用語とMedWatchの不具合用語とのマッチングを調査した結果、両者の間にかなり整合がとれていることが判明した。特に、Patient CodeはMedWatchの746に対し、MedDRAでは480がマッチングしていた。MedDRAの語数は5万語以上もあるので、残りの266語についても類似の用語や「言い換え」に相当するものがあると思われる。MedDRAシステムは、医療用具のPatient Codeとかなり整合性がとれていることが判明したため、医療用具への利用可能性があるものと考えられる。しかし、MedDRAシステムに不案内な医療用具業界がどのように利用できるかは今後の課題であり、その活用方法について研究を継続する。考察として、医療用具の不具合情報に対して行政当局及び製造業者がグローバルなレベルで適切な手段を講ずるためには、医療用具の不具合事象用語の統一化された情報を遅滞なく収集することが必要である。それによって、重要な不具合情報をグローバルに伝達することが可能となり、医療用具の安全性を高いレベルで確保することができる。本研究成果は、わが国の不具合報告において報告者が容易に使用できる体系的な用語システムのデータ作成に資するとともに、医療機関に提供する添付文書の不具合事象用語に活用させることも可能となる。一方、この研究成果をISO/TC 210 WG3の活動における不具合事象用語のコーディングシステム規格に反映させることも意図している。本研究は、海外情報及びMedDRAの調査を重ねるうちに、以下のような認識を得るようになった。 ・医療用具の特殊性から、Device CodeとPatient Codeに区分すると整理しやすい。 ・MedWatchの用語はかなり使えそうである。しかし、高リスク機器になると追加すべき用語もある。 ・MedWatchのPatient Codeは、MedDRAとかなり重複している。 ・カテゴリー化で有効なツールは、リスクマネジメントのハザード分類やGHTFの安全性にかかわる基本要件ではないか。かかる認識から、不具合用語システムの使用可能性及び利便性を考慮すると、すべての医療用具を対象とした、国際的にも整合のとれたカテゴリー化が重要である。今後の研究課題は、主として不具合用語の類型化と対応する不具合用語の整理に向けた検討を行う予定である。
結論
本研究では、不具合事象の名称にお
いて先行している米国、欧州のそれぞれの用語を収集し、その体系的分析、カテゴリー化を行い、ISO/TC 210 WG3の活動から得られた情報を整理・分析し、医療用具の不具合報告におけるグローバルな整合を備えた名称システムを構築することとしている。そのような観点から、諸外国からの不具合用語システムの基礎的調査は、今後のISO活動状況を除き、ほぼ完了しているため、初年度としては、本研究の目的を達成するための環境整備が整えつつあるものと考えている。今後、初年度の成果を踏まえ、引き続き海外情報に注視し、不具合名称システムの類型化を含めたシステムの構築に向けた作業を進める予定である。

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