室内環境の評価法及び健康影響の予測法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100897A
報告書区分
総括
研究課題名
室内環境の評価法及び健康影響の予測法の開発に関する研究(総括研究報告書)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
田辺 新一(早稲田大学理工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 東敏昭(産業医科大学)
  • 加藤信介(東京大学生産技術研究所)
  • 渡辺弘司(健康住宅普及協会)
  • 岸田宗治(健康住宅普及協会)
  • 松本真一(秋田県立大学)
  • 龍有二(北九州市立大学)
  • 秋元孝之(関東学院大学)
  • 岩田利枝(東海大学)
  • 岩下剛(鹿児島大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
23,840,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、シックハウス症候群に関してその室内環境の評価方法及び健康影響の予測法の開発を行うことである。
研究方法
対象となる汚染化学物質の室内濃度に影響を与えるのは、建材・施工材等からの放散量、換気量、室内温湿度、時間などである。分担研究として以下の研究を行った。
1)パッシブ法によるアルデヒド類、VOCの放散速度測定法の開発:VOC-ADSECは捕集時間を変更して捕集量の変動を調べた。Carbonyl-ADSECは壁・天井測定に可能な器具の検討を行った。
2)PFT法による換気量の測定:トレーサーガス源と温度との関係、サンプラーのサンプリングレイトを実験により求め、換気量算出式を導いた。
3)パッシブ法によるA邸の実測:実住宅で夏冬にパッシブ法による気中濃度・放散速度・換気量測定、アンケート調査を行った。
4)環境共生型住宅S邸の実測:環境共生住宅におけるアルデヒド類やVOCの気中濃度などを実測し、室内空気質を評価した。
5)健康影響予測に関わる室内空気中の化学物質要因による生体影響知見の整理:MEDLINEおよび医中誌DBを用いて、関連文献を検索し評価の上、知見を整理した。
6)パッシブ吸着材の濃度低減効果に関する研究:実験に関しては、境界層型小型チャンバー、数値シミュレーションに関してはCFDを用いた。
7)東北地域の高断熱高気密戸建住宅における室内空気質の実態調査:実住宅におけるアルデヒド類やVOCの気中濃度などを実測し、室内空気質を評価した。
8)室内濃度の経時変化の測定・評価に関する研究(戸建住宅):工業化住宅2邸で木工事完了後、ワックス美装前後、家具納入後の空気質を測定した。
9)新築住宅におけるVOCとホルムアルデヒドに関する実測:都内の新築未入居住宅について、ホルムアルデヒド濃度、部位別発生寄与率、VOC濃度を測定した。
10)戸建新築住宅における入居前後による衛生環境実態調査:24時間換気を伴う高気密・高断熱新築住宅を対象に、室内空気質、ダニ及びカビが居住前後でどの様に変わるか実態調査を行った。
11)室内空気質が作業効率に与える影響:実験住宅において被験者実験を行った。異なる温度状態、異なる臭気状態が被験者の心理応答、作業効率に及ぼす影響を調査した。
12)北部九州における住宅の空気質に関する研究:地場工務店による戸建住宅を対象に、アルデヒド類の気中濃度と床からの放散速度ならびに換気・気密性について調査した。
結果と考察
1)VOC-ADSECを用いた捕集時間変更実験において、24時間以内に捕集量が平衡状態に近づくことがわかり、改良が必要なことがわかった。壁・天井の測定が可能となった。
2)PFT法による換気量の測定とアクティブサンプリングの測定値がほぼ一致した。パッシブサンプラーのPFTのサンプリングレイトを求める実験では、結果に多少のばらつきが見られた。
3)パッシブ法によるA邸の実測:室内気中濃度は、夏季はホルムアルデヒド、冬季はアセトンが最も高かった。アンケート結果より内装材や生活用品からの放散が考えられた。
4)環境共生型住宅S邸での実測では、気中濃度は全ての値が厚生労働省指針値を下回っていた。α-PineneやD-LimoneneといったTerpene類の放散が主であった。居住者の生活による影響が見られた。
5)健康影響の原因物質としてはホルムアルデヒド、VOCについての報告が多く認められるが、他の要因も無視できない。症例上の知見では、特定の物質より複数の条件が関与していることが示唆される。発症機序および混合曝露と発症状況についての検討が必要である。
6)チャンバー内の風速分布に関するCFD解析と実験は良く一致した。境界層型チャンバーを用いてパッシブ吸着材(ホルムアルデヒド吸収分解せっこうボード)の物質伝達率を測定した。また、吸着性能試験を行い、吸着性能を確認し、その換気量換算値を得た。モデル住宅の検討を行い、吸着面で汚染質濃度が0となる理想的な吸着面は汚染質の濃度低減効果が大きい。吸着なしの場合、完全混合仮定濃度の約70~90%程度、吸着効果を考慮した場合はそれの約1/10以下という知見を得た。
7)秋田県の高断熱高気密住宅4戸と在来型住宅1戸を対象として実測した。ホルムアルデヒドの濃度は対象住宅5戸とも厚生労働省の指針値100μg/m3以下であったが,TVOC濃度は5戸中4戸の住宅で厚生労働省の暫定指針値400μg/m3を上回った。機械換気システムを備えていない建築後20年以上の在来型住宅では,TVOC濃度が5戸中最も高濃度で検出された。
8)戸建住宅A邸のホルムアルデヒド濃度は木工事完了後、ワックス美装前、ワックス美装後では指針値を満たしたが、家具納入後では居間、寝室において指針値を上回った。A邸において、トルエン、キシレン、スチレンの濃度が上昇するのはワックス美装前、ワックス美装後に集中した。B邸におけるトルエン、キシレン、スチレンの濃度が上昇するのはA邸と異なり木工事完了後に集中した。
9)新築住宅のホルムアルデヒド濃度は全住宅の実測値は指針値より低かった。部位別では建具裏、クローゼット中棚、キッチン建具内部のホルムアルデヒド放散量が大きかった。発生寄与率としては面積の大きい床と壁紙で40~60%となった。VOCについては全住宅においてトルエン、TVOC濃度が指針値を上回っていたが、キシレン、パラジクロロベンゼン濃度は指針値と比較すると極めて低かった。
10)戸建新築住宅のホルムアルデヒド気中濃度はほぼ指針値(100μg/m3)を下回っていたが、25℃に換算することで、指針値を上回る住宅が21邸中4邸あった。TVOCについては、殆どの住宅で暫定目標値(400μg/m3)を大きく上回った。ホルムアルデヒド及びテルペン類は時間変化による濃度低下が遅く、トルエン等は早いことが認められた。
11)温冷感申告において寒い側になる低温(23.7℃)の条件で最も有効処理数が高かったが、一部の被験者は高温域(31.7℃)において最も有効処理数が高かった。不快者率の低い室と平均作業効率が最も高い室とは一致しなかった。パイン臭が作業効率に与える影響は被験者全体の傾向では明らかではないが、パイン臭気を不快に感じないグループは有効処理数が高かった。
12)北部九州における住宅の調査対象住宅のうち,カーペット仕上げの実験住宅ではホルムアルデヒド気中濃度が指針値を上回った。他の在来軸組住宅では床からの放散速度も比較的小さく,相当隙間面積が2cm2/m2以下となるような高気密住宅でも,ホルムアルデヒド濃度は指針値以下である。北部九州の地場工務店においてもホルムアルデヒド対策が進んでいる。
結論
パッシブ法を用いた室内濃度、換気回数、放散速度の測定法の開発を行った。また、室内濃度予測のための数値計算モデルを開発した。その成果を利用して実測調査を行った。以下の知見を得た。パッシブ型測定用器具を開発し、VOCを含む床・壁・天井からの化学物質放散速度測定が可能になった。PFT法による換気量の測定では、アクティブ法と同等の性能が得られた。環境共生型住宅では、VOC濃の種類が在来型住宅と比較し極めて異なることがわかった。また、生活スタイルや家具の影響が大きいことが定量的にわかった。モデル住宅の汚染質濃度の解析を行うことができる数値シミュレーション手法を開発した。24時間換気システムが室内空気質の濃度低下、ダニおよびカビの生育抑制に効果があるとの示唆を得た。ホルムアルデヒドの気中濃度と床からの放散速度には明らかな正の相関が見られることがわかった。

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