文献情報
文献番号
200100514A
報告書区分
総括
研究課題名
日本におけるEBMのためのデータベース構築及び提供利用に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
丹後 俊郎(国立公衆衛生院付属図書館長)
研究分担者(所属機関)
- 津谷喜一郎(東京大学大学院)
- 裏田和夫(東京慈恵会医科大学)
- 野添篤毅(愛知淑徳大学)
- 山崎茂明(愛知淑徳大学)
- 山口直比古(東邦大学)
- 磯野威(国立公衆衛生院)
- 緒方裕光(国立公衆衛生院)
- 金澤一郎(東京大学医学部)
- 桐生康生(山梨県韮崎保健所)
- 曽根智史(国立公衆衛生院)
- 森川馨(国立公衆衛生院)
- 阿部信一(東京慈恵会医科大学医学情報センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(EBM研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
25,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、米国においてはNLM、英国においてもEBMの拠点ともいえるコクランライブラリーなどのように、医学医療情報の集積と受益者・従事者にとってアクセスしやすい利用環境その整備が遅れている日本において、保健、医療、福祉の分野で従事者や国民が確かな情報を「だれでも、どこでも、いつでも」入手できることが可能な情報基盤を研究開発することにある。
研究方法
本年度は研究の2年目として、次の13の分担研究をおこなった。
1.「一般市民の健康医療情報ニーズの調査(分担:山口直比古)」
本研究では、昨年度の「患者および家族の情報需要調査」に引き続き、「一般市民への医学・医療情報需要調査」を行う。調査対象の抽出方法は層化多段無作為抽出とし、平成7年国勢調査時に設定された調査区を使用、個人の抽出は住民登録台帳により調査対象適格者を等間隔に系統抽出する。
2.「ガイドライン作成(白内障)における文献検索過程(分担:阿部信一)」
平成12・13年度厚生科学研究費補助金医療技術評価総合研究事業『科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究』において、文献検索のうち特に外国文献の部分を担当したので、その経験について報告し、通常の検索との違いなど特徴についてまとめる。
3.「平成12年度厚生科学研究ガイドライン(12疾患)のまとめ(分担:野添)」
本研究では、平成12年度厚生科学研究費で行われたガイドライン策定に関する研究のうち、9疾患「高血圧、喘息、心筋梗塞、白内障、脳梗塞腰痛、胃潰瘍、クモ膜下出血、前立腺肥大症及び女性尿失禁」の報告書を対象として、情報の収集、評価を中心として分析を行った。
4.「臨床における情報サービスのケーススタディ(分担:裏田和夫・阿部信一)
わが国における臨床医の情報ニーズについては平成11年度の本研究班で全国調査が実施され、情報入手の現状や臨床医の満足度などについて実態が明らかになった。本研究では、慈恵医大糖尿病内科の医師(臨床3年目)を対象に、臨床現場での実際的な情報ニーズを調査し、今後の医学情報サービスのあり方について考察した。なお、調査対象の医師は、学内の臨床研究開発室が主催するEvidence-based Medicineの継続教育コースの登録者であり、疑問の定式化やその調査のための情報源については、平均以上の知識があると思われる。
5.「日本および米国における医療情報資源、情報機関、マンパワーの比較研究(分担:酒井由紀子、原直美、角家永、石川裕幸、裏田和夫、野添篤毅、磯野威)」
EBMにおける情報の流れに沿って、「つくる」で作成されるコンテンツ、「つたえる」ためのリソース、「つかう」際のツールや情報サービスの整備状況およびパフォーマンスを示す測度について、日米両国の既存の統計資料や関連文献から数値を抽出し、比較、分析した。また、便宜的に「米国の」は「北米」、「英語圏」あるいは世界の数値と比較した項目、「日本の」は本来「日本人に関する」であるべきところを「日本発」、「日本語による」とせざるを得なかった項目がある。また、数値的指標の得られない事項については、両国の違いを具体的に記述した。
6.「日本の3大心死因疾患を対象にした臨床ガイドライン文献の動向(分担:山崎茂明)」
今回の研究では、この医学領域の代表的なデータベースの地位を確立しているPubMedを対象に、日本人の3大死因である、心臓血管疾患、癌、中枢神経疾患といった代表的な疾患にしぼり、診療ガイドラインの発表状況を捉えることを目的とした。PubMedには、現在1000万レコードになろうとする文献レコードが蓄積されている。調査対象とした3大疾患は、心臓血管系疾患については「cardiovascular diseases」、癌については「neoplasms」、中枢神経疾患については「central nervous system diseases」を用いて検索した。なお、これらの主題を主要なキーワードとして持つ、「major topics」に限定している。診療ガイドラインは、出版タイプ(publication type)の「practice guideline」により、識別した。7.「診療支援モデルの開発に関する研究(分担:桐生康生)」
本研究では、診療支援システムを対象としてシステムのあり方を検討する。特に、医師が診療現場で診療支援システムを利用する場面を想定して検討する。さらに、インターネット上で診療支援システムを構築する上で重要な技術・規格に関して考察する。
(1)診療支援に関するユースケース分析:電子カルテなどにおいて医師が診療現場で診療支援システムを利用するユースケースを分析した。一医師の経験をもとに、医師が臨床現場において何を考えどのような診療行為を行っているかを診療支援の視点から類型化した。そして、どのような情報を必要としているかを考察した。分析にはUML(Unified Modeling Language)を用いた。
(2)インターネットを活用したシステムに関する検討:インターネット上でWebサービスを用いて診療支援システムを構築する場合の技術的な側面を検討した。特に、システムを構築する上で重要な技術・規格についてレビューを行った。
8.「わが国における根拠に基づく公衆衛生活動の方向性と方法論に関する研究(分担:曽根智史)」
本報告では、地方自治体での公衆衛生活動において、具体的な根拠をどのように同定し政策に結びつけていったらよいのかを明らかにすることを目的として、2つの自治体機関による保健計画策定のプロセスを分析した。対象は、1.静岡県北遠健康福祉センター(北遠保健所)が平成12年度に実施した「北遠圏域主要健康指標策定事業」および、2.横浜市旭区保健所が平成11-13年度に実施した「旭区保健計画策定推進事業」で、いずれも筆者は、スーパーバイザーとして参画した。それぞれの事業の概要と成果物を示した上で、共通点、相違点、優れた点、改善が必要な点を考察した上で、地方自治体での公衆衛生活動において、具体的な根拠をどのように同定し政策に結びつけていったらよいのかに関する提言を行う。
9.「健康に関する人文・社会科学における研究デザインとシステマティックレビュー(分担:津谷喜一郎)」
人文社会科学領域における多様な「介入」(intervention)を評価するための、ランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)を含む研究デザインの使用に関する議論の動向を明らかにする。方法は
(1) 社会科学領域におけるRCTの普及をめざすThe Campbell Collaborationについて、主にWeb上の情報の解析。
(2) 政府開発援助(Official Development Assistance: ODA)および国内公共投資事業の評価から始まった「日本評価学会」の学会報告などによる動向の分析。
を行う
10.「EBMを用いた医薬品の適正使用に関する研究 (分担:森川馨、檜山行雄)」
医薬品の使用の実態は日本において把握しづらい状況である。現在医薬品の適正使用の重要性が大きく取りあげらている状況の中で、日本の医療現場では未だにエビデンスが少なく、エビデンスが曖昧な客観性・普遍性に乏しい個人の限られた経験や直観で診断が行われている現状がある。医療現場での医薬品使用の現状を把握するために、本研究では薬剤の使用状況を調査し、医薬品使用に影響を与える治療法と社会的要因を把握して適正使用を考える。検討項目として片頭痛治療薬と抗生物質を挙げた。
11.「EBMのためのデータベースと連携したメタアナリシスのソフトウエアに関する調査研究と開発の試み(分担:丹後俊郎)」
本分担研究では、既存のメタアナリシスのソフトウエアの調査と、データベースとの整合性を考慮したメタ・アナリシスのための基本的な手法に関するソフトウエアの開発を試みる。
12.「EBMのためのデータベース構築におけるメタアナリシスの意義に関する研究(分担:緒方裕光)」
本研究では、EBMのためのデータベース構築を念頭に置き、実行的な面からメタアナリシスのプロセスに沿ってその問題点について検討した。
13.「EBMのためのデータベース・モデルの試み(分担:石井秀夫、磯野威、丹後俊郎)」
EBMのためのデータベース・モデルをコンピュータ・システム上に構築するための考察と一つのモデルの試作を行った。
1.「一般市民の健康医療情報ニーズの調査(分担:山口直比古)」
本研究では、昨年度の「患者および家族の情報需要調査」に引き続き、「一般市民への医学・医療情報需要調査」を行う。調査対象の抽出方法は層化多段無作為抽出とし、平成7年国勢調査時に設定された調査区を使用、個人の抽出は住民登録台帳により調査対象適格者を等間隔に系統抽出する。
2.「ガイドライン作成(白内障)における文献検索過程(分担:阿部信一)」
平成12・13年度厚生科学研究費補助金医療技術評価総合研究事業『科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究』において、文献検索のうち特に外国文献の部分を担当したので、その経験について報告し、通常の検索との違いなど特徴についてまとめる。
3.「平成12年度厚生科学研究ガイドライン(12疾患)のまとめ(分担:野添)」
本研究では、平成12年度厚生科学研究費で行われたガイドライン策定に関する研究のうち、9疾患「高血圧、喘息、心筋梗塞、白内障、脳梗塞腰痛、胃潰瘍、クモ膜下出血、前立腺肥大症及び女性尿失禁」の報告書を対象として、情報の収集、評価を中心として分析を行った。
4.「臨床における情報サービスのケーススタディ(分担:裏田和夫・阿部信一)
わが国における臨床医の情報ニーズについては平成11年度の本研究班で全国調査が実施され、情報入手の現状や臨床医の満足度などについて実態が明らかになった。本研究では、慈恵医大糖尿病内科の医師(臨床3年目)を対象に、臨床現場での実際的な情報ニーズを調査し、今後の医学情報サービスのあり方について考察した。なお、調査対象の医師は、学内の臨床研究開発室が主催するEvidence-based Medicineの継続教育コースの登録者であり、疑問の定式化やその調査のための情報源については、平均以上の知識があると思われる。
5.「日本および米国における医療情報資源、情報機関、マンパワーの比較研究(分担:酒井由紀子、原直美、角家永、石川裕幸、裏田和夫、野添篤毅、磯野威)」
EBMにおける情報の流れに沿って、「つくる」で作成されるコンテンツ、「つたえる」ためのリソース、「つかう」際のツールや情報サービスの整備状況およびパフォーマンスを示す測度について、日米両国の既存の統計資料や関連文献から数値を抽出し、比較、分析した。また、便宜的に「米国の」は「北米」、「英語圏」あるいは世界の数値と比較した項目、「日本の」は本来「日本人に関する」であるべきところを「日本発」、「日本語による」とせざるを得なかった項目がある。また、数値的指標の得られない事項については、両国の違いを具体的に記述した。
6.「日本の3大心死因疾患を対象にした臨床ガイドライン文献の動向(分担:山崎茂明)」
今回の研究では、この医学領域の代表的なデータベースの地位を確立しているPubMedを対象に、日本人の3大死因である、心臓血管疾患、癌、中枢神経疾患といった代表的な疾患にしぼり、診療ガイドラインの発表状況を捉えることを目的とした。PubMedには、現在1000万レコードになろうとする文献レコードが蓄積されている。調査対象とした3大疾患は、心臓血管系疾患については「cardiovascular diseases」、癌については「neoplasms」、中枢神経疾患については「central nervous system diseases」を用いて検索した。なお、これらの主題を主要なキーワードとして持つ、「major topics」に限定している。診療ガイドラインは、出版タイプ(publication type)の「practice guideline」により、識別した。7.「診療支援モデルの開発に関する研究(分担:桐生康生)」
本研究では、診療支援システムを対象としてシステムのあり方を検討する。特に、医師が診療現場で診療支援システムを利用する場面を想定して検討する。さらに、インターネット上で診療支援システムを構築する上で重要な技術・規格に関して考察する。
(1)診療支援に関するユースケース分析:電子カルテなどにおいて医師が診療現場で診療支援システムを利用するユースケースを分析した。一医師の経験をもとに、医師が臨床現場において何を考えどのような診療行為を行っているかを診療支援の視点から類型化した。そして、どのような情報を必要としているかを考察した。分析にはUML(Unified Modeling Language)を用いた。
(2)インターネットを活用したシステムに関する検討:インターネット上でWebサービスを用いて診療支援システムを構築する場合の技術的な側面を検討した。特に、システムを構築する上で重要な技術・規格についてレビューを行った。
8.「わが国における根拠に基づく公衆衛生活動の方向性と方法論に関する研究(分担:曽根智史)」
本報告では、地方自治体での公衆衛生活動において、具体的な根拠をどのように同定し政策に結びつけていったらよいのかを明らかにすることを目的として、2つの自治体機関による保健計画策定のプロセスを分析した。対象は、1.静岡県北遠健康福祉センター(北遠保健所)が平成12年度に実施した「北遠圏域主要健康指標策定事業」および、2.横浜市旭区保健所が平成11-13年度に実施した「旭区保健計画策定推進事業」で、いずれも筆者は、スーパーバイザーとして参画した。それぞれの事業の概要と成果物を示した上で、共通点、相違点、優れた点、改善が必要な点を考察した上で、地方自治体での公衆衛生活動において、具体的な根拠をどのように同定し政策に結びつけていったらよいのかに関する提言を行う。
9.「健康に関する人文・社会科学における研究デザインとシステマティックレビュー(分担:津谷喜一郎)」
人文社会科学領域における多様な「介入」(intervention)を評価するための、ランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)を含む研究デザインの使用に関する議論の動向を明らかにする。方法は
(1) 社会科学領域におけるRCTの普及をめざすThe Campbell Collaborationについて、主にWeb上の情報の解析。
(2) 政府開発援助(Official Development Assistance: ODA)および国内公共投資事業の評価から始まった「日本評価学会」の学会報告などによる動向の分析。
を行う
10.「EBMを用いた医薬品の適正使用に関する研究 (分担:森川馨、檜山行雄)」
医薬品の使用の実態は日本において把握しづらい状況である。現在医薬品の適正使用の重要性が大きく取りあげらている状況の中で、日本の医療現場では未だにエビデンスが少なく、エビデンスが曖昧な客観性・普遍性に乏しい個人の限られた経験や直観で診断が行われている現状がある。医療現場での医薬品使用の現状を把握するために、本研究では薬剤の使用状況を調査し、医薬品使用に影響を与える治療法と社会的要因を把握して適正使用を考える。検討項目として片頭痛治療薬と抗生物質を挙げた。
11.「EBMのためのデータベースと連携したメタアナリシスのソフトウエアに関する調査研究と開発の試み(分担:丹後俊郎)」
本分担研究では、既存のメタアナリシスのソフトウエアの調査と、データベースとの整合性を考慮したメタ・アナリシスのための基本的な手法に関するソフトウエアの開発を試みる。
12.「EBMのためのデータベース構築におけるメタアナリシスの意義に関する研究(分担:緒方裕光)」
本研究では、EBMのためのデータベース構築を念頭に置き、実行的な面からメタアナリシスのプロセスに沿ってその問題点について検討した。
13.「EBMのためのデータベース・モデルの試み(分担:石井秀夫、磯野威、丹後俊郎)」
EBMのためのデータベース・モデルをコンピュータ・システム上に構築するための考察と一つのモデルの試作を行った。
結果と考察
<分担研究1>調査結果から、国民の医療情報への関心は高く、それらの情報は主に医師からで、得られた情報への満足度に関しては3~4割が満足していた。また情報の入手手段として期待されているのは医師への相談がしやすくなることであり、情報提供機関としては患者のための情報センターが期待されている、などが明らかになった。
<分担研究2>
各研究者は検索方法についてあまり詳しくないため、検索結果の広げ方や絞り方などがあまり柔軟にはイメージできないこと、逆に、検索担当者がガイドラインの目的を理解していないと、ピントのずれた検索になってしまい、不要な時間を研究者に負担させる結果にもなることが確かめられた。
<分担研究3>
厚生労働省の支援している診療ガイドライン・プロジェクトについて、特に文献検索に焦点をあてて分析を行った結果、検索式について記述された報告書は少なく、検索された文献数は疾患によって15,000件から400件までと大きな差が認められ、検索過程と検索上の問題点が浮かびあがった。
<分担研究4>
東京慈恵会医科大学糖尿病内科病棟において、臨床医に対する情報サービスに関する調査および実験を行った。調査結果はほぼ予想の範囲で、外来での診療と比較して、長期入院患者や退院間近の患者の場合、回診中に発生する臨床上の疑問は少なかった。
<分担研究5>
日本ではEBMのエビデンスを「つくる」「つたえる」のための日本オリジナルのコンテンツ、リソース、ツールが乏しく、支援する情報サービスのネットワークの先導たる頂点がなく、最前線のサービス拠点も圧倒的に不足している、など判明した。
<分担研究6>
診療ガイドラインは、各疾患についての専門学会誌を中心に発表され、その他総合医学雑誌にも掲載されていた。心臓血管系の診療ガイドラインは癌領域のガイドラインよりも多数発表されており、中枢神経系疾患の2倍以上となっていた。発表言語からみると、日本語の発表数は少なく、診療ガイドライン全体に占める比率は0.3%でしかなかった。日本における、診療ガイドラインの取り組みの遅さが明らかとなった。
<分担研究7>
医師が診療現場での診療支援システムを検討した。特に、インターネットを利用してEBMデータを収集するシステムとしては、XML、SOAP、WSDL、UDDI、ebXMLを利用したWebシステムが望ましいという結論を得た。
<分担研究8>
地方自治体での公衆衛生活動において、具体的な根拠をどのように同定し活用したらよいかを明らかにすることを目的として、2つの自治体機関における保健計画策定のプロセスを分析した。両者とも地域における複数の統計資料や調査を活用して、所内外の意見を集約していく手法をとっており、根拠の重要性に対する認識は高いものと考えられた。しかし、具体的な根拠の質や選択方法については改善の余地があるものと考えられた。
<分担研究9>
医学生物学分野を中心として発達してきたランダム化比較試験(RCT)などの研究デザインの使用とその受容性に関する議論の、人文社会科学分野における現状を主にインターネット上の情報と文献情報に基づいて分析した。その結果、世界的にはこの領域においてRCT
の使用について、具体的な論議がされている一方、日本においてはまだほとんどなされて
おらず、RCTによる「実験的介入」のコンセプトの啓発が必要なことが明らかとなった。
<分担研究10>
片頭痛に関しては、日本と欧米には有病率等の共通点と受診経験や経済的損失評価等の
相違点、抗生物質に関しては、主要の選択薬剤および処方が国により大きく異なることが判明した。
<分担研究11>
代表的なメタアナリシスの手法の組み込みは容易に行われ、その実用性も十分であること、更なる手法の追加、拡張も容易であることが確認された。その主な要因は使用したソフトウエアS-PLUSの柔軟性にあるように思われた。
<分担研究12>
メタアナリシスを用いて複数の研究から数量的にデータを統合することにより、個々の研究では得られない情報を提供することが可能である。しかし、EBMにおいてメタアナリシスの結果を正しく解釈し、適切に利用するためには、臨床的あるいは医学生物学的な理論的見解との整合性をチェックすることが重要である。一般に統計的検定の結果は、従来の科学的知見と併せて解釈されるものであり、統計的解析のみで臨床的(医学生物学的)結論が出されるわけではない。言い換えれば、メタアナリシスは科学的根拠に関する様々な問題を解決する「魔法」の方法ではなく、あくまでも個々の臨床的研究や医学生物学的研究があってはじめて成立する方法論である。したがって、正確なメタアナリシスを行うためには、数多くの質の高い一次的研究が求められる。
<分担研究13>
EBMのためにシステム化する機能として以下の8点につき考察を行い、その試作モデルを作成した。
1.研究テーマ DB
2.リサーチ・クエスチョン DB
3.文献 DB
4.アブストラクト・フォーム DB
5.個人IDコード DB
6.雑誌コード DB
7.研究デザインコード DB
8.研究デザイン詳細コード DB
<分担研究2>
各研究者は検索方法についてあまり詳しくないため、検索結果の広げ方や絞り方などがあまり柔軟にはイメージできないこと、逆に、検索担当者がガイドラインの目的を理解していないと、ピントのずれた検索になってしまい、不要な時間を研究者に負担させる結果にもなることが確かめられた。
<分担研究3>
厚生労働省の支援している診療ガイドライン・プロジェクトについて、特に文献検索に焦点をあてて分析を行った結果、検索式について記述された報告書は少なく、検索された文献数は疾患によって15,000件から400件までと大きな差が認められ、検索過程と検索上の問題点が浮かびあがった。
<分担研究4>
東京慈恵会医科大学糖尿病内科病棟において、臨床医に対する情報サービスに関する調査および実験を行った。調査結果はほぼ予想の範囲で、外来での診療と比較して、長期入院患者や退院間近の患者の場合、回診中に発生する臨床上の疑問は少なかった。
<分担研究5>
日本ではEBMのエビデンスを「つくる」「つたえる」のための日本オリジナルのコンテンツ、リソース、ツールが乏しく、支援する情報サービスのネットワークの先導たる頂点がなく、最前線のサービス拠点も圧倒的に不足している、など判明した。
<分担研究6>
診療ガイドラインは、各疾患についての専門学会誌を中心に発表され、その他総合医学雑誌にも掲載されていた。心臓血管系の診療ガイドラインは癌領域のガイドラインよりも多数発表されており、中枢神経系疾患の2倍以上となっていた。発表言語からみると、日本語の発表数は少なく、診療ガイドライン全体に占める比率は0.3%でしかなかった。日本における、診療ガイドラインの取り組みの遅さが明らかとなった。
<分担研究7>
医師が診療現場での診療支援システムを検討した。特に、インターネットを利用してEBMデータを収集するシステムとしては、XML、SOAP、WSDL、UDDI、ebXMLを利用したWebシステムが望ましいという結論を得た。
<分担研究8>
地方自治体での公衆衛生活動において、具体的な根拠をどのように同定し活用したらよいかを明らかにすることを目的として、2つの自治体機関における保健計画策定のプロセスを分析した。両者とも地域における複数の統計資料や調査を活用して、所内外の意見を集約していく手法をとっており、根拠の重要性に対する認識は高いものと考えられた。しかし、具体的な根拠の質や選択方法については改善の余地があるものと考えられた。
<分担研究9>
医学生物学分野を中心として発達してきたランダム化比較試験(RCT)などの研究デザインの使用とその受容性に関する議論の、人文社会科学分野における現状を主にインターネット上の情報と文献情報に基づいて分析した。その結果、世界的にはこの領域においてRCT
の使用について、具体的な論議がされている一方、日本においてはまだほとんどなされて
おらず、RCTによる「実験的介入」のコンセプトの啓発が必要なことが明らかとなった。
<分担研究10>
片頭痛に関しては、日本と欧米には有病率等の共通点と受診経験や経済的損失評価等の
相違点、抗生物質に関しては、主要の選択薬剤および処方が国により大きく異なることが判明した。
<分担研究11>
代表的なメタアナリシスの手法の組み込みは容易に行われ、その実用性も十分であること、更なる手法の追加、拡張も容易であることが確認された。その主な要因は使用したソフトウエアS-PLUSの柔軟性にあるように思われた。
<分担研究12>
メタアナリシスを用いて複数の研究から数量的にデータを統合することにより、個々の研究では得られない情報を提供することが可能である。しかし、EBMにおいてメタアナリシスの結果を正しく解釈し、適切に利用するためには、臨床的あるいは医学生物学的な理論的見解との整合性をチェックすることが重要である。一般に統計的検定の結果は、従来の科学的知見と併せて解釈されるものであり、統計的解析のみで臨床的(医学生物学的)結論が出されるわけではない。言い換えれば、メタアナリシスは科学的根拠に関する様々な問題を解決する「魔法」の方法ではなく、あくまでも個々の臨床的研究や医学生物学的研究があってはじめて成立する方法論である。したがって、正確なメタアナリシスを行うためには、数多くの質の高い一次的研究が求められる。
<分担研究13>
EBMのためにシステム化する機能として以下の8点につき考察を行い、その試作モデルを作成した。
1.研究テーマ DB
2.リサーチ・クエスチョン DB
3.文献 DB
4.アブストラクト・フォーム DB
5.個人IDコード DB
6.雑誌コード DB
7.研究デザインコード DB
8.研究デザイン詳細コード DB
結論
EBMのための情報源の構築について、システマティックレビューをベースにエビデンスを抽出することが重要であるが、これまでの「ガイドラン作成」における文献検索の方法論が疾患毎に一貫していない問題点が明らかになった。この点は今後のガイドライン作成に徹底させる必要がある。臨床に限らず、健康に関する各種のエビデンスをつくる分野の一つとして、人文社会科学分野を調査したところ、世界的には1万を越すランダム化比較試験(RCT)が存在するが、日本においてはほぼ皆無であることが明らかになった。「実験的介入」をまず行い、それをさらに一般化する一連のプロセスは、パイロット研究とも称されるが、この介入にあたってRCTなる手法があることの日本における啓発が強く望まれる。
情報提供機能に関する調査研究から、EBMのエビデンスを「つくる」「つたえる」のための日本オリジナルのコンテンツ、リソース、ツールがまず日本に乏しいことが明らかになった。米国を中心とした欧米圏のリソースを代替的に「つかう」ことができるが、このリソースへのアクセスを支援する情報サービスは、頂点の国立医学図書館から最前線の病院図書室まで4,733の拠点を結んで提供している米国に対し、日本におけるネットワークは日本医学図書館協会の111館が中心と、拠点の数と組織的な活動が圧倒的に不足している。米国ではこのネットワークサービスの設立維持のために政策・経済的な支援も過去40年間に渡って手厚く行われている。また、先進の情報サービスを展開するためにはスタッフの数(米国の医学図書館は平均38名で日本の14名の2.7倍)のみならず、専門職の質を高める教育制度や研究開発が必須で、これらの事業を進める主導的な組織としても、米国では医学図書館協会(Medical Library Association: MLA)とNLMの存在が大きい。日本においても強力なリーダーシップのとれる職能集団の充実と、医学情報サービスの提供、研究開発の中心的機関として国立医学図書館等の機関の設立が急がれる。
EBMを実践していく上で必要な道具としてのデータベース・モデルの試作を現在試みている。昨年度「EBMの普及のためのシラバス作成と教育方法およびEBMの有効性評価に関する研究」(主任研究者、福井次矢)と共同で提案した「診療ガイドラインの作成の手順」のプロセスを念頭におき、かつ、システマティックレビューで収集された情報を統合するメタアナリシスとの連携を考慮にいれ、メタアナリシスの対象となる個々の研究成果(一次的情報)が統一的な方法で利用できること、メタアナリシスの結果が意思決定者(または利用者)に分かりやすい形で公表される、などの機能を含んだシステムが重要である。
情報提供機能に関する調査研究から、EBMのエビデンスを「つくる」「つたえる」のための日本オリジナルのコンテンツ、リソース、ツールがまず日本に乏しいことが明らかになった。米国を中心とした欧米圏のリソースを代替的に「つかう」ことができるが、このリソースへのアクセスを支援する情報サービスは、頂点の国立医学図書館から最前線の病院図書室まで4,733の拠点を結んで提供している米国に対し、日本におけるネットワークは日本医学図書館協会の111館が中心と、拠点の数と組織的な活動が圧倒的に不足している。米国ではこのネットワークサービスの設立維持のために政策・経済的な支援も過去40年間に渡って手厚く行われている。また、先進の情報サービスを展開するためにはスタッフの数(米国の医学図書館は平均38名で日本の14名の2.7倍)のみならず、専門職の質を高める教育制度や研究開発が必須で、これらの事業を進める主導的な組織としても、米国では医学図書館協会(Medical Library Association: MLA)とNLMの存在が大きい。日本においても強力なリーダーシップのとれる職能集団の充実と、医学情報サービスの提供、研究開発の中心的機関として国立医学図書館等の機関の設立が急がれる。
EBMを実践していく上で必要な道具としてのデータベース・モデルの試作を現在試みている。昨年度「EBMの普及のためのシラバス作成と教育方法およびEBMの有効性評価に関する研究」(主任研究者、福井次矢)と共同で提案した「診療ガイドラインの作成の手順」のプロセスを念頭におき、かつ、システマティックレビューで収集された情報を統合するメタアナリシスとの連携を考慮にいれ、メタアナリシスの対象となる個々の研究成果(一次的情報)が統一的な方法で利用できること、メタアナリシスの結果が意思決定者(または利用者)に分かりやすい形で公表される、などの機能を含んだシステムが重要である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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