調剤業務の適正な運営及び管理のために必要な薬剤師数等に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000839A
報告書区分
総括
研究課題名
調剤業務の適正な運営及び管理のために必要な薬剤師数等に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
漆畑 稔(日本薬剤師会)
研究分担者(所属機関)
  • 中村健(日本大学薬学部)
  • 内山充(日本薬剤師研修センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
9,925,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の医薬分業は,平成12年度末の推計では保険処方せんの発行枚数は5億枚を超え,今後さらに増加が見込まれている。この医薬分業の急速な増加は,処方内容の確認や服薬指導業務の強化など,薬局・薬剤師業務の質の向上を強く求めるとともに,一方,病院においては薬剤師の病棟業務の進出・充実に繋がり,いずれも薬物治療におけるリスクマネージメントをはじめとする薬剤使用の適正化に大きく関わっている。このような薬剤師業務の質的・量的な大幅な変化は,薬事法,医療法における員数規制及び健康保険法における調剤報酬・指導管理料の算定にも大きく関わってきている。しかしながら,現行医療法の病院薬剤師の員数規定,薬事法の薬局薬剤師の員数規定及び診療報酬・調剤報酬点数表の調剤関連業務の算定点数は,以上述べた近年の薬剤師業務の質的変化に伴う必要労働量の変化とのバランスが欠けており,見直しが求められている。本研究は,これらの問題を明らかにするため,保険薬局及び保険医療機関における薬剤師が行う調剤業務・病棟業務の内容について,その業務所要時間を測定・解析し,関連法令に伴う各種規制の改定のための基盤的資料の収集を目的として実施した。
研究方法
本調査研究は,保険薬局及び保険医療機関を調査客体として薬剤師の業務内容を実測・分析したケーススタディ調査である。調査は,ストップウォッチ方式又はワークサンプリング方式により,薬剤師の「全業務所要時間の構成比率」及び「処方せん1枚当たりの調剤所要時間」を実測し,(1)全業務時間に占める業務内容別・所要時間の構成比率,(2)処方せん1枚当たり所要時間とその業務内容別構成比率,(3)処方内容と業務所要時間との関連,(4)入院患者に係る業務内容とその所要時間,に関する事項の実測結果について分析・評価を行った。
結果と考察
(1)薬局における業務内容別所要時間の構成比率は,薬局の環境,処方内容によって大きく左右されるので,単純に平均値をもって論じられないが,調査した3薬局の平均値による業務内容別の構成比率は,図1に示すように調剤業務は約44.3%,管理業務45.6%,販売その他10.1%であった。しかしながら,この構成比率も薬局の環境によって大きく異なり,単純に平均値をもって論ずることの難しさを裏付けた。すなわち,調剤業務の構成比率を1つ取っても,その値は31.7%~50.4%とばらつきを示した。(2)実測した3薬局における処方せん1枚あたりの調剤所要時間は,平均では12.2分であった。しかし,この値は医薬品の購入・補充等の管理業務に要する時間を含めた時間である。従って,薬剤の調剤業務時間と服薬指導業務時間に限定して再集計すると,表1に示すようにその値はそれぞれ4.0分と2.4分で,これを併せた6.4分が管理業務を除いた調剤所要時間であった。しかしながら,この値もあくまで3薬局の平均値であり,それぞれの薬局の環境(立地条件及び医療環境)によって処方内容が異なることから,各薬局におけるこの調剤所要時間の平均値もそれぞれ5.3分,5.9分,9.4分の値を示し,大きく異なった。但し,処方内容が近似する場合の調剤時間は,各薬局とも概ねその値は近似する結果であった。(3)薬局において薬剤師が行う調剤業務に係る業務所要時間は,薬局の地域環境及び患者の受診環境等によって,調剤する処方せんの処方内容が大きく異なるため,その処方内容によって調剤所要時間は大きく異なった。本調査研究は,この処方内容の環境の違いを4つの区分に分けて,調剤所要時間との関連を分析した。処方せん1枚中に処方された剤数と平均所要時間との関係については,剤数の増加とともに,所要時間は一定の傾向をもって増大することが示された。所
要時間については,8銘柄の例外値を除き,6~7銘柄の前と後である程度の差は生じてはいるが,その前後の各所要時間には,あまり大きな差は生じておらず,一見,最も関連がありそうに思えわれる処方銘柄数の増加は所要時間にはあまり影響していないことが示された。調剤方法の違い,すなわち計数調剤,計量混合調剤またはそれらの一包化調剤(ワンドーズ調剤)と調剤所要時間との関係については,調剤技術上,計数調剤,計量混合調剤及び一包化調剤(ワンドーズパッケージ調剤)の間には,調剤所要時間に大きな差がある。特に,一包化調剤に係る所要時間は極端に長い。これらは処方せん発行医療機関の患者の種類,医師の処方方針によって左右され,とりわけ老人患者処方の多少が大きく関与している。(4)我が国で初めてのワークサンプリング方式による他計調査によって,病院薬剤師の業務内容別・所要時間調査を,原則処方せん発行病院(以下「分業病院」)と原則院内調剤病院(以下「非分業病院」)の相異なる経営形態の病院についてケーススタディ調査を実施した結果,1)分業病院における薬剤師の勤務所要時間は,調剤室を起点とする業務に約73%,病棟を起点とする業務に約27%を費やしていることが,ケーススタディではあるが明らかとされた。また,いわゆる病棟業務といわれる薬剤師の業務内容の実態も計量的に明らかにされた。2)非分業病院における薬剤師の勤務所要時間は,外来調剤に多大な時間が費やされることから,病棟を起点とする業務に費やされる時間は約6%と極めて少なく,約94%までが調剤室を起点とする業務であることが,ケーススタディではあるが明らかとされた。3)処方せん1枚当たりの平均調剤所要時間,外来分調剤,院内患者分調剤,注射薬調剤及び病棟指導1回当たり所要時間は,非分業病院と分業病院の間では平均値に若干の差があった。これらの差については,労働環境によるものなのか,それとも内容の質的違いによるものなのかについて,今後更に検討する必要がある。また,前項で述べた保険薬局における処方せん1枚当たりの調剤所要時間と病院における処方せん1枚当たり調剤所要時間との間には,大きな差はないことが裏付けられた。
結論
本調査研究によって得られた結果から,次のことの重要性が改めて認識された。これらの成果は,薬事法における薬局・薬剤師の員数の改定及び医療法で規定する病院薬剤師の配置数の改定に際しての参考資料として多用できると考える。また,健康保険法に基づく診療報酬・調剤報酬の改定においても有用な資料として供しうると考える。(1)統計的平均値のみをもって算出した薬剤師員数は,労働力の実態,経営管理費の実態とはそぐわない値を生ずる懸念があり,必要員数の算出にあたっては,複数の条件を組み合わせた算出が必要である(薬局の管理に要する薬剤師の員数は,薬局所在地の地理的環境,地域の社会貢献の要請の度合い,また,処方せんの処方内容によって調剤所要実務時間は著しく異なるので,これらの条件設定も必要である。従って,実態調査結果から得られた統計的平均数値の活用には十分な配慮が必要である)。(2)調剤実務時間や管理関係の所要時間は,時代の変化に伴う医療水準の変化等の時代的背景により変化するため,時々の見直しが必要である(必要労働力に対応したファーマシーフィー,メンタルフィー,ワーキングフィーの配分比率に留意すべきである。特に,医療水準の変化による構成比率の変化にも配慮する必要がある)。(3)ワークサンプリング方式による有用性の認識(わが国での病院薬剤師の業務実態調査に初めて適用したワークサンプリング方式の実測の成果は,今後の同種調査に多用できることが実証された)。

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