特定疾患対策の地域支援ネットワークの構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000658A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患対策の地域支援ネットワークの構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
木村 格(国立療養所山形病院)
研究分担者(所属機関)
  • 田代邦雄(北海道大学医学部)
  • 島功二(国立療養所札幌南病院)
  • 糸山泰人(東北大学医学部)
  • 望月廣(国立療養所宮城病院)
  • 加藤丈夫(山形大学医学部)
  • 佐藤猛(国立精神神経センター国府台病院)
  • 平井俊策(東京都立神経病院)
  • 長谷川一子(国立相模原ALS病院)
  • 吉野英(国立精神神経センター国府台病院)
  • 今井尚志(国立療養所千葉東病院)
  • 中島孝(国立療養所犀潟病院)
  • 祖父江元(名古屋大学医学部)
  • 神野進(国立療養所刀根山病院)
  • 葛原茂樹(三重大学医学部)
  • 高橋桂一(国立療養所兵庫中央病院)
  • 中村重信(広島大学医学部)
  • 阿部康二(岡山大学医学部)
  • 難波玲子(国立療養所南岡山病院)
  • 畑中良夫(国立療養所高松病院)
  • 吉良潤一(九州大学医学部)
  • 渋谷統壽(国立療養所川棚病院)
  • 福永秀敏(国立療養所南九州病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特定疾患の中でも最も専門医療の頻繁な介在が必要であり、毎日の生活の中で長時間の介護支援を要する筋萎縮性側策硬化症など重症神経難病疾患をモデル対象にして専門医療の効率的な提供と地域支援ネットワークのありかたについて各都道府県でモデル的な事業を実践し、その試行過程に生ずる法制度上の、医療経済上の、システム上の問題について明かにし、解決の具体策を提言する。さらに本研究班が提示するあるべき難病医療体制や地域毎に構築する支援ネットワーク・システムについては、これを実際に利用する患者・家族からの正直な検証を得て、それを本研究事業の方向の決定にフィードバックする。
研究方法
分担研究者には地域特殊性を考慮し、北海道、東北、関東、中部、近畿、四国、中国、九州と全国を網羅した各地域から、専門医を派遣する大学研究者と地域で実績のある国立療養所などの専門機関研究者をひとつのグループとして指名する。さらに実際にモデル事業を推進する上で指導、協力を得る都道府県の協力によって本研究を遂行する。分担研究者は、それぞれ所属する都道府県難病医療のキーパーソンとして、率先して医療ネットワークの構築と地域支援体制の整備推進を指導する。実践する過程での問題解決するための具体的な方法を研究し、公表する。
結果と考察
主な研究成果は、①全国的な支援ネットワークの構築、②首都圏、大阪など大都会での支援ネットワーク構築、③地域特殊性を考慮した都道府県での地域支援ネットワークの構築、④難病患者の「生活の質の向上」のための地域支援ネットワーク構築の4項目にまとめられる。
①全国的な支援ネットワークの構築
「重症難病患者入院施設確保事業」の進捗状況を調査。難病連絡協議会設置及び拠点病院・協力病院と難病医療ネットワーク構築は70%で実施か実施予定、難病専門員配置と相談窓口事業はそれぞれ25、50%。全都道府県で達成するためには行政と医療の連絡調整をするキーパーソン、本研究班からの働きかけが重要。ALS全国医療情報ネットワークは都道府県代表病院(責任者)86、協力病院264、合計350の専門機関名をインターネット上で公表し、患者からのアクセス数も増加している。参加病院にシステム検証に関する調査を実施した。
②首都圏、大阪など大都会での支援ネットワーク構築:一元的なネットワーク化が困難な東京都などでも難病医療連絡協議会が設置され、複数の大学と基幹病院間の連携が改善し、地域病院の役割分担を明示された。大阪では18中核機関、36専門機関、大阪府・政令3市の難病主管課、全保健所を包括する大阪府神経難病医療推進協議会が活動。愛知県では13基幹病院、162一般病院、101老人施設で神経難病患者実態調査を実施し、難病の医療サービス体制のためには、老人保健施設を含めたネットワーク構築と、専任の調整者の必要性を提言した。大都会の一般病院においても専門医の不足、地域分布の不均衡が指摘された。神経内科など専門医が勤務することによって、神経難病が早期に、的確に診断、適正な治療が受けられることが検証された。
③地域特殊性を考慮した都道府県での地域支援ネットワークの構築:北海道では神経難病(ALS)ネットワーク会議を定期的に開催、参加の専門医メーリングリストなどネットワーク・システムを構築した。他の関連する財団基金と連携し、システムを一体化した。兵庫・岡山・広島を含む山陽難病ネットワーク事業では、市民啓蒙パンフレットを作成、講演会を開催。難病相談からは専門医や専門施設の不足、情報の不足、将来に対する不安が指摘。疫学調査では患者と専門医の分布での不均衡が指摘。在宅療養の困難な難病患者には身体障害者福祉ホームあるいはグループホームの可能性を検討。福岡県における難病専門員の活動実績から難病専門員の役割について実証した。難病入院施設の確保が困難な都道府県ほど入院調整としての役割が重要になる。
④難病患者の「生活の質の向上」のための地域支援ネットワーク構築:長期療養の新しい選択肢として、在宅と専門病院入院の長所を併せ持ち患者家族を主体に経営する共同居宅事業(神経難病ケアハウス)のモデル事業を実施し、県、患者及び患者支援団体と国立療養所山形病院を構成委員に恒常的な検討会を組織、具体的な企画、全国的な調査、実施するために必要な法的・経済的条件について指摘。人工呼吸器を装着した在宅療養中の重度神経難病患者を対象に介護保険制度の認知度・利用状況・問題点、患者サイドからのニーズと満足度を調査した。介護保険導入によって訪問介護、訪問入浴サービスなどの利用しやすくなっているが、ケアマネージャーの資質不足、短期・長期の入院受け入れの問題が明らかになった。全身性障害者介護人制度は全国的にまだ限られた市町村にしか適応していないが、介護保険適応のヘルパー派遣制度に比べて生活者が自ら介護人を選べること、時間単価が低いためにより長時間の介護サービスが受けられる点が優れていた。介護保険での介護給付率の割引、単価の引き下げ、単価の大部分をヘルパーに還元することなどが求められた。長期人工呼吸器管理での事故、合併症の発生について調査、安全で快適な長期人工呼吸器管理について提言した。専門医や専門医療機関によって異なる難病の診断それに伴うインフォームドコンセント、説明方法・治療やリハビリテーション・生活指導についてのガイドラインを日本神経学会、厚生科学研究「今井」班、精神神経疾患委託研究「湯浅」班と連携して作成し、それを公表・実践することよっての利点と問題について検討する準備を整えた。
結論
分担研究者の指導力によって各都道府県の特殊性を考慮した専門医療ネットワークが構築され、その成果が集積されている。なお首都圏などいくつかの都道府県では必要な入院施設が確保できず、在宅療養への専門医療提供が不充分である。在宅と入院療養を含めた長期療養の場として、今後多種類の選択肢が準備される。それぞれの利点と限界を検証し、患者・家族が自ら選択できるシステム構築が必要である。

公開日・更新日

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