厚生統計を用いた健康寿命等の総合指標の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000102A
報告書区分
総括
研究課題名
厚生統計を用いた健康寿命等の総合指標の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 健文(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働省の国民生活基礎調査は、約28万世帯・約78万人を対象として3年ごとに大規模調査が実施されており、この中の健康票では、自覚症状や日常生活への影響などについて詳細な調査がなされている。しかしながら、近年注目されている健康指標である質調整余命(Quality-Adjusted Life Expectancy, QALE)を算出するためのQOLスコアを直接得ることはできない。一方、近年開発された日本語版EQ-5Dは、死亡を0、完全な健康を1とする間隔尺度のQOLスコアを算出することができる質問票であり、本スコアを質調整余命の推計に用いることができる。そこで本研究は、国民生活基礎調査と日本語版EQ-5Dの同時調査を実施し、両者の回答の関係を解析することにより、平成10年国民生活基礎調査健康票の結果から全国規模での質調整余命を算出することを目的とした。また、EQ-5Dと同様に質調整余命の算出に利用可能と考えられるHUI(Health Utilities Index)についても検討を行う。
研究方法
1999年9月、秋田県大森町在住の満20歳以上の男女(男性3116名、女性3560名)を対象に、日本語版EQ-5D、平成10年国民生活基礎調査健康票からの抜粋、飲酒・喫煙に関する質問を調査した。EQ-5Dの5項目法ならびに視覚評価法の回答と平成10年国民生活基礎調査健康票の回答の関係は、樹形モデルにより解析を行った。本年度は平成10年国民生活基礎調査健康票のデータを目的外使用許可を得て使用し、昨年度研究で作成された樹形モデルによって、都道府県別・性年齢別HRQOL推計値を算出した。さらにHRQOL推計値と平成7年都道府県別生命表を用い、QALEを推計した。また大森町のデータを使用して、樹形モデルに引き続き重回帰分析によって国民生活基礎調査健康票の回答結果からHRQOLの推計を試みた。併行して大森町のQOLスコア回答者の中で基本健康診査データが得られた370例について両者の関連を検討した。さらにEQ-5Dと異なるQOL調査法であるHUIについても検討を行い、EQ-5D、HUI及び国民生活基礎調査健康票の関係を明らかにするため、医療機関外来受診者を対象とする調査を実施している。
結果と考察
1.質調整余命推計の試み-全国47都道府県別分析
男性の0歳平均余命の最長都道府県は長野県(78.08年)、福井県(77.51)、熊本県(77.31)の順である。これが、0歳QALEになると、最長は長野県(72.48)、沖縄県(71.97)、福井県(71.86)の順番に変わる。65歳平均余命の最長都道府県は沖縄県(17.97)、長野県(17.50)、熊本県(17.40)の順であるが、これはQALEになっても順番に変化はない。QALE/LE(0歳時)の最高値は、茨城県の93.4%で、以下、栃木県の93.3%、沖縄県の93.2%と続く。一方、最低値は奈良県の92.3%と、最高の茨城県とは1.1%の差しかない。QALE/LE(65歳時)の最高値は、同じく茨城県の86.4%である。最低値は佐賀県の83.6%と、2.8%の差がある。女性では、0歳平均余命の最長都道府県は沖縄県(85.08)、熊本県(84.39)、島根県(84.03)の順であるが、0歳QALEの最長は沖縄県(78.38)、熊本県(77.34)、富山県(77.02)と、3番目の県だけが変わる。65歳平均余命の最長都道府県は沖縄県(23.40)、熊本県(22.38)、島根県(22.11)の順であるが、これは男性同様、QALEになっても順番に変化はない。QALE/LE(0歳時)の最高値は、茨城県の92.5%で、以下、栃木県の92.3%、群馬県の92.2%と続く。一方、最低値は大阪府の91.2%と、最高の茨城県とは1.4%の差
である。QALE/LE(65歳時)の最高値は、栃木県の85.3%である。最低値は愛媛県の82.7%と、2.6%の差がある。QALE/LEは全般的に女性より、男性が高い。これは、池田ら(1999)やKai et.al(1991)で示された結果と同様である。
2.国民生活基礎調査データを用いた健康関連QOL推計の試み-重回帰分析による推計
EQ-5DのタリフQOLとVASの回答を目的変数とし、平成10年国民生活基礎調査健康票の回答を説明変数として、重回帰分析による解析を行った。重回帰分析の説明力は、分析方法により異なるが、高いもので0.57程度と比較的良好であった。
3.基本健康診査結果とQOLスコアの比較検討
大森町のQOLスコアと基本健康診査データがマッチングできた370例を基本健康診査の判定区分ごとにタリフスコアを比較すると、有意差が認められたのは、問診、肝機能、貧血の各項目であった。同様にVASスコアを比較すると、総括判定、問診、診察の各項目で有意差が認められた。
4.地域サンプル集団におけるHUI3、EQ-5Dおよび国民生活基礎調査健康票項目同時測定現在調査実施中であり来年度研究において結果を解析する予定である。
結論
本年度は平成10年国民生活基礎調査健康票の目的外使用許可を得て、その結果と平成11年度の解析結果とを用いて都道府県別QALEの算出を行った。このことにより初めてわが国の全国レベルの質調整健康寿命を提示できたと考える。平成13年度は本推計値の妥当性の検討を行うと共に、平成12年度までに作成したさまざまな換算方法を用いて結果の信頼性を高めていきたい。平均余命に加えて生活の質や障害度を考慮することにより、都道府県別の住民の健康状況の評価に新たな視点を加えることができる。本研究結果は健康政策立案において重要なデータとなりうると考えられる。

公開日・更新日

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