文献情報
文献番号
201926018A
報告書区分
総括
研究課題名
インシリコ予測技術の高度化・実用化に基づく化学物質のヒト健康リスクの評価ストラテジーの開発
課題番号
H30-化学-指定-005
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
山田 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
- 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部 )
- 笠松 俊夫(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部 )
- 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部 )
- 石田 誠一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 薬理部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
27,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、数万種に及ぶ既存化学物質のヒト健康リスクを効率的に評価するために、in silico手法の高度化と実用化に基づく評価のストラテジーを開発する。遺伝毒性に関しては、Ames QSARモデルのさらなる予測性の向上のために、安衛法により実施されたAmes変異原性データからトレーニングベンチマークデータセットの整備を行い、実際に運用可能なAmes変異原性QSAR予測のスキームの確立を行う。さらに、in vitro/in vivoの代謝の相違を反映した代謝予測シミュレータを開発し、Mode of Actionに基づくin vivo遺伝毒性の予測性の向上を目指す。反復投与毒性に関しては、国内外の毒性データを一元化した毒性データベース(DB)を構築してカテゴリーの拡大・精緻化を図ると共に、体内動態やAOP等の情報を統合した予測モデルの高度化を進め、OECDにおける統合的アプローチ(IATA)の国際的な調和の動向を取り入れた評価ストラテジーを開発する。
研究方法
Ames QSARでは、安衛法Ames試験DBを再評価し、詳細化と精緻化を行った。さらに同DBに含まれる再評価未実施の陰性化合物の再評価も開始した。In vivo遺伝毒性予測性の向上のために、in vitro陰性でin vivo陽性物質について代謝に関する文献データを収集・解析し、代謝予測に速度論的因子を導入したモデルの構築を開始した。反復投与毒性については、DBを活用して専門家レビューにより神経毒性物質を選抜し、毒性機序に関する情報および類似物質の情報の収集と解析を行った。さらに生殖発生毒性データをDB化するとともにデータマイニングを行い、AOPの構築を試みた。体内動態予測について化学物質の分配係数、代謝パラメータ既報値等から成るDBを構築し、推計パラメータによるPBPKモデルでトキシコキネティクス(TK)を推定した。
結果と考察
遺伝毒性のうち、Ames/QSAR予測性の向上については、構築した12,140物質より成るAmes DBに詳細な試験条件を追加入力すると共に、一部の試験結果の再評価を行い、より信頼性が高く、情報量の多いベンチマークDBを完成させた。これは、第2回Ames/QSAR国際共同チャレンジプロジェクトに活用される。In vivo遺伝毒性予測性の向上については、in vitro陰性でin vivo陽性の計16物質についてin vitro/in vivoの代謝の差異の要因を検証したところ、主な要因として、1)代謝酵素の発現、2)試験における暴露時間、が挙げられた。これらの知見を活用して代謝シミュレーションシステムTIMESの改良に取り組んだ。反復投与毒性については、DBから選抜した神経毒性物質を、化学構造、毒性機序に基づいてグループ化した。類似物質の情報を解析してカテゴリーの領域を定義し、OECD QSAR Toolboxに実装することにより、神経毒性を予測評価するカテゴリーアプローチの基盤を構築した。さらに、生殖発生毒性について新たなDBを作成した。得られた毒性学的関心領域と関連する構造クラスのうち、ニトロ芳香族化合物についてAOPの構築に成功した。体内動態予測では、200超の化学物質の分配係数と代謝パラメータ既報値のDBを完成させた。分子間相互作用と代謝酵素によりカテゴリー化した分配係数と代謝パラメータの代表値を設定し、PBPKモデルでTKを推定した結果、カテゴリーごとのTKの特徴把握にモデルが有用であることが示された。
結論
遺伝毒性については、Ames QSARモデルのさらなる予測性の向上を目指し、詳細データからなるベンチマークデータセットの開発を進めている。また、令和2年度からは新規の国際チャレンジプロジェクトを開始する。In vivo遺伝毒性予測性の向上へ向けてin vitro陰性・in vivo陽性の差異を説明できる代謝情報を収集して代謝マップを作成しその解析から得られた知見を基に速度論的因子を導入した遺伝毒性予測モデルの改良を図った。反復投与毒性については、神経毒性を対象に化学構造、毒性機序に基づいてグループ化して、神経毒性を予測評価するカテゴリーアプローチの基盤を構築した。生殖発生毒性について新たなDBを作成し、関連するキーイベント候補を抽出して、そのうちひとつについてAOPを開発することに成功し、このアプローチの妥当性を検証することができた。体内動態予測システムの基盤整備では、PBPKモデルで使用される分配係数と代謝パラメータ値の解析より、カテゴリーに分類された物質群毎に各パラメータの推計や代表値が導出できると考えられた。以上のことから本研究は順調に推移している。
公開日・更新日
公開日
2020-12-14
更新日
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