文献情報
文献番号
201926005A
報告書区分
総括
研究課題名
シックハウス(室内空気汚染)対策に関する研究—「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」が新たに指摘した室内汚染化学物質の、ヒトばく露濃度におけるハザード評価研究—
課題番号
H29-化学-一般-005
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
研究分担者(所属機関)
- 種村 健太郎(東北大学大学院農学研究科 動物生殖科学分野)
- 菅野 純(独立行政法人 労働者健康安全機構 日本バイオアッセイ研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
16,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
人のシックハウス症候群(SH)の原因物質として、平成14年「厚生労働省シックハウス問題に関する検討会」により13物質が、守るべき指針値と共に掲げられた。この指針値と、通常実施する吸入毒性試験で得られる無毒性量(病理組織学的な病変に基づく)を比較すると、両者には概ね1,000倍程度の乖離があることから、SHに関して毒性試験情報を人へ外挿することの困難さが行政施策上、問題とされてきた。これに対応すべく、先行研究にてガス体11物質を指針値レベルでマウスに7日間吸入ばく露し、肺、肝の遺伝子発現変動を高精度に測定し、そのプロファイルを分析した(Percellome法)。うち、構造骨格の異なる3物質について、海馬の遺伝子発現変動、及び、情動認知行動を観測した。その結果、3物質が共通して神経活動の抑制を示唆する変動を誘発すること、及び、それを裏付ける情動認知行動の異常が確認され、その分子機序に関わる共通因子が推定された。
本研究は第20回「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」(平成28年)が掲げた物質の中で高濃度・高頻度で検出された3物質、2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(TPM)及び2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート(TPD)に対し、上記評価系を適用し、①低濃度吸入時の、肺、肝、海馬の遺伝子発現データを取得、解析し、②情動認知行動解析と神経科学的所見による中枢影響、及び、③肺、肝、海馬の毒性連関性を確認する。更に、先に解析した11物質との異同(ハザード同定・予測)及び、用量相関性を検討し、この3物質がSHの誘因となるか否かの質的情報、及び、濃度指針値の適切な設定に利用可能な量的情報を得られるかを検討する。更に、Percellomeデータベースに登録された約150の化学物質との照合により、ハザード同定・予測の範囲と精度を確保する。
本研究は第20回「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」(平成28年)が掲げた物質の中で高濃度・高頻度で検出された3物質、2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(TPM)及び2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート(TPD)に対し、上記評価系を適用し、①低濃度吸入時の、肺、肝、海馬の遺伝子発現データを取得、解析し、②情動認知行動解析と神経科学的所見による中枢影響、及び、③肺、肝、海馬の毒性連関性を確認する。更に、先に解析した11物質との異同(ハザード同定・予測)及び、用量相関性を検討し、この3物質がSHの誘因となるか否かの質的情報、及び、濃度指針値の適切な設定に利用可能な量的情報を得られるかを検討する。更に、Percellomeデータベースに登録された約150の化学物質との照合により、ハザード同定・予測の範囲と精度を確保する。
研究方法
第20回「検討会」が掲げた物質の中で高濃度・高頻度で検出された3物質を主対象に、1) SHレベルでの、トキシコゲノミクスのための22時間/日×7日間反復(4用量、16群構成、各群3匹)、及び情動認知行動解析の為の22時間/日×7日間反復(2用量、回復群設定あり、6群構成、各群8匹)のマウス吸入ばく露の実施、2)経時的に採取した脳・肺・肝サンプルについての網羅的遺伝子発現解析、多臓器連関及びインフォマティクス解析、及び3) 吸入ばく露影響の情動認知行動解析と神経科学的物証の収集、以上3部から成る、人への外挿性を考慮した高精度な解析を行う。
結果と考察
平成31年度は予定通り、TPD(指針値(案):8.5 ppb)について、目標通りにSHレベル(0、0、8.5、27、85 ppb)での22時間/日×7日間反復吸入ばく露を実施し、経時的に採取した海馬、肺、肝サンプルについて、我々が開発したPercellome手法(遺伝子発現値の絶対化手法)を適用し、網羅的に遺伝子発現変動を解析した結果、成熟期マウス海馬において、神経活動の指標となるImmediate early gene (IEG)の発現の抑制が、指針値(案)レベルの濃度から、先行研究でばく露したSH化学物質と比較し、有意ではあるが弱く観測されたが、この物質についても海馬神経活動の抑制を示唆する所見が得られた。この抑制は、ばく露終了24時間後でも回復が遅れた。この海馬に対する影響の有害性を実証するため、成熟期マウスに、指針値(案)の10倍濃度のTPDを反復吸入ばく露(7日間)し情動認知行動実験を実施した結果、情動認知行動異常は認められなかったが、この理由として、TPDの場合、成熟期マウス海馬において神経活動の指標となるIEGの発現抑制の程度が弱いためである事が考えられた。
結論
本研究成果により、TPDがSHの誘因となるか否かの質的情報、及び、濃度指針値の適切な設定に利用可能な量的情報を示唆するものと考えられる。
本法は、短期、小規模試験に遺伝子発現解析を組み合わせ、既に構築したデータベースとの照合により格段に高いスループット性を発揮するものであり、シックハウス対策に寄与することが期待される。
本法は、短期、小規模試験に遺伝子発現解析を組み合わせ、既に構築したデータベースとの照合により格段に高いスループット性を発揮するものであり、シックハウス対策に寄与することが期待される。
公開日・更新日
公開日
2020-12-14
更新日
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