文献情報
文献番号
201926001A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の有害性評価の迅速化・高度化・標準化に関する研究
課題番号
H29-化学-一般-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
鰐渕 英機(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 塚本 徹哉(藤田医科大学 医学部)
- 魏 民(大阪市立大学 大学院医学研究科)
- 横平 政直(香川大学 医学部)
- 豊田 武士(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
- 鈴木 周五(大阪市立大学 大学院医学研究科)
- 戸塚 ゆ加里(国立がん研究センター研究所 発がん・予防研究分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
18,740,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
生活環境を取り巻く化学物質の発がん性を迅速に、かつ高精度に検証できるシステムの確立は、社会的にも経済的にも非常に重要であり、システムで得られた結果は国民生活の安全・安心を保証する重要な基盤となる。本研究では化学物質の発がん性評価の迅速化・高精度化・標準化を目的に、これまでの研究で蓄積してきたで病理組織発がんマーカー及び試験法をより一層発展・高精度化し、高精度発がん評価モデルとして確立する。さらに国際的に認知させる必要があるため、それらの発がん性評価法のOECDテストガイドライン化を目指すことが重要である。そこで、本申請研究においては、OECDテストガイドライン化の成立を最終目的として、6研究施設による協同体制にて下記に記す三つの研究を実施する。第一に、膀胱を標的とする発がん物質を用いた28日間反復投与試験を実施し、病理組織発がんマーカーを用いた膀胱発がんリスク評価法を確立する。第二に、これまで開発した遺伝子セットを用いた遺伝毒性肝発がん物質短期検出モデルの有用性をより一層検証し、確立する。第三に、上記の試料を用いてDNA付加体を網羅的に解析しカタログ化する方法(アダクトーム解析)による化学物質のDNA損傷を指標とした遺伝毒性評価法を開発する。
研究方法
γ-H2AXを用いた短期膀胱発がんリスク評価法では、膀胱発がん物質2種、非膀胱発がん物質8種について、ラットを用いた28日間反復経口投与試験を実施し、膀胱粘膜上皮におけるγ-H2AX形成を免疫組織化学的に検討した。また、用量相関性の検討として、遺伝毒性膀胱発がん物質N-butyl-N-(4-hydroxybutyl)nitrosamineまたは非遺伝毒性膀胱発がん物質メラミンについて複数用量による検討を行った。遺伝毒性肝発がん物質短期検出モデルの有用性の検証では、前年度までに偽陰性となった6種の遺伝毒性肝発がん物質について、投与用量を上げてラット単回投与を行い、投与24時間後の肝臓におけるマーカー遺伝子(10遺伝子)の発現データをqPCRで取得し、我々が構築した遺伝毒性肝発がん物質検出モデルを用いて肝発がん性を予測した。また、肝臓からDNAを抽出・消化後にLC-TOF MS に供しDNA付加体の網羅的解析を行った。得られたデータをPCA解析により分類した。遺伝毒性や肝発がん性を付加体から予測するモデルを、教師あり機械学習手法を用いて試作した。
結果と考察
膀胱粘膜上皮におけるγ-H2AX形成を免疫組織化学的に検討した結果、膀胱発がん物質2物質中1物質で有意に増加した。また、膀胱を標的としない物質8種類は対照群と同程度で、本検出モデルの特異性を確認出来た。これまでに蓄積された65物質のデータを総合すると、γ-H2AX免疫染色によって化学物質のラット膀胱に対する発がん性を、感度82.9%(29/35)及び特異度100%(30/30)と、高い精度で予測できることが示された。また、遺伝毒性及び非遺伝毒性膀胱発がん物質2種を用いて、γ-H2AX形成が明瞭な用量相関性を示すことを確認した。遺伝毒性肝発がん物質短期検出モデルを用いて検討した結果、偽陰性となった6物質のうち2物質が陽性となった。これまでに取得した60物質のデータを総合すると、感度82.6%(19/23)及び特異度97.3%(36/37)と、高い精度で検出できる可能性が示唆された。さらに、遺伝毒性肝発がん物質短期検出モデルで用いた29物質の肝組織を用いたDNAアダクトーム解析による評価を行った結果、主成分分析により遺伝毒性及び肝発がん物質の分類が明瞭に出来た。また、毒性予測モデルを作成し検討した結果、遺伝毒性については感度100%(11/11)及び特異度88.9%(16/18)、肝発がん性については感度90.0%(9/10)及び特異度100%(19/19)と高い予測性を示した。
結論
γ-H2AXを用いた短期膀胱発がんリスク評価法では、感度82.9%(29/35)及び特異度100%(30/30)と、遺伝毒性肝発がん物質短期検出モデルでは、感度82.6%(19/23)及び特異度97.3%(36/37)と、いずれも高い精度で検出できる可能性が示唆された。また、DNAアダクトーム解析による評価でも高い精度を認め、新しい評価法としての可能性を示した。また、「膀胱におけるγ-H2AX免疫染色」を、28日間反復経口投与毒性試験に対する既存のOECDテストガイドライン(TG407)に、オプションとして追加する改定案に対するOECD加盟国・機関からの指摘に対して、対応した。
公開日・更新日
公開日
2020-12-14
更新日
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