がん患者に対するアピアランスケアの均てん化と指導者教育プログラムの構築に向けた研究

文献情報

文献番号
201908025A
報告書区分
総括
研究課題名
がん患者に対するアピアランスケアの均てん化と指導者教育プログラムの構築に向けた研究
課題番号
H29-がん対策-一般-027
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
野澤 桂子(国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 アピアランス支援センター)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 千佳子(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 乳腺腫瘍内科)
  • 菊地 克子(医療法人社団廣仁会 仙台たいはく皮膚科クリニック)
  • 全田 貞幹(国立研究開発法人国立がん研究センター 東病院 放射線治療科)
  • 有川 真生(国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 形成外科)
  • 飯野 京子(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 国立看護大学校 成人看護学)
  • 森 文子(国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 看護部)
  • 八巻 知香子(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん情報提供部)
  • 藤間 勝子(国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 アピアランス支援センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
2,897,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関変更 研究分担者 菊地克子 東北大学病院(令和元年6月30日退職)→ 医療法人社団廣仁会 仙台たいはく皮膚科クリニック(令和元年7月1日就任)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の最終目標は,がん患者のサバイバーシップを支援するため,がん患者のアピアランスケアの提供体制モデルを作成することである。
最終年度の2019年度は,研究1・研究2ともに,2018年度に作成した医療者向け教育内容コンテンツを試行し,内容の妥当性のみならず実行可能性などを評価する。そのうえで,最終版に向けて修正を行い,医療者教育資材「eラーニング用基礎教育プログラムVer.1.0」及び「アピアランスケアを行う指導者教育プログラムVer.1.0」を完成させる。また,2017年度に実施した各種基礎調査の論文投稿を行う。
研究方法
研究1においては,2018年度に作成されたeラーニング用基礎教育スライド(Ver.0)389枚を基に,研究者間で検討し,修正版(Ver.0.5)を作成した(研究1-A)。その後,修正版(Ver.0.5)を用いたWeb研修を実際に行い,eラーニング研修プログラムの実行可能性などを検証した(研究1-B)。また,日常整容行為に関しては,日本香粧品学会評議員による内容のチェックを受けた。
研究2においては,2018年度に作成した指導者教育プログラム(Ver.0)に基づき,既に地域でアピアランスケアを提供している看護師30名に3日間の研修を行い,プログラムの実行可能性や有用性を検証した。
結果と考察
研究1-A:アピアランスケアに関するeラーニング用基礎教育資材の開発研究
eラーニング用基礎教育スライド(Ver.0)について,研究者間で検討の上,修正を加えた。最終的に,資料スライド32枚を含む延べ410枚のスライドによる教育コンテンツ「e-ラーニング用基礎教育プログラムVer.0.5」を作成した。そのプログラムは,概念ユニット及びがん治療別(薬物療法・放射線療法・手術療法)に科目が構成され,それぞれ汎用性のあるStep1,専門性の高いStep2,医学知識等のStep3のレベルに分けられている。また,eラーニング用に,研究者がナレーションを吹き込み, 6時間の教育プログラムとなった。その後,研究1-B(実行可能性の検討研究)の結果から得られた若干の改善点を反映させるとともに,日常整容行為に関しては,医学のみならず香粧品学からの妥当性も重要であるため,日本香粧品学会評議員による内容のチェックを受けた。最終版を「eラーニング用基礎教育プログラムVer.1.0」とした。
研究1-B:eラーニング研修プログラムの実行可能性の検討研究
研究協力4施設75名と指導者研修研究への参加を希望した58名,計133名に研究参加の依頼文が配布された。参加者は100名(有効回答率75.2%),男性4名・女性96名であり,平均年齢は40.5(±16.7)歳であった。eラーニング用基礎教育プログラムVer.0.5を用いたアピアランス支援の概論,脱毛,皮膚・爪障害,放射線,手術療法に関する研修については,視聴後の理解度の平均点は,視聴前よりも有意に高かった。また,eラーニングの使いやすさの評価も高く,本プログラムの実行可能性の高さが示された。
研究2:アピアランスケアを行う指導者教育プログラムの開発
研究協力希望者が多かったため,厳格な選抜を行った結果,北海道から九州までの幅広い地域から専門看護師1名(3.3%),認定看護師25名(83.3%)を含む女性看護師(平均46.1歳)30名の参加が得られた。指導者教育ログラムは,患者アセスメント,コミュニケーション,他職種へのコーディネートや医療者教育など,患者へのアピアランスケアの実践とともに,各地域における他の医療者の教育訓練を実践する,3日間の集合研修プログラムである。検証の結果は,おおよそ次のようであった。まず,参加者の知識や技術,他者にケアを展開できるかを尋ねた項目については,研修後に有意に数値が上昇した。その内容についても,参加者全員より,「今までeラーニング等で学んだ知識・技能を補う内容であった」「医療機関内でアピアランスケアを展開する上で必要な内容であった」との評価を得た。本研究により,本プログラムが,アピアランスケアの指導者研修として活用できることが明らかになった。
結論
現時点で最良と考えられる医療者教育資材「eラーニング用基礎教育プログラムVer.1.0」及び「アピアランスケアを行う指導者教育プログラムVer.1.0」を完成させた。これらは,初の医療者向けアピアランスケア研修プログラムである。今後は,各学会や医療機関等と連携しながら,希望する全ての医療者に提供できるようなシステムを構築し,アピアランスケアの標準化及び均てん化を図る予定である。

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201908025B
報告書区分
総合
研究課題名
がん患者に対するアピアランスケアの均てん化と指導者教育プログラムの構築に向けた研究
課題番号
H29-がん対策-一般-027
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
野澤 桂子(国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 アピアランス支援センター)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 千佳子(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 乳腺腫瘍内科)
  • 菊地 克子(医療法人社団廣仁会 仙台たいはく皮膚科クリニック)
  • 全田 貞幹(国立研究開発法人国立がん研究センター 東病院 放射線治療科)
  • 有川 真生(国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 形成外科)
  • 飯野 京子(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 国立看護大学校 成人看護学)
  • 森 文子(国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 看護部)
  • 八巻 知香子(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん情報提供部)
  • 藤間 勝子(国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 アピアランス支援センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は,アピアランスケアに関するeラーニング用基礎教育資材の開発(研究1)と,アピアランスケアを行う指導者教育プログラムの構築(研究2)である。すなわち,基礎的な情報や支援方法をeラーニング化して,希望する医療者が学べるようにすることにより,アピアランスケアの標準化及び均てん化を図るとともに,より高度な対応を求められるケースに対処できる指導者の養成を目指す。これは,「尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築」を実現するために,第3期がん対策推進基本計画によって示された「国は,がん患者の更なるQOLの向上を目指し,医療従事者を対象としたアピアランス支援研修等の開催」を推進することに,大いに貢献する。
研究方法
2017年度に,医療者教育プログラムに必要な基礎データを得るため,医療者・患者・一般人を対象に実態調査を行った(基礎調査研究A・B・C)。そのデータ及び国立がん研究センター中央病院が行ってきた研修会で得られた知見を基に,2018年度は 基礎教育用と指導者教育用の2つの試案(Ver.0)を作成した(研究1-A・2)。2019年度は各試案について実行可能性などの評価研究を行い(研究1-B・2),初の医療者向けアピアランスケア研修プログラムを完成させた。
結果と考察
【基礎調査研究A:医療者対象】
質問紙郵送調査の結果,がん診療連携拠点病院の医療者736名から回答を得た。回答者のほとんどは,医療者として支援を行う必要性を強く実感しており,実際に多くの具体的支援を行っていたが,支援する自信がない項目も多かった。また,ケアの標準化がされておらず,eラーニングによる基礎学習の希望が顕著に高かった(92.4%)。
【基礎調査研究B:患者対象】
疾患別男女別罹患率を反映してサンプリングしたインターネット調査の結果,患者1034名のうち,外見変化を体験したのは58.1%であった。体験頻度・苦痛度ともに高い症状や,頻度は低いが苦痛度が顕著に高い症状,外見問題の対処に必要だったが十分得られなかった情報など,意識的にeラーニング開発時に組み込むべき情報が明らかになった。また,がん患者の外見変化の懸念は日常生活に悪影響を与えており,対処技術の教育だけでなく,がんと外見に対する意識変容のための教育も必要である。         
【基礎調査研究C:一般人対象】
一般人1030名の55.9%は,外見が変化した患者を実際に見たことがないにも関わらず,一般にネガティブなイメージを有していた。また,仕事や学校生活が阻害されると考える人も多く,罹患早期の適切な介入により,社会参加への不安を軽減させる必要性が示唆された。若年女性と高齢男性の約3割が,外見が変わるなら抗がん剤を用いたくないと答えており,外見変化は治療選択にも影響する可能性も示された。
【研究1:アピアランスケアに関するeラーニング用基礎教育資材の開発を目指した研究】
研究1-A:アピアランスケアに関するeラーニング用基礎教育資材の開発研究:複数回の修正を重ねて「eラーニング用基礎教育プログラムVer.1.0」を作成した。Ver.1.0は,研究1-B(実行可能性の検討研究)の結果から得られた改善点を反映させるとともに,日常整容行為に関しては,日本香粧品学会評議員による内容のチェックを受けた。プログラムは,概念ユニット及びがん治療別(薬物療法・放射線療法・手術療法)に科目が構成され,アピアランスケアにおいて,初の体系的・実践的な医療者向け教材となっている。
研究1-B:eラーニング研修プログラムの実行可能性の検討研究:web視聴と前後アンケートを内容とする本研究には医療者100名が参加した。アピアランスケアの概論及び各論に関する研修内容について,視聴後の理解度の平均点は,視聴前よりも有意に高かった。また,eラーニングの使いやすさの評価も高く,本プログラムの実行可能性の高さが示された。
【研究2:アピアランスケアを行う指導者教育プログラムの開発】
患者アセスメント,コミュニケーション,他職種へのコーディネートなど,患者へのアピアランスケアの実践とともに,各地域における他の医療者の教育訓練を実践する,3日間の集合研修プログラムを作成した。 2019年度には,すでに地域でアピアランスケアを提供している看護師30名に対してこのプログラムを用いた介入研究を行い,プログラムの実行可能性や有用性を検証した。
結論
現時点で最良と考えられる医療者教育資材「eラーニング用基礎教育プログラムVer.1.0」及び「アピアランスケアを行う指導者教育プログラムVer.1.0」を完成させた。今後は,各学会や医療機関等と連携しながら,希望する全ての医療者に提供できるようなシステムの構築を目指す。 

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201908025C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまでがん患者の外見ケアは,脱毛に対するウィッグ,皮膚障害に対するスキンケアなどのように,個々の症状への対処技術の集積であると考えられてきた。しかし,本研究により,がん患者の外見変化の懸念が日常生活に悪影響を与えることなど,患者支援には,個々の対処技術だけでなく,認知変容やコミュニケーションへの援助等の複合的な介入の必要性が明らかになった。今回の教育資材は,医療の支持療法という視点から外見ケアを初めて体系化し,アピアランスケアという新たな独立の専門分野が成立する契機となるものである。
臨床的観点からの成果
本研究により,初めて,アピアランスケアに関する医療者向け「eラーニング用基礎教育プログラムVer.1.0」が開発された。これにより,近い将来,希望する全ての医療者が,基礎的な情報や支援方法をeラーニングで学べるようになり,アピアランスケアの標準化及び均てん化が図られる。また,「アピアランスケアを行う指導者教育プログラムVer.1.0」により,より高度な対応を求められるケースにも対処可能になる。その結果,外見の問題で治療を躊躇したり,社会活動を諦める患者が減少し,サバイバーシップ支援に貢献する。
ガイドライン等の開発
本研究で得られた知見を活かして「がん治療におけるアピアランスケアのガイ度ライン2021年版」の開発を行った。2021年10月に発行された。
その他行政的観点からの成果
本研究は,第3期がん対策推進基本計画によって示された「国は,がん患者の更なるQOLの向上を目指し,医療従事者を対象としたアピアランス支援研修等の開催」を推進することに,大いに貢献する。その後の衆議院予算委員会(2019年2月)や第3回がんとの共生のあり方に関する検討会(2019年10月)でも当該研究班グループによってアピアランスケアの研究が推進されていることが言及されている。また、行政においても外見の問題に対する意識が高まり、脱毛時の運転免許証・身体障害者手帳等の写真規格の見直しが行われた。
その他のインパクト
がん患者における外見問題の実態調査の結果が注目され,共同通信によって配信された。その結果,山口新聞2018/11/14 ほか多数の新聞に紹介された。また,日本緩和医療学会第1回関東甲信越学術大会に招聘され,研究班グループでアピアランスケアのシンポジウムを開催した。

発表件数

原著論文(和文)
12件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
56件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
7件
衆議院予算委員会1件、がんとの共生の在り方に関する検討会1件、運転免許証等の写真企画見直し4件、ガイドライン開発1件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
マスコミ発表1件、シンポジウム1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
飯野京子,長岡波子,野澤桂子 他
がん治療を受ける患者に対する看護師のアピアランス支援の実態と課題および研修への要望
日本緩和医療学会誌Palliative Care Research , 14 (2) , 127-138  (2019)
https://doi.org/10.2512/jspm.14.127
原著論文2
飯野京子,長岡波子,野澤桂子 他
がん治療を受ける患者へのアピアランス支援に関する看護師の認識-支援の必要性と自信およびその関連要因-
国立病院看護研究学会誌 , 15 (1) , 2-14  (2019)
原著論文3
野澤桂子,藤間勝子
がん治療に伴う外見変化と対処行動;男女別部位別罹患率に対応した1,035名の患者対象調査から
国立病院看護研究学会誌 , 16 (1) , 14-26  (2020)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2022-06-09

収支報告書

文献番号
201908025Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,765,000円
(2)補助金確定額
3,744,000円
差引額 [(1)-(2)]
21,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 553,064円
人件費・謝金 1,356,333円
旅費 797,976円
その他 169,157円
間接経費 868,000円
合計 3,744,530円

備考

備考
自己資金 530円

公開日・更新日

公開日
2021-05-14
更新日
-