外国人に対するHIV検査と医療サービスへのアクセス向上に関する研究

文献情報

文献番号
201819003A
報告書区分
総括
研究課題名
外国人に対するHIV検査と医療サービスへのアクセス向上に関する研究
課題番号
H28-エイズ-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
北島 勉(杏林大学 総合政策学部)
研究分担者(所属機関)
  • 沢田 貴志(神奈川県勤労者医療生活協同組合 港町診療所)
  • 宮首 弘子(杏林大学 外国語学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
5,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、我が国の外国人男性のHIV陽性報告数は増加傾向にある。また、日本語や英語で十分なコミュニケーションをとれない外国人の受診が遅れることも明らかになっている。2019年4月からは特定技能一号といった在留資格で就労する若者が増加することが予想される。そこで、本研究では、HIV検査受検促進や陽性者への医療関連サービスへのアクセスの改善をめざし、自治体との連携モデルを構築することを目的とする。
研究方法
本研究では、以下の研究活動を行った。(1)HIV検査受検に結びつく効果的な介入方法の検討:HIVの知識、HIV検査へのアクセスなどの質問への回答後に、無作為に介入群と対照群に分け、介入群にはHIV検査に関するビデオを、対照群には結核検査に関するビデオを鑑賞してもらい、7日後に同様の質問票に回答してもらうことで、ビデオが彼らのHIV検査へのアクセス向上を図る上での有用性について検討した。(2)自治体におけるHIV検査の多言語対応促進方法の検討:平成28年度から30年度にかけて、当研究班が開催した感染症通訳講座の受講者(12言語110人)を対象として、彼らの所属している通訳団体を通して、通訳者の結核・HIV領域の稼働状況について調査をした。また、日本語学校で学ぶ留学生のうち人数が多い上位3カ国(中国、ベトナム、ネパール)の各言語の通訳者を都内の保健所がHIV検査と告知を行う日に試験的に派遣し、その利用状況を調べた。更に、HIV検査時の説明資料である「PC対応(10言語版)外国人HIV抗体検査支援ツール」、以下、支援ツール)の改良を行った。(3)HIV及び結核の検査・治療に活用できる医療通訳の教育・活用方法の検討:HIVと結核に関する基礎知識、保健所の役割、セクシャリティー、通訳技術の基礎に関する講義を行い、研修前後でのHIV及び結核に関する知識や意識に関する質問票による調査を行った。また、中国語、ベトナム語、ネパール語の通訳者を対象として、通訳基礎トレーニング法の講義と実践とシナリオに基づくロールプレイを交えた参加型の研修を行った。(4)フィリピンとインドネシアのNGOを訪問し、HIVの流行状況と各団体の活動に関するヒヤリングを行った。
結果と考察
(1)HIV検査に関するビデオを鑑賞した群は鑑賞しなかった群よりもHIV検査を受けることができる施設に関する知識が有意に改善していた(調整オッズ比4.37, 95%信頼区間1.92-9.95)。(2)結核・HIV通訳研修参加者のHIV関連の通訳派遣回数は平成28年度0回、29年度2回、30年度11回と増加していた。3カ国語の通訳を派遣した期間に対象言語を母語とする者が9人受検した。支援ツールをスマートフォンでも利用できるように改良した。(3)34人、8カ国語の通訳者が参加した。アジアの他の言語の参加者は少なかった。HIVと結核について理解を深めてもらうことができた。中国語、ベトナム語、ネパール語の通訳者15人を対象としてロールプレイを行ったところ、通訳の技能の向上が認められた。(4)フィリピンのHIV感染者数は68,000人(2017年)、MSMや薬物使用者の感染割合が高く、都市部に集中していた。訪問した団体は、検査から治療までを提供するクリニックを運営していた。また、PrEPの研究事業にも参加していた。インドネシアのHIV感染者数は63万人(2017年)、薬物使用者、セックスワーカー、MSMの感染割合が高い。訪問した団体は、政府のHIVに関する政策のモニタリング、市民への啓発、地域のNGOの支援、HIV検査機会の提供、セックスワーカーや薬物使用者の感染予防及び支援を実施していた。HIV対策に対する政府の姿勢と予算の不足、HIVに対するスティグマや差別が対策を実施していく上での障壁となっているということであった。
結論
HIV検査に関するビデオが、在留外国人のHIV検査へのアクセスを向上させる可能性が示唆された。これまで養成してきたHIVに対応できる通訳者の保健所や医療施設への派遣数も増えた。また、保健所などでのHIV検査のプレカウンセリング時に使用可能な多言語による支援ツールの改良も進んでいる。結核とHIVに対応できる研修を実施し、34人の参加を得たが、在留人数が増加している東南及び南アジアの国々の言語の通訳者は少なく、人材育成と確保に課題を残した。都内の一保健所のHIV検査実施日に中国語、ベトナム語、ネパール語の通訳者を短期間ではあるが、試験的に派遣することができた。しかし、これらの国々の出身者による受検は少なく、HIV検査に関する周知の方法やHIV検査の提供のあり方に課題があることを示唆する結果となった。今後は、これらの課題を改善するための方策を検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201819003B
報告書区分
総合
研究課題名
外国人に対するHIV検査と医療サービスへのアクセス向上に関する研究
課題番号
H28-エイズ-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
北島 勉(杏林大学 総合政策学部)
研究分担者(所属機関)
  • 沢田 貴志(神奈川県勤労者医療生活協同組合 港町診療所)
  • 宮首 弘子(杏林大学 外国語学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、我が国の外国人男性のHIV陽性報告数は増加傾向にあり、男性同性間の性的接触による感染が多数を占めつつある。また、日本語や英語で十分なコミュニケーションをとれない外国人の受診が遅れることも明らかになっている。さらに、入国管理法の改正に伴い、外国人労働者数が増加することが予想される。そこで、本研究では、在留外国人のHIV検査受検促進や陽性者への医療関連サービスへのアクセスの改善をめざし、自治体との連携モデルを構築することを目的とする。
研究方法
本研究では以下の研究活動を行った。(1)在留外国人のHIV検査受検に結びつく効果的な介入方法を検討するために東京都内の日本語学校に在籍している中国、ベトナム、ネパール出身の留学生を対象に、HIVの知識やHIV検査に関する知識や利用状況などについて質問票による調査を行った。また、HIV検査への主観的アクセスを向上するためのビデオを作成し、その有効性を縦断的介入研究により検討した。(2)保健所等でのHIV検査のプレカウンセリングと陰性告知を英語・中国語・スペイン語・ポルトガル語・タイ語で行うことを目的としたタブレット端末によるHIV検査受検支援ツール(以下、支援ツール)を作成し、保健所等のHIV検査を提供している施設で試用してもらった。(3)HIV及び結核の検査・治療に活用できる医療通訳の育成を行うために研修を行った。また、中国語、ベトナム語、フィリピン語、ネパール語の通訳者を対象としてロールプレイを用い、通訳の技能を測定するとともにその向上を図った。(4)日本への入国者が増加しているアジア5カ国のHIV対策の状況と、関連するNGOの活動状況についてヒヤリング調査を行った。また、2016年リオ・デ・ジャネイロオリンピックパラリンピック(リオ五輪)におけるHIV対策についても調査を行った。
結果と考察
(1)都内の日本語学校17校から調査への協力が得られ、769人から回答を得られた。日本でHIV検査を受けられる施設を知らない者は645人(83.9%)、日本でHIV検査を受けたい者は415人(54.0%)、受けたことのある者は35人(4.6%)であった。HIV検査受検において重要な点は、「無料であること」、「プライバシーが守られること」、「通訳/言語の補助があること」であった。ビデオによる介入研究では、HIV検査に関するビデオ鑑賞群(85人)の方が非鑑賞群(98人)に比べて、「HIV検査受検施設に関する知識」や「「HIV検査を無料匿名で受検できることに関する知識」において、有意に改善していた。(2)保健所等10施設のHIV検査担当者からの支援ツールへの評価は概ね良好であったが、視認性等の改善、スマートフォン対応、対応言語を10に増やすことなどの改善を行った。(3)3年間に行った6回の研修に対して、12言語110人の研修参加者が得られた。結核やHIVに関する正しい知識の習得やロールプレイによる通訳能力の向上が確認できた。(4)台湾、中国、ベトナム、フィリピン、インドネシアのHIV対策を実施しているNGOとネットワークの構築ができた。また、リオ五輪では、HIV感染予防に関する情報提供やコンドームの大量配布などを行っており、リオ市保健事務局は、五輪開催期間中にHIV感染拡大を防ぐことができたと認識していた。平成30年度には、都内一地域の保健所のHIV検査に、中国、ベトナム、ネパール語の医療通訳を派遣し、HIV検査受検を促す連携事業を約3ヶ月間試行し、これらの国の出身者9人が受検した。
結論
在留外国人の中でも近年増加が著しい日本語学校に在籍している中国、ベトナム、ネパール出身の留学生を対象として、HIVに関連した知識、HIV検査へのアクセス等について調べ、主観的アクセスを改善しうるビデオを作成した。また、保健所等でのHIV検査のプレカウンセリングと陰性告知における多言語対応の実施に向けた支援ツールを作成した。更に、陽性告知の際に活用できる医療通訳者の養成や確保を行って来た。これらの成果をもとに、短期間ではあったが、一地域の保健所のHIV検査事業にアジア3言語の医療通訳者を派遣する形の多言語対応のモデルを試行し、通訳を介したHIV検査を提供することができた。アジア周辺国のHIV対策を行っているNGO等とのネットワークも出来つつあり、HIVに関連したサービスに関する情報提供のためのチャンネルの多様化が期待される。今後は、これまでの成果や知見をもとに、自治体やNPO等と連携をしつつ、より効率的にHIV検査や治療への多言語対応が可能となるような方法を検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201819003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
近年急速に増加している日本語学校在籍の中国、ベトナム、ネパール出身の留学生を対象にHIVに関する知識、意識、HIV検査へのアクセスに関する質問票による調査を実施した。769人から回答が得られ、彼らのHIV検査の受検意志とHIV検査にアクセスするための必要な情報との間にギャップがあることがわかった。このギャップを解消するためにHIV検査に関する3カ国語によるビデオを作成し、縦断的介入研究によりその効果を測定したところ、彼らのHIV検査に対する主観的アクセスの改善に寄与することがわかった。
臨床的観点からの成果
近年増加している中国語話者の陽性者に告知場面での通訳派遣をできるようにしたことで診療体制の円滑化に貢献した。また、日本でHIV感染が判明した外国人が、本国に帰国した際に、本研究で訪問した現地NGOを通し、現地の診療体制を紹介するとともに、帰国後に利用できる支援団体につなぐことができた。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
保健所等のHIV検査受検時に、タブレットやスマートフォン等で使用可能な10言語によるHIV抗体検査多言語支援ツールを開発した。NPOと連携し、日本語の不自由なゲイ・バイセクシャル男性に向けた多言語啓発資材の作成し、利用を希望する自治体に配布した。本研究班が実施した結核HIV通訳研修参加者が、平成28年度から30年度にかけて、HIV陽性告知等の理由で保健医療機関にのべ13回派遣された。都内の一保健所のHIV検査開催時に、3ヶ月間、中国語、ベトナム語、ネパール語の医療通訳者を派遣した。
その他のインパクト
結核とHIVの医療通訳研修を平成28年度~30年度にかけて3回実施し、合計110人の参加者を得た。公開勉強会として、平成28年度に「外国人のエイズ・結核の動向とこれからの対策に求められること」、平成29年度に「外国人の感染症対策のためのネットワークを考える~在日タイ大使館はいかにエイズを乗り越えたか~」を開催した。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
1件
PLOS ONE 1件
その他論文(和文)
2件
日本エイズ学会誌 2件
その他論文(英文等)
1件
The Lancet 1件.
学会発表(国内学会)
8件
第31回日本エイズ学会、第32回日本エイズ学会、グローバルヘルス合同学会、日本国際保健医療学会、日本社会医学学会
学会発表(国際学会等)
6件
APCAC2017, 22nd International AIDS Conference, 2018APHA, 50thAPACPH,他
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
「OK TOKYO」(日本語の不自由なゲイ・バイセクシャル男性に向けた多言語啓発資材)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
張弘(宮首弘子)
医療通訳者研修におけるロールプレイの定量的評価の試み
杏林大学外国語学部紀要 ,  (30) , 187-205  (2018)
原著論文2
張弘(宮首弘子)
医療通訳者研修におけるロールプレイの定量的評価の試みⅡ
杏林大学外国語学部紀要 ,  (31) , 53-74  (2019)
原著論文3
沢田貴志,山本裕子,樽井正義,他
エイズ診療拠点病院全国調査から見た外国人の受療動向と診療体制に関する検討
日本エイズ学会誌 ,  (18) , 230-239  (2016)
原著論文4
Shakya P, Sawada T, Zhang, et al
Factors associated with access to HIV testing among international students in Japanese language schools in Tokyo.
PLOS ONE  (20)
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0235659 July 2, 2020.

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2022-06-10

収支報告書

文献番号
201819003Z