生活習慣病予防の労働生産性への影響を含めた経済影響分析に関する研究

文献情報

文献番号
201809009A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病予防の労働生産性への影響を含めた経済影響分析に関する研究
課題番号
H29-循環器等-一般-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
尾形 裕也(東京大学 政策ビジョン研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 勲(慶應義塾大学 商学部)
  • 古井 祐司(東京大学 政策ビジョン研究センター)
  • 津野 陽子(東北大学 大学院医学系研究科・保健学専攻 地域ケアシステム看護学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
7,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
米国等における先行研究によれば、企業・組織に勤務する従業員の健康に関連する総コストのうち生産性の損失が4分の3を占めるのに対し、医療費は4分の1を占めるに過ぎない。生産性の損失の中でもプレゼンティーイズムの損失が最大となっている。健康関連コストを医療費だけで捉え、その適正化を図ることは部分最適にすぎず、全体最適を図るためには、労働生産性への影響を含めた経済影響分析を行う必要がある。本研究では生活習慣病などの疾病及びその予防施策の経済影響分析に関する国際動向の把握を行うとともにこれを踏まえた日本の企業・組織における実証研究を展開し政策的示唆を得ることを目的とする。
研究方法
本年度に実施した5つの研究のうち2つに絞った記述を行う(その他、ストレス・チェックデータによる生産性等との関連性分析、web調査データによる生活習慣病予防の労働生産性への影響分析、中小企業における健康経営と労働生産性の関連性分析)。
①健康と労働生産性の関係に関する労働経済学的研究
本研究における定量的なデータ分析は、全国土木建築国民健康保険組合の匿名データを用いて労働者の健康状態と企業パフォーマンスの関係などを計量経済学の分析手法を用いて実施した。利用データは複数年を追跡したパネルデータ(コホートデータ)の形態になっているため計量経済学の固定効果モデルを適用することで分析期間中変わらない要因や企業・事業所毎の異質性をコントロールし可能な限り統計的に因果関係の特定も試みた。
②健康リスクと生産性の関連の検討
本研究では、日本国内の1病院の2014~2017年度の各年の健診・問診(定期健康診断・特定健診)データに当該病院の健康保険組合によるレセプトデータおよび生産性指標(プレゼンティーイズム・アブセンティーイズム)に関する従業員アンケートデータを統合したデータを分析対象とし健康リスクと健康関連コストの関連性の分析を行った。またコホートデータにより、生産性指標と医療費の変化量に寄与する健康リスク項目の分析を行った。さらに4年間の健康リスク数・健康リスク項目の変化パターンと生産性指標・医療費の変化量との関連性の検討を行った。
結果と考察
①健康と労働生産性の関係に関する労働経済学的研究
生活習慣病医療費とメンタルヘルス関連医療費については、企業業績と統計的に有意な関係性があることが示された。具体的には生活習慣病医療費(1人当たり)が1万円減少すると翌年の労働生産性が1.9%上昇する可能性やメンタルヘルス関連医療費が0.1万円減少すると当年の利益率が0.008%ポイント、翌年の利益率が0.013%ポイント上昇する傾向があることがわかった。これらの推計では固定効果モデルを用いているため、観察されない要因も含め、企業による固有の異質性を考慮できており健康状態から企業業績への因果的な関係性が定量的に捉えられたといえる。
②健康リスクと生産性の関連の検討
本研究の分析の結果、健康状態が悪化するほど医療費も生産性損失コストも大きくなっており健康と健康関連コストの関連が示された。4年間の経年分析により健康リスクの変化数別に生産性指標および医療費の変化量をみるとプレゼンティーイズム損失の変化量と有意な関連があり健康リスク数に変化のない(維持)群であってもプレゼンティーイズム損失は 1.2%改善しており健康リスク2つ改善では4.6%、3つ以上改善では6.5%改善していた。健康リスクの維持・改善によるプレゼンティーイズム損失の削減効果は大きく生産性損失コスト削減に大きく寄与することが示唆された。
結論
生活習慣病などの疾病の予防施策の経済的効果に関し定量的な分析結果からは予防施策のプラスの経済的効果が示唆された。生活習慣病などの疾病の予防施策を実施し生活習慣病関連の医療費が減少すれば、利益率や労働生産性といった企業レベルのパフォーマンスが改善することが予想される。さらに医療費が減少してから企業パフォーマンスが改善するまでには1年程度のラグを要することも確認された。予防施策の導入を企業に促す際には効果が顕現化するまで相応の時間が必要であり中長期的な視点を持って施策導入を検討すべきことを強調すべきといえる。
またコホートデータによる分析により、健康リスクレベルが悪くなるほど医療費も生産性損失コストも大きくなっており、健康と健康関連コストの関連が示された。4年間の経年分析により、健康状態の維持・改善によるプレゼンティーイズム損失の削減効果は大きく、生産性損失コスト削減に大きく寄与するものと考えられる。プレゼンティーイズムの向上や改善のためには従業員の精神的症状を改善するための取組み、職場での支援体制の構築、働きがいや仕事に対する職員の満足度を維持または向上する取組みが重要であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2019-09-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-09-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201809009B
報告書区分
総合
研究課題名
生活習慣病予防の労働生産性への影響を含めた経済影響分析に関する研究
課題番号
H29-循環器等-一般-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
尾形 裕也(東京大学 政策ビジョン研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 勲(慶應義塾大学 商学部)
  • 古井 祐司(東京大学 政策ビジョン研究センター)
  • 津野 陽子(東北大学 大学院医学系研究科・保健学専攻 地域ケアシステム看護学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
米国等における先行研究によれば、企業・組織に勤務する従業員の健康に関連する総コストのうち、生産性の損失が4分の3を占めるのに対し、医療費は4分の1を占めるに過ぎない。生産性の損失の中でもプレゼンティーイズムの損失が最大となっている。健康関連コストを医療費だけで捉え、その適正化を図ることは部分最適にすぎず、全体最適を図るためには、労働生産性への影響を含めた経済影響分析を行う必要がある。本研究では、生活習慣病などの疾病及びその予防施策の経済影響分析に関する国際動向の把握を行うとともに、これを踏まえた日本の企業・組織における実証研究を展開し、政策的示唆を得ることを目的とする。
研究方法
1年目の文献レビューにおいては、生活習慣病の経済影響評価、生活習慣病予防施策の経済的評価、生活習慣病の労働生産性への影響評価に関し、OECD、WHO等の出版物に加えて、直近の英文原著論文を対象とした文献検索を行い、報告書を作成した。また、OECD専門家会合(2017年10月)に出席した他、欧州諸国に出張し、研究者及び実務家と情報、意見交換を行い、本研究を国際的な展望の下に位置付けるよう努めた。さらに、2年目の本格的な研究の展開に向けた準備として、フィールドの設定、データベースの構築、アンケート調査の実施等を行った。
2年目においては、①健康と労働生産性の関係に関する計量経済学的分析、②コホートデータによる健康リスク評価とプレゼンティーイズム、アブセンティーイズム、医療費との関連性分析、③ストレス・チェックデータによる生産性等との関連性分析、④web調査データによるメンタルヘルスを含む生活習慣病予防の労働生産性への影響分析、⑤中小企業に対するアンケート調査データによる健康経営と労働生産性の関連性分析を行い、報告書を取りまとめた。あわせて、研究成果について、国際的な視点から意見交換を行うため、 2019年2月に東京で国際ワークショップを開催した。
結果と考察
以下、上記5つの領域の研究のうち、2つに絞った記述を行う。
①健康と労働生産性の関係に関する労働経済学的研究
生活習慣病医療費とメンタルヘルス関連医療費については、企業業績と統計的に有意な関係性があることが示された。具体的には、生活習慣病医療費(1人当たり)が1万円減少すると、翌年の労働生産性が1.9%上昇する可能性や、メンタルヘルス関連医療費が0.1万円減少すると、当年の利益率が0.008%ポイント、翌年の利益率が0.013%ポイント上昇する傾向があることがわかった。これらの推計では固定効果モデルを用いているため、観察されない要因も含め、企業による固有の異質性を考慮できており、健康状態から企業業績への因果的な関係性が定量的に捉えられたといえる。
②健康リスクと生産性の関連の検討
本研究の分析の結果、健康状態が悪化するほど医療費も生産性損失コストも大きくなっており、健康と健康関連コストの関連が示された。 4年間の経年分析により健康リスクの変化数別に生産性指標および医療費の変化量をみると、プレゼンティーイズム損失の変化量と有意な関連があり、健康リスク数に変化のない(維持)群であってもプレゼンティーイズム損失は 1.2%改善しており、健康リスク2つ改善では4.6%、3つ以上改善では6.5%改善していた。健康リスクの維持・改善によるプレゼンティーイズム損失の削減効果は大きく、生産性損失コスト削減に大きく寄与することが示唆された。
結論
生活習慣病などの疾病の予防施策の経済的効果に関し、定量的な分析結果からは、予防施策のプラスの経済的効果が示唆された。生活習慣病などの疾病の予防施策を実施し、生活習慣病関連の医療費が減少すれば、利益率や労働生産性といった企業レベルのパフォーマンスが改善することが予想される。さらに、医療費が減少してから企業パフォーマンスが改善するまでには1年程度のラグを要することも確認された。予防施策の導入を企業に促す際には、効果が顕現化するまで相応の時間が必要であり、中長期的な視点を持って施策導入を検討すべきことを強調すべきといえる。
また、コホートデータによる分析により、健康リスクレベルが悪くなるほど医療費も生産性損失コストも大きくなっており、健康と健康関連コストの関連が示された。4年間の経年分析により、健康状態の維持・改善によるプレゼンティーイズム損失の削減効果は大きく、生産性損失コスト削減に大きく寄与するものと考えられる。プレゼンティーイズムの向上や改善のためには従業員の精神的症状を改善するための取組み、職場での支援体制の構築、働きがいや仕事に対する職員の満足度を維持または向上する取組みが重要であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2019-09-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201809009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
生活習慣病等の予防施策に関する定量的な分析からは、予防施策のプラスの経済的効果が示唆された。生活習慣病等の予防施策を実施し、関連医療費が減少すれば、利益率や労働生産性等の企業のパフォーマンスが改善することが予想される。また、コホートデータによる分析により、健康リスクレベルが悪くなるほど医療費も生産性損失コストも大きくなっており、健康と健康関連コストの関連が示された。健康状態の維持・改善によるプレゼンティーイズム損失の削減効果は大きく、生産性損失コスト削減に大きく寄与するものと考えられる。
臨床的観点からの成果
生活習慣病等の予防施策によって医療費が減少してから企業パフォーマンスが改善するまでには1年程度のラグを要することが確認された。予防施策の導入を企業に促す際には、効果が顕在化するまで一定の時間が必要であり、中長期的な視点に立った施策の導入を検討するよう求めるべきである。また、プレゼンティーイズムの向上や改善のためには従業員の精神的症状を改善するための取組み、職場での支援体制の構築、働きがいや仕事に対する職員の満足度を維持または向上する取組みが重要であることが示唆された。
ガイドライン等の開発
厚生労働省保険局『データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン』(2017年7月)
その他行政的観点からの成果
国際的な文献サーベイ及び本研究により、労働市場に影響を与える生活習慣としては、肥満(身体活動)、喫煙、飲酒が、また慢性疾患としては心疾患、糖尿病、がん、高血圧、関節炎及び精神疾患が大きいことが明らかとなった。特に、経済的費用のうち、メンタルヘルスと生産性の関連の強さ、メンタルヘルス対策によるコスト削減の可能性が示唆された。また、生産性指標に対しては、健康リスクだけではなく、職場環境や仕事特性などの組織的要因、社会人口学的要因、個人要因が関連しており、これらを考慮した政策の展開が求められる。
その他のインパクト
本研究の成果を開示し、今後のさらなる展開に資するため、2019年2月に東京で国際ワークショップを開催した。同ワークショップにおいては、本研究成果の発表を行い、参加した研究者及び実務家との意見交換を行った。なお、同ワークショップには、本研究の研究協力者を依頼していた海外の研究者3名(OECD、ハーバード大学、リール第1大学)を招聘し、国際的な観点からのコメントを求めた。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
津野陽子, 尾形裕也, 古井祐司
健康経営と働き方改革
日本健康教育学会誌 , 26 (3) , 291-297  (2018)
doi:10.11260/kenkokyoiku.26.291
原著論文2
古井祐司, 村松賢治, 井出博生
中小企業における労働生産性の損失とその影響要因
日本労働研究雑誌 , 60 (6) , 49-61  (2018)

公開日・更新日

公開日
2020-03-16
更新日
2022-07-14

収支報告書

文献番号
201809009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,000,000円
(2)補助金確定額
10,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 644,074円
人件費・謝金 1,311,576円
旅費 3,569,777円
その他 2,168,277円
間接経費 2,307,000円
合計 10,000,704円

備考

備考
千円未満の端数は自己資金のため

公開日・更新日

公開日
2020-03-23
更新日
-