大規模災害および気候変動に伴う利水障害に対応した環境調和型水道システムの構築に関する研究

文献情報

文献番号
201726001A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模災害および気候変動に伴う利水障害に対応した環境調和型水道システムの構築に関する研究
課題番号
H27-健危-一般-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 道宏(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 西村    修(東北大学大学院)
  • 柳橋 泰生(福岡大学大学院)
  • 藤本  尚志(東京農業大学)
  • 高梨  啓和(鹿児島大学学術研究院)
  • 清水  和哉(筑波大学)
  • 下ヶ橋雅樹(国立保健医療科学院 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
4,493,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大規模災害や気候変動に伴う利水障害に対応した環境調和型水道システムの提案を目指し,流域システム,生物障害対策,及び水道の環境調和・持続可能性の評価に関する研究を実施した。
研究方法
ピコ植物プランクトン及びポリスチレン系粒子懸濁液を用いて凝集実験を行い,凝集沈殿除去特性を検討した。
ダム貯水池の濁水長期化,H12~27年度の全国浄水場での濁水増加傾向及びH29年九州北部豪雨での水道原水の濁度上昇と水道事業体の対応を調査した。
次世代シーケンサーにより浄水場ろ過水中にみられた細菌の実ダム湖内消長,ならびにろ過漏出原因微生物の給配水系での挙動を調査した。
におい嗅ぎシステムを装備したGC/MSにて生ぐさ臭を分析した。また生ぐさ臭の原因生物であるウログレナ発生時の水道原水と,ウログレナの培養液を分析した。
カビ臭物質合成遺伝子の確認と簡易なカビ臭物質産生藍藻類の定量方法を検討した。geoA遺伝子を用いた,ジェオスミン産生・非産生藍藻類の簡易な識別法を検討した。
全国21か所の水道原水中での2-MIBの粉末活性炭(粉炭)への平衡吸着量を実測した。5種類の粉炭に対するGeosminと2-MIBの吸着量を確認した。各浄水場の位置と,活性炭生産拠点のデータベースを作成した。
平成28年台風10号にて被害をうけた岩手県岩泉町の視察,及び北海道での簡易水道被害と降水の関係を可視化した。
過去15年間に世界で発生した大規模災害時の感染症の発生状況やその対策に関する情報を整理した。
結果と考察
ピコ植物プランクトン及びポリスチレン系粒子に対して,凝集剤適正添加量までは凝集沈殿効果が高まるものの過剰な添加は未凝集の粒子数を増加させた。またピコ植物プランクトンのゼータ電位は凝集剤の適正添加によっても凝集の適正範囲に到達せず,凝集沈殿除去性を低下させていた。
濁水長期化はダム貯水池により大きな差があった。ここ16年間で原水濁度の最高値が高かった浄水場数の増加傾向は認められなかった。九州北部豪雨では筑後川の水位が上昇し原水濁度が増加したが,PAC注入率の増量や別水源の活用等により浄水の濁度の上昇等を回避することができた。
長沢浄水場ろ過水から検出された18属のうち,Flavobacterium属,Sediminibacterium属,Limnohabitans属,Crenothrix属,Methylocaldum属は宮ヶ瀬湖の細菌群集における主要な構成細菌と考えられた。浄水場ろ過水における主要な細菌は種類によって実湖沼の深度方向の分布が異なっていた。また給配水系において,Proteobacteriaが高い割合を示した。綱レベルではAlphaproteobacteria綱(Rhizobiales目)が優占した。
ウログレナが発生した際に採取した水道原水とウログレナの培養液を分析した結果,共通する臭気成分が3成分発見された。
ジェオスミン,2-MIBを産生するNIES株藍藻において,ジェオスミンは藻体内,2-MIBは藻体外に局在していた。また,2-MIB合成に関与するメチルトランスフェレース遺伝子発現量は,増殖初期に最大となり,増殖後期では低下する傾向が確認された。さらに,ジェオスミン産生・非産生藍藻類を簡易に識別する方法としてgeoA遺伝子を標的としたwhole-cell PCR法が開発できた。
超純水中に比べて,水道原水では2-MIBの粉炭平衡吸着量が38~75%に低下した。5種類の粉炭に対しては,Geosminのほうが2-MIBより吸着されやすかった。さらに,各浄水場と活性炭生産拠点のデータベースを作成し,これを活用した薬品調達の脆弱性評価手法を確立した。
岩泉町の視察により,山間部の小河川の急激な水位変化が水道施設被害の誘因となることがわかった。また北海道で被害のあった簡易水道水源流域での降水量を可視化した。
2004年のスマトラ島沖地震津波,2005年のハリケーン・カトリーナ,2011年の東北地方太平洋沖地震後の水系感染の状況が整理された。
結論
ピコ植物プランクトン凝集沈殿除去特性が整理された。
濁水長期化に関する知見や九州北部豪雨での対応状況を整理できた。
浄水場ろ過水中の細菌のダム湖内挙動及びろ過漏出原因微生物の給配水系での挙動が確認できた。
ウログレナ由来の3臭気成分を発見した。
ジェオスミン産生・非産生藍藻類の簡易な識別法が開発された。
粉炭のカビ臭原因物質吸着特性を整理した。活性炭調達の脆弱性評価のためのデータベースが作成できた。
台風10号による岩泉町での被害状況の詳細や北海道での簡易水道流域での降水状況が明らかとなった。
世界での大規模災害時の感染症の発生状況やその管理に関する近年の状況が整理できた。

公開日・更新日

公開日
2018-07-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-09-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201726001B
報告書区分
総合
研究課題名
大規模災害および気候変動に伴う利水障害に対応した環境調和型水道システムの構築に関する研究
課題番号
H27-健危-一般-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 道宏(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 西村    修(東北大学大学院 工学研究科)
  • 藤本  尚志(東京農業大学 応用生物科学部)
  • 高梨  啓和(鹿児島大学学術研究院 理工学域工学系)
  • 清水  和哉(筑波大学 生命環境系)
  • 下ヶ橋雅樹(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 柳橋 泰生(福岡大学大学院工学研究科)
  • 岸田  直裕(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
国立保健医療科学院 岸田直裕:平成27年度まで研究分担者 福岡大学 柳橋泰生:平成29年度から研究分担者) 筑波大学 清水和哉:平成28年度中に,東洋大学から筑波大学に所属機関変更

研究報告書(概要版)

研究目的
大規模災害や気候変動に伴う利水障害に対応した環境調和型水道システムの提案を目指し,流域システム,生物障害対策,及び水道の環境調和・持続可能性の評価に関する研究を実施した。
研究方法
モデル物質及び藻類を用いた凝集実験により,ピコ植物プランクトンの凝集特性を解明した。
生ぐさ臭原因物質について,高分解能・高質量精度LC/MS,及びにおい嗅ぎシステムを装備したGCに高分解能質量分析を接続したGC/MSを用いて,その同定を試みた。
次世代シーケンサーを用いた,水源,浄水場工程水,及び給配水系での生物群集挙動を調査した。
数理モデルによる相模ダム流域の気候変動シミュレーションを行った。
分子生物学的手法を用いたカビ臭物質産生微生物の個体群数定量手法を確立した。
平成26年御嶽山噴火,平成28年熊本地震,同年台風10号,平成29年九州北部豪雨それぞれの水道関連被害を整理した。また,過去15年間に世界で発生した大規模災害時の被災地における水系感染症の発生状況について整理した。
粉末活性炭のカビ臭原因物質吸着特性の評価及び調達脆弱性評価手法の確立を行った。
結果と考察
相模ダム流域の水文モデルを構築し,将来の気候変動下での渇水及び洪水リスクを評価した。
生ぐさ臭の原因生物であるウログレナが生産する臭気成分を3成分発見した。
川崎市上下水道局長沢浄水場及び千葉県水道局栗山浄水場の工程水,草木湖の生物群集構造を明らかにした。また,長沢浄水場ろ過水から主要な18属の細菌を検出した。さらに浄水場ろ過水における主要な細菌の実湖沼での分布を明らかとした。一方,浄水場ろ過水と給水栓水の細菌相構成比は,門レベルの解析では似ていたが,綱レベルの解析では給水栓水でアルファプロテオバクテリア綱の存在比率が高くなる傾向が見られた。
Synechococcus sp.とMicrocystis aeruginosaのPACによる凝集過程において,MicrocystisはpH変化の影響は認められなかったが、SynechococcusではpHのわずかな変化に大きな影響を受けること,最適凝集剤注入量における残留濁度はMicrocystisと比較してSynechococcusで著しく高いことが明らかとなった。カオリン懸濁液及びピコ植物プランクトン懸濁液を用いた凝集実験で,高塩基度ポリ塩化アルミニウム(PAC)は多量注入した際でも高い濁度除去効果があった。一方濁度除去効果の高い高塩基度PACであるが,生物除去に関しては濁度除去と同等の効果が得られない可能性が示唆された。ピコ植物プランクトン懸濁液及びポリスチレン系粒子懸濁液を用いた凝集実験では,ピコ植物プランクトンのゼータ電位は凝集剤の適正添加によっても凝集の適正範囲に到達せず,凝集沈殿除去性を低下させていることが明らかになった。
藍藻類と放線菌間の遺伝子配列の相同性は低く,両者を明瞭に区別定量できることがわかった。カビ臭物質は、ジェオスミンは細胞内に、2-MIBは細胞外(溶存態)に多く存在することが明らかになった。また、2-MIB産生に関与するメチルトランスフェレース遺伝子が、2-MIB濃度が上昇する以前に高いことがわかった。一方,形態観察では困難なジェオスミン産生藍藻類の識別に有効と期待できるmultiple whole-cell PCR法を開発した。
熊本地震の応急給水における資機材の有用性や活動上の課題等が抽出された。台風10号の現地被害状況が確認されたとともに,降水量と最大断水戸数の相関性がGIS上で可視化された。御嶽山噴火調査時の牧尾ダム流入濁度,pH,重金属等の挙動が整理された。九州北部豪雨では,従来にないほど原水濁度が増加したが,PAC注入率の増量、別水源の活用等により浄水の濁度上昇等が回避できた。2004年のスマトラ島沖地震津波,2005年のハリケーン・カトリーナ,2011年の東北地方太平洋沖地震後の水系感染の状況が整理された。
全国21か所の水道原水中での2-MIBの粉炭平衡吸着実験から,超純水に比べて水道原水中では平衡濃度1μg/Lに対する平衡吸着量が38~75%に低下した。また活性炭調達に関するするデータベースを作成し,各浄水場における薬品調達の脆弱性を評価する手法を確立した。
結論
相模ダムの気候変動シミュレーションが実施できた。
ピコ植物プランクトンの凝集特性が解明された。
生ぐさ臭の原因生物であるウログレナが生産する臭気成分を3成分発見した。
分子生物学的手法を用いたカビ臭物質産生微生物定量手法が確立された。
近年の国内での噴火,地震,台風,豪雨における水道関連被害,及び世界で発生した大規模災害時の被災地における水系感染症の発生状況が整理された。
粉炭のカビ臭原因物質吸着特性を明らかにした。
浄水薬品調達脆弱性評価手法が確立された。

公開日・更新日

公開日
2018-07-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201726001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ピコ植物プランクトンのろ過処理に及ぼす凝集の効果について,日本水処理生物学会第20回論文賞を受賞した。次世代シーケンサによる水道水源湖沼及び浄水工程の生物群集の調査について,原著論文2報として公表された。粉末活性炭処理によるカビ臭原因物質除去に対する原水水質の競合影響,準分布型水文モデル(SWAT)による相模ダム流域での将来予測気候下でのシミュレーションに関する研究成果が原著論文として公表された。その他の研究成果についても,学術誌や会議において成果の公表を行っている。
臨床的観点からの成果
本研究は,必ずしも臨床的観点と直接結びつくものではないが,国内外での実際の災害時の水供給に関する課題や感染症に関する情報を収集・整理しており,得られた成果は、緊急時の衛生管理にも役立つと考えられる。
ガイドライン等の開発
水道での生物障害対策実務に役立つ藻類の分類・命名法について,特にカビ臭産生藍藻を新しい分類体系に基づいて整理した上で旧来の属・種名との整合性を図れた。今後,水道関係の専門誌への寄稿等を通じ,情報発信を行う予定である。
形態観察では困難なジェオスミン産生藍藻類の識別に有効と期待できるmultiple whole-cell PCR法を開発した。
ウログレナが生産する臭気成分を3成分発見した。十分な知見が集積されていない生ぐさ臭の詳細な実態調査や効率的な浄水処理技術の開発等への展開が期待できる。
その他行政的観点からの成果
気候変動の影響観測・監視の推進に向けた検討チームの委員として,報告書「戦略的な観測・監視の取組のための方向性」(H31.3)水環境・水資源分野(水供給)の中にカビ臭産生藍藻の全国レベルでの連続監視と藻類の表記統一の必要性について盛り込まれた。この報告書は環境省中央環境審議会気候変動影響評価等小委員会に提出された。
和光市地球温暖化対策実行計画 区域施策編」改訂版に研究成果の一部が活用された。
荒川を対象とした気候変動影響解析は,埼玉県「地球温暖化への適応策」の検討に活用された。
その他のインパクト
得られた成果は,国内の浄水場の運転管理や気候変動対策,災害時の危機管理対策に利用することが可能であり,社会的意義が高いといえる。全国の水道事業体,地方衛生研究所等の職員を対象とした公開シンポジウム「水道における大規模災害への備え」(平成29年9月22日)を開催することで、研究成果の普及に努めた。その様子は水道産業新聞(平成29年10月30日)に取り上げられた。また,本研究班の取組は,水道産業新聞(平成30年1月18日)に取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
30件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
4件
審議会での議論3件、ガイドライン作成1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
シンポジウム開催1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
渡邉英梨香, 藤本尚志, 秋葉道宏他
培養法および16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングによる浄水場ろ過水の細菌相の評価
用水と廃水 , 59 (3) , 197-203  (2017)
原著論文2
藤本尚志,藤瀬大輝, 秋葉道宏他
16S rRNA遺伝子の解析による浄水場処理工程水のピコシアノバクテリア生物相の評価
用水と廃水 , 59 (9) , 667-674  (2017)
原著論文3
野村宗弘,安斎英悟,秋葉道宏,西村修
ピコ植物プランクトンのろ過処理に及ぼす凝集の効果
日本水処理生物学会誌 , 52 (3) , 65-71  (2016)
原著論文4
松井利恭,下ヶ橋雅樹,藤井隆夫他
水道原水中での2-メチルイソボルネオールの粉末活性炭吸着‐全国の原水を用いた吸着量低下因子の解明‐
水道協会雑誌 , 87 (12) , 2-12  (2018)
原著論文5
Momiyama S., Sagehashi M., Akiba M.
Assessment of the climate change risks for inflow into Sagami Dam reservoir using a hydrological model
Journal of Water and Climate Change  (2018)
https://doi.org/10.2166/wcc.2018.256

公開日・更新日

公開日
2018-06-11
更新日
2023-06-27

収支報告書

文献番号
201726001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,493,000円
(2)補助金確定額
4,493,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,650,412円
人件費・謝金 32,762円
旅費 2,156,367円
その他 654,648円
間接経費 0円
合計 4,494,189円

備考

備考
自己負担額:1,189円

公開日・更新日

公開日
2019-02-19
更新日
-