免疫毒性評価試験法Multi-Immuno Toxicity assayの国際validationへ向けての検討

文献情報

文献番号
201725001A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫毒性評価試験法Multi-Immuno Toxicity assayの国際validationへ向けての検討
課題番号
H27-化学-一般-006
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
相場 節也(国立大学法人 東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 近江谷 克裕(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門)
  • 中島 芳浩(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 健康工学研究部門)
  • 山影 康次(一般財団法人 食品薬品安全センター 秦野研究所)
  • 小島 肇(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
  • 大森 崇(国立大学法人 神戸大学医学部附属病院 臨床研究推進センター)
  • 木村 裕(国立大学法人 東北大学 東北大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
12,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2017年度の目的:
① AOPの改良とthe Extended Advisory Group on Molecular Screening and Toxicogenomics (EAGMST)への承認に向けての対応 
② L-2転写活性抑制をkey eventとするT細胞分化異常誘導評価系およびそのデーターベース構築
③ IL-2転写活性抑制をkey eventとするT細胞分化異常誘導評価系のPhase 2 試験
④ IL-8転写活性増強を指標とした気道刺激性物質評価系のデーターベース構築
⑤ IL-8 Luc assayのOECDテストガイドライン化
研究方法
レポーター活性測定:
IL-2およびIFN-γプロモーター活性の測定には、ヒトTリンパ芽球性白血病由来細胞株JurkatにIL-2プロモーターに制御されたSLGルシフェラーゼ遺伝子(緑色に発色)、IFN-γプロモーターに制御されたSLOルシフェラーゼ遺伝子(橙色に発色)、GAPDHプロモーターに制御されたSLRルシフェラーゼ遺伝子(赤色に発色)を導入した#2H4細胞を用いた。またIL-8プロモーター活性の測定には、THP-1にIL-8プロモーターに制御されたSLOルシフェラーゼ遺伝子およびGAPDHプロモーターに制御されたSLRルシフェラーゼ遺伝子を導入したTHP-G8細胞を用いた。
MITAによる免疫毒性評価法:
各実験において得られた結果は、一元配置分散分析を行い、その後Dunnett検定により有意な抑制効果,増強効果があるか否かを検討した。
Phase 2 study:
国際バリデーション実行委員会にて選定した20化学物質をコード化し、参加3施設においてMulti-Immuno Tox Assay protocol Ver.009.1Eにのっとり各物質3回繰り返し1セットの試験を1セット行った。
国際バリデーション実行委員会:
平成29年度第3回:2017年11月18-19日、大阪にて第3回国際バリデーション実行委員会会議を行った。
平成29年度第4回:2018年3月29日20:00より国際バリデーション実行委員会会議をスカイプにて行った。

結果と考察
①MITAの最適化とdata setの構築ならびに免疫毒性化学物質のClustering
1)MITA data setの構築:
 60化学物質からなるdata setを作成した。
2)MITAの問題点
 MITA data set から、MITAではCoCl2、NiCl2、isophorone diisocyanateなどの感作性物質がIL-8 レポーター活性抑制作用を示し他の免疫抑制剤との区別できないことが明らかとなった。
3)Modified MITAの構築
2)の問題点を克服するため従来のMITAに、すでにOECD テストガイドライン(442E)に承認されているIL-8 Luc assayを組み合わせることにした。
4)MITAによる免疫毒性化学物質のclustering
次に、化学物質をIL-2とIL-8の転写抑制活性に作用を及ぼすLOELをもとに6つのグループに、またIL-8 Luc assayによる判定結果により2つのグループに分類しheat mapを作成した。それらをもとにまずhierarchical clusteringを施行したところ、化学物質が最大6つのクラスターに分けられることが明らかになった。次いで K-means clusteringを行ったところ、cubic clustering criterion 1.74で6つのクラスターに分類できた。興味深いことに、いずれのclustering方法でも60種類の化学物質がほぼ同様に含まれる6個のクラスターに分類され、それぞれのクラスターは以下の特徴を有していた:Cluster 1; IL-8転写活性のみ抑制物質、Cluster 2: IL-2転写活性抑制、感作性物質、Cluster 3: 感作性物質、Cluster 4: 陰性物質、Cluster 5: IL-2、IL-8転写活性抑制物質、Cluster 6: IL-2転写活性のみ抑制物質。
5) Phase 2 validation試験を終了した。
結論
①MITA により60種類の化学物質を評価しdata setを構築し、それらをクラスター分類した。
②MITAのパラメーターであるIL-2転写活性抑制、IL-8転写活性抑制をkey eventとするAOPを作成した。
③IL-2転写活性抑制を指標としたT細胞分化異常誘導化学物質評価系のPhase 2 validation試験を実施した。
④皮膚感作性試験法IL-8 Luc assayをOECDテストガイドライン化した。

公開日・更新日

公開日
2018-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201725001B
報告書区分
総合
研究課題名
免疫毒性評価試験法Multi-Immuno Toxicity assayの国際validationへ向けての検討
課題番号
H27-化学-一般-006
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
相場 節也(国立大学法人 東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 近江谷 克裕(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門)
  • 中島 芳浩(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 健康工学研究部門)
  • 山影 康次(一般財団法人 食品薬品安全センター 秦野研究所)
  • 小島 肇(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
  • 大森 崇(国立大学法人 神戸大学医学部附属病院 臨床研究推進センター)
  • 木村 裕(国立大学法人 東北大学 東北大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1) MITAの最適化とdata setの構築
2) MITAのパラメーターをkey eventとするAOPの作成
3) IL-2転写活性障害を指標としたT細胞の分化異常誘導化学物質評価系のvalidation試験
4) MITAのテストガイドライン化
研究方法
1)Jurkat T細胞由来#2H4細胞におけるIL-2, IFN-γ, GAPDHプロモーターアッセイおよびTHP-1 単球細胞由来THP-G8細胞における IL-8, GAPDHプロモーターアッセイを行った。
2)MITAによる免疫毒性評価法
各実験において得られた結果は、一元配置分散分析を行い、その後Dunnett検定により有意な抑制効果,増強効果があるか否かを検討した。
3)国際バリデーション試験 (参加3施設)
Phase 0 study:5化学物質、参加3施設において各物質3回繰り返し1セットの試験を1セット行った。
Phase 1 study:コード化した5化学物質を各物質3回繰り返し1セットの試験を3セット行った。
Phase 2 study:コード化した 20化学物質を各物質3回繰り返し1セットの試験を1セット行った。
4)国際バリデーション実行委員会
平成28年度第1回:2016年9月13日、仙台
平成28年度第2回:2017年2月3-5日、京都
平成29年度第3回:2017年11月18-19日、大阪
平成29年度第4回:2018年3月29日、スカイプ(参加者:小島肇、足利太可雄、相場節也、木村裕、Emanuela Corsini、Erwin L. Roggen、Dori Germolec、井上智彰)
結果と考察
1) modified Multi-ImmunoTox assay (mMITA)の構築とそれを用いた免疫毒性物質のclustering:
平成27年度は、60化学物質からなるdata setを構築した。そのなかで、皮膚感作性物質の多くがLPS刺激THP-G8細胞のIL-8転写活性を抑制することを見いだし、従来のMITAでは単球/樹状細胞に抑制的に作用する免疫抑制物質と皮膚感作性物質を区別できない事が明らかとなった。そこで従来法のMITAに、皮膚感作性物質試験法IL-8 Luc assayを加えたmodified MITA (mMITA)を構築した。そこで平成29年度までに、60種類の化学物質を評価し、mMITAのdata setを構築した。次に、化学物質のIL-2、IL-8転写活性を抑制する最低濃度およびIL-8 Luc assayの結果を組み合わせることでMITAにより免疫毒性化学物質が6種類のクラスターに分類できることを明らかにした。それらのClusterは以下の様な特徴を有していた。Cluster 1; IL-8転写活性のみ抑制物質、Cluster 2: IL-2転写活性抑制、感作性物質、Cluster 3: 感作性物質、Cluster 4: 陰性物質、Cluster 5: IL-2、IL-8転写活性抑制物質、Cluster 6: IL-2転写活性のみ抑制物質
2)AOPの作成:
平成27年度から28年度にかけて、IL-2転写活性抑制とIL-8転写活性増強の2つをkey eventとするadverse outcome pathway (AOP)を作成した
3)IL-2レポーター活性抑制物質評価法の国際validation
第1回実行委員会にて検討を行い、まずPhase 0を実施した。平成28年度後半からPhase 1 studyを実施した。平成29年2月、第2回バリデーション実行委員会にてPhase 1の結果が了承され、Phase II試験を実施した。Phase IIの結果は、第3回および第4回実行委員会にて検討された。その間、統計解析手法の改良も行われ、最終的にPhase I、IIのいずれの結果も施設間再現性、施設内再現性がstudy planに記載された基準80%を上まわった。
4)皮膚感作性試験法IL-8 Luc assayがOECD テストガイドライン(442E)に承認された。
結論
①MITA により60種類の化学物質を評価しdata setを構築した。また、それに基づき、化学物質が6種類の異なった免疫毒性プロフィールを有するclusterに分類できることを明らかにした。
②MITAのパラメーターであるIL-2転写活性抑制、IL-8転写活性抑制をkey eventとするAOPを作成した。
③IL-2転写活性抑制を指標としたT細胞分化異常誘導化学物質評価系のPhase 1およびPhase 2 validation試験を実施した。
④ 皮膚感作性試験法IL-8 Luc assayをOECDテストガイドライン化した。

公開日・更新日

公開日
2018-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201725001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 化学物質の中には免疫系を標的とし、アレルギー、自己免疫疾患、免疫抑制に基づく易感染性、発癌などの健康被害を及ぼすものが少なくない。しかし現在するin vitro免疫毒性評価法は、それらを評価するには不十分である。本研究にて開発した多項目免疫毒性評価法は、2種類の評価細胞を用いて免疫毒性物質を6つのクラスタに分類できることを明らかにした。これまでに、化学物質の免疫毒性をその作用によりクラスター分類するという試みはなされたことが無く、この方法は免疫毒性評価の新しい方法論を提起する研究である。
臨床的観点からの成果
本研究にて開発されたTHP-G8細胞を用いて開発された評価系が、リウマチ、炎症性腸疾患、乾癬などの治療薬として現在多くの患者さんに投与されている抗TNF-α阻害薬の有効性評価、2次無効の早期発見に有用であることを報告した。 (Kimura et al. Br J Dermatol 175:979-987, 2016)
ガイドライン等の開発
MITAを構成する皮膚感作性試験法IL-8 Luc assayに関しては、2015年10月15、16日(パリOECD本部)、2016年11月2,3日(パリOECD本部)、2016年12月12日(電話会議)、2017年3月3日(電話会議)に開催されたMeeting of the Expert Group on Skin Sensitisation等における検討、評価後、2017年10月にOECD テストガイドライン 442Eとして承認された。
その他行政的観点からの成果
皮膚感作性試験IL-8 Luc assayは、既に用いる細胞、試薬などの供給も開始しており、化粧品などの開発に携わる企業などからの受注を開始している。
その他のインパクト
2017年12月8日、東北大学からIL-8 Luc assayがOECD test guideline化されたことに関して、「新規に開発した皮膚感作性物質試験法が経済協力開発機構(OECD)に認証」とpress releasされた。
また同内容に関して,2017年度日本代替法学会賞を受賞した.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Aiba, S., Kimura, Y.
In vitro test methods to evaluate the effects of chemicals on innate and adaptive immune responses.
Curr Opin Toxicol , 5 , 6-12  (2017)
doi.org/10.1016/j.cotox.2017.06.010
原著論文2
Hidaka, T., Ogawa, E., Kobayashi, E.H., et al.
The aryl hydrocarbon receptor AhR links atopic dermatitis and air pollution via induction of the neurotrophic factor artemin.
Nat Immunol , 18 , 64-73  (2017)
doi: 10.1038/ni.3614
原著論文3
Asano, M., Yamasaki, K., Yamauchi, T., et al.
Epidermal iron metabolism for iron salvage.
J Dermal Sci , 87 , 101-109  (2017)
doiI:10.1016/j.jdermsci.2017.04.003
原著論文4
Kimura, Y., Shimada-Omori, R., Takahashi, T., et al.
Therapeutic drug monitoring of patients with psoriasis during tumour necrosis factor (TNF)-alpha antagonist treatment using a novel interleukin-8 reporter cell line.
Br J Dermatol , 175 , 979-987  (2016)
doi: 10.1111/bjd.14717.
原著論文5
Oeda, S., Hirota, M., Nishida, H., et al.
Development of an in vitro photosensitization test based on changes of cell-surface thiols and amines as biomarkers: the photo-SH/NH(2) test.
J Toxicol Sci , 41 , 129--142  (2016)
dos: 10.2131/jts.41.129
原著論文6
Kimura, Y., Fujimura, C., Ito, Y., et al.
Optimization of the IL-8 Luc assay as an in vitro test for skin sensitization.
Toxic in Vitro , 19 , 1816-1830  (2015)
doi: 10.1016/j.tiv.2015.07.006.
原著論文7
Watanabe, M., Kurai, J., Minato, S., et al.
Difference in interleukin-8 transcriptional activity induced in THP-G8 cells by particulate matter collected in winter and summer in western Japan.
J Med Invest , 62 , 145-148  (2015)
doi: 10.3390/ijerph121114229.
原著論文8
Watanabe, M., Noma, H., Kurai, J.,et al.
Variation in the Effect of Particulate Matter on Pulmonary Function in Schoolchildren in Western Japan and Its Relation with Interleukin-8.
Int J Environ Res Public Health , 12 , 14229-14243  (2015)
doi: 10.2152/jmi.62.145
原著論文9
Watanabe, M., Noma, H., Kurai, J., et al.
Decreased pulmonary function in school children in Western Japan after exposures to Asian desert dusts and its association with interleukin-8.
Biomed Res Int , 2015 , 583293-  (2015)
http://dx.doi.org/10.1155/2015/583293
原著論文10
Kimura, Y., Fujimura, C., Ito, Y. et al.
Profiling the immunotoxicity of chemicals based on in vitro evaluation by a combination of the Multi-ImmunoTox assay and the IL-8 Luc assay.
Arch Toxicol , 92 , 2043-2054  (2018)
doi: 10.1007/s00204-018-2199-7
原著論文11
Kimura, Y., Watanabe M., Suzuki N., et al.
The Performance of an in Vitro Skin Sensitisation Test, IL-8 Luc Assay (OECD442E), and the Integrated Approach With Direct Peptide Reactive Assay (DPRA)
J Toxicol Sci , 43 , 741-749  (2018)
doi: 10.2131/jts.43.741.

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201725001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
16,000,000円
(2)補助金確定額
16,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,182,881円
人件費・謝金 2,440,377円
旅費 3,007,022円
その他 677,720円
間接経費 3,692,000円
合計 16,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-05-29
更新日
-