文献情報
文献番号
201723029A
報告書区分
総括
研究課題名
食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究
課題番号
H27-食品-指定-017
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
古江 増隆(九州大学 大学院医学研究院皮膚科学分野)
研究分担者(所属機関)
- 赤羽 学(奈良県立医科大学 公衆衛生学講座)
- 内 博史(九州大学 大学院医学研究院皮膚科学分野)
- 香月 進(福岡県保健環境研究所)
- 二宮 利治(九州大学 大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野)
- 申 敏哲(シン ミンチョル)(熊本保健科学大学 保健科学部リハビリテーション学科)
- 園田 康平(九州大学 大学院医学研究院眼科学分野)
- 福士 純一(九州大学医学研究院人工関節・生体材料学講座)
- 江崎 幹宏(九州大学病院 病態機能内科)
- 古賀 信幸(中村学園大学 栄養科学部)
- 月森 清巳(福岡市立こども病院)
- 辻 博(西日本短期大学 社会福祉学科)
- 中西 洋一(九州大学 大学院医学研究院呼吸器内科学分野)
- 山下 謙一郎(九州大学病院 神経内科)
- 石井 祐次(九州大学 大学院薬学研究院分子衛生薬学分野)
- 竹中 基(長崎大学医歯薬学総合研究科皮膚病態学分野)
- 上松 聖典(長崎大学病院 眼科)
- 川崎 五郎(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科口腔腫瘍治療学分野)
- 戸高 尊(公益財団法人北九州生活科学センター)
- 三苫 千景(九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
183,959,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関及び役職の変更
福士純一
所属機関:九州大学病院整形外科→九州大学医学研究院人工関節・生体材料学講座
役職:講師→准教授
研究報告書(概要版)
研究目的
ダイオキシン類が生体に及ぼす慢性影響を把握し、油症患者に残存する症状の緩和方法を開発する。
研究方法
油症検診の結果をもとにダイオキシン類の毒性、生体内動態を検証した(臨床的追跡研究)。継世代への影響の探求を継続し、死因調査に着手した(疫学的研究)。基礎的研究では、動物モデルを用いてダイオキシン類の毒性、代謝や排泄、母児間の影響を検証し、培養ヒト細胞を用いてダイオキシン類受容体 (AhR)の活性を抑制しうる薬剤の探索を行った。
結果と考察
<臨床的追跡研究>多くの患者において油症特有の症状は軽快しているものの、加齢に伴う影響が加わっていた。血液中ダイオキシン類濃度はこの10年で緩徐ながら減少していた。ダイオキシン類曝露は患者の免疫機能に影響を及ぼす可能性が示唆された。血液中ダイオキシン類濃度測定に使用している高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計の代替システムにおいても同様の精度、再現性が確認された。油症の主たる症状の一つである神経症状を客観的に評価する解析方法を確立した。臨床試験においては、桂枝茯苓丸投与により患者血清一酸化窒素の産生増加がみられ、桂枝茯苓丸による血管拡張、循環改善が患者の症状改善に寄与している可能性が示唆された。
<疫学的研究>平成27年度に実施した地域住民対象の環境調査の結果をもとに、ダイオキシン類濃度と疾病および疾病マーカーとの間の相関について解析を進めた。また、ダイオキシン類異性体濃度と症状の変化との間の相関について解析したところ、弱いながら数項目において相関がみられた。継世代への影響においては、胎児期に母体を介してダイオキシン類に曝露すると、油症2世の卵巣の予備能に影響が及ぶことが明らかになった。
<基礎的研究>SP-Dはベンゾピレン投与に対して肺保護作用を有することが分かった。また、ベンゾピレン曝露による感覚鈍麻の発生機序の一端が明らかになった。紫蘇の成分、ぺリルアルデヒドにもダイオキシン類の毒性に拮抗し、抗酸化作用があることを見出した。2,4,6-三塩素置換ベンゼンを有するPCB異性体、PCB188は生体内で代謝されやすいことが明らかになった。妊娠期の2,3,7,8-tetrachlorodibenzodioxin(TCDD)曝露により出生児に性未熟が生じるが、出生後の児の脳で双極性 GnRH ニューロンが選択的に減少しているのが確認された。また、強い毒性を有するTCDDに拮抗する化合物の候補、TCDDの塩素原子を全てフッ素原子に置換した 2,3,7,8-tetrafluorodibenzo-p-dioxinを1日1回投与しても胎児の下垂体ホルモン低下は抑制できず、今後の検証が必要である。
このように、ダイオキシン類の慢性影響、生体内動態、毒性機構、次世代への影響について明らかになりつつある。将来的に、油症の症状を緩和する新しい治療薬の発見・開発につなげたい。
<疫学的研究>平成27年度に実施した地域住民対象の環境調査の結果をもとに、ダイオキシン類濃度と疾病および疾病マーカーとの間の相関について解析を進めた。また、ダイオキシン類異性体濃度と症状の変化との間の相関について解析したところ、弱いながら数項目において相関がみられた。継世代への影響においては、胎児期に母体を介してダイオキシン類に曝露すると、油症2世の卵巣の予備能に影響が及ぶことが明らかになった。
<基礎的研究>SP-Dはベンゾピレン投与に対して肺保護作用を有することが分かった。また、ベンゾピレン曝露による感覚鈍麻の発生機序の一端が明らかになった。紫蘇の成分、ぺリルアルデヒドにもダイオキシン類の毒性に拮抗し、抗酸化作用があることを見出した。2,4,6-三塩素置換ベンゼンを有するPCB異性体、PCB188は生体内で代謝されやすいことが明らかになった。妊娠期の2,3,7,8-tetrachlorodibenzodioxin(TCDD)曝露により出生児に性未熟が生じるが、出生後の児の脳で双極性 GnRH ニューロンが選択的に減少しているのが確認された。また、強い毒性を有するTCDDに拮抗する化合物の候補、TCDDの塩素原子を全てフッ素原子に置換した 2,3,7,8-tetrafluorodibenzo-p-dioxinを1日1回投与しても胎児の下垂体ホルモン低下は抑制できず、今後の検証が必要である。
このように、ダイオキシン類の慢性影響、生体内動態、毒性機構、次世代への影響について明らかになりつつある。将来的に、油症の症状を緩和する新しい治療薬の発見・開発につなげたい。
結論
油症発生から50年が経過した現在も、患者及び継世代への影響がみられた。今後もダイオキシン類が生体に及ぼす慢性の影響を把握し、油症患者に残存する症状を緩和する方法を開発すべく探求を継続する。なお、研究を通じて明らかになった様々な知見についてはホームページ、油症新聞等で広く公表した。
公開日・更新日
公開日
2018-04-26
更新日
2018-09-13