食品中の放射性物質濃度の基準値に関する影響と評価手法に関する研究

文献情報

文献番号
201723028A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の放射性物質濃度の基準値に関する影響と評価手法に関する研究
課題番号
H27-食品-指定-016
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
明石 真言(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 本部放射線緊急時支援センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 知之(京都大学 原子炉実験所)
  • 塚田 祥文(福島大学 環境放射能研究所)
  • 青野 辰雄(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
13,363,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成23年福島第一原子力発電所(FDNPS)事故により食品の摂取による内部被ばくが懸念された。厚生労働省は平成24年4月以降、介入線量レベルを1mSvとして基準値を適用した。この基準値は、放射性セシウム(Cs)濃度について基準値を設定し、その他の核種については、半減期が1年以上であるストロンチウム-90(Sr-90)、ルテニウム-106、プルトニウム-238、プルトニウム-239(Pu-239)、プルトニウム-240(Pu-240)及びプルトニウム-241を評価対象核種として、放射性Csとの濃度比を推定することにより、その線量への寄与を考慮している。内部被ばく線量に対する放射性Cs及びその他の核種の寄与率は、環境モニタリングによる土壌中放射性核種濃度や、これまでの環境移行パラメータによって推定されており、実際に食品中濃度を測定した結果に基づくものではない。本研究では食品中の放射性Cs及びその他の長半減期放射性核種の濃度変化について調査を行い、基準値作成に用いられた濃度比との比較や食品の摂取に起因する内部被ばく線量に対する放射性Csの寄与率の推定から、食品中の放射性Cs濃度の基準値の妥当性の検証および食品中放射性物質の濃度等に関する科学的知見の集約を行うことを目的とした。
研究方法
福島県いわき市から市場流通作物を購入し、農作物中の放射性Cs濃度と90Sr濃度を求めた。また福島県内で養殖、調理加工され、市場に流通する水産物とした。福島県内水面試験場の協力を得て情報収集を行い、平成30年1月に福島県の養殖業者から購入し、放射性物質と安定元素の測定を行った。放射性Csおよび90Srによる内部被ばく線量を推定するために、全ての食品がこの農作物や水産物に相当すると仮定する極めて保守的な方法と、安定カリウム(K)の摂取量を用いる方法で評価を実施した。90Srによる内部被ばく線量の推定は、安定カルシウム(Ca) の摂取量を用いる方法で評価を実施し、介入線量レベルを比較検討した。 またEUにおける食品中の放射性物質の規制値等の設定変更の背景や、FDNPS事故後の食品モニタリングデータを使用して算出された内部被ばくに関連する文献調査を行った。
結果と考察
浜通りいわき市内の圃場で栽培され、市場流通していた作物中放射性Cs平均濃度は、一般的なモニタリングでは検出できないほど低濃度になっていることが明らかになった。いわき市における作物中90Sr濃度は、福島県を除く全国農作物中90Sr濃度モニタリング結果と同様な範囲にあった。農作物から検出された90Sr濃度は大気圏核実験に由来する濃度と同程度であると考えられた。養殖鯉中の134Cs と137Csが検出された可食部とアラ部(1検体)の134Cs /137Cs放射能濃度比は0.11-0.12で、これはFDNPS事故由来であった。食品中の放射性物質濃度100Bq/kg-生重量の基準値を超える試料はなく、採取した魚種の可食部については、134Cs濃度は検出下限値以下または検出下限値に近い濃度であった。平成28年度採取試料の濃度から推定した放射性Csによる、極めて保守的な方法を用いた内部被ばく線量の評価結果は、19歳以上(男子)と19歳以上(女子)でそれぞれ0.0064mSvおよび0.0052mSvであり、介入線量レベルである年間1 mSvを大幅に下回っていた。安定カリウム(K)の摂取量を用いる方法で評価した結果は0.003-0.007mSvであった。また、90Srによる内部被ばく線量の推定について、安定Caの摂取量を用いる方法で評価した結果は、19才以下の年齢カテゴリーでは0.0011-0.0013mSv、成人では0.001mSv以下であった。介入線量レベルである年間1 mSvを大幅に下回っているが、マーケットバスケット法による年間放射線量を数倍上回っている。マーケットバスケット調査の「その他の食品」の寄与よりも市場希釈の効果が影響していると考えられる。
結論
営農再開地域における農作物中の放射性物質の濃度測定を行い、これまでのデータと比較すると共に、全国のモニタリング結果と比較・検証した。また福島県内で養殖され、市場流通する水産物を入手し、こ放射性物質濃度と安定元素の測定を行い、水産物に対する基準値導出における推定方法も妥当であることが示唆された。福島県産品の食品(農産物および水産物)の放射性Cs濃度および90Sr濃度を用いて内部被ばく線量評価を試みた結果、いずれについても介入線量レベルとして設定された年間1mSvよりも極めて低い値であり、現行の基準値によって食品中の放射性物質について安全性が十分に確保されていることを確認した。また食品中放射性物質濃度等に関する知見の評価検討のための基礎資料について取りまとめも行った。

公開日・更新日

公開日
2018-10-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-10-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201723028B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中の放射性物質濃度の基準値に関する影響と評価手法に関する研究
課題番号
H27-食品-指定-016
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
明石 真言(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 本部放射線緊急時支援センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 知之(京都大学 原子炉実験所)
  • 塚田 祥文(福島大学 環境放射能研究所)
  • 青野 辰雄(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成23年福島第一原子力発電所(FDNPS)事故により食品の摂取による内部被ばくが懸念された。厚生労働省は平成24年4月以降、介入線量レベルを1mSvとして基準値を適用した。放射性セシウム(Cs)濃度について基準値を設定し、その他の核種については、半減期が1年以上であるストロンチウム-90(Sr-90)、ルテニウム-106、プルトニウム-238、プルトニウム-239(Pu-239)、プルトニウム-240(Pu-240)及びプルトニウム-241を評価対象核種として、放射性Csとの濃度比を推定することにより、その線量への寄与を考慮している。内部被ばく線量に対する放射性Cs及びその他の核種の寄与率は、モニタリングによる土壌中放射性核種濃度や、環境移行パラメータによって推定されており、実際に食品中濃度を測定した結果に基づくものではない。本研究では食品中の放射性Cs及びその他の長半減期放射性核種の濃度変化について調査を行い、基準値作成に用いられた濃度比との比較や食品の摂取に起因する内部被ばく線量に対する放射性Csの寄与率の推定から、食品中の放射性Cs濃度の基準値の妥当性の検証および食品中放射性物質の濃度等に関する科学的知見の集約を行うことを目的とした。
研究方法
FDNPSから北西に位置する地域と営農再開を準備している地域、営農が再開されている浜通りの南相馬市と帰還の規制を解除した浪江町の試験圃場および福島県で最も人口の多い浜通りのいわき市から市場流通作物や試験栽培された農作物を採取し、放射性Cs濃度とSr-90濃度を求め、これまでに求めたデータと比較すると共に、全国のモニタリング結果と比較・検証した。また福島沖で採取され市場に流通する水産物と福島県の養殖業者から水産物を購入し、放射性物質と安定元素の測定を行った。農作物中放射性Cs濃度およびSr-90濃度、および海産物中放射性Cs濃度を用いて、放射性CsおよびSr-90による内部被ばく線量を推定した。放射性Csによる内部被ばく線量の推定については、全ての食品がこの農作物や水産物に相当すると仮定する極めて保守的な方法と、安定カリウム(K)の摂取量を用いる方法で評価を実施し、この評価結果と介入線量レベルを比較検討した。国際機関や諸外国等における食品中の放射性物質の規制値や基準値について、放射性物質の規制値や基準値に関する基礎的な資料を作成するため、規制値や基準値設定の背景や算出方法等について文献調査を行った。
結果と考察
FDNPSから北西に位置する放射性Csの沈着量が比較的高かった福島市、伊達市(平成23年度に作付したイネが500 Bq/kg-生重量を超えた地区)、および川俣町から市場流通している農作物、浜通りの南相馬市内で栽培され、市場流通していた農作物、営農再開を計画している浪江町の試験圃場から採取した4試料の農作物及び浜通りいわき市内の圃場で栽培され、市場流通していた作物中の放射性Cs濃度は基準値を下回り、地域によっては一般的なモニタリングでは検出できないほど低濃度になっていることが明らかになった。また福島県を除く全国農作物中放射性CsやSr-90濃度モニタリング結果と同様な範囲にあった。農作物から検出されたSr-90濃度は大気圏核実験に由来する濃度と同程度であると考えられる。また福島沖で採取された水産物中の放射性CsおよびK-40濃度の測定の結果では食品中の放射性物質濃度100Bq/kg-生重量の基準値を超える試料はなかった。農畜産物と海産物の摂取に起因する放射性Csによる、極めて保守的な方法を用いた内部被ばく線量の評価結果は、各年度での変動はあるものの、0.01mSv程度かそれ以下であり、介入線量レベルである年間1 mSvを大幅に下回っていた。安定Kの摂取量を用いる方法で評価した結果は0.001 mSvのオーダーであり、介入線量レベルである年間1 mSvを大幅に下回っていた。Sr-90による内部被ばく線量の推定について、安定Caの摂取量を用いる方法で評価した結果は、0.001mSvのオーダー以下であった。
結論
福島県内における農水産物中の放射性物質の濃度測定を行い、これまでの全国のモニタリング結果と比較・検証し、食品中の放射性物質の基準値導出における推定方法も妥当であることが示唆された。福島県産品の食品(農水産物)の放射性Cs濃度およびSr-90濃度を用いて内部被ばく線量評価を試みた結果、いずれについても介入線量レベルとして設定された年間1mSvよりも極めて低い値であり、基準値によって食品中の放射性物質の安全性が十分に確保されていることを確認した。また食品中放射性物質濃度等に関する知見の評価検討のための基礎資料について取りまとめも行った。

公開日・更新日

公開日
2018-10-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-12-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201723028C

成果

専門的・学術的観点からの成果
平成24年4月から厚生労働省は食品中放射性物質の基準値を適用した。この基準値に対して、国民が安心・安全を得ることができること、そして国内の食品の安全に関する根拠を示すことを目的に、放射性Cs以外の核種や安定元素を用いて、基準値の導出の推定方法が妥当であることを検証した。本課題で求めた内部被ばく線量は、介入線量レベルの年間1mSvよりも極めて低く、食品中の放射性物質の安全性が十分に確保されていることを確認した。また食品中放射性物質濃度等に関する知見の取りまとめも行った。
臨床的観点からの成果
非該当
ガイドライン等の開発
食品中の放射性物質の基準値の妥当性を評価するため福島県内、周辺地域と対象地域の作物について、検出された放射性核種の起源にも加味し、調査を行った。東電福島第一原発事故由来に起因する食品摂取に伴う年間内部被ばく線量は、Sr-90及びI-129の寄与を考慮しても、1 mSv/yの1/100を下回っており、現行の基準値によって食品中の放射性物質について安全性が十分に確保されていることを確認した。
その他行政的観点からの成果
国際機関や諸外国等における食品中の放射性物質の規制値や基準値等に関する基礎的な資料を作成する作業の一環として、ロシア、ウクライナおよびベラルーシにおける食品中の放射性物質の濃度レベルや規制の設定変更の根拠について、まとめることを目的に、ロシア(ソビエト社会主義共和国連邦も含む)、ウクライナおよびベラルーシにおけるチェルノブイリ事故後に実施された防護措置の中で、1986年から2016年まで食品中の放射性物質濃度レベルの変遷と規制の設定変更の根拠について資料のとりまとめを行った。
その他のインパクト
得られた成果は学会やシンポジウムだけでなく、招待講演(国内3件、国際4件)や新聞(1件)、雑誌や書籍(4件)を通して国内外に食品中放射性物質の状況について理解が得られるように発表を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件
放射化学の事典、東京新聞、経済同友(2015)、UNSCEAR、中部原子力懇談会情勢講演会、第32回台日工程技術研討会他(2017)、ICRR-HHE 2018 (2018) 

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
H. Tsukada, T. Takahashi, S. Fukutani and M. Akashi
Concentrations of radiocesium and 90Sr in agricultural plants collected from local markets and experimental fields before resuming agriculture in Fukushima Prefecture
Proceeding of the 14th International Congress of the International Radiation Protection Association (IRPA14) , 37-42  (2017)
原著論文2
T. Aono, S. Yoshida, and M. Akashi
Initial and present situation of food contamination in Japan after the accident at the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant
Radiation Protection Dosimetry , 171 , 14-19  (2016)
10.1093/rpd/ncw183

公開日・更新日

公開日
2018-10-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201723028Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
17,371,000円
(2)補助金確定額
17,371,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,613,478円
人件費・謝金 2,597,584円
旅費 319,540円
その他 4,832,698円
間接経費 4,008,000円
合計 17,371,300円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-03-18
更新日
-