食鳥肉におけるカンピロバクター汚染のリスク管理に関する研究

文献情報

文献番号
201723010A
報告書区分
総括
研究課題名
食鳥肉におけるカンピロバクター汚染のリスク管理に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-010
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 森田 幸雄(東京家政大学 家政学部)
  • 中馬 猛久(鹿児島大学 共同獣医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、食鳥肉の生産・処理・流通の各段階において、カンピロバクター汚染低減に資する衛生管理手法に関する科学的知見の集積を図り、より衛生的な食鳥肉の生産~消費に至るフードチェーンの在り方に関する提言を行うことで、本食中毒低減に資するガイドライン策定等の厚生労働行政に寄与することを目的として、食鳥肉に関わるフードチェーンを、(1)養鶏農場での生産段階、(2)食鳥処理場における解体段階、(3)加工・流通段階、(4)消費段階の4つに区分した上で、各工程における汚染低減手法に関する情報・データ収集を行うこととした。
研究方法
農場段階では、B. fragilis an-51株由来菌体破砕抽出物をブロイラー鶏に飲水とともに経口投与した際の出荷時齢鶏盲腸便中のカンピロバクター菌数変化を検討した。食鳥処理段階では、中抜き機による内臓破損がと体表面の衛生に及ぼす影響等を調査した。また、過酢酸製剤及び亜塩素酸ナトリウムのチラー槽への添加による中抜きと鳥のカンピロバクター汚染低減効果に関する検討を行った。加工・流通段階では、冷凍処理に伴う鶏肉の物性変化に関して検討を行った。消費段階では、生食用食鳥肉加工施設等の工程別汚染動態を調査したほか、臨床検査会社の協力を得て被害実態推定を行った。

結果と考察
農場段階では、鶏盲腸便より分離されC.jejuniの生存・増殖性に抑制作用を示したB. fragilis菌体破砕抽出物投与により、出荷時齢の鶏腸管内におけるカンピロバクター菌数は概ね2対数個/gの低減を示し、その有用性が示唆された。食鳥処理段階では、中抜き機の適切な管理と運用によりと鳥表面への腸内要物の汚染が低減へとつながることを示した。また、食品添加物として平成28年10月より食鳥肉表面の殺菌に使用可能となった、過酢酸製剤及び亜塩素酸ナトリウム溶液を用いた中抜きと鳥の浸漬処理は次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いた場合よりも有意にカンピロバクター汚染菌数を低減させることを定量的に示した。加工・流通段階では、鶏肉の冷凍処理に伴う肉質への影響を物性試験により評価し、空冷式の緩慢冷凍処理ではドリップ率が高まる傾向にあったものの、急速冷凍処理は冷蔵と同等のドリップ液漏出を示し、その活用は本菌汚染低減と品質保持の両面から利点として挙げられた。消費段階では、南九州地方の食鳥肉加工施設での工程別汚染動態調査を通じ、解体処理直後での湯引き・焼烙等の加熱工程設定が食鳥肉の本菌汚染低減に資するとの知見を得た。被害実態に関連する事項としては、食中毒として報告される数のおよそ2,600~5,600倍のカンピロバクター感染患者が存在すると推定された。
結論
本食中毒の主たる原因食品は食鳥肉であり、その割合は近年更に増加傾向にある。近年、我が国では特に大都市圏で調理・提供される鳥刺し等、生食或いは加熱不十分な鶏肉調理品が原因となる事例の割合が増加している。本研究では南九州地方で食文化としてある当該食品の製造加工工程を検討し、食鳥肉の製造から加工工程での一元的な衛生管理基準の設定等が本菌汚染制御に有効に機能し得ると考えられる。また、流通・消費段階を含めた段階的な汚染低減対策の複合的な導入も本食中毒の低減に寄与すると考えられる。更に、食中毒の原因特定率の向上に向けた取り組みや試験法の統一化、定量的試験法の開発普及を通じ、今後定量的リスク評価、更にはこれに基づくリスク管理策の構築が行われることを期待したい。

公開日・更新日

公開日
2018-05-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-05-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201723010B
報告書区分
総合
研究課題名
食鳥肉におけるカンピロバクター汚染のリスク管理に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-010
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 森田 幸雄(東京家政大学 家政学部)
  • 中馬 猛久(鹿児島大学 共同獣医学部)
  • 山本 茂貴(東海大学 海洋学部(平成28年12月まで))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
研究開始時より研究分担者であった山本茂貴博士については平成28年12月をもって、東海大学から内閣府食品安全委員会へ異動されたため、同月をもって研究分担者を辞退されたいとの連絡があり、同月に担当課へ連絡の上、必要となる変更手続きを行い、了承された。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、食鳥肉の生産・処理・流通の各段階でのカンピロバクター汚染低減に資する衛生管理手法に関する科学的知見の集積を図り、より衛生的な食鳥肉の生産~消費に至るフードチェーンの在り方に関する提言を行うことで、本食中毒低減に資するガイドライン策定等の厚生労働行政に寄与することを目的とした。
研究方法
(1)生産段階では、7養鶏農場より計120の鶏盲腸便検体を採材し、カンピロバクター定性検出試験を実施した。分離菌株は国際的モニタリング手法であるMLST解析を用いた型別試験に供し、代表検体の構成菌叢を併せて解析した。更にカンピロバクター属菌陰性農場で飼育される出荷時の鶏盲腸便検体よりBacteroides属菌を分離し、C. jejuniとの共培養試験に供した。最終年度には当該菌由来不活化抽出物を飲水と共に2農場の飼育鶏に投与し、出荷時鶏盲腸便中のカンピロバクター菌数への影響を評価した。
(2)食鳥処理段階では、海外の食鳥処理施設における衛生管理に関する情報収集を行うと共に、国内でエアーチラー設備を導入している食鳥処理施設の管理実態を調査した。また、外剥ぎ方式の1施設で解体処理された鶏肉の汚染率及び汚染菌数を求めた。大規模中抜き食鳥処理場における中抜き装置の管理運用体制とと鳥表面の糞便汚染との関連性について検討した。この他、生食用食鳥肉の解体・加工施設における衛生管理実態の把握につとめた。
(3)加工・流通段階では、冷凍処理による鶏肉中のカンピロバクター菌数の低減効果を定量的に求めると共に、同処理に伴う物性変化について検討した。また、鶏肉内部への当該菌の侵入性を検討した。
(4)消費段階では、南九州地方で製造流通される生食用鶏肉の汚染実態を加熱用鶏肉と比べ、半定量的に求めた。また、生食用食鳥肉の解体加工施設での工程別汚染挙動に関する検討を行った。
結果と考察
(1)生産段階では、Bacteroides属菌の構成比と農場別カンピロバクター保菌率との間に関連性を見出した。カンピロバクター陰性農場の鶏よりBacteroides fragilisを分離し、共培養試験を通じ、C.jejuniの生存増殖に抑制作用を示すことを明らかにした。当該菌由来不活化抽出物の経口投与試験を通じ、当該菌体由来抽出物が出荷時齢鶏腸管内でのカンピロバクター菌数の低減に資することを明らかにした。
(2)食鳥処理段階では、食中毒患者数を過去に半減させたニュージーランドの最大手食鳥処理施設を視察し、チラー槽の段階的管理、殺菌剤を含む洗浄水を用いた複数のシャワー励行が汚染低減に寄与したとの知見を得た。また、中抜き後と鳥の試験法であるリンスパック法に係る情報を得た。国内外剥ぎ式の解体処理施設で製造加工された鶏肉は一般的な中抜き式の鶏肉に比べ、汚染率では明確な差異はなかったが、汚染菌数は低い傾向にあった。大規模食鳥処理場での中抜機の管理運用はと鳥表面の糞便汚染実態と関連しており、危害箇所として検討する意義が示された。
(3)加工流通段階では、冷凍処理による鶏肉中のカンピロバクター菌数の低減効果を定量的に求め、急速・緩慢冷凍の別によらず、1~2対数個/gの汚染低減効果を示すことを明らかにした。急速冷凍処理は、チルド処理と同等の物性影響であったが、緩慢冷凍処理はドリップ率を上げ、品質を低下させた。市販鶏肉の表面加熱は一定の汚染低減効果を示したが、内部浸潤性は特にモモ肉で高く、1時間放置後には芯部に到達しており、中心部までの十分な加熱が通常処理された市販鶏肉の調理法として適切であることを裏付ける知見を得た。
(4)消費段階では、生食用鶏肉の汚染実態を加熱用鶏肉と比較し、前者は後者に比べ低い汚染菌数であることが明らかとなった。インターネット上で販売される鳥刺し製品(表面焼烙加工が施され、冷凍流通)は何れもカンピロバクター陰性であり、複合的な応用対策の効果によると考えられた。生食用食鳥肉の解体加工施設で工程別汚染挙動を検討し、解体処理直後の表面加熱(焼烙・湯引き等)は汚染低減に有効に機能していることが示された。
結論
食鳥肉によるカンピロバクター食中毒制御策を講じる上で、農場から消費に至るフードチェーン全体での対策を複合的に取り入れることが現実的な対策として有効に機能すると考えられる成績を得た。鶏肉の生食或いは加熱不十分な調理品は未成年、高齢者、免疫不全者等へ提供すべきものとは考え難い。鳥刺し等の調理提供にあたり、加熱用鶏肉を用いることは本食中毒のリスクが極めて高いといえ、南九州で実践される生食用鶏肉の解体処理・加工手法を施した鶏肉の導入をはじめとした現実的な対策設定を行うことが必要と考えられた。そのためにはリスク評価に向けた定量的データの収集とこれに基づいたリスク管理のためのガイドラインや規格基準に関する検討が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2018-07-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-07-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201723010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Bacteroides抽出物の鶏生体投与はカンピロバクター菌数を2対数個以上/g減少させることを示した。適切な中抜機管理運用が腸内容汚染低減に資する知見を得た。更に、過酢酸製剤・酸性亜塩素酸Naによる汚染低減効果は相対的に高いことを定量的に示した。急速冷凍処理はチルドと同等のドリップ率にとどまり有用であることを示した。南九州地方の生食用食鳥肉解体加工施設で工程別汚染動態を調査し、解体処理工程直後に湯引きや焼烙等の加熱工程を設定することが食鳥肉の本菌汚染低減に資することを示した。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
食鳥肉の解体処理工程等における衛生管理対策について、本研究班の成績に加え、海外情報や実証事業の成績を含め、事例集として取り纏め、担当課に提出した。本研究班の成果は厚生労働省実証事業の成果とあわせて、2019年3月11日付通知(薬生食監発0311第4号)「食鳥処理工程における微生物汚染低減策に関する事例集」の発出に寄与した。
その他行政的観点からの成果
厚生労働省カンピロバクターQ&Aの更新作業に反映させたほか、全国食肉食鳥肉衛生検査研修での講演、国立保健医療科学院食肉検査研修での講義、内閣府食品安全委員会カンピロバクターに関する情報交換会での報告、農林水産省食品安全セミナーでの発表等を行い、普及啓発につとめた。
その他のインパクト
新聞記事1回。全国食肉食鳥肉衛生検査研修での講演、国立保健医療科学院食肉検査研修での講義、内閣府食品安全委員会カンピロバクターに関する情報交換会での報告、農林水産省食品安全セミナーでの発表等を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
全国食肉食鳥肉衛生検査研修での講演、国立保健医療科学院食肉検査研修での講義、内閣府食品安全委員会カンピロバクターに関する情報交換会での報告、農林水産省食品安全セミナーでの発表等を行った。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishihara K, Chuma T, Andoh M et al.
Effect of climatic elements on Campylobacter colonization in broiler flocks reared in southern Japan from 2008 to 2012.
Poultry Sci. , 96 (4) , 931-937  (2017)
原著論文2
Asakura H, Takahashi N, Yamamoto S et al.
Draft genome sequence of Campylobacter jejuni CAM970 and C. coli CAM962, associated with a large outbreak of foodborne illness in Fukuoka, Japan, in 2016.
Genome Announc. , 5 (24) , e00508-17-  (2017)
原著論文3
Asakura H, Yamamoto S, Momose Y et al.
Genome Sequence of Clostridium botulinum strain Adk2012 associated with a foodborne botulinum case in Tottori, Japan, in 2012.
Genome Announc. , 5 (34) , e00872-17-  (2017)

公開日・更新日

公開日
2018-06-27
更新日
2022-06-03

収支報告書

文献番号
201723010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
14,000,000円
(2)補助金確定額
14,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 9,125,538円
人件費・謝金 655,200円
旅費 889,368円
その他 3,329,894円
間接経費 0円
合計 14,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-05-17
更新日
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