文献情報
文献番号
201706022A
報告書区分
総括
研究課題名
口腔内細菌叢とがん、糖尿病など全身疾患との関わりとその予防戦略
課題番号
H29-特別-指定-022
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
浅香 正博(北海道医療大学 がん予防研究所)
研究分担者(所属機関)
- 小林 正伸(北海道医療大学 がん予防研究所 )
- 古市 保志(北海道医療大学 歯学部)
- 中澤 太(北海道医療大学 歯学部)
- 安彦 善裕(北海道医療大学 歯学部)
- 長澤 敏行(北海道医療大学 歯学部)
- 高橋 伸彦(北海道医療大学 歯学部)
- 北市 伸義(北海道医療大学 予防医療科学センター)
- 藏滿 保宏(北海道医療大学 がん予防研究所 )
- 野口 圭士(北海道医療大学 予防医療科学センター)
- 浜田 淳一(北海道医療大学 看護福祉学部)
- 寺崎 将(北海道医療大学 薬学部)
- 秋田 定伯(福岡大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
2,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
歯周病の原因菌の一つであるP.gingivalis由来のLPS(PG-LPS)が諸臓器に急性炎症を引き起こさないマウスモデルにおける腎臓と膵臓の遺伝子発現を網羅的に検索してPG-LPS投与によって発現の変化した遺伝子を同定して歯周病菌と腎疾患、膵がんとの関連性を明らかにすること、また、膵がん、ベーチェット病、糖尿病などの各種疾患を有する被験者および全身的に健康な被験者から採取した口腔内検体に対しメタゲノム解析よって網羅的に細菌、細菌種および細菌叢の検索を行い、口腔内細菌叢と全身疾患との関連を検討する。
研究方法
歯周病原細菌P.gingivalis由来LPS(PG-LPS)をマウスに腹腔内投与し、腎臓組織像の観察と炎症性変化の評価、mRNA発現の変化の網羅的解析を行った。同定された遺伝子のPG-LPS処理培養マウス腎内皮細胞でのreal-time RT-PCRによるmRNA発現の変化の解析を行った。
PG-LPSをマウスに腹腔内投与し、膵臓のmRNA発現の変化の網羅的解析を行った。また組織像の観察、発現が上位であった遺伝子産物の免疫染色を行った。
患者膵がん組織メタゲノム解析で細菌叢解析を行った。
健常者とベーチェット病患者の唾液から細菌DNAの抽出して口腔細菌叢のメタゲノム解析を行った。
PG-LPSをマウスに腹腔内投与し、膵臓のmRNA発現の変化の網羅的解析を行った。また組織像の観察、発現が上位であった遺伝子産物の免疫染色を行った。
患者膵がん組織メタゲノム解析で細菌叢解析を行った。
健常者とベーチェット病患者の唾液から細菌DNAの抽出して口腔細菌叢のメタゲノム解析を行った。
結果と考察
歯周病原細菌P.gingivalis由来LPS全身投与の腎臓に与える影響に関する研究では、PG-LPS投与が組織学的な明らかな急性炎症を引き起こしてはいなかったが、免疫染色にてTNF-αやeNOSなど炎症性物質の発現がみられた。これら炎症性物質が遺伝子発現の変化を引き起こし腎臓における発がんリスクの上昇に悪影響を及ぼす可能性はあるのではないかと思われた。
マウスへのPG-LPSのin vivoでの投与によって発現変化の見られた5遺伝子すべてがPG-LPS添加の培養腎内皮細胞において発現が増加しており、PG-LPSによる作用の標的細胞は腎内皮細胞である可能性が示唆された。
PG-LPS腹腔内投与マウス膵臓でReg3gの発現が確認され、免疫染色でランゲルハンス島周辺部のα細胞相当部にReg3g陽性細胞が確認された。Reg3gは膵がんに特異的に増加が認められることからPG-LPS投与によりReg3g発現が増強され、炎症関連がん進行に関与する可能性が考えられる。
膵がん組織DNA検体に歯周病原細菌が検出されたことから膵がん患者の膵臓に歯周病原因菌が恐らく血中を通って膵臓に到達している可能性が示唆された。膵がんと歯周病との関連はいまだ不明であるが、今後、膵がん以外の患者の膵臓DNAの細菌叢との比較を行い、さらなる検討を重ねたい。
口腔細菌とベーチェット病発症の関係性に関する研究ではベーチェット病患者、サルコイドーシス患者、Vogt-小柳-原田病患者の口腔細菌叢のメタゲノム解析の結果、全群間の細菌種の数に統計学的な有意差は認められなかった。文献的には健常人の口腔内にはStreptococcus、Haemophilus、Neisseria、Prevotella、Veillonella、Rothia属の順に多く、健常者と比較して口腔潰瘍を有するベーチェット病患者にはBifidobacterium concisus、Prevotella histicola、Clostridiales、Neisseria種などの細菌量に有意差があることが報告されているが、本研究では各群共に前述した報告のある細菌が多く含まれていた。さらに被験者数を増やし詳細な細菌叢解析を行うと共に口腔内の状態を把握することが必要であると思われる。
マウスへのPG-LPSのin vivoでの投与によって発現変化の見られた5遺伝子すべてがPG-LPS添加の培養腎内皮細胞において発現が増加しており、PG-LPSによる作用の標的細胞は腎内皮細胞である可能性が示唆された。
PG-LPS腹腔内投与マウス膵臓でReg3gの発現が確認され、免疫染色でランゲルハンス島周辺部のα細胞相当部にReg3g陽性細胞が確認された。Reg3gは膵がんに特異的に増加が認められることからPG-LPS投与によりReg3g発現が増強され、炎症関連がん進行に関与する可能性が考えられる。
膵がん組織DNA検体に歯周病原細菌が検出されたことから膵がん患者の膵臓に歯周病原因菌が恐らく血中を通って膵臓に到達している可能性が示唆された。膵がんと歯周病との関連はいまだ不明であるが、今後、膵がん以外の患者の膵臓DNAの細菌叢との比較を行い、さらなる検討を重ねたい。
口腔細菌とベーチェット病発症の関係性に関する研究ではベーチェット病患者、サルコイドーシス患者、Vogt-小柳-原田病患者の口腔細菌叢のメタゲノム解析の結果、全群間の細菌種の数に統計学的な有意差は認められなかった。文献的には健常人の口腔内にはStreptococcus、Haemophilus、Neisseria、Prevotella、Veillonella、Rothia属の順に多く、健常者と比較して口腔潰瘍を有するベーチェット病患者にはBifidobacterium concisus、Prevotella histicola、Clostridiales、Neisseria種などの細菌量に有意差があることが報告されているが、本研究では各群共に前述した報告のある細菌が多く含まれていた。さらに被験者数を増やし詳細な細菌叢解析を行うと共に口腔内の状態を把握することが必要であると思われる。
結論
マウスへのPG-LPSのin vivo投与によって腎組織中で発現の変化した遺伝子を5つ同定した(Saa3、Ticam2、Reg3b、Oxct2a、Xcr1)。これら5つの遺伝子はPG-LPSでin vitro処理した培養マウス腎内皮細胞で有意に発現が増強していることから、PG-LPSのin vivo投与による腎臓での5つの遺伝子発現増強は腎内皮細胞に由来することが示唆された。
マウスへのPG-LPSのin vivo投与によって膵臓組織中でのReg3gの発現が有意に増強していることが明らかとなった。また、膵がん組織で実際に歯周病菌が同定された。
ベーチェット病患者、サルコイドーシス患者、Vogt-小柳-原田病患者の口腔細菌叢のメタゲノム解析の結果、各疾患群とも異なったクラスターを形成することが示唆された。
実質わずか半年の研究期間では、まだ結論までには至らない結果ではあったが、慢性腎疾患、膵がんへの歯周病の関与が疑われる結果となったことから、歯周病の全身疾患への関りが疑われ、歯周病の予防が多くの疾患に対する予防となりうる期待が持たれる結果であった。
マウスへのPG-LPSのin vivo投与によって膵臓組織中でのReg3gの発現が有意に増強していることが明らかとなった。また、膵がん組織で実際に歯周病菌が同定された。
ベーチェット病患者、サルコイドーシス患者、Vogt-小柳-原田病患者の口腔細菌叢のメタゲノム解析の結果、各疾患群とも異なったクラスターを形成することが示唆された。
実質わずか半年の研究期間では、まだ結論までには至らない結果ではあったが、慢性腎疾患、膵がんへの歯周病の関与が疑われる結果となったことから、歯周病の全身疾患への関りが疑われ、歯周病の予防が多くの疾患に対する予防となりうる期待が持たれる結果であった。
公開日・更新日
公開日
2018-09-19
更新日
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