非燃焼加熱式たばこにおける成分分析の手法の開発と国内外における使用実態や規制に関する研究

文献情報

文献番号
201706006A
報告書区分
総括
研究課題名
非燃焼加熱式たばこにおける成分分析の手法の開発と国内外における使用実態や規制に関する研究
課題番号
H29-特別-指定-006
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
欅田 尚樹(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 稲葉 洋平(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 伊藤 加奈江(戸次 加奈江)(国立保健医療科学院 生活環境研究部 )
  • 木村 和子(金沢大学 医薬保健研究域薬学系 国際保健薬学)
  • 田淵 貴大(地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター がん対策センター疫学統計部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
24,007,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加熱式たばこは,国内で普及が急速に進んでいるが健康への影響に関して一定の見解が得られていない。販売実績の大半が日本国内であるため,世界に先駆け科学的な知見を創出していくことが求められている。加熱式たばこから発生する有害化学成分の分析,受動喫煙影響評価につながる研究,我が国の普及率及び海外での規制の状況について研究を実施した。
研究方法
対象製品;IQOS,glo,Ploom TECH,および比較対象とする標準紙巻きたばこ
1.加熱式たばこ葉中成分分析
ニコチン,発がん性物質を含むたばこ特異的ニトロソアミン類(TSNAs),アンモニア,グリセロール類,金属類,ポロニウム-210など。
2.加熱式たばこから発生する成分の分析
1)主流煙/エアロゾルの分析
・自動喫煙装置における主流煙捕集法;ISO法(紙巻たばこパッケージ表示に使用されている捕集法),HCI法(ヒトの喫煙行動により近い捕集法)等
・測定主流煙成分;ニコチン,一酸化炭素,TSNAs,多環芳香族炭化水素類,カルボニル類,揮発性有機化合物(ベンゼン等)
2)受動喫煙曝露実験
実験室における模擬的な受動喫煙曝露環境下における,たばこ煙曝露マーカーとして尿中ニコチン代謝物(コチニン,3-ハイドロコチニン)。
3. 国内の使用実態調査
平成26年度に電子タバコの問題が注目された際に厚生労働科学研究委託費により,各種たばこの国内での使用実態調査をWEBアンケートにより実施した。同じ調査対象パネルに対してIQOS等の新規たばこを含む使用実態や使用者の禁煙意識に及ぼす影響等の調査を実施した。
4.各国における規制上の課題の整理
新規たばこに関する製品規制のあり方を,各国規制担当者へのアンケート調査および文献情報に基づいて整理した。
結果と考察
1.加熱式たばこ葉中成分分析
WHOから規制の必要性を提案されるTSNAsとアンモニアは紙巻たばこより低減され,ポロニウム-210は若干高く,金属類,ニコチンは紙巻たばこと同程度であった。また,たばこ葉のグリセロール類は,紙巻たばこより高濃度であった。
2.加熱式たばこから発生する成分の分析
1)主流煙/エアロゾルの分析
全体的に,総化学物質発生量(TGPM)はIQOS, glo, PloomTECHと紙巻たばこに大きな差はなかった。しかし,加熱式たばこから発生する化学物質のほとんどは水分やプロピレングリコールであり,ベンゼンやホルムアルデヒドといった発ガン性化学物質は,従来の燃焼式紙巻たばこと比較して削減されていた。さらに粒子状成分のTSNAsと多環芳香族炭化水素は低減されていた。しかし,ニコチンは,いずれも相当量発生するため受動喫煙対策が必要である。グリセロール類は,たばこ葉同様に,紙巻たばこより高濃度であった。
2)加熱式たばこの受動喫煙曝露研究
加熱式たばこの受動喫煙環境下においても尿中代謝産物の増加が観察されるものもあったが,紙巻きたばこに比べ低濃度であった。
3. 国内の使用実態調査
2015年1月~2月に実施したインターネット調査の回答者である15-69歳の男女8240人を対象として2018年1月~3月に追跡調査を実施した。その結果,男性の10.6%,女性の3.1%,男女合計の6.9%がIQOSの現在使用者であった。男女合計における現在使用の割合は,gloで2.8%,PloomTECHで2.1%,電子たばこで1.9%,いずれかの製品では9.7%であった。
4.各国における規制上の課題の整理
各国の規制の状況については,質問表調査(13カ国の保健衛生担当政府機関及びWHO,欧州連合のたばこ規制部門)並びに文献検索・情報収集を行い取りまとめた。
結論
国内で,特異的に加熱式たばこが流行した背景には,諸外国ではむしろニコチン入りの電子たばこが普及しているが,国内ではニコチン入りの電子たばこは医薬品医療機器等法で規制されていることも関係していると考えられる。
米国ではFDAにたばこ製品規制に関する強力な権限が与えられModified Risk Tobacco Products(MRTPs)の承認制度が設けられている。IQOSについても申請が出されているが,2018年1月の諮問委員会においては,有害化学物質の発生低減は認められるが,リスクが低減されたたばこ製品としての主張は退けられた。
WHOは,加熱式たばこ製品情報シートを公開し,販売後の期間も短いため疫学的な健康影響は未だ評価できないが,継続した評価が必要であると主張している。健康影響に関しては,加熱式たばこによる禁煙効果,若者のたばこ使用を誘導する(ゲートウエイ効果),あるいは,紙巻きたばことの併用(デュアルユース・二重使用)の可能性,などについても未解決であり,継続した評価が必要である。

公開日・更新日

公開日
2018-07-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-07-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201706006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究班成果として発表した論文は,2018年1月の米国FDAのMRTPの審査のための諮問委員会資料,同2月にPublic Health England から公開された「Evidence review of e-cigarettes and heated tobacco products 2018」など幅広く引用されると共に,WHOのTobLabNet等も情報交換を継続している。
臨床的観点からの成果
アンケート調査より,国内での加熱式たばこの使用者の増加が改めて確認され,今後の禁煙および受動喫煙影響への評価継続がもとめられる。
ガイドライン等の開発
健康増進法の一部を改正する法律案 (平成30年3月9日閣議決定)に関連して厚生労働省が発表した,参考資料「加熱式たばこにおける科学的知見」において,当研究班の成果が引用・紹介された。タバコ主流煙の有害化学成分の分析法標準化をWHOとともに進めてきたが,我々の研究成果がWHO TobLabNet SOP08 および09として,2018年秋に発行された。
その他行政的観点からの成果
本研究で得られた成果は,国立保健医療科学院が実施する,自治体職員を対象とした研修へ情報提供することで,直接現場の専門家へ反映させることができ,人材育成にも貢献することができた。さらに,得られた知見と対応策により,国民の安全な生活環境の提供を目指した,健康危機管理にも務めることができた。
その他のインパクト
「日本麻酔科学会周術期禁煙ガイドライン」,「日本禁煙推進医師歯科医師連盟緊急声明」,「日本禁煙学会緊急声明」,「非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに対する日本呼吸器学会の見解」等,学協会等が電子タバコ,加熱式たばこ等に関するガイドラインおよび声明等を発行するにあたって研究班成果論文が幅広く引用された。各学会シンポジウムおよび日本医学会連合「加熱式たばこと健康」シンポジウム等での研究班成果公開は幅広くメディアでも紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
19件
うちシンポジウム等企画依頼発表10件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Inaba Y, Uchiyama S, Kunugita N.
Spectrophotometric determination of ammonia levels in tobacco fillers of and sidestream smoke from different cigarette brands in Japan.
Environ Health Prev Med. , 23 (1)  (2018)
doi:10.1186/s12199-018-0704-5
原著論文2
Miyazaki Y, Tabuchi T.
Educational gradients in the use of electronic cigarettes and heat-not-burn tobacco products in Japan.
PloS one , 13 , e0191008-  (2018)
doi: 10.1371/journal.pone.0191008.
原著論文3
Tabuchi T, Gallus S, Kunugita N, et al.
Heat-not-burn tobacco product use in Japan: its prevalence, predictors and perceived symptoms from exposure to secondhand heat-not-burn tobacco aerosol.
Tob Control  (2017)
doi: 10.1136/tobaccocontrol-2017-053947.
原著論文4
Bekki K, Inaba Y, Kunugita N, et al.
Comparison of Chemicals in Mainstream Smoke in Heat-not-burn Tobacco and Combustion Cigarettes.
J. UOEH , 39 , 201-207  (2017)
doi: 10.7888/juoeh.39.201.
原著論文5
Uchiyama S, Noguchi M, Kunugita N, et al.
Simple Determination of Gaseous and Particulate Compounds Generated from Heated Tobacco Products
Chem Res Toxicol , 31 , 585-593  (2018)
doi: 10.1021/acs.chemrestox.8b00024
原著論文6
Tabuchi T, Shinozaki T, Kunugita N et al.
Study Profile: The Japan "Society and New Tobacco" Internet Survey (JASTIS): A longitudinal internet cohort study of heat-not-burn tobacco products, electronic cigarettes and conventional tobacco products in Japan
J Epidemiol  (2018)
doi: 10.2188/jea.JE20180116

公開日・更新日

公開日
2018-06-08
更新日
2022-05-26

収支報告書

文献番号
201706006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
24,007,000円
(2)補助金確定額
23,954,000円
差引額 [(1)-(2)]
53,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 14,071,338円
人件費・謝金 3,535,264円
旅費 1,126,861円
その他 5,220,760円
間接経費 0円
合計 23,954,223円

備考

備考
53,000円返還(自己資金223円)

公開日・更新日

公開日
2019-01-31
更新日
-