宮城県における東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査

文献情報

文献番号
201625021A
報告書区分
総括
研究課題名
宮城県における東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査
課題番号
H25-健危-指定(復興)-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 押谷 仁(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 松岡 洋夫(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 八重樫 伸生(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 永富 良一(東北大学 大学院医工学研究科)
  • 井樋 栄二(東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
41,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
第1に、長期にわたり被災者の健康状態や生活環境の推移を把握して、被災者の健康管理のために必要な対応を図ること。これにより、被災者と被災自治体を支援する。第2に、コホート研究として、被災者における生活環境や健康状態と予後を長期追跡して、震災後の生活環境が被災者の健康状態や予後に及ぼす影響について検討すること。これにより、大規模災害が発生した際における被災者支援のあり方を検討する。
研究方法
石巻市沿岸部の住民、仙台市若林区のプレハブ仮設入居者および七ヶ浜町民を対象に、被災者健康調査(アンケート調査)を実施した。18歳以上の住民を対象に、健康状態、食事、睡眠、心理的苦痛、震災の記憶、職業・収入、周囲への信頼感などを調査した。18歳未満の者には、医療の状況、睡眠、保育・学校や友人に関する状況、こころと行動の変化、保護者のストレスなどを調査した(中学生までは保護者が回答、高校生相当は本人が回答)。65歳以上には基本チェックリストと生活不活発病チェックリストを追加した。調査参加者の同意に基づいて、予後(生存死亡、医療受療状況と介護保険認定など)と特定健診成績に関する情報を入手した。これらのデータをもとに、心身の健康状態や医療費、介護保険認定率の推移を検討するとともに、その関連要因について解析した。
 被災者健康調査の結果をもとに、保健医療上の支援として、被災者健康調査の結果説明や健康講話とともに栄養講話、栄養指導を実施し、地域住民の健康づくりに向けた支援を行った。こころや行動の変化に注意が必要な児童については、自治体に情報を提供し、アセスメントを行う契機としての役割を担った。高齢者においては基本チェックリストを使用して要介護発生リスクを評価し、自治体に情報を提供した。
 本調査研究は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守しており、東北大学大学院医学系研究科倫理審査委員会の承認を受けている。
結果と考察
震災6年目の被災地域住民の健康状態や生活環境の推移などを把握した。参加者は、石巻市雄勝・牡鹿地区(網地島を含む)の住民、仙台市若林区仮設入居者、七ヶ浜町の住民を合わせて、第11期3,404名、第12期4,742名であった。調査結果の概要を述べる。第1に、被災地域住民では睡眠障害が疑われる者、心理的苦痛が高い者、震災の記憶がある者の割合は改善傾向を示したが、全国平均と比べてまだ高かった。第2に、就業状況、経済状況(暮らし向き)は、地域や個人の復興状態の影響によって違いがみられ、それが格差として拡大していく傾向が見られた。第3に、居住の変化にも地域差がみられ、たとえば仙台市若林区では復興公営住宅や防災集団移転団地に居住する者が40%を超えた一方で、石巻市では未だ10%以下であった。第4に、高齢者における介護保険認定率は、2011年3月の6.3%から2016年3月には16.4%へと、2.6倍増加した。昨年度の本研究では、心理的苦痛が高い者、1日平均歩行時間が短い者で要介護認定リスクが有意に上昇することを報告した。これらのリスク要因は被災高齢者に多い問題であるため、今後さらに要介護高齢者が増える恐れがある。被災地域における街づくりとリンクさせた形での介護予防の取組みが求められている。第5に、プレハブ仮設での入居期間が長くなるほど、メンタルヘルスの悪化した者が多く、改善した者は少なかった。生活再建できた者から先に仮設住宅を出ていく中で、そこに住み続ける人たちは「取り残され感」を持ち、将来の展望も持ち難いためにメンタルヘルスが悪化していくものと思われる。第6に、プレハブ仮設から復興公営住宅や新居へ転居した者では、心理的苦痛の増加や暮らし向きの苦しさが続いている。一方、防災集団移転団地に転居した者では、そのような問題が少ないことも分かった。今後、その違いに関する要因の解明に努めるとともに、さらに追跡を続けて推移を見守る必要がある。第7に、高校生とその母親との間で、K6得点は中等度の相関、アテネ不眠尺度得点は軽度の相関があった。親と子のメンタルヘルスは相互に影響を与えていた可能性が示唆された。
結論
本年度も年2回の被災者健康調査(アンケート調査)により、被災生活の長期化にともなう健康影響を調査した。震災から6年目にあたり、仮設住宅からの転居(新居・復興公営住宅・防災集団移転団地など)も進むなかで、心身の健康やや暮らし向きなどにも格差が拡大してきた。高齢者では介護保険認定率が増加し続けている。また、プレハブ仮設住宅に住み続ける者でメンタルヘルスの悪化が見られた。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201625021Z