地表水を対象とした浄水処理の濁度管理技術を補完する紫外線処理の適用に関する研究

文献情報

文献番号
201625002A
報告書区分
総括
研究課題名
地表水を対象とした浄水処理の濁度管理技術を補完する紫外線処理の適用に関する研究
課題番号
H26-健危-一般-004
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
大垣 眞一郎(公益財団法人水道技術研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 安藤 茂(公益財団法人水道技術研究センター )
  • 佐々木 史朗(公益財団法人水道技術研究センター )
  • 富井 正雄(公益財団法人水道技術研究センター )
  • 島崎 大(国立保健医療科学院)
  • 神子 直之(立命館大学 理工学部)
  • 大瀧 雅寛(お茶の水女子大学 基幹研究院)
  • 小熊 久美子(国立大学法人東京大学 先端科学技術研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,391,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の水道水源の多くは地表水であるが、耐塩素性病原微生物の汚染が懸念されている。厚生労働省は、クリプトスポリジウム等対策指針を策定し、その対策を求めているが、特に小規模水道においては、未対応の施設が残っている。また、クリプトスポリジウム等対策の目標であるろ過水濁度0.1度以下を常時維持することに困難を感じている水道事業者も見受けられ、近年、急激な濁度上昇等の増加と相俟って懸念が増している。一方、これまで国内で地表水を対象とした紫外線処理の導入例はなく、関連する研究も少ない。このような背景から、本研究では、濁度管理を補完する技術としての地表水を対象とした紫外線処理の適用について検討した。
研究方法
本研究の平成28年度における具体的な検討課題ごとの研究方法を以下に示す。
1. 原水条件及び処理効果の検討
懸濁物質による散乱光の影響を明らかにするため、濁度による吸光度と溶存物質による吸光度の和が同一となるように試料を調整し、濁度および吸光度を変化させた試料に大腸菌ファージを添加して、紫外線照射前後の生残率により紫外線照射の効果を定量した。
2. 照射手法及び設計諸元の検討
本課題は、濁度変動に対応する紫外線照射量の検討、及び紫外線処理設備の照射手法及び設計諸元の検討の二項目の課題がある。前者は浄水場原水及び浄水場汚泥懸濁液における可視光及び紫外線の吸光度と積分球式吸光度を測定し、濁度比と散乱分率を求め、昨年の結果と合わせ検討を行った。後者はH27年度に得られた実験結果についてさらに検討を行った。
3. 維持管理上の留意事項の検討
海外文献による留意点の抽出と、既設の浄水施設に紫外線処理装置を追加する場合を想定した事例検討を行った。
結果と考察
1.原水条件及び処理効果の検証
濁質を含む水における紫外線照射の効果を算定する場合、254nm吸光度を用いて平均紫外線量を算定することで可能であった。不活化に有効な散乱紫外線量については、積分球式で測定した吸光度を用いて算定することが可能であった。また、紫外線照射装置の性能評価を行う場合には、できる限り病原微生物と同じ紫外線耐性を持つ微生物を用いて実験を行う必要があるという結果を得た。
2.紫外線の照射手法及び設計諸元の検討
濁質による紫外線の吸収・散乱を評価する手法として、吸光度値と積分球式吸光度値から求める散乱分率によって懸濁溶液の可視光散乱特性が評価できることがわかった。また、X線回折を行った結果、紫外線の散乱程度が高い物質についてはいずれも石英結晶の存在が認められ、可視光ならびに紫外線の散乱性を高めていると考えられた。
平成27年度の実験結果より、水中に懸濁粒子が存在しても紫外線消毒を阻害しない場合、粒子による紫外線の散乱で消毒効率が高まる場合のあることが示された。紫外線処理は濁度上昇に対しある程度の頑健性を有しており、ろ過水で想定する濁度変動の範囲では、濁度による紫外線処理性能の低下は有意差を検知できないレベルであると推察された。また、少なくとも現行の地表水以外への紫外線処理適用要件(濁度2度以下、色度5度以下、紫外線透過率75%以上)を満たす限り、適切に設計された紫外線処理装置であれば、原水の由来によらず、濁質による処理効率の有意な低下は生じないと考えられた。総じて、紫外線処理の適否は、原水が地表水であるかどうかではなく、紫外線を照射する段階の水質で判定することが合理的と考えられた。
3. 維持管理上の留意事項の検討
参照した諸外国における水道水に由来する過去のクリプトスポリジウムへの集団感染事例では、いずれも病原微生物が、浄水処理工程において適切に除去されておらず、またいずれの場合も、水道施設の設計、日常の運転管理、職員の教育など複層的な問題点が指摘されていた。また、WHO技術文書にもあるように、濁度は浄水処理の各プロセスが適切に機能しているか判断する上で重要な管理指標の一つであり、その推移は継続的に監視すべきである。また事例検討の結果、既存の砂ろ過処理を行っている施設に紫外線処理装置を後付で設置する場合、用地及び損失水頭の制約により浄水池以降の設置となる可能性が高いという結果を得た。
結論
現行の濁度管理のみに依存したクリプトスポリジウム等のリスクの制御には限界があり、この点において、既存の濁度管理技術に加えての紫外線照射技術の適用は、有効であることを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201625002B
報告書区分
総合
研究課題名
地表水を対象とした浄水処理の濁度管理技術を補完する紫外線処理の適用に関する研究
課題番号
H26-健危-一般-004
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
大垣 眞一郎(公益財団法人水道技術研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 安藤 茂(公益財団法人水道技術研究センター )
  • 佐々木 史朗(公益財団法人水道技術研究センター )
  • 富井 正雄(公益財団法人水道技術研究センター )
  • 島崎 大(国立保健医療科学院)
  • 神子 直之(立命館大学 理工学部)
  • 大瀧 雅寛(お茶の水女子大学 基幹研究院)
  • 小熊 久美子(国立大学法人東京大学 先端科学技術研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の水道水源の多くは地表水であるが、耐塩素性病原微生物の汚染が懸念されている。厚生労働省は、クリプトスポリジウム等対策指針を策定し、その対策を求めているが、特に小規模水道においては、未対応の施設が残っている。また、クリプトスポリジウム等対策の目標であるろ過水濁度0.1度以下を常時維持することに困難を感じている水道事業者も見受けられ、近年、急激な濁度上昇等の増加と相俟って懸念が増している。一方、これまで国内で地表水を対象とした紫外線処理の導入例はなく、関連する研究も少ない。このような背景から、本研究では、濁度管理を補完する技術としての地表水を対象とした紫外線処理の適用について検討した。
研究方法
1. 濁度管理等における課題の抽出
地表水を対象とした濁度管理等の実態調査、及び地表水以外を対象とした紫外線処理設備の維持管理の実態把握及び課題の抽出を行った。両調査とも、事前アンケート、ヒアリング調査、及び一部施設について現地調査を行った。
2. 原水条件及び処理効果の検討
濁質が不活化効果へ与える影響を定量的に明らかにすることを目的として、濁質存在下での回分式紫外線照射試験を行った。紫外線照射槽の性能評価においては紫外線耐性の異なる微生物を流水式紫外線照射槽に流す実験を行った。
3. 紫外線の照射手法及び設計諸元の検討
3-1濁度変動に対応する紫外線照射線量の検討
濁質による紫外光散乱による影響を考慮して紫外線処理を評価するための指標を提案した。この指標の有効性を確認するため、人工濁質試料、浄水場原水、浄水汚泥懸濁液等の吸光度と積分球式吸光度を測定し、さらに光散乱特性との関連性について検討するためX線回折を行った。
3-2紫外線処理設備の照射手法及び設計諸元の検討
ろ過処理等の機能低下とともに増加する物質として、水中の懸濁粒子がある。懸濁粒子は、紫外線の水中への透過を阻害したり、微生物を紫外線から遮蔽したりして、処理効率を低下させる可能性がある。これらを踏まえ、濁質粒子の特性(素材、色、粒径)が紫外線処理に及ぼす影響について実験を行った。粒子特性の異なる懸濁粒子を含む試料に微生物を添加し、紫外線不活化実験を行った。
4. 維持管理上の留意事項の検討
海外文献によって留意点を抽出し、既設の浄水施設に紫外線処理装置を追加する場合を想定した事例検討を行い、原水の紫外線吸光度が比較的高い急速ろ過施設のろ過水吸光度を調査した。
結果と考察
1. 濁度管理等における課題の抽出
ろ過水濁度が上昇しやすいのは、高濁度時、ピコプランクトン流入時、及び洗浄時であり、適切な処理設備が未整備であるか、あるいは浄水処理の状況判断と対応を的確に行える技量をもつ人材不足の状況がうかがえた。とくに小規模事業体において、対策指針に沿った設備改造を行うのは、容易でない状況であるように見受けられた。
2. 原水条件及び処理効果の検証
粒子による紫外線の散乱で不活化効率が高まる場合、積分球式吸光度で算定した吸光度を用いて紫外線量を算定すればその値がlog生残率と線形関係にあること、紫外線照射装置の性能評価を行う場合には、できる限り病原微生物と同じ紫外線耐性を持つ微生物を用いて実験を行う必要があることを明らかにした。
3.紫外線の照射手法及び設計諸元の検討
3-1濁度変動に対応する紫外線照射線量の検討
提案した濁度比は、可視光の散乱分率を表す指標として利用可能である。粒子による紫外線の散乱で不活化効率が高まる場合には石英が関係していることを明らかにした。
3-2紫外線処理設備の照射手法及び設計諸元の検討
濁質粒子存在下での大腸菌または大腸菌ファージMS2を添加した紫外線不活化実験結果から、水中に懸濁粒子が存在しても紫外線消毒を阻害しない場合や、粒子による紫外線の散乱で消毒効率が高まる場合のあることが示された。少なくとも現行の地表水以外への紫外線処理適用要件(濁度2度以下、色度5度以下、紫外線透過率75%以上)を満たす限り、原水の由来によらず、濁質による処理効率の有意な低下は生じないと考えられた。総じて、紫外線処理の適否は、原水の由来ではなく、紫外線を照射する段階の水質で判定することが合理的であると考えられた。
4. 維持管理上の留意事項の検討
参照した諸外国における水道水に由来する過去のクリプトスポリジウムへの集団感染事例では、いずれも病原微生物が浄水処理工程において適切に除去されておらず、また、水道施設の設計、日常の運転管理、職員の教育など複層的な問題点が指摘されていた。
結論
現行の濁度管理のみに依存したクリプトスポリジウム等のリスクの制御には限界があり、この点において、既存の濁度管理技術に加えての紫外線照射技術の適用は、有効であることを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201625002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
クリプトスポリジウム等対策のため,地表水への紫外線処理の適用の研究成果として,「水中の懸濁粒子が紫外線消毒効率に及ぼす影響」について,成果を得たので水環境学会誌に発表した。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
平成29年度第1回水道における微生物問題検討会にて,水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針の見直し検討のため、本科研の報告書が資料として紹介された。令和元年5月29日、水道施設の技術的基準を定める省令の一部を改正する省令について及び「水道水中のクリプトスポリジウム等対策の実施について」の一部改正について,厚生労働省医薬・生活衛生局水道課は水道事業者等への通知・事務連絡を行った。その後は、論文,セミナー等で技術的内容の普及に努めている。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
2件
水環境学会誌にて2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
全国水道会議や日本水環境学会にて直近3年間で合計7件発表
学会発表(国際学会等)
6件
IWA(豪州)を含め、4ヶ国の国際会議で発表
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
30件
各種セミナー等。R元年度は5件実施。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
小熊久美子, 滝沢智 他
水中の懸濁粒子が紫外線消毒効率に及ぼす影響
水環境学会誌 , 40 (2) , 59-65  (2017)
http://doi.org/10.2965/jswe.40.59
原著論文2
神子直之,恩田建介 他
紫外線を利用した水処理技術~最新の動向~
水環境学会誌 , 42 (12) , 421-427  (2019)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
2020-06-10

収支報告書

文献番号
201625002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,069,000円
(2)補助金確定額
4,069,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,610,691円
人件費・謝金 97,412円
旅費 576,180円
その他 151,354円
間接経費 678,000円
合計 4,113,637円

備考

備考
預金口座利息 12円
自己資金 44,625円

公開日・更新日

公開日
2018-02-28
更新日
-