痙攣性発声障害の診断基準および重症度分類の策定に関する研究

文献情報

文献番号
201610052A
報告書区分
総括
研究課題名
痙攣性発声障害の診断基準および重症度分類の策定に関する研究
課題番号
H27-難治等(難)-一般-009
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
兵頭 政光(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 宗一(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
  • 大森 孝一(京都大学 大学院医学系研究科)
  • 石毛 美代子(東北学園文化大学 医療福祉学部)
  • 西澤 典子(北海道医療大学 心理科学部)
  • 城本 修(県立広島大学 保健福祉学部)
  • 讃岐 徹治(熊本大学 医学部附属病院)
  • 二宮 仁志(高知大学 医学部附属病院)
  • 藤本 匡志(高知大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
1,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 痙攣性発声障害は発声時に不随意的・断続的な声の途切れや詰まり、失声などの症状を呈する機能性発声障害の一つであるが、国内はもとより海外においても診断基準や治療指針が確立されておらず、臨床的に非常に大きな問題となっている。本研究では、われわれがこれまで行ってきた疫学調査結果をより詳細に解析するとともに、音声データや患者プロファイルを収集して本疾患の音声の特徴を多角的に解析する。これを基にして、本症の客観的な臨床像を明らかにするとともに、申請者らが所属する日本音声言語医学会および日本耳鼻咽喉科学会と協力して、本疾患の診断基準および重症度分類を策定する。
研究方法
 平成27 年度に「痙攣性発声障害の全国疫学調査」のデータ(高知大学で保有)から、2年間の確実例(約900例)について性別、発症年齢、症状、家族歴、治療内容、臨床経過などの患者プロフィールを分析した。さらに、研究代表者および研究分担者が所属する医療機関を過去に受診した症例患者プロファイルおよび音声データのデータベースを作成した。これにより、患者の臨床的特徴を把握するとともに、診断基準および重症度分類作成のための基礎データを収集した。
 本年度では、これらのデータより、痙攣性発声障害の臨床所見や音声パラメータの特徴を抽出し、文献レビューも加えて本症の診断基準(案)を作成する。また、重症度についてもVHI(Voice Handicap Index)による自覚的評価、モーラ評価などの結果をスコア化し、それらを組み込んだ重症度分類の基準(案)を作成する。この際には、日本音声言語医学会や日本耳鼻咽喉科学会とも協力して、それぞれの学会における複数の音声障害に関わる専門家の意見も取り入れる。
結果と考察
 痙攣性発声障害の臨床的特徴を勘案して、診断基準(案)を作成した。まず、発声器官に器質的病変や運動麻痺を認めないことや、呼吸や嚥下など発声以外の喉頭機能に明らかな異常を認めないことなど、5項目の必須条件を満たすことを条件とし、(1) 主要症状、(2) 参考となる所見、(3) 発声時の所見、(4) 治療反応性、(5) 鑑別診断をそれぞれ規定した。そして1) 主要症状を3つ以上認め、かつ「鑑別疾患」を否定できる、または、2) 主要症状を3つ以上認め、かつ「参考となる所見」または「発声時の所見」のいずれかを3つ以上認める場合を「確実例」とした。また、1)主要症状を3つ以上認めるが、鑑別疾患を否定できない、2) 主要症状を2つ以上認め、かつ「参考となる所見」または「発声時の所見」または「治療反応性」のいずれかを2つ以上認める場合を「疑い例」とした。
 重症度分類は、主観的重症度と客観的重症度の組み合わせで総合的重症度を決定することにした。主観的重症度には、VHIと社会的・心理的支障度を用い、客観的重症度の評価には規定文朗読、および自由会話による検者の他覚的評価を用い、両者の組み合わせで「軽症」、「中等症」、「重症」の3段階に重症度を分類した。
 今回、痙攣性発声障害に対する体系的な診断基準と重症度分類を、世界で初めて作成し提示した。本症の診断は、これまで十分な臨床経験のある医師が、喉頭所見や音声所見を基にして診断していたが、音声障害を専門とする医師でさえもその診断は容易でなかった。本研究はこれらの診断プロセスを体系化するとともに、その客観的基準を提示することで診断基準を提唱した。それにより早期診断が容易になるばかりでなく、治療法を確立するための基礎ともなることが期待でき、その意義は大きいと考える。また、重症度分類においては患者の音声障害における自覚的支障度および社会生活上の支障度による主観的重症度と、検者が音声障害の程度を評価する客観的重症度を、いずれも点数化して規定した。これにより、本症の重症度を多角的かつ半定量的に規定することができると考えられる。


結論
 全国疫学調査のデータ解析などを通して、本症の臨床的特徴、特に鑑別上重要となる主症状を抽出した。また、患者プロファイルと音声データをweb登録するデータベースを作成した。これらを基にして診断基準と重症度分類の案を策定した。これにより本症に対する早期診断、適切な治療法選択、および臨床経過の客観的評価につなげることができると期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201610052B
報告書区分
総合
研究課題名
痙攣性発声障害の診断基準および重症度分類の策定に関する研究
課題番号
H27-難治等(難)-一般-009
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
兵頭 政光(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 宗一(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門 )
  • 大森 孝一(京都大学 大学院医学研究科)
  • 石毛 美代子(東北学園文化大学 医療福祉学部)
  • 西澤 典子(北海道医療大学 心理科学部)
  • 城本 修(県立広島大学 保健福祉学部)
  • 讃岐 徹治(熊本大学 医学部附属病院)
  • 二宮 仁志(高知大学 医学部附属病院)
  • 藤本 匡志(高知大学 医学部附属病院)
  • 阪口 昌彦(高知大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 痙攣性発声障害は発声時に不随意的・断続的な声の途切れや詰まり、失声などの症状を呈する機能性発声障害の一つであるが、国内はもとより海外においても診断基準や治療指針が確立されておらず、臨床的に非常に大きな問題となっている。本研究では、われわれがこれまで行ってきた疫学調査結果をより詳細に解析するとともに、音声データや患者プロファイルを収集して本疾患の音声の特徴を多角的に解析する。これを基にして、本症の客観的な臨床像を明らかにするとともに、申請者らが所属する日本音声言語医学会および日本耳鼻咽喉科学会の協力を得ながら、本疾患の診断基準および重症度分類を策定する。
研究方法
 平成27年度には平成25年度に行った「痙攣性発声障害の全国疫学調査」のデータ(高知大学で保有)から、2年間の確実例(約900例)について性別、発症年齢、症状、家族歴、治療内容、臨床経過などの患者プロフィールを分析する。さらに、研究代表者および研究分担者が所属する医療機関における患者プロファイルおよび音声データのデータベースを作成する。これにより、患者の臨床的特徴を把握するとともに、診断基準および重症度分類作成のための基礎データを収集する。
 次に、これらのデータより、痙攣性発声障害の臨床所見や音声パラメータの特徴を抽出し、文献レビューも加えて本症の診断基準(案)を作成する。また、重症度についても音声障害の自覚的評価や客観的評価を組み込んだ重症度分類の基準(案)を作成する。この際には、日本音声言語医学会や日本耳鼻咽喉科学会とも協力して、それぞれの学会における複数の音声障害に関わる専門家の意見も取り入れる。
結果と考察
 「痙攣性発声障害の全国疫学調査」のデータを解析するととともに、患者プロファイルおよび音声データのデータベースを作成し、本症の音声と症状の特徴を抽出した。これらを基にして本症の臨床的特徴を包括するような診断基準(案)を作成した。まず、発声器官に器質的病変や運動麻痺を認めないことや、呼吸や嚥下など発声以外の喉頭機能に明らかな異常を認めないことなどの必須条件を満たすことを条件とし、(1) 主要症状、(2) 参考となる所見、(3) 発声時の所見、(4) 治療反応性、(5) 鑑別診断をそれぞれ規定した。そして1) 主要症状を3つ以上認め、かつ「鑑別疾患」を否定できる、または、2) 主要症状を3つ以上認め、かつ「参考となる所見」または「発声時の所見」のいずれかを3つ以上認める場合を「確実例」とした。また、1)主要症状を3つ以上認めるが、鑑別疾患を否定できない、2) 主要症状を2つ以上認め、かつ「参考となる所見」または「発声時の所見」または「治療反応性」のいずれかを2つ以上認める場合を「疑い例」とした。
 重症度分類は、主観的重症度と客観的重症度の組み合わせで総合的重症度を決定することにした。主観的重症度には、Voice Handicap Index(VHI)と社会的・心理的支障度を用い、客観的重症度の評価には規定文朗読、および自由会話による検者の他覚的評価を用い、両者の組み合わせで「軽症」、「中等症」、「重症」の3段階に重症度を分類した。
 今回、痙攣性発声障害に対する体系的な診断基準と重症度分類を、世界で初めて作成し提示した。本症の診断は、これまで十分な臨床経験のある医師が、喉頭所見や音声所見を基にして診断していたが、音声障害を専門とする医師でさえもその診断は容易でなかった。本研究はこれらの診断手順を体系化するとともに、その客観的基準を提示することで診断基準を提唱した。それにより早期診断が容易になるばかりでなく、治療法を確立するための基礎ともなることが期待でき、その意義は大きいと考える。また、重症度分類においては患者の音声障害における自覚的支障度および社会生活上の支障度による主観的重症度と、検者が音声障害の程度を評価する客観的重症度を、いずれも点数化して規定した。これにより、本症の重症度を多角的かつ半定量的に判定することができると考えられる。
結論
 全国疫学調査のデータ解析などを通して、本症の臨床的特徴、特に鑑別上重要となる主症状を抽出した。また、患者プロファイルと音声データをweb登録するデータベースを作成した。これらを基にして診断基準と重症度分類の案を策定した。これにより本症に対する早期診断、適切な治療法選択、および臨床経過の客観的評価につなげることができると期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-04-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201610052C

成果

専門的・学術的観点からの成果
痙攣性発声障害の臨床プロファイルと音声の聴覚的特徴を抽出し、本症の診断基準と重症度分類を作成した。診断基準では、主要症状、参考となる所見、発声時の所見、治療反応性、および主な鑑別疾患を規定した。重症度分類は、主観的重症度と客観的重症度をそれぞれ3段階に分け、両者の組み合わせにより総合的重症度を軽度、中等度、重症度に分類した。主観的重症度ではVoice Handicap Indexや社会的・心理的支障度を、客観的重症度では会話や規定文朗読を基にした検者の評価を用いた。
臨床的観点からの成果
痙攣性発声障害はこれまで国内外において、診断基準や重症度分類が確立させておらず、診断や治療効果の判定を客観的に行うことが困難であった。今回の研究成果により、本症の診断が容易になることが期待できるとともに、治療の効果判定におけるエビデンス創出にもつながるものと期待される。また、本研究成果を世界に発信することで、本症の診断や治療において本邦の先進性をアピールすることになる。
ガイドライン等の開発
日本音声言語医学会と日本喉頭科学会が共同して「音声障害診療ガイドライン2018年版」を作成したが、本研究の成果も取り入れられている。また、日本神経学会が作成した「ジストニア診療ガイドライン2018」にも、痙攣性発声障害の診断や治療の概要が記載された。
その他行政的観点からの成果
国内では、A型ボツリヌス毒素の内喉頭筋内注入療法、およびチタンブリッジを用いた甲状軟骨形成術2型の医師主導治験が実施され、その結果を受けて2018年に保険適用承認された。これらの治療適用を判断する際にも診断基準と重症度分類が必要であり、本研究成果が活用されることになる。
その他のインパクト
痙攣性発声障害をはじめとした発声障害の患者会(SDCP 発声障害患者会)の活動にも協力をしており、患者会側からも、診断基準や重症度分類が確立されることで患者さんが早期診断および適切な治療を受けることができるようになると期待されている。また、本研究を通して、医療者および市民に対する本症の認知度を上げることにつながっている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
「音声障害診療ガイドライン2018年版」、「ジストニア診療ガイドライン2018」
その他成果(普及・啓発活動)
2件
患者会と協力した啓発活動

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
兵頭政光、松本宗一、長尾明日香、他
痙攣性発声障害に関する全国疫学調査
日本音声言語医学会誌 , 57 (1) , 1-6  (2015)

公開日・更新日

公開日
2021-06-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
201610052Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,400,000円
(2)補助金確定額
1,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 456,806円
人件費・謝金 135,000円
旅費 408,790円
その他 76,436円
間接経費 323,000円
合計 1,400,032円

備考

備考
自己資金 32円

公開日・更新日

公開日
2018-03-01
更新日
-