室内環境中の未規制物質の網羅的解析に関する研究

文献情報

文献番号
201524011A
報告書区分
総括
研究課題名
室内環境中の未規制物質の網羅的解析に関する研究
課題番号
H26-化学-一般-005
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
雨谷 敬史(静岡県立大学 食品栄養科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川久美子(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 小林剛(横浜国立大学 大学院環境情報学府)
  • 小郷沙矢香(静岡県環境衛生科学研究所 環境科学部)
  • 三宅祐一(静岡県立大学 食品栄養科学部 )
  • 高須伸二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 久米一成(東京都市大学 環境科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
23,223,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、室内環境中に存在する多種多様な化学物質について、ハザード評価、曝露評価をベースに、安全性が十分でない物質や商品を洗い出すことを目的とする。このために、曝露評価、ハザード評価、化学物質情報処理、エミッション評価の専門家が各サブテーマを遂行すると共に、情報交換を行い、網羅的な解析になるように努めた。研究2年目である平成27年度は、初年度の成果によりカーテンなどに使用されている難燃剤の代替物質について健康影響の懸念が認められたため、一斉分析法の開発、ラットを用いた反復投与毒性試験、家庭での存在量調査、恒温槽を用いた放散試験を行った。さらに、曝露性や健康影響の懸念の観点から今後懸念されている物質について検討した。
研究方法
カーテンあるいはハウスダストからの難燃剤の代替物質の分析方法は、溶媒抽出した試料液を、Thermo Scientific製Ultimate 3000 に質量検出器TSQ Endura を接続した、液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計 (LC-MS/MS)を用いた手法を開発した。
ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)の代替物質の候補であるTris-(2,3-dibromopropyl) isocyanurate (TDBP-TAZTO)について、ラットを用いて反復投与毒性試験を行った。6週齢雌雄SDラット各群5匹にTDBP-TAZTOを0.3%、1.2%または5.0%の濃度で28日間混餌投与し、対照群には基礎食を自由摂取させた。対照群および5.0%投与群には雌雄各群5匹の14日間の回復群を設けた。
室内化学物質のライブラリの構築は、塗料、接着剤、殺虫・防虫剤、プラスチック添加剤等の室内で用いられる化学物質について、情報を拡充し、製品別含有化学物質情報ライブラリワークシートに整理した。また、有害性ランク、曝露性ランクに基づくスクリーニング手法を開発した。
難燃剤の放散速度の検討の一環として、エミッションセルを用いて、リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)(TDCPP)の放散速度を測定すると共に、防炎カーテンからダストへの難燃剤の移行試験を実施した。
結果と考察
本研究ではまず、有機リン系と臭素系の難燃剤化合物の一斉分析法を開発した。さらに、市販のカーテンに使用されている難燃剤の含有量の分析を行った。このような難燃剤の曝露形態別の曝露量は、ハウスダスト経由の曝露が大きい事が判ったことから、ハウスダスト中の含有量についても調べた。このうち、TDBP-TAZTOは一般家庭のハウスダスト中から検出され、既に使用されていると考えられた。
TDBP-TAZTOの毒性情報はごく限られたものしか報告されていない。そこで、ラットを用いて反復投与毒性試験を行った結果、雌雄何れの投与群においても、実験期間中の一般状態、体重、摂餌量、血液学的検査に変化は認められなかった。血清生化学的検査の結果、雌雄の全ての投与群で塩素イオンが統計学的に有意に上昇した。この塩素イオンの有意な上昇は、投与物質に含まれる臭素イオンに起因するものと考えられた。また、雌雄の投与群において肝臓の相対重量の有意な高値が認められ、病理組織学的に軽度な小葉中心性肝細胞肥大が認められた。これら変化は14日間の休薬により回復した。
室内環境中に存在する製品情報、製品中化学物質情報の収集・整理と、室内環境での主要曝露経路における高リスク物質のスクリーニング手法の構築の一環として製品別含有化学物質情報ライブラリワークシートを開発し、さらに提案した手法によるスクリーニング結果を検証し、蓄積性のある物質や高毒性・低含有率の物質についてのスクリーニング結果を高めるために、「化学物質の体内への蓄積性」や「室内化学物質使用量」を考慮して、曝露性ランクの決定方法の改良を提案した。また、室内の油含有食品や埃などへの移行に係わる物性値Poaの推定精度が桁数程度あることを確認した。
TDCPPの放散速度の温度依存性が確認され、この放散は1ヶ月以上持続することが判った。また、難燃剤のダストへの移行実験では、温度が上昇すると、指数関数的にダスト中へのTDCPPの移行量 (ng/mg) が増加した。これらの結果及び居住室内のダスト調査で難燃剤が検出されたことから、防炎カーテンから難燃剤が室内環境中に放散されることが推測された。
結論
以上の4サブテーマを連携して室内環境中の難燃剤の動態や人への曝露、そして健康影響に関する基礎的知見を得ることができた。本研究では、難燃剤の情報入手から網羅的に行ってきたので、今後検討するリスク評価結果は、実態に即したものであると考えられる。このような方針で少しずつ対象を広げて、室内環境中の未規制物質の問題に対処していきたいと考えている。

公開日・更新日

公開日
2016-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201524011Z