食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究

文献情報

文献番号
201522042A
報告書区分
総括
研究課題名
食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究
課題番号
H27-食品-指定-017
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
古江 増隆(九州大学 大学院医学研究院皮膚科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 赤羽 学(奈良県立医科大学 健康政策医学講座)
  • 内 博史(九州大学 大学院医学研究院皮膚科学分野 )
  • 香月 進(福岡県保健環境研究所)
  • 二宮 利治(九州大学大学院医学研究院附属総合コホートセンター)
  • 申 敏哲(シン ミンチョル)(熊本保健科学大学 保健科学部神経生理学)
  • 吉田 茂生(九州大学 大学院医学研究院眼科学分野 )
  • 今福 信一(福岡大学 医学部皮膚科)
  • 岩本 幸英(九州大学 大学院医学研究院整形外科学分野)
  • 江崎 幹宏(九州大学病院 病態機能内科学)
  • 古賀 信幸(中村学園大学 栄養科学部)
  • 月森 清巳(福岡市立こども病院)
  • 辻 博(北九州津屋崎病院 内科)
  • 中西 洋一(九州大学 大学院医学研究院呼吸器内科分野)
  • 村井 弘之(九州大学 大学院医学研究院神経内科学分野)
  • 山田 英之(九州大学 大学院薬学研究院分子衛生薬学専攻分野)
  • 宇谷 厚志(長崎大学 医歯薬学総合研究科皮膚病態学分野)
  • 上松 聖典(長崎大学病院 眼科)
  • 川崎 五郎(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科口腔腫瘍治療学分野)
  • 戸高 尊(公益財団法人北九州生活科学センター)
  • 三苫 千景(九州大学病院 油症ダイオキシン研究診療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
289,124,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類が生体に及ぼす慢性の影響を把握し、油症患者に残存する症状を緩和する方法を開発する。
研究方法
油症検診の結果をもとに生体内におけるダイオキシン類の毒性、動態、継世代への影響を検証した。基礎的研究では、動物モデルを用いてダイオキシン類の毒性、代謝や排泄、母児間の影響を解析し、ダイオキシン類受容体(AhR)の活性を抑制しうる薬剤の探索を行った。
結果と考察
2015年度は2名が新たに認定され、10名が同居家族認定され、全認定患者数は2294名(同居家族認定271名)になった(平成28年3月末現在)。平成20年度に実施した油症患者実態調査を油症発生前出生群と発生後出生群に区分し、一般対照群の調査結果と比較したところ、発生後出生群で有症割合が高かった項目のうち、眼脂過多や色素沈着、爪の変形などの特徴的な症状で差があった。平成26年度検診における血液中ダイオキシン類濃度の平均総 TEQ(WHO2005)は61pg TEQ/g lipid、2,3,4,7,8-PeCDF濃度は平均99pg/g lipidであった。油症検診では全科とも油症特有の症状に加齢による影響が伴っていた。福岡県油症検診の眼科検診では軽度な眼脂過多の患者が多く、半数以上にドライアイ、もしくはその可能性がみられた。長崎県油症検診の眼科検診では血中PeCDF濃度とマイボーム腺欠損の2年間の変化との間に関連はなかった。長崎県油症検診において口腔乾燥感と口腔水分計を用いた測定値の一致率は低かった。骨密度に関しては女性患者の血液中1,2,3,4,6,7,8-HpCDD濃度と骨密度(Zスコア)との間に負の相関を認めた。長崎県油症検診において末梢血リンパ球において、患者は未認定患者よりCD3、4、8陽性細胞、制御性T細胞(Treg細胞)の相対割合は低く、NK細胞の相対割合は高値で、Treg細胞数と血液中PCQ濃度に相関がみられた。甲状腺機能については血中PCB濃度とトリヨ-ドサイロニン値は負に相関し、血中PCB高濃度群は低濃度群に比べトリヨ-ドサイロニンが低下していた。コレスチミドの臨床試験前後の血液中PCB異性体濃度を検証したが、コレスチミドに明確な有効性は見いだせなかった。生体内におけるダイオキシン類の代謝に関しては、ダイオキシン類異性体ごとの半減期の変化を最も単純な二階微分を有する二次方程式に近似して、二階微分の係数を評価した結果、1,2,3,6,7,8-HxCDDの二階微分は負で、濃度は上昇から減少に変化しているか、半減期が短くなっていることが示唆された。ダイオキシン類の胎盤を介した母児間移行について正常妊娠を対象に解析した結果、臍帯血ダイオキシン類濃度は母体血濃度の約40%で、毒性等価係数(TEF)値が高い異性体は胎盤に移行しやすいが、臍帯血への移行はTEF値とは関係なくCo-PCB類よりもPCD類がPCDF類や移行しやすいことが分かった。さらに、胎児においては胎脂に最も高濃度のダイオキシン類が含まれていた。基礎的研究では、ヒト表皮細胞を用いてAhR活性化の指標であるベンゾピレン(BaP)誘導性CYP1A1発現に及ぼす生薬の影響を検討した結果、桂皮、及び桂皮を含む漢方方剤に強いAhR阻害作用があった。ダイオキシン類をマウスに経気管的に投与した動物モデルの肺組織ではsurfactant proteinの発現が亢進していた。ベンゾピレンを経口投与したラットでは後根神経節の神経線維の伝導速度が選択的に緩徐化されていた。油症患者の血中に一般対照と比較して3.9倍の高濃度で存在するPCB156の代謝をラットおよびモルモット肝ミクロゾームを用いて調べたところ、全く代謝されなかった。AhR遺伝子欠損ラットを用いて、妊娠ラットのダイオキシン類曝露による胎児脳下垂体ホルモンの低下とそれに付随する発育障害に対する AhR の寄与を検討した結果)TCDDは胎児のAhRを介して胎児黄体形成ホルモン(LH)/成長ホルモン(GH)合成を低下させ、成長後に性未成熟等の発育障害が生じること、2) 雄胎児の GH 発現抑制には母体の AhR も寄与することが明らかになった。また、胎児視床下部において、TCDDはTCA回路の必須補酵素であるa-lipoic acid (LA)を減少させ、LAを補給すると胎児LH低下が回復することが分かっているが、TCDDはLA合成に関わる酵素の発現以外に作用してLA を減少させる可能性が示唆された。最後に、研究を通じて明らかになった様々な知見についてはホームページ、油症新聞等で広く公表した。
結論
油症発生45年以上経過した現在も患者および継世代への影響が懸念された。今後もダイオキシン類が生体に及ぼす慢性の影響を把握し油症患者に残存する症状を緩和する方法を開発すべく探求を継続する。

公開日・更新日

公開日
2016-08-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2016-07-05
更新日
-

収支報告書

文献番号
201522042Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
328,701,000円
(2)補助金確定額
328,701,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 60,715,047円
人件費・謝金 86,933,570円
旅費 4,900,000円
その他 136,575,383円
間接経費 39,577,000円
合計 328,701,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
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