食品安全行政における政策立案と政策評価手法等に関する研究

文献情報

文献番号
201522036A
報告書区分
総括
研究課題名
食品安全行政における政策立案と政策評価手法等に関する研究
課題番号
H26-食品-指定-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
渋谷 健司(東京大学大学院医学研究科 国際保健政策学)
研究分担者(所属機関)
  • 窪田 邦宏(国立医薬品食品衛生研究所安全情報部 )
  • 熊谷 優子(国立感染賞研究所 国際協力室)
  • 西浦 博(東京大学大学院医学研究科 国際保健政策学)
  • Stuart Gilmour(スチュアート ギルモー)(東京大学大学院医学研究科 国際保健政策学)
  • 中岡 慎治(東京大学大学院医学研究科 国際保健政策学)
  • Md Mizanur Rahman(エムディー ミジャヌール ラーマン)(東京大学大学院医学研究科 国際保健政策学)
  • 阿部サラ(東京大学大学院医学研究科 国際保健政策学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 ミジャヌール・ラハマン  平成27年4月1日~平成27年6月30日  海外の大学へ移動のため研究実施期間を終了し、交替はなかった。 十分な引継ぎが行われので研究遂行に支障はなかった。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、DALYs(障害調整生存年)という概念を用いて、食品由来疾患に対する様々な対策が人口レベルで疾病負荷の軽減にどの程度影響を及ぼしているかを明らかにする評価手法を開発することであり、効率的で質の高い行政及び成果重視の行政の推進に資する研究を行うことである。具体的には、推計に必要な根拠データのデータベースを構築し、推定可能な病原因子の範囲を広げること、食品由来疾患ごとの食品寄与率の推定手法を改良すること、食肉処理および食鳥処理にハサップ処理を導入した際の効果を定量化するためのDALYsを活用した政策評価モデル構築することを目的とした。
研究方法
平成27年度は、カンピロバクター属菌、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌、腸炎ビブリオ、及びリステリア・モノサイトゲネスによる実被害患者数の推定にJANISの検査部門情報を活用することの可能性を検証するとともに、食品由来疾患の病原体ごとの食品寄与率の推定手法の改良を検討した。また、HACCP導入などの対策における介入による費用対効果分析を実施する際の課題と今後の方策を整理した。
結果と考察
JANISの検査部門情報を用いて全国におけるCampylobacter、Salmonella、Vibrio parahaemolyticusによる下痢症の食品由来実患者数及びListeria monocytogenesによる被害実態(DALYs)の推定を行った。その結果、食中毒患者報告数よりも大幅に多くの患者が存在している可能性が示唆された。JANISデータは院内感染対策に特化したサーベイランスデータであるが、それに付随するデータからも有用な情報が得られることが確認された。今後ともこのようなデータを活用することでより正確な被害実態推定を試みていくことが重要であると考える。
各都道府県における食中毒調査報告を用いて、カンピロバクター属菌、サルモネラ属菌、および腸管出血性大腸菌について食品寄与率を推計した結果、カンピロバクター属菌では鶏肉が15.5%、腸管出血性大腸菌では牛肉が22.1%と他の食品群よりも高かった。また、サルモネラ属菌については卵類が5.0%、鶏肉が4.6%、野菜が4.9%、穀類、大豆類が4.1%と推定された。食品衛生法の下で、都道府県等が実施している食中毒調査に関する情報は全国的にも概ね同じレベルに保たており、都道府県等の詳細な調査に基づく質の高いデータであるが、一般的に感染源となる食品は複数の原材料から作られている加工食品であることが多い。本研究において、既存研究を参考に推計モデルパッケージを作成し、加工食品を含めた食品寄与率の推計の利便性を高めることができた。
食肉衛生検査所、と畜場ならびに食鳥処理場での聞き取り調査等を踏まえ、数理モデルを利用したHACCP導入効果の定量化のため、定式化された量反応関係に基づく数理モデルの活用における課題(①消毒や食肉処理過程が処理場毎に大きく異なるため、複数処理場間の比較が困難である点、②HACCP 手法をひとまとめにした評価が単純ではない点、③定量的な微生物学的検討の結果が必要な点である)を考察した。HACCP が導入された場合の医療経済的な評価は、各行程における微生物汚染のリスク低減効果分析が必要であること、更には、HACCPが導入された場合に経済的な評価モデルを発展させる意義(①HACCP 導入による感染リスク低減効果の評価には、医療経済分野における費用対効果分析の手法が直接適用可能であること、②HACCP 導入は、医療経済的な価値も含めたより広い経済的な効果をもたらすものとして捉える利点が存在すると考えられること、③HACCP 導入による経済効果は食肉食鳥産業に関わる従業員に一般的衛生管理への理解の醸成をもたらす可能性があり、結果的に HACCPを準拠する従業員の食品安全に対する意識の向上と、より安全な食品の提供にもつながる可能性があること)を抽出した。
結論
2002年以来、WHOが“Global Burden of Disease(世界の疾病負担研究)”を公表しているが、食品由来疾患によるDALYsを求めるという試みは世界的にもまだ少ない。包括的な食品由来疾患の被害実態の推計は、日本の食品安全行政システムの全体像を把握すると共に、食品安全行政の施策の科学的データに基づいた評価を可能にし、今後の施策策定のための基盤整備に資するものである。本研究により、入手可能な限られたデータの中で日本における食品由来疾患の被害実態の推計、各食品由来疾患の食品寄与率の推定を可能とした。また、本研究をとおして、世界保健機関・食品由来疾患リファレンスグループ(WHO/FERG)における世界規模の食品由来疾患の予防及び管理への対応との連携を通して、世界的な食品安全にも貢献した。

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-12-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201522036Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,000,000円
(2)補助金確定額
5,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 367,082円
人件費・謝金 1,274,225円
旅費 1,738,302円
その他 467,391円
間接経費 1,153,000円
合計 5,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
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