文献情報
文献番号
201522008A
報告書区分
総括
研究課題名
母乳のダイオキシン類汚染の実態調査と乳幼児の発達への影響に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-008
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
岡 明(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
- 多田 裕(東邦大学医学部新生児学教室)
- 中村 好一(自治医科大学地域医療学センタ-公衆衛生学部門)
- 板橋家頭夫(昭和大学医学部小児科)
- 河野 由美(自治医科大学小児科)
- 松井 永子(岐阜大学医学部附属病院小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
5,262,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
母乳栄養は乳児の最適な栄養法であるが、母乳も環境からの汚染を受け、結果として児に影響を及ぼす可能性がある。特にダイオキシン類は人体で分解処理を受けずに蓄積し、母乳中に高濃度に分泌されることがわかっている。本研究班は平成9年より母乳中のダイオキシン濃度を継続して測定しモニタ―をするとともに、乳児期の心身体の発育発達について、継続調査をしているコホート群での影響調査を行い、母乳の安全性を科学的にその安全性を検証することを目的としている。
研究方法
初産婦より産後1か月の母乳の提供を受けダイオキシン類濃度(PCDD7種類、PCDF10種類、Co-PCB12種類)を測定し、母乳中の総ダイオキシン類の濃度の変化を検討した。また、第1子と第2子の哺乳する母乳中のダイオキシン類濃度の比較を行った。1997年からこれまでに母乳中のダイオキシン類濃度を測定した1177名について、ダイオキシン類濃度が1か月および1歳時の身体発育への影響について検討した。 2012年に行ったコホート群の保護者への質問紙の回答について、アレルギー症状との関係、行動面について行動スクリーニング尺度「子どもの強さと困難さアンケート」(SDQ)を用いた児の情緒、行為、多動性、仲間関係などについての調査を行った。
結果と考察
母乳中のダイオキシン濃度(PCDDs+PCDFs+Co-PCBsの合計)は、WHO2006年の毒性等価係数を用いた毒性等価量の計算では平均9.79 pg-TEQ/g-fatであり、平均値の経緯をみると平成25年度7.30 pg-TEQ/g-fat、昨年8.22 pg-TEQ/g-fatとほぼ同等の値であった。1998年からの長期的な傾向としては、母乳中ダイオキシン類レベルは漸減傾向を示しており、すべての項目で明らかな低下傾向が認められていたが、最近の3年間では減少傾向は明らかではなかった。
第1子と第2子の哺乳する母乳中のダイオキシン類濃度の比較では、第2子の哺乳する母乳中のダイオキシン類濃度は全分画で減少していた。この低下は、第1子が1年間に哺乳した母乳量に依存して低下していた。母親の出生年を時期に分けて検討するとダイオキシン類の濃度は出生年が最近であるほど低下していることから、本研究で実施している第1子を出産した母親の産後1か月の母乳濃度の測定は、母親が育った環境のダイオキシン汚染の程度を反映しており、モニターとして有意義であることが示された。
母乳中ダイオキシン類濃度は、出生時および1歳時点の頭囲に正の相関があったが、その程度は他の要因に比べて低かった。一方、生後1か月の体格については体重と身長に負の関連性を認めたが、他の要因に比べてその関与は小さく、1歳時点では有意な要因ではなかった。よって、母体のダイオキシン暴露は出生時や乳児期の体格に影響を及ぼしている可能性が推測されたが、その程度は他の要因に比べて軽微であった。血清IgEの値と母乳中のダイオキシン類濃度との関連について、3歳、4歳、5歳、6歳、小学生と年齢ごとに検討したが、いずれの年齢においても、血清IgEと母乳中のダイオキシン濃度との間に有意な関連はみられなかった。2012年に行った児の追跡アンケート調査でのアレルギー症状の有無で、母乳中のダイオキシン類濃度に差があるか否かについて検討を行ったがアレルギー症状との間には明らかな関係はみられなかった。
行動スクリーニング尺度「子どもの強さと困難さアンケート(SDQ)」を用いて3歳~5歳児の行動問題との関係を検討した。出生前の暴露指標は母乳中総ダイオキシン類量とし、生後1年間の暴露指標として推定摂取量(EDE)を算出した。母体年齢、母体の喫煙歴、児の年齢、出生体重を共変量とした重回帰分析で、母乳中総ダイオキシン類濃度あるいはEDE と、SDQの困難さのスコア (TDS)との間に有意な関連を認めなかった。
第1子と第2子の哺乳する母乳中のダイオキシン類濃度の比較では、第2子の哺乳する母乳中のダイオキシン類濃度は全分画で減少していた。この低下は、第1子が1年間に哺乳した母乳量に依存して低下していた。母親の出生年を時期に分けて検討するとダイオキシン類の濃度は出生年が最近であるほど低下していることから、本研究で実施している第1子を出産した母親の産後1か月の母乳濃度の測定は、母親が育った環境のダイオキシン汚染の程度を反映しており、モニターとして有意義であることが示された。
母乳中ダイオキシン類濃度は、出生時および1歳時点の頭囲に正の相関があったが、その程度は他の要因に比べて低かった。一方、生後1か月の体格については体重と身長に負の関連性を認めたが、他の要因に比べてその関与は小さく、1歳時点では有意な要因ではなかった。よって、母体のダイオキシン暴露は出生時や乳児期の体格に影響を及ぼしている可能性が推測されたが、その程度は他の要因に比べて軽微であった。血清IgEの値と母乳中のダイオキシン類濃度との関連について、3歳、4歳、5歳、6歳、小学生と年齢ごとに検討したが、いずれの年齢においても、血清IgEと母乳中のダイオキシン濃度との間に有意な関連はみられなかった。2012年に行った児の追跡アンケート調査でのアレルギー症状の有無で、母乳中のダイオキシン類濃度に差があるか否かについて検討を行ったがアレルギー症状との間には明らかな関係はみられなかった。
行動スクリーニング尺度「子どもの強さと困難さアンケート(SDQ)」を用いて3歳~5歳児の行動問題との関係を検討した。出生前の暴露指標は母乳中総ダイオキシン類量とし、生後1年間の暴露指標として推定摂取量(EDE)を算出した。母体年齢、母体の喫煙歴、児の年齢、出生体重を共変量とした重回帰分析で、母乳中総ダイオキシン類濃度あるいはEDE と、SDQの困難さのスコア (TDS)との間に有意な関連を認めなかった。
結論
平成11年のダイオキシン類対策特別措置法の制定以降、母乳中のダイオキシン類濃度は漸減傾向を認められてきたが、最近は減少傾向が明らかではなくなってきている。1か月の母乳栄養児が母乳から摂取するダイオキシン類の総量は、措置法に定める耐用一日摂取量の約20倍であり、乳児期1年間に摂取するダイオキシン類の総量も約10倍の摂取量と推定され、発達的影響も含めて,今後も母乳中ダイオキシン類レベルのモニタリングと追跡調査が必要である。母乳中ダイオキシン類レベルは,ダイオキシン類の環境汚染の状況と食事からの摂取量を反映していると考えられ、ヒトへのダイオキシン類汚染の実態を把握する上でも,母乳中ダイオキシン類レベルのモニタリングを継続する意義は十分にあると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2016-07-06
更新日
-