医療観察法対象者の円滑な社会復帰に関する研究【若手育成型】医療観察法指定医療機関ネットワークによる共通評価項目の信頼性と妥当性に関する研究

文献情報

文献番号
201516036A
報告書区分
総括
研究課題名
医療観察法対象者の円滑な社会復帰に関する研究【若手育成型】医療観察法指定医療機関ネットワークによる共通評価項目の信頼性と妥当性に関する研究
課題番号
H25-精神-若手-012
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
壁屋 康洋(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,424,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 共通評価項目は医療観察法医療において鑑定・入院・通院の局面で一貫して全国で用いられているが、標準化がなされていない。本研究の目的は共通評価項目の信頼性と妥当性の研究を進め、信頼性と妥当性の担保された尺度として改訂することである。これまで評定者間信頼性、構成概念妥当性、収束妥当性の検討を行ってきた。本研究の3ヶ年により、以下の過程で改訂版を作成することを目指している。
1)入院処遇から通院処遇に移行した後の暴力、問題行動等についての予測妥当性の研究を行い、共通評価項目17中項目と61小項目の予測力を明らかにする
2)院内暴力、院内自殺企図について共通評価項目の各項目の予測力を明らかにする
3)退院後の問題行動や暴力、自殺企図、また院内暴力を予測するための項目の構成を探索する
4)第3版草稿を作成し、多職種チームによるベータテストを行う
5)作成した第3版草稿の評定者間信頼性の検証を行う
 最終年度である今年度は上記5)を行った。
研究方法
 評定用事例集の作成:医療観察法指定入院医療機関に従事する臨床心理技術者に2事例の評定演習とフィードバックを含んだ約7時間の研修を行って第3版案を伝達し、参加者が評定用事例48例を作成。
 評定方法と評定者:伝達講習全てを受講した、医療観察法指定入院医療機関の臨床心理技術者24名が前記の評定用事例について、第3版案の19中項目と46小項目全てを評定。
 評定者間信頼性の指標:評定者間信頼性の指標として級内相関係数二元配置変量効果モデル(ICC(2,1))を用いて評定者間信頼性を算出した。統計解析にはエクセル統計2015を使用した。
(倫理面への配慮)
多機関の研究協力者と共有する評定用事例は、住所・氏名ならびに会社名・学校名・地名等個人の特定につながるような個人情報は削除し、尺度の評定に支障のない範囲で事例の内容を改変することで、特定不能とした。発表には統計的な値のみを発表し、一事例の詳細な情報を発表することはしない。以上の配慮をもって、研究代表者の所属施設である肥前精神医療センターの承認を得て本研究を実施した。
結果と考察
 第2版の評定者間一致度の検証の際に級内相関係数(ICC(2,1))が0.6未満であった13項目、小項目の構成を変更したために評定者間一致度の再検証が必要となった5項目、第2版の評定者間一致度は0.6以上であったが概念の修正を行った3項目、新規に構成した3項目の全て、即ち新規項目・修正項目として評定者間一致度の検証が必要な計21項目はいずれも級内相関係数(ICC(2,1))0.6以上となった。一方で【活動性・社会性2)コミュニケーション技能】はICC(2,1)=0.580、【衝動コントロール1)一貫性のない行動】はICC(2,1)=0.578と0.6をわずかに下回った。この2項目はいずれも第2版からの改変を行っておらず、第2版の評定者間一致度の検証の際には級内相関係数(ICC(2,1))がそれぞれ0.608、0.668と0.6を超え十分な信頼性が示されていたため、この2項目が評定者間信頼性に問題があるとは必ずしも言えない。その他の項目は全て級内相関係数が0.6を超えており、本研究において作成された共通評価項目第3版は高い評定者間信頼性が維持されている。この第3版により、科学的裏付けを持った尺度として共通評価項目を編成することが可能となる。
結論
本研究で共通評価項目第2版の信頼性と妥当性の検証を行うことができ、十分な評定者間信頼性の担保された第3版を作成することができた。共通評価項目第3版は信頼性・妥当性を踏まえた尺度となったのみならず、1)通院移行後の暴力・問題行動、2)通院移行後の自殺企図、3)指定入院医療機関入院中(入院初期)の自殺企図の3パターンの予測のための項目のセットの参照、および通院移行後の問題事象への予測力が得られた項目の意識化を通じ、自傷他害のリスクを下げることを念頭に置いた医療を提供することを可能とするもので、医療観察法医療の更なる構造化と入院期間の短縮につなげ得るものである。

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

文献情報

文献番号
201516036B
報告書区分
総合
研究課題名
医療観察法対象者の円滑な社会復帰に関する研究【若手育成型】医療観察法指定医療機関ネットワークによる共通評価項目の信頼性と妥当性に関する研究
課題番号
H25-精神-若手-012
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
壁屋 康洋(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 共通評価項目は2008年4月から第2版が医療観察法医療において鑑定・入院・通院の局面で一貫して全国で用いられているが、標準化がなされていない。本研究の目的は共通評価項目第2版の信頼性と妥当性の研究を進め、信頼性と妥当性の担保された尺度として改訂することである。これまで研究代表者らは評定者間信頼性、構成概念妥当性、収束妥当性の検討を行ってきたが、平成25年度から27年度までの3ヶ年により、以下の過程で改訂版を作成することを目的としている。
1)入院処遇から通院処遇に移行した後の暴力、問題行動等についての予測妥当性の研究を行い、共通評価項目17中項目と61小項目の予測力を明らかにする
2)院内暴力、院内自殺企図について共通評価項目の各項目の予測力を明らかにする
3)退院後の問題行動や暴力、自殺企図、また院内暴力を予測するための項目の構成を探索する
4)第3版草稿を作成し、多職種チームによるベータテストを行う
5)作成した第3版草稿の評定者間信頼性の検証を行う
 以上のプロセスをもって、信頼性と妥当性の担保された尺度として、共通評価項目第3版を作成することが本研究の目的である。
研究方法
 研究目的の1)~5)のそれぞれに対し、下記の方法で研究を進めた。
1)2008年4月1日~2012年3月31日の期間に入院決定を受けた対象者であり、2013年10月1日までに退院し、通院処遇となった対象者である。研究協力が得られ、データが収集できた22の指定入院医療機関からの373名分のデータを用い、各項目の予測力の検討をCOX比例ハザードモデル等で行った。
2)前記の対象に、2013年10月1日時点で入院継続中であった事例を合わせた572名分のデータを用い、各項目の予測力の検討をCOX比例ハザードモデル等で行った。
3)上記1)2)の結果をもとに、高いAUCが得られる項目の組み合わせを探索した。
4)これまでの研究結果を踏まえて医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理士の5職種により協議し、第3版草稿を作成してベータテストを行った。
5)第3版草稿について伝達研修を行い、評定用事例48例の作成ならびに評定を通じ、評定者間信頼性(ICC(2,1))を算出した。
結果と考察
 研究目的1)~5)のそれぞれに対し、研究方法1)~5)によって下記の結果が得られた。
1)【精神病症状】【内省・洞察】等、通院移行後の問題行動や暴力に関連しない項目と、【衝動コントロール】【生活能力4)家事や料理】等、通院移行後の問題行動や暴力に関連する項目とが明らかになった。
2)入院中の暴力や自殺企図に関連する項目も明らかにすることができた。
3)【衝動コントロール】【衝動コントロール1)一貫性のない行動】【非精神病性症状3)怒り】【生活能力4)家事や料理】【物質乱用】【非社会性9)性的逸脱行動】【個人的支援】の合計により通院移行後の問題行動や暴力をAUC0.7以上の制度で予測することが可能となった。
4)第3版により、評定が第2版よりスムーズに行えることが確認された。
5)共通評価項目第3版は高い評定者間信頼性が維持されていることが確認された。この第3版により、科学的裏付けを持った尺度として共通評価項目を編成することが可能となった。
 以上の研究結果から共通評価項目第3版を完成させることができ、それまでの共通評価項目は信頼性・妥当性が十分でなかったが、本研究によって作成された第3版を用いることで、科学的な裏付けの担保された尺度を全国の医療観察法医療で使用可能となる。
 また、本研究初年度に収集したデータを用い、退院申請時のGAF、ICFの各項目による通院移行後の自殺企図、暴力、問題行動の予測力についても検証を行ったため、生活機能の中で暴力等の問題行動の防止要因となるものを見出すことができた。同様に通院移行時の居住地、診断分類、対象行為と通院移行後の暴力や問題行動との関連を検証することができた。
結論
 本研究の3年間ならびに、それ以前の2009年からの共通評価項目の信頼性と妥当性に関する研究を通じ、各下位項目の評定者間信頼性、収束妥当性、予測妥当性などを検討し、これらの研究結果を踏まえて共通評価項目第3版が作成された。共通評価項目第3版は全ての下位項目において十分な評定者間信頼性が得られたとともに、各下位項目に実証研究から得られた知見を加え、また通院移行後の暴力や問題行動を予測するための項目のセットも有するツールとなった。
 本研究にて作成された共通評価項目第3版へと移行することにより、医療観察法医療が実証的裏付けを得ると共に、問題行動等の防止のためのターゲットを明確にすることで治療を構造化することにもつながる。

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201516036C

成果

専門的・学術的観点からの成果
共通評価項目は医療観察法医療において鑑定・入院・通院の局面で一貫して全国で用いられているが、標準化がなされていなかった。本研究3年間の成果により、評定者間信頼性、構成概念妥当性、収束妥当性の検討を踏まえ、各項目が十分な評定者間信頼性を持つ第3版へと改訂することができた。また本研究の成果により、通院移行後の暴力や自殺企図等の問題事象と共通評価項目の各下位項目との関連を明らかにすることができた。
臨床的観点からの成果
共通評価項目は医療観察法医療の基軸となる評価尺度であるが、それまで信頼性と妥当性が担保されていないまま全国の臨床現場で使用されていた。実証研究を基に改訂できたことにより、医療観察法医療に科学的裏付けを与えることができた。また通院移行後の暴力や自殺企図等の問題事象と関連のあるポイントを抽出し、医療観察法病棟にて使用されている診療支援システムにも取り入れられたことで、治療において焦点を当てることが容易になり、医療の構造化と効率化が期待される。
ガイドライン等の開発
共通評価項目は2005年に頒布された医療観察法入院処遇ガイドライン、通院処遇ガイドラインに含まれている。本研究の成果を踏まえ、2019年4月から医療観察法入院処遇ガイドライン、通院処遇ガイドラインの中で共通評価項目が改訂された。併せて、医療観察法病棟にて使用されている診療支援システムにも取り入れられ、通院移行後の暴力や自殺企図等の問題事象と関連のある共通評価項目の各下位項目を明示した。
その他行政的観点からの成果
重度精神疾患標準的治療法確立事業として医療観察法データベースシステムが開発され、医療観察法入院処遇中の統計的データを収集する仕組みが2017年から運用されている。共通評価項目はその中で収集されるデータの一つであり、今年度から前記データベースの中でも第2版から第3版へと改訂した尺度の評価結果が収集されている。
その他のインパクト
2018年9月、2019年2月に改訂版共通評価項目の研修会を行い、講義の内容が厚生労働省ホームページに掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
34件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
西村大樹、壁屋康洋、砥上恭子ほか
共通評価項目の信頼性と妥当性に関する研究(7)入院期間、退院後の再入院・問題行動との関連による予測妥当性の検討
司法精神医学 , 9 (1) , 22-29  (2014)
原著論文2
壁屋康洋、西村大樹、砥上恭子ほか
医療観察法病棟退院申請時の生活機能と通院移行後の暴力行動との関連の探索
司法精神医学 , 11 (1) , 2-8  (2016)
原著論文3
壁屋康洋、砥上恭子、高橋昇ほか
共通評価項目の信頼性と妥当性に関する研究~第3版への改訂と評定者間一致度の検証
司法精神医学 , 12 (1) , 19-27  (2017)
原著論文4
壁屋康洋、砥上恭子、高橋昇ほか
医療観察法入院から通院移行後の暴力や問題行動に関する静的要因の研究
司法精神医学 , 13 (1) , 11-19  (2018)

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
2024-06-03

収支報告書

文献番号
201516036Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,150,000円
(2)補助金確定額
3,150,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 893,949円
人件費・謝金 0円
旅費 941,428円
その他 588,854円
間接経費 726,000円
合計 3,150,231円

備考

備考
口座預金利息

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-