70歳,80歳,90歳の高齢者の歯・口腔の状態が健康長寿に及ぼす影響についての前向きコホート研究

文献情報

文献番号
201508011A
報告書区分
総括
研究課題名
70歳,80歳,90歳の高齢者の歯・口腔の状態が健康長寿に及ぼす影響についての前向きコホート研究
課題番号
H26-循環器等(政策)-一般-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
前田 芳信(大阪大学 大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 池邉一典(大阪大学 大学院歯学研究科 )
  • 村上伸也(大阪大学 大学院歯学研究科 )
  • 北村正博(大阪大学 大学院歯学研究科 )
  • 楽木宏実(大阪大学 大学院医学系研究科 )
  • 神出 計(大阪大学 大学院医学系研究科 )
  • 新井康通(慶應大学医学部)
  • 権藤恭之(大阪大学 大学院人間科学研究科 )
  • 石崎達郎(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 増井幸恵(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 新谷 歩(大阪大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は歯・口腔の状態と健康・長寿との関係を、70歳約1000名、80歳約1000名、90歳約300名の高齢者を対象にして、前向きコホート研究によって明らかにすることを目的とした。
研究方法
対象地域は、関西と関東のそれぞれ都市部と農村部とし、地域の中の特定の地区の全住民を対象とした悉皆調査である。
我々が行っているSONIC研究では、歯学、医学、栄養学、心理学、社会学、臨床統計学の各分野の専門家が参加し、地域在住の高齢者に実施する前向きコホート研究による縦断データから、健康長寿に関する要因について包括的に検討を行っている。基本属性、社会・経済的側面、ライフスタイル、歯ならびに口腔機能、生活習慣病(問診、血液検査、理学検査)、運動能力、認知機能、栄養摂取状況などについてのベースライン調査は既に完了している。口腔機能については、歯と歯周組織の検査に加えて、咀嚼能率、咬合力、唾液分泌、味覚、口腔感覚などの客観評価を行った。
80歳コホートのベースライン調査(80歳時)と、昨年度行った3年後の追跡調査(83歳時)の両方に参加した554名を対象者とし、結果を解析した。
筋力の指標として握力を測定し、運動能力の指標として8フィート(2.44m)の歩行時間を測定した。また、軽度認知障害のスクリーニング検査に用いられる日本語版Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)を用いて認知機能を評価した。さらに、口腔内検査を行い、臼歯部咬合支持の有無によりA群(A1-A3)、B群(B1-B4)、C群(C1-C3)の3群10段階に分類されるEichner分類を記録した。
結果と考察
残存歯数を比較したところ、80歳時に平均16.0本であったが、83歳時には平均15.1本となった。また、握力は80歳時に平均22.3 kgfであったが、83歳時には平均21.0 kgfとなり、有意差が認められた。さらに、歩行時間を比較したところ、80歳時の平均が2.79秒であったが、83歳時には平均2.87秒となり、有意差が認められた。MoCA-Jスコアは、80歳時に平均21.6、83歳時には平均21.7であり、有意差は認められなかった。咬合力を比較したところ、80歳時の平均が344.2 N、83歳時の平均が204.3 Nであり、有意差が認められた。
縦断的分析の結果、80歳時に咬合支持のない者は、3年後の歩行速度が低下しやすく、認知機能が低下しやすいことが示唆された。
次年度に行う、90歳~93歳、また70歳~76歳の調査と分析では、よりより大きな変化が予測され、上記の因果仮説を明らかにできると考えている。
その結果を利用し、歯科疾患の社会経済的背景などのリスクファクター、ならびに口腔機能維持・増進のための予防方法や早期介入方法を提示する。さらに口腔疾患の予防医学的な早期介入を促し、歩行速度や、認知機能の低下を遅らせ、要介護者を減少させることによって、医療費や社会福祉費の抑制に貢献する可能性が高い。
さらに、本年度は、80歳コホートの3年後(2014年度)の追跡調査において、会場招待型調査の未受診者に対して訪問調査を実施した。その結果、723名(会場招待調査570名、訪問調査153名)追跡調査を実施でき、追跡率は74.3%となった。2014年度の会場調査および未受診者調査参加者について、手段的自立機能(Instrumental Activivty of Daily Living:IADL)、握力、精神的健康(WHO5-J)について、2011年度調査と追跡調査時のスコアを比較した。その結果、IADLおよび精神的健康については、会場調査群では得点低下は有意ではなかった。追跡調査未受診群では3年後での自立機能および精神的健康の悪化がみられ、これらの結果から、脱落効果が示された。初回調査参加者の継時的な変化の全体像をとらえる上で、訪問による未受診者調査を加えた評価が必要であることが確認された。
結論
80歳からの3年間では、70歳からの3年間とは異なり、咬合力は低下し、認知機能と運動機能の低下もみられた。また、縦断的分析の結果、80歳時に咬合支持のなかった者は、3年後の歩行速度がより低下しやすく、認知機能もより低下しやすいことが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201508011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,100,000円
(2)補助金確定額
5,100,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 846,833円
人件費・謝金 452,200円
旅費 500,668円
その他 2,124,406円
間接経費 1,176,000円
合計 5,100,107円

備考

備考
物品費846,833円の支出のうち107円自費で負担し支出しているため差異が生じている。

公開日・更新日

公開日
2016-10-11
更新日
-