non-HDL等血中脂質評価指針及び脂質標準化システムの構築と基盤整備に関する研究

文献情報

文献番号
201508009A
報告書区分
総括
研究課題名
non-HDL等血中脂質評価指針及び脂質標準化システムの構築と基盤整備に関する研究
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-015
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
寺本 民生(帝京大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 三井田 孝(順天堂大学 医学部)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学 医学部)
  • 西村 邦宏(国立研究開発法人国立循環器病研究センター)
  • 山下 静也(りんくう総合医療センター)
  • 木山 昌彦(大阪がん循環器病予防センター)
  • 宮本 恵宏(国立研究開発法人国立循環器病研究センター)
  • 中村 雅一(国立研究開発法人国立循環器病研究センター)
  • 藤吉 朗(滋賀医科大学 社会医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
8,400,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 山下静也 大阪大学大学院医学系研究科循環器学 寄附講座教授(平成25年4月1日~平成27年7月31日) → 地方独立行政法人りんくう総合医療センター 病院長 副理事長(平成27年8月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、(1)わが国におけるnon HDLの冠動脈疾患(CAD)リスクとしての意義をLDL-Cとの比較という観点から疫学手法で検証、(2)どのような条件(患者背景・脂質レベル・採血時間など)で測定した場合にLDL-C直接法が信頼できるのか、(3)高脂血症のタイプや採血条件により直接法で測定したLDL-Cとnon HDLの関係が異なるのか、という3点を明らかにすることを目的とする。最初の2年間で、non HDLのCAD発症予測能はLDL-Cに勝るとも劣らないことが判明したので、本年度はCAD予測能の優れるカットオフ値の値付けを検討することとした。また、LDL-Cの直接法の正確度に関する研究では、どのような環境下でLDL-C直接法を活用できるか検討することとした。
研究方法
1.疫学的検討:吹田研究に参加した6483名のうち、心血管疾患既往例などを除いた3822名について、CADの発症とnon HDLとの相関を検討した。non HDLは160 mg/dL~195 mg/dLの間で、LDL-Cは140mg/dL~175 mg/dLの間でカットオフ値についてCox比例ハザードモデルで評価した。Coxモデルの調整因子としては年齢・高血圧の有無・糖尿病の有無・HDL-C・BMI・現在喫煙・現在飲酒・性を用いた。
2.臨床検査学的検討
成人被験者(183例)について、全例でTC、TG、LDL-C(直接法とBQ法)、HDL-Cを測定した。LDL-C直接法の試薬は、4種類を用いた。
結果と考察
1.疫学的検討:吹田研究における男女3822人中CAD発症者は126名であった。non HDL 190 mg/dL以上をカットオフ値とした場合、ハザード比1.77 であり、LDL-C 160 mg/dL以上をカットオフ値とした場合、ハザード比1.53 であり、他のカットオフ値を用いた場合と比べて、統計学的に最もあてはまりのよい値となった。本研究の結果から、CAD発症に対するnon HDL 185~195 mg/dL以上がCAD発症スクリーニングのためのカットオフ値として適当と考えられ、LDL-Cの最適カットオフ値を探索したところ160もしくは170 mg/dL以上と考えられた。また、CAD発症に対するnon HDLとLDL-Cの診断能は比較した場合、ほぼ同等か統計学的な有意差はつかないものの、non HDLの方がやや優れている事が示された。
本研究においてLDL-Cと比較してnon HDLの発症予測能が勝るとも劣らない結果となった事は、空腹時採血でなくても運用可能であり、構成要素である血清TCとHDL-Cのわが国における測定精度が高いという測定上の利点と併せて、今後LDL-Cに代えて健診現場でnon HDLを運用していくにあたって大きな利点となると考えられる。
2.臨床検査学的検討
収集した183検体のうち、合併する疾患や脂質異常症がない健常群59例と、これらを認める疾患群109例の2群に分けて、LDL-Cの直接法とBQ法の差、高HDL-Cや高TGの影響を検討した。その結果、検討したLDL-C(直接法)4社の試薬は、BQ法に対する平均バイアスが、健常群で0.04~0.61%、疾患群で0.44~1.07%と非常に小さかった。また、HDL-Cが150mg/dL以上、TGが600mg/dl以上ではLDL-C直接法の試薬間差は明らかとなった。これらの条件では、LDL-C(直接法)の限界があるものの、少なくとも4社の試薬であれば、通常の検査には使用可能と考えられた。
結論
1、non HDLはCAD発症予測のスクリーニング検査としてLDL-Cに勝るとも劣らないマーカーであることが、国内コホート研究から明らかになった。
2、non HDLCを185~195 mg/dL以上が、一般住民集団におけるCAD発症スクリーニングのためのカットオフ値として適当と考えられ、その診断能はLDL-Cに勝るとも劣らないことが示された。
3、LDL-C直接法については、この間の研究から正確度の劣る試薬は市場から撤退もしくは改善され、ほぼ健常者の場合、食事に関係なく正確度は保証された。
4、LDL-C直接法はIII型、IV型、V型など著しい高TG血症では正確度が失われ、胆汁うっ滞性肝疾患でも正確度が保証されないなどの問題点があることが判明した。
5、いっぽう、non HDLについてもTGが600mg/dl以上では正確度が欠けることが判明し、留意すべきであることが判明した。
6、以上のことから、特定健診においてnon HDLを検査項目として取り入れることは妥当と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2016-06-16
更新日
2016-08-18

文献情報

文献番号
201508009B
報告書区分
総合
研究課題名
non-HDL等血中脂質評価指針及び脂質標準化システムの構築と基盤整備に関する研究
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-015
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
寺本 民生(帝京大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 三井田 孝(順天堂大学 医学部)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学 医学部)
  • 西村 邦宏(国立研究開発法人国立循環器病研究センター)
  • 山下 静也(地方独立行政法人りんくう総合医療センター)
  • 木山 昌彦(大阪がん循環器病予防センター)
  • 宮本 恵宏(国立研究開発法人国立循環器病研究センター)
  • 中村 雅一(国立研究開発法人国立循環器病研究センター)
  • 藤吉 朗(滋賀医科大学社会医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
008年4月より特定健診にてLDL-Cの測定が行われるようになり、健診項目として広く普及するようになった。わが国ではLDL-Cを直接測定する試薬が複数使用されているが、試薬によってはLDL-C値を正確に評価できない可能性がある事が報告されている。またLDL-Cは国際的には、空腹時採血での総コレステロール(TC)・HDL-C・TGからFriedewald式(F式)を用いて推定する間接法が用いられている。F式の弱点は、食後や血清TGが400mg/dL以上では計算できないことである。健診現場において対象者全員に空腹時採血を義務付けるのは事実上不可能である。そこで、動脈硬化性疾患ガイドライン2012年版では食後採血の場合やTG高値の場合には、LDL-C値ではなく、TC値からHDL-C値を引いたnon HDLコレステロール(non HDL)値を用いることを推奨している。一方、同ガイドラインではnon HDLのカットオフ値を「LDL-C+30mg/dL」と設定したが、これは、海外との同一性と、わが国の臨床現場の検討報告による。しかし、わが国の一般集団を対象とした場合のnon HDLカットオフ値に関する検証はほとんど行われていない。
そこで、本研究は、(1)わが国におけるnon HDLの冠動脈疾患(CAD)リスクとしての意義をLDL-Cとの比較という観点から疫学手法で検証、(2)どのような条件(患者背景・脂質レベル・採血時間など)で測定した場合にLDL-C直接法が信頼できるのか、(3)高脂血症のタイプや採血条件により直接法で測定したLDL-Cとnon HDLの関係が異なるのか、という3点を明らかにすることを目的とした。
これらの研究結果をもとに、特定健診にnon HDLを導入することを前提に、その基準値や受診勧奨の値を決定することも目的とする。
研究方法
1.疫学的検討:
既存研究の文献レビューと我が国の疫学調査による検討を行った。疫学研究としては、吹田研究、岩手県北研究、SESSA研究、神戸研究、鶴岡メタボロームコホート研究などを用いた。
2.臨床検査学的検討:
成人被験者(183例)について、全例でTC、TG、LDL-C( LDL-C直接法・F式とBQ法)、HDL-Cを測定した。LDL-C直接法の試薬は、現在我が国で使用されている試薬の約9割を占める4社の試薬を対象とすることとした。
結果と考察
既存研究の文献レビュー(119件)から厳選した35件の論文のうち、non HDLの予測能がLDL-Cより優れるという論文が21件、両者の予測能に差はないという論文が14件であり、LDL-Cの予測能がnon HDLを凌駕するという論文はなかった。
また、non HDLのカットオフを決定するため吹田研究を選択した。その結果non HDL 190 mg/dL以上をカットオフ値とした場合、ハザード比1.77 で、統計学的に最もあてはまりのよい結果となった。以上のことから、non HDLはCAD発症予測能としては、LDL-Cに勝るとも劣らず、そのカットオフ値としては190mg/dlがよいと考えられた。
臨床検査学的検討では、non HDL測定に必須のHDL-Cについて検討した。その結果、HDL-C直接法の正確性については問題ないことを証明し、論文化した。
次に、LDL-C(直接法)の精度について検討したが、いくつかの試薬に問題のあることが判明した。4社の試薬については改善も認められたことから、再度精度の確認と測定限界について検討した。この4社の試薬については、ほぼ通常の検体であれば問題のない正確度であるが、TGが高値を示すIII,IV,V型高脂血症では測定限界があることが証明された。また、non HDLもTGが600mg/dl以上になるとかい離が大きくなることが証明され、それぞれに限界があることが判明した。
結論
本研究の結果から
1、non HDLはCAD発症予測のスクリーニング検査としてLDL-Cに勝るとも劣らないマーカーである。
2、non HDLを190 mg/dLが、一般住民集団におけるCAD発症スクリーニングのためのカットオフ値として適当と考えらた。
3、LDL-C直接法については、この間の研究から正確度の劣る試薬は市場から撤退もしくは改善され、ほぼ健常者の場合、食事に関係なく正確度は保証された。
4、LDL-C直接法はIII型、IV型、V型など著しい高TG血症では、正確度が保証されないなどの問題点に留意する必要がある。
5、いっぽう、non HDLについてもTGが600mg/dl以上では正確度が欠けることが判明し、この点も留意すべきである。
6、以上のことから、特定健診においてnon HDLを検査項目として取り入れることは妥当と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-06-16
更新日
2016-08-18

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-11-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201508009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Millerらにより、LDL-C(直接法)の正確度の問題を指摘された。そこで、本研究では、より精密に再検討し、いくつかの問題試薬があることが判明した。また、HDL-C(直接法)の正確度についても確認し、これらはすでに学術誌に発表している。また、本研究では、我が国における住民コホート研究からnon HDLのリスク評価能をLDL-Cと比較検討し、non HDLのカットオフ値を提案し、これは現在論文投稿中である。
臨床的観点からの成果
動脈硬化性疾患は我が国の死因の中でも大きな位置を占めており、臨床現場でもそのリスク評価は重要である。従来LDL-Cが重要な危険因子とされているが、最近はより広範囲な意義を有するnon HDLにも注目が集まっている。しかし、その大規模な調査は行われてこなかった。本研究は国内外の文献レビューのみならず我が国の住民コホート研究をもとにLDL-Cとの比較でnon HDLが勝るとも劣らない危険因子であることを提示したことは臨床家にとっても重要なことである。
ガイドライン等の開発
2015年4月に発表された「脳・心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート2015」は日本内科学会をはじめ関連11学会と日本医師会、日本医学会の13団体の合意のもとに作成された。チャートのステップ1のスクリーニングにnon HDLが取り入れられており、多くの実地医家にも認識されることとなっている。また、動脈硬化学会では2017年のガイドライン改定に向けて、non HDLの取り扱いについて議論されているところである。
その他行政的観点からの成果
本研究の主たる目的は、従来の特定健診において採用されているLDL-C(直接法)の正確度の検討と、non HDLを用いることの可否を提案することであった。本研究により、non HDLのCAD発症予測能につてはLDL-Cに勝るとも劣らず、そのカットオフ値も提案できたことから2016年1月から開始された厚生労働省における「特定健診・特定保健指導の在り方に関する検討会」において議論対象として提案され、平成30年からの特定健診における測定項目としてnon HDLを用いることの妥当性について議論された。
その他のインパクト
公開シンポジウムは平成27年2月に一般市民に対して心血管疾患の危険因子の理解を求め、その中でLDL-C、non HDLの概念について理解を共有することを趣旨に行い、約100名の参加者があった。その評価はおおむね良好であった。また、平成28年2月から3月にかけて札幌、東京、大阪、福岡で医療者を対象に公開講座を行い、non HDLの理解度調査を行った。その結果、総じて99名の参加者があったが、約70%の医療者がnon HDLを特定健診に用いることに理解があることが判明した。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
55件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Masakazu Nakamura, Tamio Teramoto, Yoshihiro Miyamoto,et al.
HDL cholesterol performance using an ultracentrifugation reference measurement procedure and the designated comparison method
Clinica Chimica Acta , 439 , 185-190  (2015)
PMID: 25444739
原著論文2
Masakazu Nakamura, Tamio Teramoto, Yoshihiro Miyamoto,et al.
Total cholesterol performance of Abell–Levy–Brodie–Kendall reference measurement procedure: Certification of Japanese in-vitro diagnostic assay manufacturers through CDC's Cholesterol Reference Method Laboratory Network
Clinica Chimica Acta , 445 , 127-132  (2015)
PMID: 25818239
原著論文3
Kuwabara K, Harada S, Okamura T,et al.
Relationship between Non-High-Density Lipoprotein Cholesterol and Low-Density Lipoprotein Cholesterol in the General Population.
J Atheroscler Thromb. , 23 (4) , 477-490  (2016)
PMID: 26961218
原著論文4
Nakamura M, Iso H,Miyamoto Y,et al.
Comparison between the triglycerides standardization of routine methods used in Japan and the chromotropic acid reference measurement procedure used by the CDC Lipid Standardization Programme.
Ann Clin Biochem. , 53 (6) , 632-639  (2016)
PMID: 26680645
原著論文5
Miida T1, Nishimura K, Teramoto T,et al.
Homogeneous Assays for LDL-C and HDL-C are Reliable in Both the Postprandial and Fasting State.
J Atheroscler Thromb.  (2017)
PMID: 28321014

公開日・更新日

公開日
2016-06-09
更新日
2017-05-25

収支報告書

文献番号
201508009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,400,000円
(2)補助金確定額
8,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,224,751円
人件費・謝金 287,100円
旅費 1,328,630円
その他 1,559,915円
間接経費 0円
合計 8,400,396円

備考

備考
支出合計と補助金確定額との差額396円の内訳
・利息 48円
・自己資金 348円

公開日・更新日

公開日
2016-10-25
更新日
-