たばこ規制枠組み条約を踏まえたたばこ対策に係る総合的研究

文献情報

文献番号
201508006A
報告書区分
総括
研究課題名
たばこ規制枠組み条約を踏まえたたばこ対策に係る総合的研究
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-010
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(公益社団法人地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川 浩二(独立行政法人 国立病院機構京都医療センター)
  • 大和 浩(産業医科大学産業生態科学研究所)
  • 森 淳一郎(信州大学医学部)
  • 欅田 尚樹(国立保健医療科学院)
  • 曽根 智史(国立保健医療科学院)
  • 田中 謙(関西大学法学部)
  • 岡本 光樹(岡本総合法律事務所)
  • 片山 律(萱場健一郎法律事務所)
  • 谷 直樹(谷直樹法律事務所)
  • 後藤 励(京都大学白眉センター)
  • 五十嵐 中(東京大学大学院)
  • 田淵 貴大(地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立成人病センターがん予防情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
7,040,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、国民の健康を守る観点からわが国が批准しているWHOのたばこ規制枠組条約(FCTC)の履行状況の検証、喫煙の健康被害の法的・倫理的側面からの検討、たばこ規制の行動経済・医療経済学的評価、健康格差是正の観点からのたばこ規制の効果の実証的検証を行い、今後のたばこ規制を行う上での政策課題と対策を総合的に検討し、政策提言を行うことにある。
研究方法
履行状況の検証では、締約国会議において議定書や指針が採択された条項(第5.3条、第6条、第8~11条、第13~15条)のうち、第8条(受動喫煙防止)、第11条(たばこの警告表示)、第13条(たばこ製品の広告、販売促進、後援活動)、第14条(禁煙支援・治療)に特に重点をおいて検討した。喫煙の健康被害の法的・倫理的側面からの検討では、わが国における医療費回収訴訟の可能性とその法的構成について検討を行った。また、電子たばこ・無煙たばこ規制をめぐる今後の法的課題について検討を行った。たばこ規制の行動経済・医療経済学的評価研究として、昨年度開発した複数回の禁煙企図を再現できるDESモデル(Discrete Event Simulation model)を用いて禁煙治療の費用対効果の評価を行った。健康格差是正の観点からみたたばこ規制の効果の実証的検証として、わが国における社会経済状況による喫煙格差を把握するとともに、格差是正のための規制のあり方を検討した。2016年度の診療報酬改定をうけて、禁煙治療の保険適用拡大に伴う財政影響の推計を行った。
結果と考察
履行状況の検証では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機に屋内全面禁煙の法制化が必要であること、警告画像やプレーンパッケージなど効果的な警告表示の導入にむけた政策提言を行う必要があること、たばこの広告、販売促進、後援活動の包括的禁止の法制化の必要性と、未成年者喫煙防止の観点からの後援とCSR活動の規制の重要性について、広く理解を得ていく必要があること、エビデンスに基づいて禁煙推奨の診療ガイドラインへの記述を学会に働きかけ、医療従事者による禁煙アドバイスの普及や治療の充実を図る必要があることが考えられた。わが国における医療費回収訴訟の可能性について検討した結果、現在のわが国の法状況において、たばこ産業に対する医療費相当額の返還請求が認められる可能性が最も高い法律構成は、製造物責任に基づく損害賠償請求であると判断した。電子たばこ・無煙たばこ規制をめぐる今後の法的課題については、たばこ事業法の改廃、包括的なたばこ規制法の策定など、たばこ規制の抜本的な改革の観点から解決の方向性を考察した。たばこ規制の行動経済・医療経済学的評価研究として、禁煙治療の費用対効果の評価を行った。一般に治療よりも効率的であると評価されることの多い予防介入と比較した結果、禁煙治療と同様にdominant(健康改善効果があり、かつプラスの経済効果がある)となる介入はわずかで、予防介入の中でも禁煙治療は費用対効果に優れていることを明らかにした。健康格差是正の観点からみたたばこ規制の効果の実証的検証として、わが国における所得や医療保険・学歴などの社会経済状況に応じた喫煙格差が明らかとなった。今後、たばこ税や価格の引き上げのほか、屋内禁煙化の法規制の強化や脱たばこメディアキャンペーンなど、喫煙格差を縮小させることが期待されているたばこ対策を組み合わせて推進していく必要があると考えられた。35歳未満のブリンクマン指数200以上の患者要件の撤廃に伴う医療費への財政影響を推計した結果、現行に比べて174億円の医療費削減効果が期待できると推計された。3年間に得られた研究成果をたばこ政策につなげるため、政策提言用のファクトシートを6種類作成した。その内容は、①東京五輪・パラリンピック大会にむけた屋内施設全面禁煙化のための法規制、②民法・刑法からみた受動喫煙による他者危害性、③たばこ製品の健康警告表示、④たばこの広告、販売促進、後援活動の禁止、⑤予防介入における禁煙治療の費用対効果、⑥健康格差是正の観点からのたばこ対策である。これらのファクトシートを政策決定者や対策担当者のほか、メディアにも提示して、わが国のたばこ規制の強化に賛同する世論の喚起・形成につなげたい。
結論
わが国は、WHOのFCTCの締約国の一員として、たばこ規制・対策を早急に推進することが国際的に約束した責務となっている。たばこ規制は国民の命を守る上で優先順位の高い政策であり、医療費の減少や労働生産性の改善などの経済効果も期待できる。今後、FCTCに基づいたたばこ規制の推進に資するよう研究を進める。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201508006B
報告書区分
総合
研究課題名
たばこ規制枠組み条約を踏まえたたばこ対策に係る総合的研究
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-010
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(公益社団法人地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川 浩二(独立行政法人 国立病院機構京都医療センター)
  • 大和 浩(産業医科大学産業生態科学研究所)
  • 森 淳一郎(信州大学医学部)
  • 欅田 尚樹(国立保健医療科学院)
  • 曽根 智史(国立保健医療科学院)
  • 田中 謙(関西大学法学部)
  • 岡本 光樹(岡本総合法律事務所)
  • 片山 律(萱場健一郎法律事務所)
  • 谷 直樹(谷直樹法律事務所)
  • 後藤 励(京都大学白眉センター)
  • 五十嵐 中(東京大学大学院)
  • 田淵 貴大(地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立成人病センターがん予防情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、国民の健康を守る観点からわが国が批准しているWHOのたばこ規制枠組条約(FCTC)の履行状況の検証、喫煙の健康被害の法的・倫理的側面からの検討、たばこ規制の行動経済・医療経済学的評価、健康格差是正の観点からのたばこ規制の効果の実証的検証を行い、今後のたばこ規制を行う上での政策課題と対策を総合的に検討し、政策提言を行うことにある。
研究方法
履行状況の検証では、締約国会議において議定書や指針が採択された第5.3条、第6条、第8~11条、第13~15条について、わが国の現状と課題を検討した。全国の喫煙者を対象にインターネット調査を行い、たばこの健康影響に関する認識やたばこ規制に対する意識などについて諸外国の調査結果と比較した。喫煙の健康被害の法的・倫理的評価では、受動喫煙の他者危害性を民法と刑法の観点から検討するとともに、わが国における医療費回収訴訟の可能性の検討を行った。たばこ規制推進にあたっての国内法上の問題点を関連する法律ごとに明らかにし、解決の方向性を考察した。たばこ規制の行動経済・医療経済学的評価研究として、喫煙者・非喫煙者双方の選好を考慮した社会的なたばこ価格の検討、複数回の禁煙企図を再現できるDESモデル(Discrete Event Simulation model)を用いた禁煙治療の費用対効果の評価を行った。健康格差是正の観点からみたたばこ規制の効果の実証的検証として、わが国における喫煙格差を調べるとともに、2010年のたばこ税・価格の引き上げの影響を社会経済状況別に検討した。2016年度の診療報酬改定にむけて、関連学会と協働して保険適用拡大の要望書を提出し、その財政影響を試算した。研究成果をたばこ政策につなげるため、政策提言用のファクトシートを作成した。
結果と考察
履行状況の検証については、第5.3条ではたばこ産業の行動の可視化を可能にする手段、第6条ではたばこ税・価格の大幅または継続的な引き上げ、第8条では2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機にした屋内全面禁煙の法制化、第9,10条では国内のたばこ有害成分評価へのHCI法の導入とその情報開示の制度化、第11条では警告画像やプレーンパッケージなどの導入にむけた政策提言、第13条では包括的禁止の法制化と未成年喫煙防止の観点からの後援・CSR活動の規制、第14条では日常診療での禁煙アドバイスを標準化した治療指針として位置づける診療ガイドラインの充実、第15条では同条項の推進がたばこ事業法の趣旨やJT等の利益と合致する可能性を考慮することの必要性が考えられた。インターネット調査の結果、わが国の喫煙者はたばこの健康影響に関する認識やたばこ規制から受けているインパクトが小さく、わが国のたばこ規制の取り組みの遅れが調査からも浮き彫りとなった。受動喫煙の他者危害性の法的検討の結果、①民事裁判では2012年以降、受動喫煙の急性影響に対する賠償責任が肯定されつつあること、②受動喫煙とその急性の健康影響に対して、それぞれ暴行罪、傷害罪が成立し得ることを明らかにした。医療費回収訴訟の可能性の検討の結果、わが国の法状況において実効性が最も高い法律構成は、製造物責任に基づく損害賠償請求であると考えられた。法制上の問題点の検討については、たばこ事業法の改廃など抜本的な解決の方向性を含めて考察した。コンジョイント分析による評価の結果、喫煙者・非喫煙者双方にとって「理想」とされるたばこ価格は、価格弾力性が−0.5では700円程度、−0.3では1,050円程度となった。DESモデルを用いた禁煙治療の費用対効果を他の予防介入と比較した結果、予防介入の中でも禁煙治療は費用対効果に優れていることを明らかにした。わが国における喫煙格差の実態を明らかにするとともに、2010年に実施されたたばこ税・価格の引き上げが喫煙率格差の縮小に結びついておらず、たばこ税・価格のさらなる引き上げの必要性を指摘した。2016年度の診療報酬改定を受けて、35歳未満への保険適用拡大による財政影響を推定した結果、その医療費削減効果は174億円と推計された。3年間に得られた研究成果をもとに政策提言用のファクトシートを6種類作成した。これらのファクトシートを政策決定者や対策担当者のほか、メディアにも提示して、わが国のたばこ規制の強化に賛同する世論の喚起・形成につなげたい。
結論
わが国は、WHOのFCTCの締約国の一員として、たばこ規制・対策を早急に推進することが国際的に約束した責務となっている。たばこ規制は国民の命を守る上で優先順位の高い政策であり、医療費の減少や労働生産性の改善などの経済効果も期待できる。今後、FCTCに基づいたたばこ規制の推進に資するよう研究を進める。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201508006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
たばこ規制枠組条約(FCTC)の履行状況の検証や喫煙者のインターネット調査により、わが国のたばこ規制の取り組みの遅れを明らかにした。受動喫煙の他者危害性について民法と刑法の両面から検討を行い、前者では他人にたばこの煙をふきかける行為の不法行為性、後者では暴行罪や傷害罪としての可罰性を明らかにした。2010年のたばこの値上げが喫煙率格差の縮小に結びついておらず、さらなる引き上げの必要性があること、喫煙者・非喫煙者双方の選好を考慮した社会的なたばこ価格は700~1050円であることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
喫煙関連疾患を取り扱う24学会のガイドラインにおける禁煙推奨の位置づけを調査し、約6割のガイドラインで禁煙推奨の記載があるものの、その内容は米国に比べて遅れていることを明らかにした。複数回の禁煙企図を再現できるDESモデルを用いた禁煙治療の費用対効果を他の予防介入と比較した結果、禁煙治療はとくに費用対効果に優れており、医療費削減につながることを明らかにした。
ガイドライン等の開発
研究成果をたばこ政策につなげるため、屋内施設全面禁煙化のための法規制、受動喫煙による他者危害性、たばこ製品の健康警告表示、たばこの広告、販売促進、後援活動の禁止、禁煙治療の費用対効果、健康格差是正の観点からのたばこ対策に関する6種類の政策提言用のファクトシートを作成した。
その他行政的観点からの成果
平成28年度の診療報酬改定にむけて議論となる財政影響について、これまでに構築してきた喫煙関連疾患の生涯医療費データ等を用いて試算し、関連学会と協働して保険適用拡大の要望書を提出した。その結果、35歳未満の若年者における保険適用の拡大が実現した。
その他のインパクト
上述の6種類の政策提言用のファクトシートを研究代表者の所属機関のホームページで公開し、国や自治体レベルの政策決定者及び担当者が活用できるように広く公開した。平成28年1月の一般向け研究成果発表会および同年10月の第75回日本公衆衛生学会総会シンポジウムを開催し、研究成果の公開をはかるとともに今後の政策のあり方を提供した。

発表件数

原著論文(和文)
12件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
75件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
120件
学会発表(国際学会等)
22件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tabuchi T, Hoshino T, Hama H, et al.
Complete Workplace Indoor Smoking Ban and Smoking Behavior among Male Workers and Female Nonsmoking Workers' Husbands: A Pseudo Cohort Study of Japanese Public Workers.
BioMed Research International  (2014)
10.1155/2014/303917
原著論文2
Tabuchi T, Fujiwara T, Nakayama T, et al.
Maternal and paternal indoor or outdoor smoking and the risk of asthma in their children: A nationwide prospective birth cohort study.
Drug and Alcohol Dependence , 147 , 103-108  (2014)
原著論文3
田淵貴大, 中村正和.
日本における年齢階級・学歴・医療保険別の受動喫煙格差
JACR Monograph , 20 , 39-48  (2014)
原著論文4
Tabuchi T, Fujiwara T, Shinozaki T.
Tobacco price increase and smoking behavior changes in various subgroups: A nationwide longitudinal 7-year follow-up study among a middle-aged Japanese population.
Tobacco Control  (2015)
10.1136/tobaccocontrol-2015-052804
原著論文5
Tabuchi T, Kiyohara K, Hoshino T, et al.
Awareness and use of electronic cigarettes and heat-not-burn tobacco products in Japan.
Addiction , 111 (4) , 706-713  (2016)
原著論文6
Tabuchi T, Hoshino T, Nakayama T.
Are Partial Workplace Smoking Bans as Effective as Complete Smoking Bans? A National Population-Based Study of Smoke-Free Policy Among Japanese Employees.
Nicotine & Tobacco Research , 18 (5) , 1265-1273  (2015)
原著論文7
Tabuchi T, Nakamura M, Nakayama T et al.
obacco Price Increase and Smoking Cessation in Japan, a Developed Country With Affordable Tobacco: A National Population-Based Observational Study.
Journal of Epidemiology , 26 (1) , 14-21  (2016)
原著論文8
Saito J, Tabuchi T, Shibanuma A, et al.
'Only Fathers Smoking' Contributes the Most to Socioeconomic Inequalities: Changes in Socioeconomic Inequalities in Infants' Exposure to Second Hand Smoke over Time in Japan.
PloS one  (2015)
10.1371/journal.pone.0139512
原著論文9
長谷川浩二, 尾崎裕香, 小見山麻紀, 他
診療ガイドラインにおける禁煙推奨の位置づけに関する調査研究
日本公衆衛生雑誌 , 63 (12) , 758-768  (2016)
原著論文10
仲下祐美子, 大島明, 増居志津子, 中村正和.
たばこ規制に対するたばこ使用者を 対象にした調査結果の国際比較
厚生の指標 , 63 (6) , 24-32  (2016)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
2018-06-08

収支報告書

文献番号
201508006Z