悪性胸膜中皮腫に対する新規治療法の開発及び実用化に関する研究

文献情報

文献番号
201438104A
報告書区分
総括
研究課題名
悪性胸膜中皮腫に対する新規治療法の開発及び実用化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
仲 哲治(独立行政法人 医薬基盤研究所 創薬基盤研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 白川 利朗(神戸大学大学院保健学研究科)
  • 谷 憲三朗(九州大学生体防御医学研究所 九州大学病院先端分子細胞治療科)
  • 金田 安史(大阪大学大学院 医学系研究科 遺伝子治療学)
  • 野村 愼太郎(長浜バイオ大学 バイオサイエンス学部・アニマルバイオサイエンス学科 )
  • 土井 俊彦(独立行政法人 国立がん研究センター 早期・探索臨床研究センター先端医療科 消化管腫瘍内科学)
  • 奥村 明之進(大阪大学大学院 医学系研究科 外科学講座呼吸器外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
95,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、5年生存率が3.7%と極めて予後が悪く有効な治療法が確立されていない悪性胸膜中皮腫に対して、研究代表者らが単離したサイトカインシグナル伝達抑制分子(SOCS3)の胸腔内投与による遺伝子治療を世界で初めて実用化するために必要な非臨床試験を達成することである。
 悪性胸膜中皮腫は診断が難しいため発見時に進行期である事が多く、放射線療法や化学療法が奏功し難いため、新たな治療法の早急な開発が必要とされている。近年、悪性胸膜中皮腫等の癌において、サイトカインシグナル伝達の異常と発癌や癌細胞の増殖亢進との関係が明らかにされている。SOCS3の細胞内強制発現は、JAK/STAT系以外に、MAPKやFAKなどのシグナル伝達経路も抑制し、p53の活性化も促進するため、SOCS3は癌細胞の増殖や生存シグナルを遮断する革新的抗癌剤としての実用化が期待される。
 既に研究代表者らはマウスを用いて、悪性胸膜中皮腫に対するGMP準拠のアデノウイルス(Ad)ベクターを用いたSOCS3(AdSOCS3)の抗腫瘍効果及びその薬理作用を明らかにし、SOCS3が悪性胸膜中皮腫の新規治療薬として有用である事を報告し(Iwahori K, Naka T et al. 2011 Int J Cancer)、カニクイザルにおける安全性も確認している。さらに、PMDA事前面談(平成24年10月)を踏まえ、追加で実施予定の非臨床試験実施計画に係る対面助言を平成25年6月6日に受け、研究代表者が立案した計画及びプロトコールに対しPMDAから既に了解を得ており、実用化に向けて創薬支援戦略室と相談中である。
研究方法
 本研究は、遺伝子治療の臨床研究実績を有する研究者らと共同で行った。平成26年度は、治験薬GMPに準拠したAdSOCS3製造法の確立を着手した。東京大学医科学研究所治療ベクター開発室で確立したAdSOCS3をGMP準拠で作製するシステム及び標準作業手順書(SOP)案を基に、神戸大学、九州大学分子・細胞調製センター及びタカラバイオ(株)とスケールアップした製造SOPの策定に着手し、タカラバイオ(株) のGMP準拠ベクター製造室で試験的ロットを製造しSOPの確定を行った。また、AdSOCS3による抗腫瘍効果のさらなる機序解明を試みた。
結果と考察
【GMP準拠のAdSOCS3ベクター製造】
 これまでに研究代表者らは東京大学医科学研究所治療ベクター開発室の田原教授の指導の下でGMP基準に準拠したAdSOCS3の製造を行った。非臨床試験および医師主導治験を達成するにはアデノウイルスベクター製造のスケールアップが必要である。そこで、平成26年度においては、田原教授の指導の下、GMP準拠のAdベクター製造実績を有する神戸大学(白川)、九州大学分子・細胞調製センター(谷)及びタカラバイオ(株)とスケールアップした製造SOPを策定に着手し、タカラバイオ(株) のGMP準拠ベクター製造室で試験的ロットを製造しSOPの確定を進めた。平成27年度では平成26年度に確定したSOPに基づき、AdSOCS3をタカラバイオ(株)で製造し、追加の非臨床試験及び品質試験を平成28年度までに完了する。
【SOCSの作用機序の解明】
 SOCSの作用機序に関する検討を進めた。その結果、癌細胞株にSOCSを強制発現させるとATRと結合し、Chk2のリン酸化増強を介してG2/M期での細胞周期停止を誘導する事を新たに発見した(論文投稿中)。現在、SOCS強制発現による抗腫瘍効果を発揮しやすいバイオマーカーを同定すべく研究を進めている。このようなバイオマーカーをコンパニオン診断薬として活用し、医師主導治験時に治療奏功性の高い患者の選択を評価する。さらに、薬効を引き出すのに適したベクター投与量を決定すべく、悪性胸膜中皮腫同所移植モデルを用いて用量探索試験も実施中である。
【遺伝子治療実施施設の準備】
 SOCS遺伝子治療を悪性胸膜中皮腫にするにあたり、国立がんセンター東病院にて平成26年10月2日に研究打ち合わせを行った。現在、カルタヘナ第一種申請など準備に取りかかっている。
 以上のように、当初の計画の予定を100%達成している。
結論
 本年度において、GMPに準拠したAdSOCS3のスケールアップ製造SOPを策定し、試作品を製造した。また、SOCSによる抗腫瘍効果の新たな作用機序も明らかにした。H26年度に製造したAdSOCS3を用いて、PMDAに確認済みの追加で実施が必要となる非臨床試験をH27年度以降に実行する。

公開日・更新日

公開日
2015-09-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201438104C

収支報告書

文献番号
201438104Z