変異型IDHを標的とした悪性脳腫瘍・肉腫・胆管がんに対する革新的治療法の開発

文献情報

文献番号
201438084A
報告書区分
総括
研究課題名
変異型IDHを標的とした悪性脳腫瘍・肉腫・胆管がんに対する革新的治療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
北林 一生(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 造血器腫瘍研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 成田 善孝(独立行政法人国立がん研究センター中央病院脳脊髄腫瘍科)
  • 中馬 広一(独立行政法人国立がん研究センター中央病院・骨軟部腫瘍・リハビリテーション科)
  • 奥坂 拓志(独立行政法人国立がん研究センター中央病院・肝胆膵内科)
  • 加藤 幸成(東北大学大学院医学系研究科 腫瘍生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、がん特異的な変異型イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)を発現する悪性脳腫瘍、胆道がん、軟骨肉腫などの稀少がんの治療法及び診断法を確立し、3年以内に臨床研究に進めることを目的とする。変異型IDH遺伝子変異を有する患者由来の組織を免疫不全マウスに移植した異種移植片(PDX)のマウスモデルを作製し、これらのマウスモデルに独自に開発した変異型IDH阻害剤を投与することにより、変異型IDHの標的妥当性を検証するとともに、変異型IDH阻害剤の治療効果を検証し、生体内での薬物動態を調べることにより、治療薬としての最適化を進める。さらに、変異型IDHを有する患者の早期診断のため、変異型IDHを特異的に認識する抗体を作製し、治療対象患者の診断法を確立する。
研究方法
①変異型IDH阻害剤の開発
 脳腫瘍・軟骨肉腫・骨肉腫・胆管がんの患者由来組織片をNOGマウスの皮下又は各組織に移植することにより、各がんの患者由来組織片移植(PDX)モデルを作製する。
 PDXモデルに変異型IDH阻害剤を投与し、腫瘍ボリュームの測定、染色像の観察、血漿中や腫瘍組織内の2HGレベルの定量などを行い、変異型IDH阻害剤に対する感受性を調べる事により、脳腫瘍・軟骨肉腫・骨肉腫・胆管がん等における変異型IDHの標的妥当性を検証すると共に、変異型IDH阻害剤の治療効果を確認する。
②診断法の確立
 変異型IDHのある患者の診断法を確立するため、変異型IDHに特異的な抗体を作製し、ヒト病理切片に対して免疫組織染色を行い、有用性の確認を行う。
結果と考察
IDH遺伝子変異を有する急性骨髄性白血病モデルマウスを開発し、Cre-loxPシステムを用いて変異型IDHを除去すると急性骨髄性白血病の発症が抑制されることが示された。変異型IDHを除去した白血病細胞を調べると、白血病幹細胞マーカーの発現が顕著に低下し、白血病誘導能が消失していることが明らかとなった。第一三共株式会社と共同で変異型IDH1に対する阻害剤を独自に開発した。急性骨髄性白血病モデルにおいて変異型IDH1阻害剤が、変異型IDHにより産生される腫瘍細胞内及び血漿中の2-ハイドロキシグルタレイトの量をほぼ完全に抑制し、白血病細胞を顕著に減少させることを証明した。物質特許及びこれらの抗腫瘍効果を含む主要特許を出願した。「IDH1変異を有するモデル評価系の作出と新規薬剤感受性の試験」に関する研究計画を国立がん研究センターの倫理審査員会に提出し承認を得た。3例の変異型IDH1変異を有する脳腫瘍試料を免疫不全マウスの皮下に移植移植し、繰り返し移植可能な株を1株樹立した。
IDH1-R132Gに反応し、野生型IDH1に反応しない複数のクローンをELISA法により選択した。次に、複数の変異型IDH1/2に対するELISAを実施したところ、新規に樹立したMsMab-1抗体(IgG1, kappa)は、複数の変異型IDH1/2に交差反応性を示すことがわかった。ウェスタンブロット法により、IDH1-R132H、IDH1-R132S、IDH1-R132G、IDH2-R172M、IDH2-R172S、IDH2-R172Gのリコンビナントタンパク質に対する反応性が見られた。さらに、免疫組織染色においても、MsMab-1抗体はIDH1-R132H、IDH1-R132S等の変異型IDH1/2を保有するgliomaに対して高い反応性を示した。以上のことから、MsMab-1抗体は、変異型IDH1/2陽性のgliomaの診断マーカーとして有用であることがわかった。このMsMab-1抗体と以前に作製したHMab-1抗体(IDH1-R132Hに対する特異的抗体)を組み合わせ、免疫組織染色を実施した結果、54症例のgradeIIIのgliomaのうち、30症例(55.6%)がIDH1/2の変異陽性となった。さらに、IDH1/2の変異陽性群とIDH1/2の変異陰性群のgliomaの予後の比較を行ったところ、IDH1/2の変異陽性群の予後が有意に良いことがわかった。
結論
変異型IDHが治療標的として妥当であり、変異型IDH1阻害剤は治療薬として有望である。また、HMab-1/MsMab-1抗体の組み合わせによる免疫組織染色において、変異型IDH1/2を高感度に検出することが可能となり、診断薬への応用が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201438084C

収支報告書

文献番号
201438084Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
40,000,000円
(2)補助金確定額
39,636,049円
差引額 [(1)-(2)]
363,951円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 26,462,625円
人件費・謝金 2,491,013円
旅費 49,200円
その他 1,455,212円
間接経費 9,230,000円
合計 39,688,050円

備考

備考
自己充当額 52001円

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-