手術中に膵液の漏出部位を同定し蛋白分解酵素活性を評価する蛍光イメージング技術の開発

文献情報

文献番号
201435004A
報告書区分
総括
研究課題名
手術中に膵液の漏出部位を同定し蛋白分解酵素活性を評価する蛍光イメージング技術の開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
石沢 武彰(東京大学医学部附属病院 肝胆膵・人工臓器移植外科)
研究分担者(所属機関)
  • 國土 典宏(東京大学医学部附属病院 肝胆膵・人工臓器移植外科)
  • 山本 訓史(東京大学医学部附属病院 肝胆膵・人工臓器移植外科)
  • 浦野 泰照(東京大学大学院 医学系研究科 生体情報学講座)
  • 神谷 真子(東京大学大学院 医学系研究科 生体情報学講座)
  • 斎浦 明夫(がん研有明病院 消化器外科 肝胆膵外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 医療技術実用化総合研究(臨床研究・治験推進研究事業)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
46,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
蛋白分解酵素活性に基づいて膵液を蛍光標識する術中イメージング技術を開発するにあたり、glutaryl-phenylalanine hydroxymethyl rhodamine green (gPhe-HMRG)と反応生成物たるHMRGの非臨床安全性試験を実施すること。同時に、試薬合成の体制と手術室における撮像環境を整備し、治験計画の骨子を策定すること。
研究方法
I. キモトリプシンプローブ最適化に関する検討
ブタ体腔内で膵実質を自動縫合器で離断。キモトリプシンプローブ(gPhe-HMRG 50μMにtrypsin 400μg/mL添加) 200μLを散布。実験用蛍光イメージャーで観察した。
II. gPhe-HMRG, HMRGの非臨床安全性試験の実施
PMDA薬事戦略相談対面助言を受けて決定した非臨床安全性試験のうち、単回投与毒性試験、遺伝毒性試験、hERG電流に対する安全性薬理試験を実施した。
III. 治験開始に向けた体制整備
1) 膵液漏発生率とリスク因子の検証:膵切除症例の手術成績を後ろ向きに解析した。
2) 手術室における撮像環境の評価:手術室環境で3種の撮像装置(システムA: 医療用内視鏡システムに515nm long-passカメラフィルターを装着, システムB: 上記Aの光源をLED光源に変更, システムC: 上記Bの撮像装置を非医療用カメラに変更)を用いてHMRGファントムを撮影した。
3) gPhe-HMRG製造工程の整備
結果と考察
I. キモトリプシンプローブ最適化に関する検討
・キモトリプシンプローブ 200μLの散布により、膵液漏出部位が明瞭に描出された。蛍光シグナルはフィルター装着下に術者が肉眼観察可能であり、蛍光ガイド下に縫合処置し得た。
・膵液漏出部位では、プローブ散布後3分で蛍光強度が散布前の2.0~5.5倍に上昇したのに対し、非蛍光領域では散布後5分でも蛍光強度の上昇を認めなかった。
II. gPhe-HMRG, HMRGの非臨床安全性試験の実施
・試験実施範囲内で、gPhe-HMRGの毒性は示されなかった。HMRGには用量反応性の遺伝毒性を発現する可能性が示唆されたが、本プローブの投与法が微量(gPhe-HMRGとして最大約57.8μg)であり、散布後に十分量の生食で洗浄することを考慮すると、臨床使用に際する遺伝毒性のリスクは低いと推察された。
III. 治験開始に向けた体制整備
1) 膵切除における膵液漏発生率とリスク因子の検証
・膵切除62症例の検討では、国際基準 (ISGPF)によるgrade B以上の膵液漏の発生頻度は膵頭十二指腸切除で 31%、膵体尾部切除で33%であった。Clavien-Dindo分類grade III以上の術後合併症の発生頻度は、膵頭十二指腸切除で11%、膵体尾部切除で30%であった。
・Shear wave velocity(SWV)の計測に基づいて膵実質の硬さをhard pancreas, n = 30)とsoft pancreas(n = 32)に分けた場合、ISGPF grade B以上の術後膵液漏の発生率は後者の方が高かった(13% vs. 63%, P = 0.001)。
2) 手術室における撮像環境の評価
・照明を全消灯し、システムAを用いて観察した場合、濃度1.0μMのHMRGが発する蛍光シグナルをモニター上で認識できた。天井灯を点灯しても濃度10μMのHMRGが発する蛍光シグナルを認識できたが、無影灯点灯下では蛍光シグナルが認識不能となった。システムBにより光源波長をHMRGに最適化(490nm)したが、光量不足のためか視認性は改善しなかった。手術室照明全消灯下にシステムCを用い、ISO感度を128,000以上に設定(exposure time: 4ms)すると、フィルターを介した肉眼観察と同様、最も低濃度(0.1μM)のHMRGサンプルを認識できた。手術操作に必要な背景の構造も十分に描出された。3) gPhe-HMRG製造工程の整備
・品質規格について検討し、強熱残分などを追加した。精製方法の見直しに関連し、含量測定方法を見直した。結晶化法を用いて精製することで、凍結乾燥作業の回避及びトリフルオロ酢酸の除去が可能となった。
結論
臨床使用における投与法を「キモトリプシンプローブ(50μMのgPhe-HMRGにtrypsinを400μg/mLの濃度で添加)を膵断端に1回あたり500μL散布する」と設定した。また、単回投与毒性試験、遺伝毒性試験、及びhERG電流に対する安全性薬理試験を実施し、gPhe-HMRGの安全性を確認した。更に試験物の製造行程を改良し、手術室における撮像環境を確立した。

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201435004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
キモトリプシンプローブを用いた膵液の術中蛍光イメージング技術の開発において、臨床使用に際して求められる非臨床試験のうち単回投与毒性試験、遺伝毒性試験、及びhERG電流に対する安全性薬理試験を実施し、試験物であるgPhe-HMRGが重大な毒性を示さないことを確認した。また、プローブ製造行程が改良されるとともに手術室における撮像環境が確立され、本技術を用いた臨床試験を実施する体制が整備された。
臨床的観点からの成果
キモトリプシンプローブを体腔内に散布し、既存の腹腔鏡システム(自家蛍光モード)あるいは肉眼で観察することにより、膵液漏出部位がリアルタイムに描出される可能性が示された。本技術を患者体腔内で使用できれば、消化器手術における術後膵液漏の発生を予防したり、予防的腹腔ドレーンの適応を正確に評価したりすることが可能になると期待される。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
該当無し
その他のインパクト
The 2nd Annual International Congress of Fluorescent Guided Imaging Surgery (Miami, Feb. 14th, 2015)を開催し専門家間で議論を行った。また本技術を含む蛍光イメージングについて英語教科書を編集した(Fluorescence imaging for surgeons, Springer, in press).

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Harada N, Ishizawa T, Inoue Y, et al.
Acoustic radiation force impulse imaging of the pancreas for estimation of pathologic fibrosis and risk of postoperative pancreatic fistula
Journal of the American College of Surgeons , 219 (5) , 887-894  (2014)
10.1016/j.jamcollsurg.2014.07.940
原著論文2
Miyata A, Ishizawa T, Tani K, et al.
Reappraisal of a dye-staining technique for anatomic hepatectomy by the concomitant use of indocyanine green fluorescence imaging
Journal of the American College of Surgeons , 22 (2) , e27-e36  (2015)
10.1016/j.jamcollsurg.2015.05.005
原著論文3
Kono Y, Ishizawa T, Tani K, et al.
Techniques of fluorescence cholangiography during laparoscopic cholecystectomy for better delineation of the bile duct anatomy
Medicine (Baltimore) , 94 (25) , e1005-  (2015)
10.1097/MD.0000000000001005
原著論文4
Mori K, Ishizawa T, Yamashita S, et al.
Intraoperative visualization of pancreatic juice leaking from the pancreatic stump in a swine model.
Gastroenterology , 149 (6) , 1334-1336  (2015)
10.1053/j.gastro.2015.07.068
原著論文5
Ida S, Hiki N, Ishizawa T, et al.
ancreatic Compression during Lymph Node Dissection in Laparoscopic Gastrectomy: Possible Cause of Pancreatic Leakage
Journal of Gastric Cancer , 18 (2) , 134-141  (2018)
10.5230/jgc.2018.18.e15

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
2019-06-03

収支報告書

文献番号
201435004Z