水道システムにおける生物障害の実態把握とその低減対策に関する研究

文献情報

文献番号
201429001A
報告書区分
総括
研究課題名
水道システムにおける生物障害の実態把握とその低減対策に関する研究
課題番号
H24-健危-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 道宏(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 藤本  尚志(東京農業大学応用生物科学部)
  • 高梨  啓和(鹿児島大学工学部)
  • 西村  修(東北大学大学院工学研究科)
  • 岸田  直裕(国立保健医療科学院生活環境研究部)
  • 清水  和哉(東洋大学生命科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水道システムに危害を及ぼす生物には、病原微生物のほか、飲料水の異臭味や着濁原因となる生物等(以下、障害生物という)が存在する。障害生物が水道システムに及ぼす危害は「生物障害」と呼ばれている。一部の浄水場では、生物障害の発生により薬剤・電力使用量が増加し、浄水処理コストが増加することが明らかになっており、生物障害が水道システムに及ぼす影響は無視できない。しかしながら、病原微生物等と比較して、生物障害のリスクに関しては、その実態把握やリスク低減に関する検討が遅れているのが現状である。そこで本研究では、水道システムにおける生物障害の実態把握とその低減対策手法の提案を目的とした。
研究方法
1) 国内の浄水場における近年の生物障害の発生傾向
昨年度までに実施した国内広範囲の浄水場を対象とした生物障害に関するアンケート調査結果と、約10年前に実施された同様の調査結果を比較した。
2) 分子生物学的手法によるろ過漏出障害の原因生物の解明
浄水場工程水を対象とし、クローニング法を用いてピコプランクトンの生物相について解析するとともに、次世代シークエンスによる16S rRNA遺伝子アンプリコン解析を用いて詳細な評価を行った。
3) 水源における障害生物の発生実態解明
パブリックデータから、生物障害発生の地理的分布を解析し、障害生物の発生実態を把握した。
4) 生物障害を起こさないための浄水処理技術の開発
培養したピコ植物プランクトンを懸濁させた原水を用いてラボスケールの凝集ろ過処理実験、および凝集沈澱ろ過処理実験を行い、二段凝集処理の効果を解析した。
5) 生物障害に対応した持続的な水道システムの検討
生物障害の発生に伴い間接的に増加する二酸化炭素排出量を推算した。また、5種類のシナリオを設定して、イニシャルコストとランニングコストを推算してシナリオ分析を行い、恒久的対策の有効性を検討した。
結果と考察
1) 国内の浄水場における近年の生物障害の発生傾向
約10年前の調査と比較して、本調査においては、北海道・東北地方、関東地方において生物障害の発生件数が特に多かった。
2) 分子生物学的手法によるろ過漏出障害の原因生物の解明
Synechococcus 属の種類によって処理工程における除去特性が異なる可能性が示唆された。また、浄水場工程水において従属栄養細菌であるProteobacteria門の割合が高く、濁度への寄与が大きいことが示唆された。
3) 水源における障害生物の発生実態解明
近年、関東北部以北における水道水質基準値を超えるカビ臭発生報告がなされてきていることから、水道水質基準値を超えるカビ臭発生が北上していくと推測された。
4) 生物障害を起こさないための浄水処理技術の開発
ピコプランクトンを凝集沈澱処理するためには、粘土粒子等に比べて比重が小さく沈澱除去が困難であること、また粘土粒子等に比べてより多くの凝集剤注入量を必要とし、結果としてフロックの再分散を生じる可能性が高いことから、ろ過処理前に適切な凝集剤注入量によってろ過除去可能なフロックを形成する凝集ろ過法は、ピコプランクトンの除去には極めて合理的であると考えられた。
5) 生物障害に対応した持続的な水道システムの検討
生物障害の発生に伴う間接的な二酸化炭素排出変化量は、全国で35,186 t-CO2/年が増加することが明らかとなった。この値は、浄水処理による二酸化炭素排出量の年間値の0.81 %である。シナリオ解析を実施した結果、平均送水量500,000 m3/日の規模の浄水場において、粉末活性炭の平均注入率が27 mg/L以上になると、粒状炭処理プロセスを導入した方がコスト面で有利になることが明らかとなった。
結論
1) 我が国の浄水場における近年の生物障害の発生傾向を明らかとすることができた。高緯度地域でも生物障害が発生する傾向にあり、これまで以上に生物障害対策を進めていく必要性があると考えられた。
2) 分子生物学的手法を用いて一部のろ過漏出障害原因生物を同定することに成功した。
3) 生物障害は、地域によらず、今後も高頻度で発生する傾向が続くことが予想された。生物障害の対策は、環境化学的知見のみならず生物・生態学的知見に立脚することが重要である。
4) ピコ植物プランクトンのように、凝集沈澱処理において多量の凝集剤注入量を必要とする懸濁物質の除去には、ろ過の前に凝集剤を添加する凝集ろ過法が合理的な処理法である。
5) 生物障害の発生頻度の上昇や発生する臭気物質濃度が上昇した場合には、二酸化炭素排出量の増加が問題になる可能性があることがわかった。また、生物障害の対策として粒状活性炭処理プロセス等の導入が運用コスト面で有効になるケースを、シナリオ解析を通じて明らかとした。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-08-04
更新日
-

文献情報

文献番号
201429001B
報告書区分
総合
研究課題名
水道システムにおける生物障害の実態把握とその低減対策に関する研究
課題番号
H24-健危-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 道宏(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 西村  修(東北大学大学院工学研究科)
  • 柳橋  泰生(福岡女子大学国際文理学部)
  • 藤本  尚志(東京農業大学応用生物科学部)
  • 高梨  啓和(鹿児島大学工学部)
  • 岸田  直裕(国立保健医療科学院生活環境研究部)
  • 清水  和哉(東洋大学生命科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水道システムに危害を及ぼす生物には、病原微生物のほか飲料水の異臭味や着濁原因となる生物等(以下、障害生物という)が存在する。障害生物が水道システムに及ぼす危害は「生物障害」と呼ばれている。一部の浄水場では、生物障害の発生により薬剤・電力使用量が増加し、浄水処理コストが増加することが明らかになっており、生物障害が水道システムに及ぼす影響は無視できない。しかしながら、病原微生物等と比較して、生物障害のリスクに関しては、その実態把握やリスク低減に関する検討が遅れているのが現状である。そこで本研究では、水道システムにおける生物障害の実態把握とその低減対策手法の提案を目的とした。
研究方法
1)国内の浄水場における生物障害の発生および対策実態の把握
全国79の水道事業体および239の浄水場を対象としたアンケート調査によって、平成22年10月から24年9月までの2年間に発生した生物障害および対策実態を明らかとした。
2)分子生物学的手法によるろ過漏出障害の原因生物の解明
クローニング・次世代シークエンス法により、浄水場工程水の生物相を評価し、ろ過漏出障害の原因生物について検討を行った。
3)水道水源における障害生物の発生抑制手法の検討
水源ダム貯水池における生物障害の発生抑制手法として曝気循環設備に着目し、その効果を把握するため、アオコ・カビ臭による水質障害が継続して発生している9ダム貯水池にて検証を行った。
4)生物障害を回避するための浄水処理技術の開発
培養したピコ植物プランクトンを懸濁させた原水を用いてラボスケールの凝集沈殿・ろ過処理実験を行った。
5)生物障害に対応した持続的な水道システムの検討
生物障害の発生に伴い間接的に増加する二酸化炭素排出量を推算した。また、5種類のシナリオを設定して、イニシャルコストとランニングコストを推算してシナリオ分析を行い、恒久的対策の有効性を検討した。
結果と考察
1)国内の浄水場における生物障害の発生および対策実態の把握
対象期間中に生物障害が発生したのは、アンケート対象79水道事業体のうち49事業体、239浄水場中102浄水場であった。障害の種類別に見ると、異臭味障害の発生が特に多いことがわかった。約10年前に実施された同様の調査の結果と比較すると、北海道、東北、関東地方において全体的に障害が増加していた。
2)分子生物学的手法によるろ過漏出障害の原因生物の解明
一部のSynechococcus属は除去率が低く、ろ過漏出障害の原因となっていると推測された。また、浄水場工程水において従属栄養細菌であるProteobacteria門の割合が高く、濁度への寄与が大きいことが示唆された。
3)水道水源における障害生物の発生抑制手法の検討
曝気循環設備増設によって、藍藻綱は多くのダムで細胞密度が低下した。一方、カビ臭原因藻類については、曝気循環設備を運転しても、抑制効果が見られるケースと見られないケースがあった。
4)生物障害を回避するための浄水処理技術の開発
ピコプランクトンを凝集沈澱処理するためには、粘土粒子等に比べてより多くの凝集剤注入量を必要とし、結果としてフロックの再分散を生じる可能性が高いことから、ろ過処理前に適切な凝集剤注入量によってろ過除去可能なフロックを形成する凝集ろ過法は、ピコプランクトンの除去には合理的であると考えられた。
5)生物障害に対応した持続的な水道システムの検討
生物障害の発生に伴う間接的な二酸化炭素排出変化量は、全国で35,186t-CO2/年が増加することが明らかとなった。この値は、浄水処理による二酸化炭素排出量の年間値の0.81%である。シナリオ解析を実施した結果、平均送水量500,000 m3/日の規模の浄水場において、粉末活性炭の平均注入率が27 mg/L以上になると、粒状炭処理プロセスを導入した方がコスト面で有利になることが明らかとなった。
結論
1)国内広範囲の水道事業体が生物障害に悩まされていることが明らかとなった
2)分子生物学的手法を用いて一部のろ過漏出障害原因生物を同定することに成功した。
3)一部の障害生物の抑制に対して曝気循環設備の有効性が明らかとなったが、設備の規模や運転パターンと抑制効果との関係について、更に実証データを蓄積し検証していく必要がある。
4)ピコ植物プランクトンのように、凝集沈澱処理において多量の凝集剤注入量を必要とする懸濁物質の除去には、ろ過の前に凝集剤を添加する凝集ろ過法が合理的な処理法である。
5)生物障害の発生頻度の上昇や発生する臭気物質濃度が上昇した場合には、二酸化炭素排出量の増加が問題になる可能性があることがわかった。また、生物障害の対策として粒状活性炭処理プロセス等の導入が運用コスト面で有効になるケースを、シナリオ解析を通じて明らかとした。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201429001C

収支報告書

文献番号
201429001Z