化学物質のヒト健康リスク評価における(定量的)構造活性相関およびカテゴリーアプローチの実用化に関する研究

文献情報

文献番号
201428020A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質のヒト健康リスク評価における(定量的)構造活性相関およびカテゴリーアプローチの実用化に関する研究
課題番号
H24-化学-指定-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価研究室)
  • 小野 敦(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価研究室)
  • 山田 雅巳( 国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 吉田 緑(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 森田 健(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
  • 西村 哲治(帝京平成大学 薬学部)
  • 長谷川隆一(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
19,232,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 数万種に及ぶ安全性評価未評価の既存化学物質のリスク管理は、世界的な課題となっており、カテゴリーアプローチや(Q)SARの利用については、OECDを始めとしてEC諸国および米国EPAにおいても検討されているが、実際のヒト健康リスク評価における利用は未だ限定的である。これら手法の構築および改良を行うとともに、カテゴリーアプローチや(Q)SARを利用した化学物質安全性評価ストラテジーの提案を行う。
研究方法
 遺伝毒性においては、1)エームス試験の大規模データベースの再構築、2)染色体異常試験の予測モデルの改良と、QSAR予測モデルの妥当性の検証、3)in vivoでの代謝、解毒を考慮した肝臓での遺伝毒性発現メカニズムモデルの構築と、QSAR予測手法の開発を行った。
 反復毒性については、QSARの実用化に向けて、化審法化合物の解析により、毒性の強い化合物に共通することが示唆された部分構造の毒性予測における有効性・信頼性について、独立した化合物セットに対して同様に構造プロファイリングを実施して検証と、部分構造の組み合わせによる評価法を開発した。また、公表されている農薬等の化学物質の毒性プロファイルに応用し、分類した。さらに、検索した化学物質については構造・作用機序ごとに特徴的な重篤な毒性が存在するかを解析した。同様の取り組みを行っている米国EPAやEUおよびOECDにおける取組について情報収集を行い、OECD等において国際的に提案される予測評価手法について独自の検証を行った。
結果と考察
 エームス試験に関しては、12,962物質の化学物質からなる世界最大規模のエームス試験データベースの再構築を行った。In vivo遺伝毒性予測モデルの構築のため、in vivo試験データベースの構築を行い、QSAR開発共同研究者であるブルガス大学と、ラーサ研究所に提供した。ブルガス大学では変異原性カテゴリー予測のためのメカニズムベースのサマリーワークフローを導入し、試験法と評価のための統合アプローチ(IATA)に反映させた。ラーサ研究所は、知識ベースのTG試験予測モデルの開発を行い、NIHSからのデータ提供により、感度および特異性が大幅に向上した。
 肝毒性については、これまでに開発したRapid Prototypes (RP)アラートのうち、残された21種の簡易評価を行い、2アラートをフルアラートとし、8つのRPは無効化した。これにより、肝毒性の予測精度は、感度39.5%、特異性は77.9%となった。毒性フェノタイプからの評価モデル構築の検討として、病理変化とあわせて血液化学及び、血液生化学的変化のクラスタリング解析を行い、毒性学的に意味のあるパラメータセットの変動を示すエンドポイントクラスター化学物質群について科学的に妥当と考えられる共通部分構造の抽出に成功した。
 農薬の毒性について公表データを基に構造別に分類し、子宮内膜腺癌が増加した農薬を抽出し、各剤の既知情報から考えられる発がん機序予測の可否と化学構造および作用機序を解析した。子宮癌はラットの慢性毒性発がん性併合試験のみ計7剤で投与により発生頻度が増加した。
 有機リン系殺虫剤を対象物質群として、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)活性阻害を指標とした神経系への毒性に関して、作用と構造の関係を検討した。個々の物質の評価では、問題とする作用濃度ではないが、類似の基本骨格をもち、側鎖の構造は変化に富み多岐にわたった。
結論
 本研究では、構造活性相関やカテゴリーアプローチ手法の化学物質のヒト健康リスク評価における実用化に向けた改良と、得られた成果を基にしたストラテジーの提案を行う。エームス試験に関しては、今後、再構築した世界最大規模のエームス試験データベースを用い、QSARツールの予測性向上のための国際共同研究を組織し、この分野で国際的イニシャティブを取る。他の遺伝毒性エンドポイントについてもデータベースの充実化と、予測モデル開発も着実に進める。
 反復毒性についても、幅広い化学構造に対応したデータベースの拡充が今後の課題である。化学物質ごとに入手可能な類似物質の情報をもとに適用可能な評価手法を選択して評価を行う評価スキームのほうが化学物質規制における実用性は高い。また、類似構造や共通部分構造の化学物質について予測に十分な知見の得られていない化学物質については、化学構造のみで評価を行うのではなく、毒性発現メカニズムに立脚したin vitro試験や少数例の動物試験との組み合わせによる評価手法の検討も重要である。
 本研究成果をもとにOECDや諸外国との情報交換を行い、最終的に実際の評価過程で、カテゴリーアプローチやQSARを使うための評価ストラテジーを提案し、国際貢献に寄与したい。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-07-01
更新日
-

文献情報

文献番号
201428020B
報告書区分
総合
研究課題名
化学物質のヒト健康リスク評価における(定量的)構造活性相関およびカテゴリーアプローチの実用化に関する研究
課題番号
H24-化学-指定-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
  • 広瀬明彦(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価研究室)
  • 小野 敦(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価研究室)
  • 山田雅巳(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 吉田 緑(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 森田 健(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
  • 西村 哲治(帝京平成大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、構造活性相関やカテゴリーアプローチ手法の化学物質のヒト健康リスク評価における実用化に向けた改良と、得られた成果を基にしたストラテジーの提案を行うことを目的とする。
研究方法
(1) エームス試験結果のQSAR予測精度の向上を図ることを目的として、我が国で行われた化審法、労安法GLP試験データを中心として、約2万化学物質からなるデータベースを作る。系統的なin vivo遺伝毒性データベースを構築し、生体内での代謝、解毒および生物学的利用率を考慮したin vivo遺伝毒性の予測モデルを開発する。
(2) 部分構造を指標とした毒性評価モデルについては、外部検証用化合物のうち、誤判定される化合物の化学構造についてモデル改良のための解析を行うとともに、化審法新規申請された化学物質の評価への適用性について検討を行う。OECD等で提案されているヒト健康リスク評価手法について、本研究班で構築したデータベースにより、独自に比較検証を行い、有用性について検討する。
(3) 構造や作用機序に基づき共通の特徴的な毒性プロファイルを有する農薬について、特に、神経毒性と、子宮がんを発生させる農薬について構造的な共通性の有無を検討する。
(4) 構造解析に基づき、潜在的に神経系に作用する可能性がある構造を有する化学物質の抽出、群別化を進める。特に、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害活性値に注目する。
結果と考察
(1) エームス試験に関しては、約1万3千化学物質からデータベースを構築した。In vivo遺伝毒性試験データベースも構築し、これまでのin vitroでのアラートをin vivoへ拡大した。このデータベースを基に、TIMES(メカニズムベース)と、DEREK(ルールベース)によるin vivo 遺伝毒性予測モデルを開発した。
(2) 肝毒性に関与する既存の肝毒性アラートを修正し、肝毒性のDEREKでの予測率を大幅に向上させた。また、統計モデルであるSarahによる肝毒性予測モデルでもDEREKとほぼ類似した予測精度を示したが、これら両システムを併合することによって感度の向上が得られることが示唆された。反復毒性の強さに関しては、化審法既存点検化合物のデータの構造プロファイリングにより、毒性の強い化合物及び毒性の弱い化合物に特徴的な部分構造の抽出に成功した。また、構造の類似度からの無毒性量の予測信頼限界を示す関係式を導いた。血液化学及び血液生化学的変化のクラスタリング解析を行い、毒性学的に意味のあるエンドポイントクラスター化学物質群から共通部分構造の抽出に成功した。
(3) 農薬の毒性について構造別に26の系に分類し、5系統について毒性プロファイル、想定されるMOA、種差、神経毒性発現用量と許容1日摂取量(ADI)設定根拠無毒性量等、多角的な比較を行った。この解析から、神経毒性が化学構造から予測できる可能性が考えられたが、一方、子宮発がん性機序の予測には適切な機序試験が重要と考えられた。
(4) AChE活性阻害を指標として神経系に対する毒性について、カテゴリーアプローチを行い、構造に基づくカテゴリー化により、作用の強弱の推測が可能であることを示唆する例を提示することができた。In vitroのIC20値とADI値の関係に必ずしも高い相関関係は見られなかったが、カテゴリー化による毒性評価の結果を補填することや、毒性の強弱などの予測を検証評価できることが示唆された。
結論
本研究では、3年間で計画通りの研究結果を得た。エームス試験に関しては、世界最大規模のエームス試験データベースを構築した。今後、このデータベースを基に、QSARツールの予測精度の向上を目指した国際共同研究を組織する。他の遺伝毒性試験については、OECDガイドラインの変更を鑑み、予測モデルを改良し、実用化に貢献すると共に、IATAを考慮した新しい評価ストラテジーを構築する。また、反復毒性については、構造類似の化学物質が含む幅広い化学構造に対応したデータベースを拡充し、単一のモデルやルールのアプローチよりも、化学物質ごとに入手可能な類似物質の情報を基に評価を行うカテゴリーアプローチを用いて、化学物質規制において実用性の高い評価手法を目指す。また、神経毒性発現化合物に関する高精度の予測モデルも構築した。蓄積データについては、OECD等で提案される手法の評価等に再利用可能な既知見情報になり得る。本研究成果をもとにOECDや諸外国との情報交換を行い、最終的に実際の評価過程で、カテゴリーアプローチやQSARを使うための評価ストラテジーを提案し、国際貢献に寄与したい。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201428020C

収支報告書

文献番号
201428020Z