印刷労働者にみられる胆管癌発症の疫学的解明と原因追究

文献情報

文献番号
201425020A
報告書区分
総括
研究課題名
印刷労働者にみられる胆管癌発症の疫学的解明と原因追究
課題番号
H25-労働-指定-013
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
圓藤 吟史(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 河田 則文(大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学)
  • 久保 正二(大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵外科学)
  • 河野 公一(公益社団法人 関西労働衛生技術センター)
  • 祖父江 友孝(大阪大学大学院医学系研究科社環境医学)
  • 伊藤 ゆり(大阪府立成人病センター・がん予防情報センター疫学予防課・がん疫学 )
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター)
  • 久保田 昌詞(大阪労災病院治療就労支援センター)
  • 鰐渕 英機(大阪市立大学大学院医学研究科分子病理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
11,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
印刷労働者にみられた胆管癌発症について疫学的解明と原因追究を行う。
研究方法
①胆管がん多発事例のみられた大阪のA事業場校正印刷部門の従事者を対象とし、標準化罹患比(SIR)を求めた。②職業性胆管癌の大阪のA事業場17例および全国9例の臨床病理学的所見を検討した。③胆管がん検診および1,2-ジクロロプロパン(DCP)業務従事者の健康管理手帳による健康診断を行った。④労働者健康福祉機構の入院患者病職歴データベースから最近5年間の胆管癌患者1068例を抽出し、職歴が単一で、性別、年齢、病院、入院時期を一致させた非がん患者を対照とする症例対照研究を行った。⑤地理情報システムを用いて、2004-2007年の大阪府における胆管がん発症例の居住地と大阪のA事業場との距離の関係について検討した。⑥全国印刷工業健康保険組合の2009年7月~2011年3月請求分DPCデータベースより病名が胆管がん(C221、C240)を抽出し、全国DPCデータと比較した。⑦ジクロロメタン(DCM)を取り扱う単位作業所56か所で行われた作業環境測定の結果を検討した。⑧職業性胆管がんと認定された印刷労働者6人について、使用した化学物質の種類と曝露濃度を推定した。⑨雄性F344系gpt delta ラット、雄性B6C3F1系野生型、p53欠損型マウスを用いて毒性試験を行った。⑩雄性シリアンゴールデンハムスターにイニシエーション処置としてN-nitrosobis (2-oxopropyl) amine (BOP)を投与し、1週間の休薬期間後、15および17週間1,2-DCPを強制胃内投与した。
結果と考察
①コホート全体の胆管がんのSIRは1132.5 (95%信頼区間659.7-1813.2)であった。②胆管癌診断の数年前よりγ-GTP高値などの肝機能異常が見られる症例が多かった。診断時血液検査では、γ-GTP高値などの肝機能異常とCA19-9などの腫瘍マーカーの上昇がみられた。主腫瘍による胆管狭窄を伴わない限局性肝内胆管拡張像が特徴的であった。主腫瘍は腫瘤形成型肝内胆管癌、胆管内発育型肝内胆管癌や乳頭型肝外胆管癌であった。広範囲の胆管に前癌病変であるbiliary intraepithelial neoplasia (BilIN)や intraductal papillary neoplasm of the bile duct (IPNB)がみられ、さらに慢性胆管傷害像やDNA傷害を示すγ―H2AH陽性胆管上皮がみられた。③2名に腹部エコー(肝・胆・胆管に関する異常所見)、肝機能検査(γ-GPTの上昇など)、腫瘍マーカー(CA19-9、CEAの上昇など)のいずれかに異常所見が認められた。④ 産業・職業大分類別、有機溶剤使用推定でいずれも胆管癌のOdds比が有意ではなかった。⑤ 胆管がん罹患の地理的集積性は認められなかった。⑥ 21~60歳被保険者男性の胆管がんによる標準化退院率比は2.18(95%信頼区間0.93-5.09)であった。⑦DCM取扱単位作業所で局所排気装置あるいは密閉装置を用いていない事業所は5事業場でそのうち2事業場はオフセット印刷作業でローラーの払拭を行っていた。A測定には作業環境管理、B測定には作業員数が影響していた。⑧DCPの1日労働時間の時間荷重平均濃度は75-240 ppmと推定された。6人中4人はDCMにも曝露され1日労働時間の時間荷重平均濃度は180 ppm以下と推定された。そのほか1,1,1-トリクロロエタン、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン、石油系溶剤をインク除去作業に使っていた。⑨雄性F344系gpt delta ラットでは、肝臓の重量および組織学的変化は認めなかったが、雄性B6C3F1系野生型マウスの混合投与群ならびにp53欠損型マウスのDCP単独投与群では、肝臓の絶対及び相対重量の有意な増加が認められ、さらに野生型及びp53欠損型マウスでは、DCP単独及び混合投与群において肝細胞へのグリコーゲン沈着が認められた。⑩ハムスターの肝内胆管および膵管において前がん病変および腫瘍性病変の発生頻度・発生数に有意な変化が認められなかった。
結論
 DCP、DCM取り扱ったいたA事業所での胆管がんのSIRは極めて高く、DCP、DCM曝露との関連が認められた。 他の印刷作業者で認められた事例もDCP、DCM曝露と関連していると考えられた。印刷業男性本人において有意でないものの胆管がんによる標準化退院率比が高い傾向にあった。職業性胆管がんの病態は広範囲のDNA傷害を伴う胆管傷害、BilINやIPNB病変を経て浸潤性胆管癌に至る多段階発育を示すと考えられ、そのなかで乳頭状増殖を示す胆管癌(浸潤性IPNB)が多くみられることが特徴的であった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201425020B
報告書区分
総合
研究課題名
印刷労働者にみられる胆管癌発症の疫学的解明と原因追究
課題番号
H25-労働-指定-013
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
圓藤 吟史(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 河田 則文(大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学)
  • 久保 正二(大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵外科学)
  • 河野 公一(公益社団法人 関西労働衛生技術センター)
  • 祖父江 友孝(大阪大学大学院医学系研究科社環境医学)
  • 津熊 秀明(医療法人社団明山会 道南森ロイヤルケアセンター)
  • 伊藤 ゆり(大阪府立成人病センター・がん予防情報センター疫学予防課・がん疫学)
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター)
  • 久保田 昌詞(大阪労災病院治療就労支援センター)
  • 鰐渕 英機(大阪市立大学大学院医学研究科分子病理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
印刷労働者にみられた胆管癌発症について疫学的解明と原因追究を行う。
研究方法
①胆管がん多発事例のみられた大阪のA事業所校正印刷部門の従事者を対象とし、標準化罹患比(SIR)を求めた。②大阪の印刷事業場および全国での職業性胆管癌9例の臨床病理学的所見を検討した。③2013年度の胆管がん検診および1,2-ジクロロプロパン(DCP)業務従事者の健康管理手帳による健康診断を行った。④労働者健康福祉機構の入院患者病職歴データベースから最近5年間の胆管癌患者1068例を抽出し、職歴が単一で、性別、年齢、病院、入院時期を一致させた非がん患者を対照とする症例対照研究を行った。⑤地理情報システムを用いて、2004-2007年の大阪府における胆管がん発症例の居住地と大阪のA事業所との距離の関係について検討を行った。⑥全国印刷工業健康保険組合の2009年7月~2011年3月請求分DPCデータベースより医療資源病名が胆管がん(C221、C240)を抽出し、全国DPCデータと比較した。⑦ジクロロメタン(DCM)を取り扱う作業場で行われた作業環境測定の結果を検討した。⑧職業性胆管がんと認定された印刷労働者6人について、使用した化学物質の種類を特定するとともに、曝露濃度を推定した。⑨雄性F344系gpt delta ラット、雄性B6C3F1系野生型、p53欠損型マウスを用いて毒性試験を行った。⑩雄性シリアンゴールデンハムスターにイニシエーション処置としてN-nitrosobis (2-oxopropyl) amine (BOP)を投与し、1週間の休薬期間後、15および17週間1,2-DCPを強制胃内投与した。
結果と考察
①コホート全体の胆管がんのSIRは1132.5 (95%信頼区間659.7-1813.2)であった。②胆管癌診断の数年前よりγ-GTP高値などの肝機能異常が見られる症例が多かった。診断時血液検査では、γ-GTP高値などの肝機能異常とCA19-9などの腫瘍マーカーの上昇がみられた。主腫瘍による胆管狭窄を伴わない限局性肝内胆管拡張像が特徴的であった。主腫瘍は腫瘤形成型肝内胆管癌、胆管内発育型肝内胆管癌や乳頭型肝外胆管癌であった。広範囲の胆管に前癌病変であるbiliary intraepithelial neoplasia (BilIN)や intraductal papillary neoplasm of the bile duct (IPNB)がみられ、さらに慢性胆管傷害像やDNA傷害を示すγ―H2AH陽性胆管上皮がみられた。③2名に腹部エコー(肝・胆・胆管に関する異常所見)、肝機能検査(γ-GPTの上昇など)、腫瘍マーカー(CA19-9、CEAの上昇)のいずれかに異常所見が認められた。④産業・職業大分類別、有機溶剤使用推定でいずれも胆管癌のOdds比が有意ではなかった。⑤胆管がん罹患の地理的集積性は認められなかった。⑥21~60歳被保険者男性の胆管がんによる標準化退院率比は2.18(95%信頼区間0.93-5.09)であった。⑦DCM取扱事業所で第2管理区分は1事業所、第3管理区分は2事業所であった。局所排気装置あるいは密閉装置を用いていない事業所は5事業場でそのうち2事業場はオフセット印刷作業に伴い行われるローラーの払拭を行っていた。A測定には作業環境管理、B測定には作業員数が影響していた。⑧DCPの1日労働時間の時間荷重平均濃度は75–240 ppmと推定された。6人中4人はDCMにも曝露され1日労働時間の時間荷重平均濃度は180 ppm以下と推定された。そのほか1,1,1-トリクロロエタン、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン、石油系溶剤をインク除去作業に使っていた。⑨雄性F344系gpt delta ラットでは、肝臓の重量および組織学的変化は認めなかったが、雄性B6C3F1系野生型マウスの混合投与群ならびにp53欠損型マウスのDCP単独投与群では、肝臓の絶対及び相対重量の有意な増加が認められ、さらに野生型及びp53欠損型マウスでは、DCP単独及び混合投与群において肝細胞へのグリコーゲン沈着が認められた。⑩ハムスターの肝内胆管および膵管において前がん病変および腫瘍性病変の発生頻度・発生数に有意な変化が認められなかった。
結論
DCP、DCM取り扱ったいたA事業所での胆管がんのSIRは極めて高く、DCP、DCM曝露との関連が認められた。 他の印刷作業者で認められた事例もDCP、DCM曝露と関連していると考えられた。印刷業では
職業性胆管がんの病態は広範囲のDNA傷害を伴う胆管傷害、BilINやIPNB病変を経て浸潤性胆管癌に至る多段階発育を示すと考えられ、そのなかで乳頭状増殖を示す胆管癌(浸潤性IPNB)が多くみられることが特徴的であった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201425020C

収支報告書

文献番号
201425020Z