B型肝炎ウイルス感染症に対する新規の治療薬の研究・開発

文献情報

文献番号
201423029A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝炎ウイルス感染症に対する新規の治療薬の研究・開発
課題番号
H24-B創-肝炎-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
満屋 裕明(国立大学法人熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 小田切 優樹(崇城大学 薬学)
  • 田中 康博(独立行政法人国立国際医療研究センター)
  • 榎本 信幸(山梨大学 大学院 医学工学総合研究部)
  • 原口 一広(日本薬科大学・薬学部)
  • 児玉 栄一(東北大学 大学院医学研究科)
  • 田中 靖人(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科)
  • 伊藤 俊之(独立行政法人国立国際医療研究センター)
  • 助永 義和(独立行政法人国立国際医療研究センター)
  • 尾曲 克己(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科)
  • 安武 義晃(独立行政法人産業技術総合研究所)
  • 井本 修平(崇城大学・薬学部)
  • 青木 学(熊本保健科学大学 保健科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
239,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、現在世界で広く用いられているHBVの核酸系逆転写酵素阻害剤であるentecavir(ETV)等と同等あるいは更に強力で、かつ耐性機序がETV等とは異なり、耐性発現の出現を著しく遅延させる新規薬剤をデザイン・合成・同定し、臨床開発へと進める。また、HBV逆転写酵素(HBV-RT)の結晶構造が未だ得られていないことが、抗HBV剤の開発の大きな障壁となっている事から、HBV-RTの発現系構築から結晶解析を併せて進め、新規化合物の活性評価と構造学的解析より得られる知見を基に、継続的に新規化合物をデザイン・合成し、リード化合物の最適化を加速させる。In vitroにおける最適化で一定の成功をみた場合、各遺伝子型および薬剤耐性HBV株を感染させたモデルマウスで検討すると共に、小動物を用いた前臨床試験検討を進める。本研究では、製薬企業への早期導出を前提に初期開発を進めるが、最も有望な化合物については要に応じてGMPレベルのbulkを得てPhase 1、Phase 2aの実施を視野に入れた開発・研究を進める。
研究方法
4’位にアジド基を有するヌクレオシド、炭素環ヌクレオシド等の合成を行い、抗ウイルス活性等を評価した。抗HBV活性は、HepG2.2.15細胞を薬剤存在下で培養、上清のHBV DNAをreal-time PCR法で測定した。より強力な薬剤の設計にはHBV-RTの構造学的データが不可欠であるが、当該年度はHIV-RTにHBV-RT型変異を導入した変異体の結晶化、あるいは新たな発現系を用いた可溶型蛋白精製等の手法を用いた。急性肝炎モデル動物を作成し、生化学的・病理組織学的方法を用いて肝機能評価を行った。候補化合物の前臨床、臨床試験に関するシステム構築・整備として、臨床試験プロトコール作成支援体制の構築、データマネージメント業務の標準化の為のマニュアル整備、また品質管理体制強化の為に、品質保証部門の設置等を行った。
結果と考察
約150種類を超える新規化合物についてin vitroでの抗HBV活性等を評価、これまでに既存の薬剤と同等の活性を有する~10個の化合物を見出しているが、その中でCAdAおよびCdGはHBVに対してETVと同等の活性(IC50: 0.4 nM)を有するとともにHIVに対してもIC50: 0.4 nMと強力な活性を維持していた。その他にも4’位にアジド基を有する新規ヌクレオシド等、今後最適化の価値があると考えられる複数のリード化合物が見出すことに成功した。これらの有望な薬物についてミトコンドリア障害等を評価するシステムの構築を完了した。本研究班では既に薬剤耐性HBV感染キメラマウスの作成を終え、CAdAおよびCdGが感染マウスモデルでもETV耐性HBVに対して良好な活性を持つことを明らかにした(投稿中)。また未だ確立されていないHBV-RTの構造生物学的解析に関して、小麦無細胞蛋白質発現系を用い、発現させるRT領域および付加するタグ等を検討する事で可溶性のRTの取得に成功した。RT活性部位の詳細な構造の情報により新規化合物のデザインやリード化合物の最適化が容易になるだけではなく、新規化合物の作用機序と耐性出現の詳細なメカニズム解析が可能となると期待される。更に本研究では、リード化合物が得られて最適化で一定の成功をみた以降は、小動物を用いて薬物動態特性を明らかにし、またB型肝炎モデル動物によるPK-PDモデリングを行い、前臨床試験・臨床試験へと進める予定で、そのために肝障害モデル動物を用いた肝機能評価法を確立、更に臨床試験実施体制・実施支援体制や臨床試験データマネージメントの確立・整備を進めた。
結論
既存の薬剤と同程度の活性を有し、薬剤耐性HBVに対しても活性を維持する複数の新規化合物を同定した。ミトコンドリアDNAに対する作用の有無等を評価、また抗ウイルス活性の更なる改善に向け化合物の最適化を進める。またHBV-RTの発現系の構築では、発現領域や付加するタグ等の検討により、可溶性のタンパク質が得られており、高純度高濃度のタンパク質を精製し、速やかにX線結晶構造解析を行う。新規化合物のデザイン・合成・同定を継続しつつ、結晶構造解析学等を駆使しながら、野性株と薬剤耐性変異株のHBV-RTにおける薬剤開発に必須な活性部位の微細構造を世界に先駆けて発信する。
 HBVの耐性発現に抵抗し、発現しても他薬剤との交差耐性を有しない新規薬剤の開発は、HBV感染症患者の病態コントロールを改善し、その結果患者のQOL改善と医療・対費用効果の改善にも大きく貢献すると期待される。そのような新規HBV阻害剤が開発・臨床応用されれば、HBV感染症の診療領域にもたらされるインパクトは日本と世界で極めて高いものとなると強く期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201423029Z