中和抗体を用いたHIV感染症の「機能的治癒」をめざす新規治療法の開発

文献情報

文献番号
201421022A
報告書区分
総括
研究課題名
中和抗体を用いたHIV感染症の「機能的治癒」をめざす新規治療法の開発
課題番号
H25-エイズ-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松下 修三(国立大学法人熊本大学 エイズ学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 玉村 啓和(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所)
  • 五十嵐 樹彦(京都大学 ウイルス研究所)
  • 三浦 智行(京都大学 ウイルス研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
13,388,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替 五十嵐 樹彦 (平成25年10月10日~26年10月31日)→三浦 智行 (平成26年11月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の最終目的は、中和抗体を用いたHIV-1感染症の「機能的治癒」をめざした治療法の開発である。抗ウイルス療法(cART)の進歩により、HIV-1感染症の予後は著名に改善したが、長期治療の過程で様々な慢性合併症が起こる。その病態には、残存するウイルス増殖と慢性炎症の関与が考えられ、残存ウイルスの排除をめざす「治癒に向けた研究」は本領域で最も重要な研究である。我々は、ヒト型中和単クローン抗体KD-247の第I相B臨床試験を行った。注目すべきはKD-247の投与が終了し、血中濃度低下後もHIV-RNAのリバウンドが見られない症例が観察された点で、KD-247はHIVの中和ばかりでなく、慢性感染細胞を排除し、セットポイントを下げた可能性が示唆された。本研究班では、臨床試験で示唆されたKD-247の感染細胞に対する機能を明らかにするとともに、問題点として明らかになった研究課題に取り組み、真に革新的な治療法に近づけるための非臨床研究を行う。
研究方法
antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity (ADCC)活性は、RFADCC 方を用いた。HIV-1感染またはgp120-coated cellsを標的細胞としNK-enriched fractionをエフェクター細胞としてADCC活性を算出した。antibody-dependent cell-mediated virus inhibition (ADCVI)活性の測定では、HIV-1BaL をCEM.NKr-CCR5に感染させ、48時間後に健常者の末梢血をエフェクター細胞として、KD-247またはコントロール抗体の存在下に培養し、p24濃度を測定し抑制率を計算した。霊長類モデルでのPOC試験では、KD-247単独またはKD-247+YYA-021投与個体のウイルス学的効果とともにKD-247とYYA021の薬物動態の解析、抗idiotype抗体の検出などを行った。YYA-021より強力なCD4-mimicの構造と機能相関解析に基づく新規誘導体の開発を継続した。霊長類モデルを臨床モデルに近づける目的で、臨床株由来のENVを持つSHIVやX4R5のウイルスからアミノ酸置換によりR5に変化させたSHIV –MK38を用いた感染モデルの作成を継続した。
結果と考察
臨床試験でみられたKD-247の長期効果に関して、Fc-receptorを介したHIV感染細胞に対する効果が考えられた。本年度の研究で、HIV-1感染細胞を攻撃する抗体の機能としてKD-247を含む中和抗体パネルのADCCとADCVIの機能を証明した。これらの機能をin vivoで証明することは困難だが、KD-247の臨床試験で示唆された、個体レベルでウイルスのセットポイントを下げる可能性に関与すると考えられた。特筆すべきは、臨床分離株に対するADCC活性を調べると、我々が作成した12種類の抗体パネルのどれかが必ずADCC活性を示した点で、二つ以上の抗体の組み合わせを用いて広範囲のウイルスをカバーできる可能性が示唆された。
一方、臨床試験で明らかになった課題として、抗体の必要量を減らすことと、耐性ウイルス出現の抑制がある。CD4-mimic小分子は、KD-247の中和能を増強するが、これまで開発してきたYYA-021は、in vitroでは、著名な中和増強効果を示すものの、個体内での薬物動態に問題があり、投与した条件ではin vivo効果を確認できなかった。この結果を踏まえ、新規CD4-mimic化合物の中から、MTA-103を第二世代のリード化合物に選定し、大量合成し、霊長類モデルでの安全性と薬物動態の解析をおこなっている。霊長類モデルでは、高病原性X4株 SHIV-KS661のアミノ酸置換により、R5指向性に変化させたSHIV-MK1、その継代によりアカゲザルに順化させたSHIV-MK38を分離し、中和感受性を比較した。MK1、KS661は、中和感受性であったが、MK38はKD-247中和抵抗性となった。MK38は、非ヒト霊長類モデルを用いたHIV-1の中和抗体抵抗性の解析に役立つものと期待される。
結論
cARTの進歩により、AIDSの発症阻止が可能となった。しかし、残存するHIV-1感染細胞の排除は困難なため、治療は一生継続される必要がある。従来の抗ウイルス薬とは異なり、中和抗体とその効果を増強する小分子の併用では、HIV-1感染細胞を標的とする効果が期待できる。これらを用いた「機能的治癒」をもたらす治療戦略が、現実のものになれば、我が国ばかりか、世界の保険、医療、福祉の向上に役立つ成果が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201421022Z