高リスク層のHIV感染監視と予防啓発及び内外のHIV関連疫学動向のモニタリングに関する研究

文献情報

文献番号
201421010A
報告書区分
総括
研究課題名
高リスク層のHIV感染監視と予防啓発及び内外のHIV関連疫学動向のモニタリングに関する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
木原 正博(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻国際保健学講座社会疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川創一(神戸大学医学部附属病院感染制御部)
  • 和田 清(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部)
  • 中村亮介(東京都立松沢病院精神科)
  • 西村由実子(橋本由実子)(関西看護医療大学看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,419,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国内外のHIV関連情報の集約と統合的分析及び高リスク集団のHIV感染率やリスク行動のモニタリングを通じて、わが国の流行の文脈的理解と効果的・効率的なエイズ施策の形成に資する。
研究方法
(1)海外及び国内のHIV/STDの流行とリスク情報の収集分析に関する研究
a)関連地域(中国、台湾、香港、韓国)と主要先進国(米、英、仏、独、加、豪)のHIV/AIDS/性感染症(STD)サーベイランスデータベースを最新化し流行動向を分析した。b)東アジア地域(中国、台湾、香港、韓国)のHIV/AIDS/ STDサーベイランスデータベースを最新化し流行動向を分析した。c)わが国のSTD発生動向調査、母子保健統計、薬事工業生産動態統計のサーベイランスデータベースを最新化するとともに、最新の出入国管理統計を収集分析した。
(2)STD患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
全国(北海道、東京、川崎、岐阜、大阪)の13STD関連医療施設の受診者280人(男180、女70、風俗女性30)に対し、無料HIV/検査とHIV検査ニーズ、HIV関連知識、HIV感染リスク認知に関する質問票調査を行った。
(3)薬物乱用・依存者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
全国5精神科医療施設の入院薬物中毒者277人と6民間回復施設入所者85人の新規対象者に対し、HIV/STD/肝炎感染に関する検査を行うとともに、注射関連行動、性行動を調査した。1994 年以来の継続調査である。
(4) 外国人薬物使用者等のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
薬物使用等で入院した18カ国の外国人患者74人(男41、女33)を対象として、ハイリスク行動の聞き取り調査と採血による血清学的検査、及び診療録からの転記調査を実施した。
結果と考察
以下の知見を得た;a)近隣地域(中国、台湾、香港、韓国)において性感染、特に同性間感染を主とするHIV流行が持続・拡大している。b)主要先進国では、AIDS報告数は減少が続いているものの、性感染、特に同性間感染によるHIV流行、及びSTD全般の増加もしくは再燃が続いている。c)我が国では、近年減少していた我国の主要STD(梅毒以外)が下げ止まり、性器ヘルペスが上昇しつつあり、15-18歳の人工妊娠中絶率も低げ止まり、若者の間で、今後リスクの高い性行動が増加するかどうか注視が必要である。d)我が国では、梅毒は、梅毒以外のSTDとほぼ正反対の年次動向を示し、2002年頃に底を打った後に増加に転じ、2013年には特に大きく増加した。以前実施した文献の系統的レビューから、男性における梅毒流行は主として同性間感染を反映すると考えられる。e)東北大震災の影響が終わり、近隣地域間の出入国、特に入国が急増しており、また、海外長期滞在邦人の数も依然高いレベルにある。f)薬物使用者中に、HIV感染者が、4件検出されたが、いずれも脱法ドラッグ使用者であり、同性間感染であると推測された。同性愛者における、性行動と薬物使用の複合リスクの高まりが懸念される。g)HCV感染率、注射使用率、注射共用率はほぼ横ばいで、それぞれ35%前後、40-95%、20%前後であった。h)STD患者の間で無料HIV検査に対する高いニーズが存在することが確認され、また、男性STD患者において3%以上のHIV感染率が認められた。i)外国人薬物使用者には、本年度もHIV陽性者を認めなかったが、脱法ハーブの使用者や高リスクの性行動をとる者の増加が認められた。
結論
本研究により、わが国のHIV流行の状況・特徴・国際的文脈や社会的脆弱性の状況を明らかにするのに必要な情報収集の枠組みが完成し、それに基づくわが国のHIV流行の現状や展望について、総合的な分析と理解を行うことが可能となった。本研究によれば、先進国のHIV流行は、HAART療法の導入とインターネットによるネットワークの発達により、同性間感染を中心とする、制御の難しい新たな流行期に入ったと考えられ、我国の同性間HIV流行も同じ文脈にあると考えられた。近隣諸国では、薬物静注による流行がほぼ終息して、性感染、特に同性間感染を主体とする流行期に入り、出入国を介した我が国への流入が懸念されるが、一方我国では、減少を続けていたSTD流行と10代の人工妊娠中絶率が下げ止まる一方、同性間感染の可能性が高い梅毒のアウトブレークが生じており、脱法ドラッグの蔓延も鑑みれば、HIV流行の動向はなお予断を許さない状況にある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201421010B
報告書区分
総合
研究課題名
高リスク層のHIV感染監視と予防啓発及び内外のHIV関連疫学動向のモニタリングに関する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
木原 正博(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻国際保健学講座社会疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川創一(神戸大学医学部附属病院感染制御部)
  • 和田 清(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
  • 小林桜児(国立精神・神経医療研究センター病院)
  • 中村亮介(東京都立松沢病院精神科)
  • 西村由実子(橋本由実子)(関西看護医療大学看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国内外のHIV関連情報の集約と統合的分析及び高リスク集団のHIV感染率やリスク行動のモニタリングを通じて、わが国の流行の文脈的理解と効果的・効率的なエイズ施策の形成に資する。
研究方法
(1)海外及び国内のHIV/STDの流行とリスク情報の収集分析に関する研究
a)関連地域(中国、台湾、香港、韓国)と先進国(米、英、仏、独、加、豪)のHIV/AIDS/性感染症(STD)サーベイランスデータを収集分析した。b) 東アジア(モンゴルを含む)のHIV/AIDSに関する文献等の系統的レビューを実施した。c)先進国のサーベイランス体制に関する情報を収集し、我国との比較可能性を検討した。d)ブラジルのHIV/AIDS/STD情報を収集分析した。e)我国のSTD発生動向調査、母子保健統計、薬事工業生産動態統計、出入国管理統計のデータを収集分析した。
(2)STD患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
全国(北海道、東北、東京、川崎、岐阜、名古屋、大阪、九州)の29(最終年度は13)のSTD診療施設受診者(男1187例、女387例、風俗営業女性従事者290例)に対し、無料HIV/検査とHIV検査ニーズ、HIV関連知識、HIV感染リスク認知に関する質問票調査を行った。
(3)薬物乱用・依存者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
全国5精神科医療施設の入院薬物中毒者758人と6民間回復施設入所者289人の新規対象者に対し、HIV/STD/肝炎検査と、注射関連行動、性行動の調査を実施した。
(4) 外国人薬物使用者等のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
薬物使用等で入院した外国人患者167人(男103、女64)を対象として、ハイリスク行動の聞き取り調査と血清学的検査、及び診療録からの転記調査を実施した。
結果と考察
a)東アジアにおいて性感染、特に同性間感染を主とするHIV流行が持続・拡大している。文献等の系統的レビューでも同じ動向を確認し、英文論文として出版した。b)主要先進国では、AIDS報告数は激減したものの、同性間感染によるHIV流行、及びSTD全般の増加もしくは再燃が続いている。c) 先進国と我国のHIV/AIDSサーベイランス体制を比較し、AIDS動向のパターンの比較可能性を確認された。d)ブラジルでは、HIV流行は横這いであるが、梅毒は大きく増加しつつある。e)我国では、減少していた主要STD(梅毒以外)も15-18歳の人工妊娠中絶率も低げ止まり、今後の若者の性行動の動向について注視が必要である。f)我が国では、梅毒は、梅毒以外のSTDとほぼ正反対の年次動向を示し、2002年頃に底を打った後に増加に転じ、2013年には特に大きく増加した。以前実施した文献の系統的レビューから、男性における梅毒流行は主として同性間感染を反映すると考えられる。g)近隣地域間の出入国、特に入国が急増しており、また、海外長期滞在邦人の数も依然高いレベルにある。h)以上の情報の一部を研究班webサイトに公開した。i)薬物使用者中に、15名のHIV感染者が認められたが、殆どが脱法ドラッグ使用者で、かつ同性間感染と推測された。同性愛者における、性行動と薬物使用の複合リスクの高まりが懸念される。HCV感染率、注射使用率、注射共用率はほぼ横ばいで、それぞれ35%前後、40-95%、20%前後であった。j)STD患者の間で全国的に無料HIV検査に対する高いニーズが存在することが確認され、また、男性STD患者において1-3%程度のHIV感染率が認められた。k)外国人薬物使用者には、HIV陽性者を認めなかったが、脱法ハーブ使用者や高リスクの性行動をとる者の増加が認められた。
結論
本研究により、わが国のHIV流行の状況・特徴・国際的文脈や社会的脆弱性の状況を明らかにするのに必要な情報収集の枠組みが完成し、それに基づくわが国のHIV流行の現状や展望について、総合的な分析と理解を行うことが可能となった。本研究によれば、先進国では、HAART療法の普及により、AIDS患者報告数は激減したが、反面同療法の導入とインターネットによるネットワークの発達により、同性間感染を中心とする、制御の難しい新たな流行期に入ったと考えられ、我国の同性間HIV流行も同じ文脈にあると考えられた。近隣諸国では、薬物静注による流行がほぼ終息して、性感染、特に同性間感染を主体とする流行期に入り、出入国を介した我が国への流入が懸念されるが、一方我国では、減少を続けていたSTD流行と10代の人工妊娠中絶率が下げ止まる一方、同性間感染の可能性が高い梅毒のアウトブレークが生じており、脱法ドラッグの蔓延も鑑みれば、我が国のHIV流行の動向はなお予断を許さない状況にある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201421010C

収支報告書

文献番号
201421010Z