ダニ媒介性細菌感染症の診断・治療体制構築とその基盤となる技術・情報の体系化に関する研究

文献情報

文献番号
201420017A
報告書区分
総括
研究課題名
ダニ媒介性細菌感染症の診断・治療体制構築とその基盤となる技術・情報の体系化に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
安藤 秀二(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎 博道(福井大学 医学部 病態制御医学講座)
  • 大橋 典男(静岡県立大学 食品栄養科学部・微生物学)
  • 川端 寛樹(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 岸本 壽男(岡山県環境保健センター)
  • 今内 覚(北海道大学大学院獣医学研究科)
  • 高田 伸弘(福井大学医学部病因病態医学講座)
  • 高野 愛(山口大学共同獣医学部病態制御学講座)
  • 林 哲也(宮崎大学フロンティア科学実験総合センター)
  • 藤田 博己(藤田保健衛生大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
25,362,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
つつが虫病等リケッチア症は見落しが多く指摘され,多様なリケッチア保有マダニとリケッチア症も確認されたが,検査体制や情報が不十分でいまだ死亡・重症例が報告される。アナプラズマ症も,国内発見後もなお実態不明である。ボレリア症は,欧米で報告された新興回帰熱保有マダニが北海道に生息,患者潜在も危惧された。国内のダニ媒介細菌感染症は多種になり,原因不明ダニ関連疾患対策も望まれる。本研究は,各ダニ媒介細菌感染症の恒久対応のため,総合的アプローチ,有機的連携で,診断技術標準化,地域特性把握,臨床と検査ネットワーク確立,症例解析,バイオリソース情報蓄積,共通ツール等作成,治療法と各疾患応用可能な予防法検討等を目的とする。
研究方法
共同で以下研究を実施した。
1.ボレリア:北海道のエゾシカ血液,マダニを新規回帰熱群ボレリア解析。北海道外の状況把握。刺咬症吸着マダニ同定病原体検出。Borrelia miyamotoi (Bm) 抗菌薬感受性。Bmマウス感染病態解析。組換Salp15 Iperによる伝播機序解明と制御法解析。
2.アナプラズマ:Anplasma phagocytophilum(Ap)感染HL60、THP-1細胞,昆虫由来無細胞系発現P44外膜蛋白抗原で不明熱患者血清解析。
3.リケッチア:バイオリソース情報,Rickettsia japonica(Rj),R. heilongjiangensis,R. sp LON 参考株高精度全ゲノム解析。各地のRj分離株全ゲノム解析。オリエンチア(Ot)国内分離株MLS。
4.地域特性情報集積に全国で調査,支援,持込み各地材料解析,より広い地域の保存材料Ot シモコシ型再検討。
5.免疫ペルオキシダーゼ法,赤血球凝集法,Weil-Felix法の改良・開発継続と診断適用から総括評価。紅斑熱菌体抽出多糖抗原Dot-ELISAの医療現場評価。
6.臨床面は,リケッチア症中心にダニ媒介感染症例の集積,相互検討。重症化因子として血中サイトカイン等濃度経時測定。抗菌薬オートファジー制御評価。関連コンサルテーション疾患評価。各種マダニ唾液腺抽出液アナフィラキシー反応解析。
7.共通手法,形態同定に資す国産マダニ類画像アーカイブ作成。
8.ネットワーク試行は,地方衛生研究所のリケッチア症診断の課題収集,検討,検査情報更新。マダニ媒介性感染症調査・検査技術研修,技術継承。情報共有と各地ラボ連携推進,地域情報と相談窓口整理。新規ダニ媒介を含む各節足動物媒介感染症検査受入れ調査。
結果と考察
ボレリアでは,エゾシカのB. lonstari/B. thaileri-complex保菌を初めて明らかにした。また,Bmは東海以北に,モンゴル北部にも分布した。より多様なボレリア症例が潜む可能性がある。従来のボレリア症用の抗菌薬はBmも有効で,そのためにも診断が重要である。動物モデルでは株間でマウス感染性が異なる可能性が示され,共通予防策となる抗ダニワクチン開発のための解析でマダニ唾液成分のワクチンの可能性も示され,期待された。
アナプラズマでは,感染細胞抗原蛍光抗体法と組換蛋白抗原3種のウエスタンブロット法で,陽性患者を新たに発見。これらの診断法の組合せは有効だが,より詳細なエピトープ解析と効率的抗原作製法開発が必要であった。
リケッチアでは,バイオリソース情報となる国内の各種病原性リケッチア臨床分離株の全ゲノム解析を積極的に進め,Rj の驚くべき均一性,OtのMLS情報を一段と蓄積した。また地域毎に異なる特性・多様性を考慮した連携を継続,啓発の科学的根拠となる新たな知見を全国で蓄積,報告した。臨床とラボの有機的連携では,様々なダニ媒介感染症例が臨床的に相互評価されたが,疑い症例の実験室診断対応調査で約80%が原因不明であったことから,ダニ媒介疾患のより有効な総合的対策構築が必要である。血清診断の現場導入や既法の改良から,ダニ媒介以外のリケッチア症の鑑別を要するデータも得た。
各病原体の研究とともに,ダニ媒介性感染症調査研究共通ツールとなるマダニ類カラー同定アーカイブ作成では優先すべきものが揃い,今後の利用が期待できる。
結論
新興回帰熱,アナプラズマ症国内発生を報告,ゲノム情報やマダニ感染制御因子等リケッチア症をはじめ既知疾患の基礎的成果,新規情報,ダニ媒介感染症の総合的解析に繋がる知見を多数報告した。ダニ媒介感染症対策は,病原体,ベクター,患者,自然宿主など多角的視点が必要で,多様な人材協力による基礎的・総合的研究を進めると同時に,全体を科学的に俯瞰,診断・治療・予防に柔軟な人材育成のためにも,ダニ媒介疾患研究の積極的継続が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201420017B
報告書区分
総合
研究課題名
ダニ媒介性細菌感染症の診断・治療体制構築とその基盤となる技術・情報の体系化に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
安藤 秀二(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎 博道(福井大学 医学部 病態制御医学講座)
  • 大橋 典男(静岡県立大学 食品栄養科学部 微生物学)
  • 川端 寛樹(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 岸本 壽男(岡山県環境保健センター)
  • 今内 覚(北海道大学大学院獣医学研究科 感染免疫)
  • 高田 伸弘(福井大学 医学部 病因病態医学講座)
  • 高野 愛(山口大学 共同獣医学部 病態制御学講座)
  • 林 哲也(宮崎大学 フロンティア科学実験総合センター)
  • 藤田 博己(藤田保健衛生大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多様なリケッチア保有マダニとリケッチア症も確認されたが,検査体制や情報が不十分で見落しが多く指摘され,いまだ死亡・重症例が報告される。アナプラズマ症も,国内発見後もなお実態不明である。ボレリア症は,欧米で報告された新興回帰熱保有マダニが国内生息,患者潜在も危惧された。国内のダニ媒介細菌感染症は多種になり,原因不明ダニ関連疾患対策も望まれる。本研究は,各ダニ媒介細菌感染症の恒久対応のため,総合的アプローチ,有機的連携で,診断技術標準化,地域特性把握,臨床と検査ネットワーク確立,症例解析,バイオリソース情報蓄積,治療法と各疾患応用可能な共通ツール,予防法等開発を目的とする。
研究方法
以下連携研究を行った。
リケッチア症:地域特性情報集積のため全国調査と支援,より広域のつつが虫病オリエンチア(Ot)シモコシ型再検討。既報の検査系改良とともにDot-ELISA,遺伝子コントロールの開発,評価。バイオリソース基盤の為,Rickettsia japonica(Rj)等参照リケッチア,日本各地のRj分離株全ゲノム解析,Ot本土・台湾・東南アジア株を比較対象に沖縄分離株のMLS解析。
ボレリア症:パンフレット啓発と前向き調査。検査法樹立と自治体へ普及。ライム病等ハイリスク群検体の遡及調査。媒介マダニ調査(分離・検出・MLS解析)。新興回帰熱類似病原体探索。抗菌薬感受性。新興回帰熱Borrelia miyamotoi(Bm) のマウス感染解析。ダニ媒介病原体伝播機序解明と制御法開発にシュルツェマダニコロニー樹立,ダニ因子遺伝子決定,発現機能解析。
アナプラズマ症:関連細菌群の分子疫学的解析。蛍光抗体法(IFA)等による不明熱患者から抗体検出。昆虫由来無細胞系組換えAnaplasma phagocytophilum(Ap)P44蛋白(rP44)解析と血清診断応用。
臨床的課題は,症例情報集積・相互検討。関連疾患コンサルテーション評価。重症化因子と推定されるサイトカイン血症の解析。抗菌薬のサイトカイン産生とオートファジー制御解析。各種マダニ抽出液アレルギー反応実験。
共通ツールとし,RNA由来cDNAで病原体遺伝子増幅検討。国産マダニ同定カラーアーカイブ作成。
ネットワーク試行は地域性を考慮,3年間のべ20の地方衛生研究所(衛研)が課題検討。地域ラボ連携活動で,のべ7ブロックがリケッチア他マダニ媒介感染症の技術研修。全衛研のリケッチア症検査体制を調査,把握,更新,情報共有,相談窓口,広報情報の収集。新規ダニ媒介を含む節足動物媒介感染症の検査受け入れ態勢調査。
結果と考察
リケッチア症:地域特性・多様性を考慮,適切な診断,リスク評価,啓発根拠の基礎となる情報収集を行い,ラボと臨床の迅速連携の試行,ネットワーク構築活動,臨床相互評価から新知見を報告した。検査系検討は,簡易血清診断現場導入や既法改良と同時に,ダニ媒介以外のリケッチア症と鑑別を要する結果も得た。バイオリソース基盤のため,国内の臨床分離株の積極的収集,解析を進め,Rj他の全ゲノム解析や多様なOt-MLS情報を蓄積,診断系開発にも役立つ膨大な情報は今後の応用が期待できる。
ボレリア症:積極的啓発活動と検査系開発と導入の前向き調査とハイリスク集団の遡及調査により新規回帰熱患者を確認。野外調査でより広範なBm分布と関連ボレリアを認め,分離株の既抗菌薬感受性からも積極的な情報発信と診断が重要である。また,実験動物による病態解析,マダニ因子の病原体伝播機構解析から有用な制御因子(Salp15,Ferritin2等)を見つけ,ワクチン開発が期待される。
アナプラズマ症:国内の患者を明らかにした。日本紅斑熱(JSF)との混合感染の可能性も示され,西日本のマダニ約3.0%がAp を保有していた。診断系では,Ap感染HL60、THP-1細胞抗原IFAと3種のrP44ウエスタンブロット(WB)により複数の患者を発見。IFAとrP44-WBの組合せは有効だが,より詳細なエピトープ解析が必要である。
共通ツールの鋳型核酸抽出法やマダニ類カラー同定アーカイブは,情報提供方法を検討,今後の活用が期待できる。しかしながら,疑い症例の検査対応調査から約80%が原因不明のままで,総合的ダニ媒介感染症対策のより効果的構築の必要性があらためて示された。
結論
新興回帰熱,アナプラズマ症国内発生,ゲノム情報やマダニ感染制御因子等リケッチア症をはじめ既知疾患の基礎的成果,ダニ媒介感染症の総合的解析に繋がる新知見を多数報告した。ダニ媒介感染症は,病原体,ベクター,患者,自然宿主など多角的視点を要し,多様な人材協力による研究推進と同時に,全体を俯瞰,診断・治療・予防に柔軟な人材の育成にも積極的継続が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201420017C

収支報告書

文献番号
201420017Z