認知行動療法等の精神療法の科学的エビデンスに基づいた標準治療の開発と普及に関する研究

文献情報

文献番号
201419032A
報告書区分
総括
研究課題名
認知行動療法等の精神療法の科学的エビデンスに基づいた標準治療の開発と普及に関する研究
課題番号
H25-精神-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大野 裕(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
研究分担者(所属機関)
  • 堀越 勝(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター )
  • 古川壽亮(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系認知行動医学健康増進行動学分野)
  • 岡本泰昌(広島大学大学院医歯薬保健学研究院精神神経医科学)
  • 清水栄司(千葉大学大学院医学研究院神経情報統合生理学 千葉大学医学部附属病院精神神経科)
  • 藤澤大介(慶応義塾大学医学部精神・神経科)
  • 中川敦夫(慶応義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター)
  • 菊地俊暁(杏林大学医学部精神神経科学教室)
  • 佐渡充洋(慶応義塾大学医学部精神・神経科)
  • 中野有美(椙山女学園大学人間関係学部心理学科)
  • 中川彰子(千葉大学大学院医学研究科子どもの心の発達研究センター)
  • 工藤 喬(大阪大学保健管理センター)
  • 井上雄一(公益財団法人神経研究所)
  • 田島美幸(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター )
  • 岡田佳詠(筑波大学医学医療系精神看護学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
17,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.うつ病の認知療法・認知行動療法(以下CBT)の実施状況の全国調査を行う。2.医師以外の職種がCBTを実施する可能性について実態調査を行うとともに、医師以外の医療職による効果と有害事象の有無、研修可能性について検討する。3.CBTの均てん化について検証する。4.CBTの効果研究の可能性について検討する。5.うつ病以外の精神疾患に対するCBTの実施マニュアルを整備検討する。
研究方法
1.認知療法・認知行動療法のニーズや施行の現況を調査するために、全国の行政機関617ヶ所、医療機関3,339ヶ所に対して郵送調査を実施し、行政機関67.9%、医療機関40.7%の回答率を得た。2.通常治療を2カ月以上受けても、中等度以上のうつ症状を認めているうつ病患者に対して行った無作為化比較対象試験の結果について、医師と医師以外の職種とで比較検討した。現状を探るために、日本精神科看護協会、日本作業療法士協会、日本精神科病院協会の協力を得て調査を行った。さらに、海外の研修状況を調査して、わが国の今後の研修や評価・認定のあり方について検討した。3.平成25年度の厚生労働省認知療法・認知行動療法研修事業において、研修参加者の技能を評価するシステムを構築し、被評価者のスーパービジョンにかかわらない2人の評価者が独立して評価した。また、副作用を評価するツールを作成した。4.認知療法・認知行動療法を検討したすべての無作為割り付け比較試験(RCT)の効果サイズについてネットワークメタアナリシスを用いて検討した。さらに、画像を用いた検証方法についても検討した。5.社交不安障害、強迫性障害、不眠、トラウマ関連疾患、統合失調症の認知療法・認知行動療法のマニュアルを作成し、効果の検証を行った。
結果と考察
1.「認知療法・認知行動療法を希望する患者に紹介できる医療施設が不足している」と回答した行政機関は70%を超えた。医療機関別では、総合病院精神科の約80%、単科精神病院の約75%が「対応が十分でない」と感じていた。また、行政機関の約半数が「認知療法・認知行動療法を実施できる医療機関のリストの整備」を望み、医療機関の約半数が「認知療法・認知行動療法を実施するための時間が取れない」ことを理由として挙げていた。その他、認知療法・認知行動療法を希望する患者のニーズに応えるためには、「スタッフのスキルアップの向上」や「診療報酬の算定基準の改訂」などが必要という回答が多かった。さらに、強迫性障害、パニック障害、社交不安障害などの不安障害圏の疾患を診療報酬対象に加えることを希望する声が多かった。2.RCT研究からは、十分な経験を積み、一定の質が担保された研修体制を整えることができれば、医師以外の職種と医師とで終了時点(16週)のHAMD-17の得点に有意差がないことが示された。また、両群とも、大きな有害事象は認められなかった。また、医師以外の職種でも認知療法・認知行動療法への関心が高まっているが、十分な訓練の機会がなく、自信を持って実施に踏み切れないでいることが明らかになった。3.厚生労働省では、全国規模の研修事業を行ってきていて一定の成果を上げているが、事業費の面での制限もあり、まだまだ不十分な状態である。その一方で、研修事業で育った治療者をリーダーとする研究会が全国にできつつあること明らかになった。4.認知療法・認知行動療法を検討したすべての無作為割り付け比較試験(RCT)のネットワークメタアナリシスによれば、49本のRCT(参加者総数2730人)が同定され、効果サイズは、用いられた対照群によって大きく異なり、うつ病改善のオッズ比は、対心理学的プラセボで 1.65、対無治療で2.36、対待機群で6.26であった。5.認知療法・認知行動療法は、うつ病に対してはもちろんのこと、他の精神疾患に対する個人認知行動療法に一定の治療効果があり、大きい有害事象が認められないことが示された。
結論
以上の研究結果から、今後は以下の方策を用いて必要な国民に認知療法・認知行動療法を提供できるようにするために、以下の提言を行った。次年度の研究では、こうした提言の実現可能性とそのための方略についてさらに研究を進めたい。1.医師以外の職種が医師の指導を受けながら個人認知療法・認知行動療法を実施できる体制を整える。2.うつ病以外の精神疾患に対する個人認知療法・認知行動療法を診療報酬の対象とする。3.治療者を増やすために各地の研究会を中心に全国のコンソーシアムを構築し研修生の費用負担を組み入れながら研修を実施していく。4.研修指導者の育成と治療者の質の担保のための評価システムの構築と資格化を国の主導で行う。5.認知療法・認知行動療法初心者を支援するコンピュータ支援型認知療法・認知行動療法プログラムを導入する。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-08-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201419032Z