文献情報
文献番号
201417002A
報告書区分
総括
研究課題名
虚弱・サルコペニアモデルを踏まえた高齢者食生活支援の枠組みと包括的介護予防プログラムの考案および検証を目的とした調査研究
課題番号
H24-長寿-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
飯島 勝矢(東京大学 高齢社会総合研究機構)
研究分担者(所属機関)
- 菊谷 武(日本歯科大学 大学院生命歯学研究科)
- 東口 高志(藤田保健衛生大学 医学部)
- 高田 和子(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
- 大渕 修一(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,347,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は地域高齢者を対象とし、より早期からの虚弱(フレイル)予防活動の運動論を戦略的に位置付けた研究である。健康寿命の延伸には「高齢期の食の安定性(すなわち食力)」が重要であることは間違いなく、それをいかに科学的に検証し、次なる介護予防施策に反映させるのかを見据え、新概念「食の加齢症候群(仮称)」を打ち立て研究を開始した。本研究の主な目的は、この「食と虚弱/サルコぺニア」の関係を明らかにした上で、①虚弱に関する国民目線での簡易評価法の確立とその基準値(1次予防のための早期介入ポイント)、②栄養(食と口腔)からみた虚弱フローの新概念構築、③栄養(食と口腔)・運動・社会性の包括的(三位一体)複合型健康増進プログラムの構築と応用法の開発である。
研究方法
千葉県柏市在住の満65歳以上の高齢者2044名(無作為抽出、平均73.0±5.5歳、男女比1:1)を対象としたコホート研究(通称:柏スタディ)をデザインし、平成24年度から巡回型の大規模健康増進調査『栄養とからだの健康増進調査』を3年間に渡り毎年実施した。主要な調査項目は既往も含めた基本属性、歯科口腔、身体能力・計測、体組成(四肢骨格筋量)、社会性・精神心理・認知機能や生活習慣、栄養素摂取量などであり、地域高齢者の全身健康を包括的に評価した。
結果と考察
本研究(柏スタディ)から得た知見を踏まえ、本研究により大きく3つの成果物を得た。まず、①医療専門職はもちろん一般市民にも理解し易い形で、啓発・教育に用いる為の概念整理を行い、新たに「栄養(食/口腔)・運動・社会参加からみた虚弱フロー」を作成した。この概念フロー図により、虚弱(フレイル)のリスク要因を理解し、その重複に対して市民自身が簡便にチェックすることができ、早期の気づき(自分事化も)を得ることが期待できる。さらに、②市民全員が早期からの口腔管理の重要性を再認識するために、国民目線の平易な標語開発の必要性を感じ、本研究の結果を軸として、歯科口腔分野の既報論文をミニシステマティックレビューする形を重ね合わせ、『オーラル・フレイル』という新概念を打ち立てた。これは日常の食習慣レベルにおいて歯科口腔分野の不具合がまだ顕在化していないが、軽微な衰えの兆候が出現し始めている時期として位置付けており、より多くの国民に歯科口腔機能の維持、そのための普段からの管理の重要性を唱えたものである。最後に、③本研究の成果物を地域に還元する具体的な方法論の開発を試みた。本研究の結果より、「栄養(食・口腔)・運動・社会参加」の三位一体をバランスよく底上げしていくことの重要性が改めて確認された為、行政機関としっかりとタイアップした上で、この三位一体の分野を簡易評価し教育に繋げることを可能にしたミニ測定勉強会を開発し、「複合型フレイル予防プログラム」という名称で構築した。具体的には、千葉県柏市においてコミュニティ活動の一つである地域サロンの場を会場とし、健康づくり市民サポーターが中心となって、この健康増進プログラムを市民主導型で展開し始めている。簡易測定として下腿周囲長に注視した指輪っかテストと通称イレブン・チェック(三位一体の分野をカバーしている計11問の簡易質問票)を行い、市民が自身の総合評価を簡便に行える。そして、総合的な評価の後に、三位一体の各分野に対して深掘り調査を設置した。具体的には、①口腔機能評価(口腔関連QOL、滑舌、咬筋の触診)、②運動測定(椅子立ち上がり、下腿周囲長、体組成計測)、③社会性や心理(こころ)の評価、などである。この健康増進プログラムは既に柏市行政の健康増進事業の企画として位置づけられ実施されている。今後、全国の市民サポーターが各コミュニティにおける『まちの健康コンシェルジュ』的な活動が出来るように養成研修が行われ、従来の介護予防事業の中に新風としての実のある取り組みとして位置付けられることを期待する。
結論
今後の超高齢社会を見据え、虚弱の最たる要因であるサルコペニアをいかに早期から食い止めるかが大きな課題となることは明白である。その要因は多岐に渡り複雑だが、低栄養(本研究ではあえて食の偏りや軽微な口腔機能低下の段階に注視)や低活動、さらにその上流に存在する社会性の低下など、それらを包含したいわゆる『可変要因』が大きな背景であることを改めて証明し得た。より多くの国民に上述の簡便な評価指標や概念図、三位一体複合型健康チェックを日常生活の延長線上の場で上手に活用してもらい、その可変要因に対して個々人の意識変容を促した上で、「楽しみ・斬新さ・気づき等を全て含んだ新たな介護予防・健康増進事業」が今まさに求められている全国へのモデル施策として位置付けられると確信している。そしてその結果、生活機能維持を基盤とした健康長寿の延伸に必ずや寄与するであろうと信じてやまない。
公開日・更新日
公開日
2016-06-30
更新日
-