関節リウマチ患者の関節機能を再建する革新的な人工股関節の創出

文献情報

文献番号
201414004A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチ患者の関節機能を再建する革新的な人工股関節の創出
課題番号
H24-難治等(免)-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
高取 吉雄(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 耕三(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 石原 一彦(東京大学 大学院工学系研究科)
  • 田中 栄(東京大学 医学部附属病院 )
  • 村上 輝夫(九州大学 バイオメカニクス研究センター)
  • 塙 隆夫(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所)
  • 宮本 比呂志(佐賀大学 医学部)
  • 茂呂 徹(東京大学 医学部附属病院 )
  • 馬淵 昭彦(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 伊藤 英也(東京大学 医学部附属病院 )
  • 橋本 雅美(ファインセラミックスセンター)
  • 京本 政之(京セラメディカル株式会社)
  • 山根 史帆里(京セラメディカル株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
9,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、独創的な基盤技術に医療材料分野における最新の知見を取り入れ、三大合併症を抑制する「革新的な人工股関節」を創出するための基礎検討を完成させることである。
研究方法
MPC処理の至適条件の検索、多方向摩耗・衝撃耐久性の基礎検討、摩耗抑制効果の応用検討、抗感染性の検討を行った。
結果と考察
MPC処理の至適条件の検索では、MPC-CLPE(VE)に施す滅菌について検討した。ガンマ線滅菌および低温過酸化水素ガスプラズマ滅菌(GP滅菌)を施したMPC-CLPE(VE)の表面特性は、滅菌前のそれと同様であることがわかった。ガンマ線滅菌を施したMPC-CLPE(VE)内部に含まれる残留フリーラジカル濃度は、滅菌前およびGP滅菌を施したMPC-CLPE(VE)と比較して高い値であった。昨年度までの研究で、ガンマ線滅菌を施したMPC-CLPE(VE)も高い抗酸化特性を示すことが明らかにされており、ガンマ線滅菌およびGP滅菌はMPC-CLPE(VE)への滅菌方法として適当であると考えられた。
多方向摩耗・衝撃耐久性の基礎検討では、ASTM規格F732-00に準じ、ピンオンディスク型試験機を用いて、衝撃-摩耗試験を行った。重量変化から摩耗量を検討すると、CLPE群、CLPE(VE)群ともに、MPC処理群にて低い摩耗量を示した。MPC処理の有無に関わらず、CLPE(VE)群はCLPE群に比べて低い摩耗量を示した。未処理群、MPC処理群ともに、厚さ6 mmのdiskの方が、厚さ3 mmのものに比べて摩耗量が多い傾向が見られた。摺動面の体積摩耗は、未処理群、MPC処理群ともに、6 mmの方が有意に少なかった。背面の体積変化においても同様に、6 mmのdiskの方が3 mmのものよりも有意に少なかった。また、マイクロCTで観察すると、全ての試験片において表層剥離の兆候や内部クラックの発生が生じないことを確認でき、MPC処理CLPE(VE)が優れた機械的特性を有していることも明らかにした。
摩耗抑制効果の応用検討では、手術後の歩行を再現する股関節シミュレーターを用い、ISO 14242-3に準じて検討を行い、重量変化、摺動面表面の解析、摩耗粉の解析などからMPC処理による耐摩耗特性を評価した。径32 mmの大径骨頭と組み合わせた場合、未処理CLPE(VE)の摩耗粉数が5647 個/mlであるのに対しMPC-CLPE(VE)の摩耗粉数が18 個/mlとなるなど、MPC処理によってきわめて高い耐摩耗特性が得られることを明らかにした。これは疎水性の摩耗粉数がCLPE表面を親水性のMPCポリマーでナノ表面処理することにより、関節摺動面に水和潤滑機構が働くようになったためと考えられる。また、ASTM F2003-00に準じて酸化劣化処理を施したMPC-CLPE(VE)についても同様のシミュレーター試験を行った場合でも、未処理CLPE(VE)の摩耗粉体積が59.8 μm3/mlであるのに対しMPC-CLPE(VE)の摩耗粉体積が0.1 μm3/mlとなるなど、MPC-CLPE(VE)が高い耐酸化性を有していることを明らかにした。
抗感染性の検討では、In vivo細菌付着モデルを用い、人工関節感染の原因となる黄色ブドウ球菌2株について、静置・振盪の2つの付着条件で検討した。この結果、菌種、付着条件にかかわらず、MPC-CLPE(VE)への黄色ブドウ球菌の付着が約1/400~500と、劇的に抑制されることが明らかとなった。MPCポリマーが表面にグラフト結合しているCLPEは、高い親水性および電気的中性の表面を有しており、これらが黄色ブドウ球菌の定着防止に寄与していると推測される。また、MPC処理による付着菌の減少は、菌の殺滅によるものではなく、菌の付着そのものが阻害されたことによるものであること、ビタミンEは黄色ブドウ球菌の発育や付着に影響を与えないことを確認した。次に、流動環境下におけるバイオフィルム形成モデルの実験系確立し、MPC処理CLPE(VE)表面の細菌バイオフィルムの抑制効果と、抗菌薬の作用増強効果について検討した。この結果、バイオフィルム量と相関するCV染色量は、CLPE群とCLPE(VE)群に比べ、MPC処理群では1/100未満であった。実生菌数は、未処理の試験片に比べ、MPC処理した試験片では10~100分の1に減少していた。未付着菌の数は、3つの試験片で差はなかった。このような、MPC処理による付着阻害効果は菌株間で違いはなかった。また、バンコマイシンは、未処理表面に付着した菌に対しては無効であったが、MPC処理表面の菌をほぼ完全に除去した。
結論
以上の研究成果は、革新的な人工股関節の創出が十分に期待できる内容であった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201414004B
報告書区分
総合
研究課題名
関節リウマチ患者の関節機能を再建する革新的な人工股関節の創出
課題番号
H24-難治等(免)-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
高取 吉雄(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 耕三(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 石原 一彦(東京大学 大学院工学系研究科)
  • 田中 栄(東京大学 医学部附属病院 )
  • 村上 輝夫(九州大学 バイオメカニクス研究センター)
  • 塙 隆夫(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所)
  • 宮本 比呂志(佐賀大学 医学部)
  • 茂呂 徹(東京大学 医学部附属病院 )
  • 馬淵 昭彦(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 伊藤 英也(東京大学 医学部附属病院 )
  • 橋本 雅美(ファインセラミックスセンター)
  • 京本 政之(京セラメディカル株式会社)
  • 山根 史帆里(京セラメディカル株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、独創的な基盤技術に医療材料分野における最新の知見を取り入れ、三大合併症を抑制する「革新的な人工股関節」を創出するための基礎検討を完成させることである。
研究方法
MPC処理の至適条件の検索、多方向摩耗・衝撃耐久性の基礎検討、摩耗抑制効果の応用検討、抗感染性の検討を行った。
結果と考察
MPC処理の至適条件の検索では、基材となるCLPE(VE)について、人工股関節の摺動面材料に用いるためのASTM、ISOの国際基準を満たす至適ビタミンE添加量および至適照射線量を確立した。そして、多方向摩耗・衝撃耐久性の基礎検討における多方向摺動試験・衝撃-摩耗試験、摩耗抑制効果の応用検討における股関節シミュレーター試験の結果をフィードバックしながら、CLPE(VE)表面の至適MPC処理条件を確立した。また、抗酸化剤であるビタミンEの添加により、MPC処理CLPE(VE)の酸化度が抑制されること、生体内の長期使用を模した条件下でも酸化劣化が生じないことを明らかにした。さらに、実用化を想定して、現在用いられている2種類の滅菌法、ガンマ線滅菌および低温過酸化水素ガスプラズマ滅菌(GP滅菌)がMPC処理に与える影響を検討し、いずれ方法もMPC処理に影響を与えないことを確認した。以上により申請時に計画した全ての目標を達成した。
多方向摩耗・衝撃耐久性の基礎検討では、ASTM F732-00規格、F2025-06規格に準じ、人工股関節における通常歩行時に生じる摩擦動作を想定した多方向摺動試験を、また、人工股関節におけるセパレーション(骨頭とライナーが離れた位置から衝突した後に摺動する)を再現する衝撃-摩耗試験を行った。いずれの試験においても、MPC処理CLPE(VE)が優れた耐摩擦・摩耗特性を有することを明らかにした。また、衝撃-摩耗試験後の試験片をマイクロCTで観察すると、全ての試験片において表層剥離の兆候や内部クラックの発生が生じないことを確認でき、MPC処理CLPE(VE)が優れた機械的特性を有していることも明らかにした。以上により申請時に計画した全ての目標を達成した。
摩耗抑制効果の応用検討では、手術後の歩行を再現する股関節シミュレーターを用い、ISO 14242-3に準じて検討を行い、重量変化、摺動面表面の解析、摩耗粉の解析などからMPC処理による耐摩耗特性を評価した。この結果、現行品の26 mm径の大腿骨頭、および近年汎用されている32 mm径の大径骨頭と組み合わせた場合、MPC処理CLPE(VE)は優れた耐摩耗特性を発揮することを明らかにした。これは疎水性の摩耗粉数がCLPE表面を親水性のMPCポリマーでナノ表面処理することにより、関節摺動面に水和潤滑機構が働くようになったためと考えられる。また、ASTM F2003-00に準じてMPC処理CLPE(VE)ライナーに生体内の生体内の長期使用を模した酸化劣化処置を施した場合にも、未処置の場合と同等の耐摩耗特性を発揮することを明らかにした。以上により申請時に計画した全ての目標を達成した。
抗感染性の検討では、MPC処理CLPE(VE)表面の細菌付着抑制に関する基礎検討として、水の静的接触角が改善すること、表面電位が負から中性に変化すること、表面へのタンパク質の吸着量が約1/6に改善することを確認した。次に、in vivo細菌付着モデルの実験系を確立し、MPC処理CLPE(VE)表面の細菌付着抑制効果を検討した。この結果、菌種、付着条件にかかわらず、MPC-CLPE(VE)への黄色ブドウ球菌の付着が約1/400~500と、劇的に抑制されることが明らかとなった。MPCポリマーが表面にグラフト結合しているCLPEは、高い親水性および電気的中性の表面を有しており、これらが黄色ブドウ球菌の定着防止に寄与していると推測される。また、MPC処理による付着菌の減少は、菌の殺滅によるものではなく、菌の付着そのものが阻害されたことによるものであること、ビタミンEは黄色ブドウ球菌の発育や付着に影響を与えないことを確認した。また、生体内の環境を模した流動環境下におけるバイオフィルム形成モデルの実験系確立し、MPC処理CLPE(VE)表面においてバイオフィルム形成が阻害されること、表面にわずかに付着する菌が抗菌薬で容易に除去されることを確認した。以上により申請時に計画した全ての目標を達成した。
結論
以上の研究成果は、革新的な人工股関節の創出が十分に期待できる内容であった。今後は、本研究成果の早期実用化を目指し、開発を継続する。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201414004C

収支報告書

文献番号
201414004Z