文献情報
文献番号
201412028A
報告書区分
総括
研究課題名
妊娠を起点とした将来の女性および次世代の糖尿病・メタボリック症候群発症予防のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-017
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
荒田 尚子(独立行政法人国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター母性内科)
研究分担者(所属機関)
- 安日 一郎(国立病院機構長崎医療センター 産婦人科)
- 宮越 敬(慶應義塾大学医学部 産婦人科学教室)
- 和栗 雅子(大阪府立母子保健総合医療センター 母性内科)
- 坂本 なほ子(順天堂大学医学部 公衆衛生学教室)
- 堀川 玲子(独立行政法人国立成育医療研究センター 生体防御系内科部内分泌代謝科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,390,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
妊娠を起点とした、母児双方の将来の糖尿病や肥満、メタボリック症候群のハイリスクアプローチ方法を確立する。
研究方法
1)2010年の妊娠糖尿病(GDM)の診断基準の改訂以前より旧基準での1ポイント異常やハイリスク非GDM症例をGDM症例とともに産後定期的にフォローアップを行っている4施設におけるプールデータを新旧の定義・診断基準であらためて診断し直し、新基準での分娩後の5年の糖尿病発症率、および新基準GDM既往女性における糖尿病発症に関連する妊娠中に明らかとなるリスク因子について検討。2) 2施設において、産後3年から15年経過した新診断基準GDMに該当した女性とその児を対象に無料検診を実施。産糖尿病発症頻度を出生コホート参加の対照女性の結果と比較し、GDM既往女性の耐糖能異常発症リスク因子を明らかにした。3)耐糖能異常母体と健常母体の児で同様に体格や採血などの代謝指標を比較。4)単施設で新基準でのGDM既往女性の妊娠中の糖代謝指標と産褥早期および産後約1年での糖代謝異常発症リスクを検討。5)妊娠・分娩管理された妊婦の出生時母子手帳のデータを収集し、妊婦母親の妊娠中の血圧、尿糖、出生体重、体格・体重変化などの妊娠時の情報と娘の肥満や妊娠中の合併症との関連を検討。6)糖尿病関連遺伝因子のSNP解析を日本人妊娠糖尿病および正常耐糖能女性において行い、日本人女性におけるGDMの遺伝要因を検討。全ての研究は、倫理指針を遵守し実施された。
結果と考察
1)4施設全症例で新診断基準によるGDMの産後5年の糖尿病発症率は20%、非GDMの発症率は1%。多変量ロジスティック解析では、妊娠前BMI≧25、インスリン注射使用量≧20U/日、GTTの60分値≧180mg/dl、120分値≧153mg/dl、診断時HbA1c≧5.6%の場合に、糖尿病発症のリスクが高く、分娩時年齢≧35歳でリスクが低かった。2)妊娠中耐糖能正常群60例、GDM群 202例の産後検診における糖尿病発症率は、妊娠中耐糖能正常群で0%、GDM 29%とGDM群において有意に高頻度であった。産後3年間検診中断者では、非中断者に比較して糖尿病発症率が高頻度であった(37%、7%)。3)肥満度は5歳、9歳とともに母体GDM群と非GDM群で差はなかったが、HbA1cは9歳児の母体GDM群で非GDM群に比し有意に大であった(平均5.3と5.1%)。4)産褥平均6.9週にGTTを施行されたGDM168例のうち34%が耐糖能異常を示し、診断時のGTT1時間血糖値、HbA1c値、インスリンインデックス値、およびインスリン治療+が耐糖能異常発症のリスク因子であった。産褥平均68週にOGTTを施行された307例のうち10.4%が糖尿病を発症し、非妊時BMI、GDM診断時2時間血糖値とHbA1c値、およびインスリン療法が糖尿病発症のリスク因子であった。5)1282件の妊婦出生時の母子健康手帳と妊婦の母に対する健康質問票の解析では、母が娘を出産した際の妊娠高血圧症候群(PIH)発症は娘のPIH発症のリスク因子であったが、娘の妊娠前リスク因子(年齢、妊娠前BMI、初経産)で調整後消失した。また、母の妊娠中の尿糖出現と母の妊娠前BMIが娘の肥満と有意に関連した。6)末梢血DNAを用いて73遺伝子(SNP 125箇所)の遺伝子型を決定し、GDMおよび正常耐糖能群間において、10遺伝子(インスリン感受性関連:7遺伝子,インスリン分泌関連:3遺伝子)のSNP 12箇所においてアレル頻度に有意差を認めた(オッズ比1.4~2.2)。
結論
多施設によるGDM産後データから、新診断基準でのGDMでは産後5年で約20%が糖尿病を発症した。GDM既往女性を、妊娠中のGDM診断時の75gOGTTの血糖値やHbA1c、年齢、および妊娠前肥満の有無を用いて産後の糖尿病発症リスクを層別化することにより、全妊婦の約1割に達するGDM既往女性のより効率的なフォローアップが可能になる。また、プレリミナリーな結果として、耐糖能異常母体の児の代謝指標にコントロール母体の児と差があることを示した。
公開日・更新日
公開日
2015-09-11
更新日
2016-06-20