文献情報
文献番号
201412007A
報告書区分
総括
研究課題名
70歳、80歳、90歳の高齢者の歯、口腔の状態が健康長寿に及ぼす影響についての前向きコホート研究
課題番号
H26-循環器等(政策)-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
前田 芳信(大阪大学大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 池邉一典(大阪大学 大学院歯学研究科 )
- 村上伸也(大阪大学 大学院歯学研究科 )
- 北村正博(大阪大学 大学院歯学研究科 )
- 楽木宏実(大阪大学 大学院医学系研究科 )
- 神出 計(大阪大学 大学院医学系研究科 )
- 新井康通(慶應大学 医学部)
- 権藤恭之(大阪大学 大学院人間科学研究科)
- 石崎達郎(東京都健康長寿医療センター研究所)
- 増井幸恵(東京都健康長寿医療センター研究所)
- 新谷 歩(大阪大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
5,700,000円
研究者交替、所属機関変更
研究結果より、70歳からの3年間において口腔状態は維持されたと考えられるが、今後長期的に観察する、あるいはさらに高齢の集団を観察することによって、口腔状態を良好に維持するための要因を明らかにし、また歯・口腔機能の状態と健康・長寿との関係を解明する必要がある。
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は歯・口腔の状態と健康・長寿との関係を、70歳約1000名、80歳約1000名、90歳約300名の高齢者を対象にして、前向きコホート研究によって明らかにすることを目的とした。
研究方法
対象地域は、関西と関東のそれぞれ都市部と農村部とし、地域の中の特定の地区の全住民を対象とした悉皆調査である。
これまで、生活習慣病や運動・認知機能の低下と歯・口腔の健康との関係についての報告は多いが、ほとんどが欧米の研究であり、歯の評価は、自己評価や歯科医が診たとしても歯数や義歯の有無であり、口腔機能を検査した報告は皆無である。さらに、歯と健康・長寿との関係には、全身疾患や社会経済的、心理学的な要因の交絡が数多くあるものの、それらの要因について十分考慮されているとは言えない。
我々が行っているSONIC研究では、歯学、医学、栄養学、心理学、社会学、臨床統計学の各分野の専門家が参加し、地域在住の高齢者に実施する前向きコホート研究による縦断データから、健康長寿に関する要因について包括的に検討を行っている。基本属性、社会・経済的側面、ライフスタイル、歯ならびに口腔機能、生活習慣病(問診、血液検査、理学検査)、運動能力、認知機能、栄養摂取状況などについてのベースライン調査は既に完了している。口腔機能については、歯と歯周組織の検査に加えて、咀嚼能率、咬合力、唾液分泌、味覚、口腔感覚などの客観評価を行った。
さらに、会場ならびに訪問調査による追跡調査を行い、同様の検査項目の変化や疾患の発症を観察した。ベースライン調査として、2010年に70歳コホート1000名、2011年に80歳コホート973名、90歳273名の会場招待型調査を行ったが、2013年からは、これらの調査の参加者に対して、3年後の追跡調査を前回同様に会場招待型調査で実施している。
本年度は、80歳コホートの3年後(2014年度)の追跡調査において、会場招待型調査の未受診者に対して訪問調査を実施した。今回の訪問調査の対象となった地区に在住の70歳のベースライン調査の参加者は673名であった。このうち426名が会場調査に参加した。残りの274名の未受診者のうち、最終的に93名については、調査会社による訪問調査が完了し、調査参加率は61%から75%に向上した。
訪問調査は以下の3つの調査から構成された。A.質問票を用いた聞き取り調査項目:既往歴、要介護度、服用薬剤、ADL、歯科治療経験、抜歯の有無、精神的健康)、心理的well-being、食事摂取頻度。B.測定項目:体重、デミスパン、座位での握力、血圧の測定である。
これまで、生活習慣病や運動・認知機能の低下と歯・口腔の健康との関係についての報告は多いが、ほとんどが欧米の研究であり、歯の評価は、自己評価や歯科医が診たとしても歯数や義歯の有無であり、口腔機能を検査した報告は皆無である。さらに、歯と健康・長寿との関係には、全身疾患や社会経済的、心理学的な要因の交絡が数多くあるものの、それらの要因について十分考慮されているとは言えない。
我々が行っているSONIC研究では、歯学、医学、栄養学、心理学、社会学、臨床統計学の各分野の専門家が参加し、地域在住の高齢者に実施する前向きコホート研究による縦断データから、健康長寿に関する要因について包括的に検討を行っている。基本属性、社会・経済的側面、ライフスタイル、歯ならびに口腔機能、生活習慣病(問診、血液検査、理学検査)、運動能力、認知機能、栄養摂取状況などについてのベースライン調査は既に完了している。口腔機能については、歯と歯周組織の検査に加えて、咀嚼能率、咬合力、唾液分泌、味覚、口腔感覚などの客観評価を行った。
さらに、会場ならびに訪問調査による追跡調査を行い、同様の検査項目の変化や疾患の発症を観察した。ベースライン調査として、2010年に70歳コホート1000名、2011年に80歳コホート973名、90歳273名の会場招待型調査を行ったが、2013年からは、これらの調査の参加者に対して、3年後の追跡調査を前回同様に会場招待型調査で実施している。
本年度は、80歳コホートの3年後(2014年度)の追跡調査において、会場招待型調査の未受診者に対して訪問調査を実施した。今回の訪問調査の対象となった地区に在住の70歳のベースライン調査の参加者は673名であった。このうち426名が会場調査に参加した。残りの274名の未受診者のうち、最終的に93名については、調査会社による訪問調査が完了し、調査参加率は61%から75%に向上した。
訪問調査は以下の3つの調査から構成された。A.質問票を用いた聞き取り調査項目:既往歴、要介護度、服用薬剤、ADL、歯科治療経験、抜歯の有無、精神的健康)、心理的well-being、食事摂取頻度。B.測定項目:体重、デミスパン、座位での握力、血圧の測定である。
結果と考察
70歳時と3年後の両方の調査に参加した分析対象者は、610名(男性302名、女性308名)であった。残存歯数は、3年間で平均0.8本減少した。開口量や口腔乾燥感、むせなどの自覚症状、摂取可能食品では、ほとんど変化が見られなかった。一方、栄養摂取調査の結果では、70歳時よりも3年後の方が、健康維持に重要な野菜類や肉類などの摂取が多かった。次に、医学的パラメーターの変化を解析した。頻度は少ないが心血管疾患、癌の発症を認め、生活習慣病への罹患率も増加した。また頸動脈エコーによる動脈硬化にても有意ではないものの進展を認めた。さらに,認知機能、身体機能のうちの握力、精神的健康に関しては、変化は小さかった。一方、歩行速度は若干速くなり、生活機能は低下した。練習効果により、歩行速度の改善が見られたと考えられる。したがって、健康アウトカムの変化には低下や改善といった個人差があることが示唆された。さらに、70歳の口腔状態と、脳卒中、心筋梗塞、高血圧の罹患や発症との関連はみられなかった。
訪問調査の結果、未受診者は追跡研究参加者より身体機能および精神的健康が低いことが示された、追跡率の向上のためにも、加齢変化の全体像を適切にとらえるためにも、訪問による未受診者調査の実施およびその解析が重要であることが示された。今後は、90歳の3年後の追跡調査、70歳の6年後の追跡調査において、会場調査とともに、会場調査不参加者を対象に訪問調査を併用し、調査参加率を高め、追跡対象者全体の加齢変化の評価をより正確なものにしてゆく予定である。
訪問調査の結果、未受診者は追跡研究参加者より身体機能および精神的健康が低いことが示された、追跡率の向上のためにも、加齢変化の全体像を適切にとらえるためにも、訪問による未受診者調査の実施およびその解析が重要であることが示された。今後は、90歳の3年後の追跡調査、70歳の6年後の追跡調査において、会場調査とともに、会場調査不参加者を対象に訪問調査を併用し、調査参加率を高め、追跡対象者全体の加齢変化の評価をより正確なものにしてゆく予定である。
結論
研究結果より、70歳からの3年間において口腔状態は維持されたと考えられるが、今後長期的に観察する、あるいはさらに高齢の集団を観察することによって、口腔状態を良好に維持するための要因を明らかにし、また歯・口腔機能の状態と健康・長寿との関係を解明する必要がある。
公開日・更新日
公開日
2015-09-09
更新日
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